どんなニュース?簡単に言うと
年金の手続きは「添付書類の用意が面倒」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
ところが、2024年11月からは、手続きの際に戸籍関係の書類を添付する必要がなくなったといわれています。
そこで、今回はこの新しい手続きの仕方について整理をしましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
従来の年金手続きで求められてきた「添付書類」
はじめに、年金の手続きになぜ添付書類が必要なのかを考えてみましょう。
例えば、老後の年金を受給するための手続きです。
老齢年金をもらうには、年金請求書と呼ばれる手続き用紙を提出する必要があります。
この用紙には手続きをする人の氏名や住所はもちろん、年金の加入履歴・配偶者や子供の氏名・収入の状況・雇用保険の加入状況など、さまざまな個人情報を記載することが求められています。
個人情報が記載された書類を受け取った日本年金機構とすれば、記載された情報が正しいかどうかを確認しなければなりません。
年金の加入履歴などは日本年金機構のコンピューター内に情報が収録されていますので、それと照らし合わせることで記載内容が正しいかを確認できます。
しかしながら、日本年金機構が保有していない個人情報については、年金請求書だけでは記述の正確性を検証することができません。
そのため、情報が正しいことを公的に証明できる書類を年金請求書と一緒に提出してもらい、確認を取る必要があるわけです。
このような事情から元来は、生年月日などを確認するための「住民票の写し」、家族関係を確認するための「戸籍謄本」、収入状況を確認するための「課税・非課税証明書」、雇用保険の状況を確認するための「雇用保険の被保険者証」など、さまざまな書類を用意する必要があるとされてきました。
ここがポイント!年金請求書の添付書類の意義
年金受給の手続きでは、年金請求書に記載された事項のうちで日本年金機構が保有していない情報の正確性を確認するため、さまざまな添付書類が必要とされてきた。
初めて省略されたのは「住民票の写し」
しかしながら、添付書類を用意するのは必ずしも容易ではありません。
添付書類のためにさまざまな行政機関で手続きを行うのは、手間と時間が掛かるものです。
そこで、少しずつこれらを省略できるように、年金に関する事務手続きは変更されてきています。
年金の受け取り手続きで初めて添付書類が不要になったのは、今から約20年前の2003(平成15)年10月。
このときから、年金の受け取り手続きの際に手続き用紙に住民票コードを記載すれば、生年月日を確認できる書類として必要とされていた「住民票の写し」などが省略できるようになりました。
当時、公的年金制度を運営していたのは、厚生労働省の外局の社会保険庁という行政機関。
社会保険庁は住民票コードを使って住民基本台帳ネットワークシステム(市町村の枠を越えて住民票に関する事務処理を行うための仕組みで、通称「住基ネット」といいます)で確認を行うことにしたため、このような書類の省略が可能になったものです。
ここがポイント!「住民票コード」と「住基ネット」による添付書類の省略
マイナンバーを利用する前は、住民票コードと住基ネットを利用して「住民票の写し」などの添付の省略が行われていた。
マイナンバーの利用による添付書類の省略が始まる
社会保険庁の年金業務が日本年金機構に移行されてから10年ほど経過した2019(平成31)年4月15日、「マイナンバーを利用して添付書類を省略する仕組み」の準備作業が開始されます。
この仕組みはマイナンバーによる情報連携と呼ばれています。
マイナンバーによる情報連携とは、異なる行政機関の間で情報提供ネットワークシステムと呼ばれる専用のコンピューターネットワークとマイナンバーを用いて、情報をやり取りすることをいいます。
この仕組みを利用すると、日本年金機構は対象者のマイナンバーが分かれば、他の行政機関が保有している情報を直接確認できるようになります。
その結果、年金の手続きをする人がわざわざ他の行政機関から証明書類の発行を受ける必要がなくなるというわけです。
日本年金機構がマイナンバーによる情報連携の対象としている年金関係の手続きは88種類、情報連携により取得する情報は8分野の情報に及びます。
マイナンバーによる情報連携の準備作業では、日本年金機構から地方公共団体などに情報を照会する試行運用が行われます。
試行運用が一定期間実施され、情報連携が正しく行われることが確認できると、いよいよ本格運用が始まり添付書類の省略が可能になるものです。
年金手続きの一部について初めて本格運用が始まったのは、2019(令和元)年7月1日。
その後、本格運用の範囲は徐々に拡大され、2024(令和6)年10月時点では、年金請求書にマイナンバーを記載すれば「住民票の写し」や「課税・非課税証明書」などの添付が省略可能になっています。
戸籍関係の書類については、2024(令和6)年3月4日から情報照会の試行運用が開始されました。
その後、情報連携の正確性が確認できたために同年11月1日から本格運用に移行し、家族関係を確認できる書類として必要であった戸籍謄本などの添付が、マイナンバーを記載することを条件に省略可能になったものです。
ここがポイント!日本年金機構による「マイナンバーによる情報連携」への取り組み
年金業務では2019(令和元)年4月からマイナンバーによる情報連携の準備作業が開始され、本格運用の範囲が順次、拡大されてきている。
戸籍関係書類の省略は戸籍法の改正による
今回、年金の手続きで戸籍関係の書類添付が省略できるようになったのは、戸籍に関するルールを定めた戸籍法という法律などが改正されたことによります。
実は、従前の戸籍の仕組みは、以下のような点で利便性に劣るとされてきました。
① 社会保障関係の手続き行う際には、身分関係の確認のために戸籍謄抄本を添付しなければならない。
② 本籍地以外の市区町村で戸籍の届出をする場合には、身分関係の確認のために戸籍謄抄本を添付しなければならない。
③ 戸籍謄抄本の請求は、本籍地の市区町村でしかできない。
そこで、戸籍の手続きに関する国民負担を軽減して制度の利便性を向上させる目的で2019(令和元)年5月に戸籍法が改正され、2024(令和6)年3月1日に施行されました。
主な改正内容は次の3点です。
① マイナンバー制度を利用し、行政手続きにおける戸籍謄抄本の添付を省略可能とする。
これにより、年金手続きにおける戸籍関係書類の添付不要が実現することとなりました。
改正された戸籍法は2024(令和6)年3月1日に施行されたため、それを受けて3日後の同年3月4日から戸籍関係の書類に関するマイナンバーによる情報連携の試行運用が開始されたわけです。
② 本籍地以外の市区町村で他の市区町村のデータを参照できるようにし、戸籍の届出の際に戸籍謄抄本の添付を不要とする。
例えば、本籍地以外の市区町村に婚姻の届出をするとします。
この場合、今までであれば本籍地の市区町村で戸籍謄本などを入手し、婚姻届に添付する必要がありました。
しかしながら、2024(令和6)年3月1日からは添付が不要とされています。
③ 本籍地以外の市区町村の窓口でも、自身や父母などの戸籍謄本の請求をできるようにする。
2024(令和6)年3月1日以降は、本籍地でなくても最寄りの役所で戸籍謄本などの交付を受けられるようになっています。
このような仕組みは、戸籍証明書等の広域交付制度と呼ばれています。
ここがポイント!戸籍関係の書類添付が省略できる理由
年金手続きで戸籍関係の書類添付が省略できるようになったのは、2019(令和元)年5月に成立した改正戸籍法が2024(令和6)年3月1日に施行されたことによる。
戸籍関係書類の添付が必要な年金手続きも残っている
ただし、全ての年金手続きで戸籍謄本などの添付が省略できるようになったわけではありません。
年金の手続きをする人と「配偶者との身分関係」または「20歳以下の子との身分関係」の確認が必要な場合に限り、添付を省略することが可能です。
その他の身分関係の確認が必要な年金手続きでは、省略は不可とされています。
例えば、遺族年金に関する手続きです。
具体例で考えてみましょう。
70歳の母A子さんと40歳の息子B男さんが一緒に暮らしており、A子さんはB男さんに生計を維持されているとします。
また、A子さんの夫はすでに亡くなっているとしましょう。
ある日、B男さんは不慮の事故により他界をしてしまいました。
B男さんは厚生年金に加入して会社勤めをしていたので、母であるA子さんは遺族厚生年金を受け取ることが可能になります。
ただし、遺族厚生年金を受給するには、年金請求書を提出するに当たってA子さんは「B男さんが子であること」を証明しなければなりません。
身分関係の証明には戸籍の情報が使用されますが、A子さんにとって亡くなったB男さんは「配偶者」でも「20歳以下の子」でもありません。
そのため、遺族厚生年金の年金請求書への戸籍謄本の添付は、省略ができないことになります。
このような取り扱いは、2024(令和6)年11月1日現在、年金関係では以下の書類提出に対して行われています。
- 年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)
- 国民年金死亡一時金請求書
- 未支給年金・保険給付請求書
- 老齢福祉年金受給権者死亡届・国民年金未支給福祉年金支給請求書
- 老齢福祉年金未支給福祉年金支給申請書
- 時効特例給付支払手続用紙(未支給年金用)
- 遅延特別加算金請求書
- 遅延特別加算金請求書(未支給年金用)
- 未支払年金生活者支援給付金請求書
ここがポイント!「戸籍謄本」などの省略が認められるケース
戸籍謄本などの添付が省略できるのは、年金の手続きをする人と「配偶者との身分関係」「20歳以下の子との身分関係」の確認が必要な場合に限定されている。
いまだに省略できない雇用保険の書類
老齢年金を受け取るための手続きで、いまだに添付が省略できない書類があります。
雇用保険の被保険者証です。
老齢年金の手続きでは、雇用保険の被保険者証の添付を求められるケースが数多くあります。
理由はハローワーク(公共職業安定所)が個人情報の管理に使用している番号を確認するためです。
雇用保険の業務はハローワークが行っていますが、老齢年金の受給者がハローワークから給付を受けられる場合には、老齢年金の支払いに制限がかかることがあります。
日本年金機構が年金の支払い制限を正確に行うには、ハローワークが保有する雇用保険の給付に関する情報を確認する必要があります。
そのため、日本年金機構は老齢年金の受け取り手続きをする人に、ハローワークが個人情報の管理に使用している番号(「雇用保険被保険者番号」といいます)が記載されている書面の提出を求めています。
その番号が分かれば、ハローワーク側から定期的に雇用保険の給付情報の提供を受けられるからです。
雇用保険の被保険者証とは、次のような書類です。
雇用保険の番号に関する情報連携の試行運用は以前から実施されていますが、いまだに本格運用には移行していません。
年金手続きの全ての添付書類が不要になったわけではないので、注意が必要です。
ここがポイント!「雇用保険の被保険者証」の扱い
老齢年金の受給手続きでは、「雇用保険の被保険者証」の添付はいまだに省略ができない。
今回のニュースまとめ
今回は、2024年11月1日から始まった「年金手続きにおける戸籍関係書類の省略」の仕組みについて見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 年金受給の手続きでは、日本年金機構が保有しない情報の正確性を確認するために添付書類が必要とされてきた。
- マイナンバーを利用する前は住民票コードと住基ネットを利用し、「住民票の写し」などの添付が省略されていた。
- 2019年4月からマイナンバーによる情報連携の準備作業が年金業務で始まり、本格運用の範囲が順次拡大されている。
- 年金手続きで戸籍関係の書類添付が省略できるようになったのは、2019年5月に成立した改正戸籍法が2024年3月1日に施行されたことによる。
- 戸籍謄本などの添付省略は、「配偶者」や「20歳以下の子」との身分関係の確認が必要な場合に限られる。
- 老齢年金の受給手続きでは、「雇用保険の被保険者証」の添付はまだ省略不可である。
かつて多くの添付書類が必要だった年金請求手続きですが、近年の改正によって手続きの簡略化が進められています。
ただでさえ複雑と言われる年金制度。
せめて受け取りの手続きくらいは簡単にしてもらいたいものです。
出典・参考にした情報源
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令和6年11月1日(金曜)から老齢年金請求書等に添付する戸籍謄本等が省略できます|日本年金機構ホームページ
www.nenkin.go.jp
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戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)|法務省ホームページ
www.moj.go.jp
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師