
どんなニュース?簡単に言うと
現在、年金のさまざまな手続きが、スマートフォンを使った電子申請でできることをご存じですか。
スマホひとつで完結できれば、難しいといわれる年金手続きにも気軽に取り組めそうです。
そこで今回は、年金受給に関して利用可能な電子申請の状況を整理しましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
年金の受け取り手続きがスマホで可能に
長い間、国民年金や厚生年金の手続きを行うには、年金事務所などの窓口に出向く必要がありました。
しかしながら、待ち時間が長いうえに一度で用が済まないこともあるなど、決して利用しやすい状況とはいえませんでした。
ところが、最近ではこの問題が徐々に改善され、わざわざ年金事務所に行かなくてもスマートフォンを利用した電子申請で手続きが完結できるケースが増えています。
スマホならいつでもどこでも手続きが可能です。
年金事務所などに行くための時間も交通費も必要ありません。
そのため、スマホによる電子申請は、うまく利用すればメリットの大きい手続き方法といえそうです。
初めて年金受給者がスマホで電子申請をできるようになったのは、今から2年ほど前の2023(令和5)年9月。
老齢年金の受給者が毎年提出を求められる『公的年金等の受給者の扶養親族等申告書』について、従来の紙の申告書を提出する方法に加えてスマートフォンやパソコンから電子申請で提出することもできるようになったのが始まりです。
翌年の2024(令和6)年6月からは、「初めて老齢年金を受け取るための手続き」を対象に電子申請が可能になりました。
さらに、半年ほど経った2025(令和7)年1月からは、以下の3つの手続きにまで電子申請の対象が拡大されています。
① 老齢年金受給者の65歳時の手続き
② 年金生活者支援給付金の受け取り手続き
③ 年金の受け取り口座の変更手続き
直近では、それまで電子申請の対象外とされていた「配偶者や18歳未満の子供がいる人が老齢年金を受け取るための手続き」について、2025(令和7)年3月から電子申請ができるように変更されています。

ここがポイント!年金受給に関する電子申請
2023年9月、スマホで『扶養親族等申告書』の電子申請ができるようになった。老齢年金の受給手続きは2024年6月からスマホでの申請が可能になり、徐々に電子申請の範囲が拡大している。
電子申請の利用の流れ
スマホで電子申請を行うにはマイナンバーカードが取得済みであり、加えてねんきんネットとマイナポータルを連携していること(両サービス間で情報をやり取りできるように登録しておくこと)が条件とされています。
したがって、スマホで年金受給に関する申請を行うにあたっては、まずはこれらの準備を事前に整えることが必要です。
ちなみに、ねんきんネットとは日本年金機構が2011(平成23)年から提供しているオンラインサービスで、スマホやパソコンから年金記録の確認・各種手続きが行える仕組みです。
また、マイナポータルとは政府が2017(平成29)年に開始したオンラインサービスで、さまざまな行政手続きの検索や電子申請などがワンストップでできる自分専用のサイトになります。
それでは、「初めて老齢年金を受け取るための手続き」を例に、電子申請の具体的な手順を見ていきましょう。
マイナンバーカードは取得済みであるとします。
初めに、事前準備のおよその流れは次のとおりです。
① マイナポータルの利用者登録をする。
マイナンバーカードを用意し、マイナポータルのトップ画面(下図参照)から利用者の登録手続きを行う。
② ねんきんネットと連携する。
マイナポータルトップ画面の「おかね」ページから「年金」を選び、「ねんきんネット連携」画面(下図参照)から連携手続きを行う。
③ 公金受取口座を登録する。
マイナポータルトップ画面の「おかね」ページから「公金受取口座」を選び、「公金受取口座」ページ(下図参照)から登録手続きを行う。
これで事前準備は終了です。
ここからいよいよ老齢年金の受け取り手続きに入ります。
およその流れは次のとおりです。
① マイナポータルトップ画面の「おかね」ページから「年金」を選ぶ。
②「老齢年金の受給」欄の「老齢年金の受け取り開始」を選ぶ。
③「老齢年金(はじめて老齢年金を請求する場合)」の「届書を作成する」を選ぶ。
④ 老齢年金の請求に関する必要事項(本人や配偶者の情報など)を順番に確認・入力・選択する。
⑤ マイナンバーカードを使って電子署名を付与する。
以上のような段取りを経て電子申請をした後は、マイナポータルの「やること」ページで申請の処理状況が確認できるようになります。
ここがポイント!電子申請の利用条件
スマホによる電子申請を行うにはマイナンバーカードが取得済みであり、ねんきんネットとマイナポータルとを連携して利用できるように登録していることが必要である。
「電子申請できないケース」も多い
年金受給に関する電子申請には注意点があります。
すべての手続きが電子申請で行えるわけではないことです。
スマホでの申請ができないケースに該当した場合には、従来どおりの手続きを取らなければなりません。
具体的に見ていきましょう。
はじめに、「初めて老齢年金を受け取るための手続き」では、次のケースは電子申請ができないとされています。
①「公金受取口座」以外の口座で年金を受け取りたい。
② 配偶者が「別居」「内縁」「年収850万円以上」のいずれかにあたる。
③ 加給年金の対象年齢である子供が「別居」「障害状態」「年収850万円以上」のいずれかにあたる。
④ 年金に関する通知書などを、住民票上の住所とは異なるところに送付してほしい。
⑤ 成年後見人などが代理で手続きをする。
⑥ すでにほかの年金(遺族厚生年金を除く)を受け取っている。
⑦ 年金の「繰上げ受給」「繰下げ受給」をしたい。
たとえば、公金受取口座の利用に不安を感じている人がいるとしましょう。
自身の金融機関情報を政府が運営するサイトに登録しなければならないからです。
そのため、マイナンバーカードは持っているものの、公金受取口座は登録していません。
このような懸念を持つ人が年金の受給開始年齢になり、プライバシー上の問題や情報漏えいリスクの回避のため、「公金受取口座に登録していない口座」で年金を受け取りたいと考えたとします。
しかしながら、このケースはスマホによる電子申請では手続きをできません。
通常どおり、紙の手続き用紙を作成し、受け取りを希望する口座情報の詳細が確認できる通帳やキャッシュカードのコピーを添付するなどして提出する必要があります。
また、若い頃から障害年金を受給している人が高齢になり、老齢年金の手続きをすることになったとします。
この場合には、老齢年金を受け取る通常の手続きに加え、老齢年金と障害年金をどのように組み合わせて受け取るかなどを選ぶ手続きも行う必要があります。
そのため、スマホによる電子申請では行うことができず、紙の手続き用紙による申請が必要とされます。
このように、上記①から⑦のいずれかに該当する場合は、従来どおり紙の『老齢年金請求書』を年金事務所などに持参したり、郵便で送ったりしなければなりません。
なお、「直近7年以内に雇用保険の加入がある場合」や「配偶者が外国籍者の場合」などはスマホによる申請ができるものの、電子申請後にあらためて紙の『年金請求書』の提出が求められることもあるようです。
次に、「年金受給者の65歳時の手続き」では、以下のケースが電子申請に対応していません。
① 配偶者の死亡や離婚などで生計維持関係がなくなった。
② 子供の死亡などで生計維持関係がなくなった。
③ すでにほかの年金(遺族厚生年金・寡婦年金を除く)を受け取っている。
これらのケースでは、誕生月に日本年金機構から送られてくる『ハガキタイプの年金請求書』を返送することで手続きをするのが原則とされます。
最後に「年金の受け取り口座の変更手続き」の場合には、次のケースでは電子申請ができません。
① 海外の金融機関で年金を受け取りたい。
② 後見人などが手続きをする。
③ 年金を担保に融資を受けている。
④「被用者年金一元化の前からもらっている共済年金」の受け取り口座を変更したい。
上記のいずれかに該当する場合には、年金事務所などで手続きをすることが必要になります。
ここがポイント!電子申請に対応していない手続き
年金受給に関するすべての手続きで電子申請ができるわけではない。とくに、「初めて老齢年金を受け取るための手続き」では電子申請が未対応のケースが多く、その場合は紙の『老齢年金請求書』を提出する必要がある。
『扶養親族等申告書』の電子申請利用はわずか4%
年金の受給に関する電子申請は、これからどのくらい利用されると思いますか。
前述のとおり、スマホによる電子申請を利用するには、マイナンバーカードの取得が条件です。
それでは、そもそもマイナンバーカードの取得は、どの程度進んでいるのでしょうか。
総務省が発表した『マイナンバーカードの保有状況について(令和7年9月末時点)』という資料によるとマイナンバーカードの取得率は79.6%であり、約8割の国民がすでにカードを持っています。
さらに、年代別に見ると60歳から64歳の取得率は86.7%、65歳から69歳は85.5%で、老齢年金の受給開始世代では平均よりも数ポイント高いことが分かります。
その点では、年金受給に関する電子申請について、マイナンバーカードの有無が障害になることはあまり考えられないようです。
それでは、2023(令和5)年度から始まった『公的年金等の受給者の扶養親族等申告書』の電子申請について、利用状況を見てみましょう。
実は、このときの申告書の手続き件数は総数が6,703,907件だったのに対し、電子申請が利用された件数は256,973件であり、電子申請の利用率はわずか3.8%しかありませんでした。(オンライン利用率引上げに係る基本計画(令和7年4月1日)/厚生労働省)
ちなみに、2022(令和4)年度から電子申請が利用可能になっている学生納付特例制度の申請書の場合には、同年度の電子申請の利用率が4.6%、翌2023(令和5)年度が12.7%とのことです。(同基本計画)
これらの数値を見ると少なくとも電子申請の開始からしばらくの間は、大きな利用は見込まれないように感じます。
今後は年金受給者がより利用しやすい電子申請になることが、課題といえそうです。
ここがポイント!電子申請の今後
60歳代のマイナンバーカードの取得率は平均より高く、8割を超えている。しかしながら、『扶養親族等申告書』の電子申請利用率は2023年度にわずか3.8%であり、より利用しやすい仕組みになることが期待される。
今回のニュースまとめ

今回は「年金の受給に関する電子申請の状況」について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2023年9月から『扶養親族等申告書』が、2024年6月からは老齢年金の受給手続きがスマホで電子申請可能になった。
- スマホによる電子申請にはマイナンバーカードの取得と、ねんきんネットとマイナポータルとの連携が必要である。
- 「初めて老齢年金を受け取るための手続き」では電子申請が未対応のケースも多く、その場合は紙の『老齢年金請求書』を提出する必要がある。
- 『扶養親族等申告書』の電子申請利用率は2023年度にわずか3.8%であり、より利用しやすい仕組みになることが期待される。
スマホによる年金の電子申請は、現状では万全な仕組みとまでは言えません。
まだいろいろと改良・改善の余地があるでしょう。
しかしながら、スマホによる年金手続きは始まったばかり。
温かく(?)見守る必要がありそうです。
出典・参考にした情報源
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https://www.nenkin.go.jp/denshibenri_kojin/denshibenri_rorei/ichiran.html
www.nenkin.go.jp
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https://www.nenkin.go.jp/denshibenri_kojin/denshibenri_rorei/kyotsu.html
www.nenkin.go.jp
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総務省|マイナンバー制度とマイナンバーカード|マイナンバーカード交付状況について
www.soumu.go.jp
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オンライン利用率引上げの基本計画(その後の改定・更新履歴 ) |厚生労働省
オンライン利用率引上げの基本計画(その後の改定・更新履歴 )について紹介しています。
www.mhlw.go.jp



大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師