どんなニュース?簡単に言うと
2022(令和4)年 10 月から、「2カ月以内の雇用契約」で働く人は契約更新が見込まれるのであれば、採用直後から厚生年金への加入が義務付けられています。そこで今回は、実務で発生し得るさまざまなケースを題材に、新しい加入ルールの仕組みを確認してみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
『契約の更新が見込まれる場合』には最初から厚生年金に加入
2022(令和4)年 10 月 1 日から、2カ月以内の雇用契約で勤務する場合の厚生年金の加入ルールが改正されました。
同年9月までは、採用した従業員の雇用契約が2カ月以内の場合には、厚生年金の加入対象にならないのが原則でした。
契約が更新された場合に、更新時点から加入することがルールとされていたものです。
例えば、4月1日から5月 31 日までの2カ月契約で採用された従業員の場合には、その間は厚生年金に加入せずに勤務をすることになります。
その後、もしもこの雇用契約が更新され、6月1日から7月 31 日まで引き続き勤務することになった場合には、更新時点である6月1日からは厚生年金に加入しなければなりません。
しかしながら 2022(令和4)年 10 月からは、たとえ採用した従業員の雇用契約が2カ月以内であったとしても、『契約の更新が見込まれる場合』に該当するのであれば、採用時点から厚生年金に加入することが義務付けられています。
『契約の更新が見込まれる場合』とは、雇用契約書などに「契約を更新する」とか「契約を更新する場合がある」との記載があるケースが該当します。
また、その企業で同様の雇用契約に基づく採用者の契約を更新した実績があるケースも、『契約の更新が見込まれる場合』に含まれるとされています。
ただし、これらに該当する場合であっても、企業と採用者との間で「契約を更新しない」という明確な合意が書面で行われている場合には『契約の更新が見込まれる場合』とはされず、厚生年金には加入しません。
ここがポイント! 2022 年 10 月からの新しい厚生年金加入ルール
2022 年 10 月からは、雇用契約の期間が2カ月以内でも『契約の更新が見込まれる場合』には、契約の当初から厚生年金に加入しなければならい。
初級レベル 勤務開始後に状況が変化した場合
それでは、実務で発生し得るさまざまなケースについて、どのような取り扱いが行われるのかを具体的に見ていきましょう。
初めは、2カ月以内の雇用契約で勤務を開始した後、状況が変わった場合です。
事例1 当初は契約更新が見込まれなかったが、勤務開始後に更新が見込まれた。
A さんは、X 社で 10 月1日から 11 月 30 日までの2カ月間、フルタイムで勤務する契約で働いています。雇用契約書には「契約を更新しない」と記載されているので『契約の更新が見込まれる場合』には該当せず、厚生年金には加入していません。ところが、働き始めて1カ月経過した 11 月1日に会社から「契約を更新したいのですが」との連絡があり、A さんは「分かりました」と回答しました。
2カ月以内の雇用契約による勤務が開始された後、契約更新に関する条件が「更新しない」から「更新する」に変更されたケースです。
このように雇用契約が途中から『契約の更新が見込まれる場合』に変わったのであれば、従業員は契約の更新が見込まれた日に厚生年金に加入することになります。
契約の更新が見込まれた日とは、会社と従業員とが更新に関する条件の変更を合意した日を指します。
従って、A さんは条件の変更を会社と合意した 11 月1日から厚生年金に加入しなければなりません。
A さんは 10 月1日から働き始めていますので、契約期間の途中から厚生年金の被保険者になるわけです。
事例2 当初は契約更新が見込まれたが、勤務開始後に更新が見込まれなくなった。
B さんは、X 社で 10 月1日から 11 月 30 日までの2カ月間、フルタイムで勤務する契約で働いています。雇用契約書には「契約を更新する場合がある」と記載されているので『契約の更新が見込まれる場合』に該当し、厚生年金に加入しています。ところが、働き始めて1カ月経過した 11 月1日に会社から「契約は更新しません」との連絡があり、Bさんは「分かりました」と回答しました。
次は、2カ月以内の雇用契約による勤務が開始された後、契約更新に関する条件が「更新する場合がある」から「更新しない」に変更されたケースです。
皆さん、今度はどのように取り扱われると思いますか。
残念ながらそうではありません。
このケースのように、勤務開始後に契約の更新が見込まれなくなったとしても、契約期間の途中では厚生年金の被保険者資格は喪失しないという取り扱いが行われます。
従って、B さんは契約の更新が見込まれなくなった 11 月1日以降も、厚生年金に加入し続けることになります。
つまり、契約更新に関する条件が途中で変更になったケースでは、更新が見込まれた場合にはすぐに厚生年金への加入が必要になるものの、更新が見込まれなくなったとしても厚生年金からは抜けないわけです。
事例3 当初は 1 週間の所定労働時間が「20 時間未満」だったが、勤務開始後に「20時間以上」に変更された。
C さんは、X 社で 10 月1日から 12 月 31 日までの3カ月間、短時間労働者としてパート勤務をする契約を結んで働いています。雇用契約書には「契約を更新する」と記載されています。ただし、1 週間の所定労働時間が 18 時間のため、厚生年金には加入していません。ところが、働き始めて1カ月経過した 11 月1日に会社から「1 週間の所定労働時間を20 時間に変更したいのですが」との連絡があり、C さんは「分かりました」と回答しました。
契約が変更になる前は1週間の所定労働時間が 20 時間未満のため、短時間労働者の C さんは厚生年金の加入対象になりませんでした。
ところが、勤務開始後に変更された契約では1週間の所定労働時間は 20 時間以上となり、厚生年金に加入が必要な所定労働時間に変更されています。
また、契約変更後の残りの期間は、11 月1日から 12 月 31 日までの2カ月間です。
このようなケースでは、「契約変更後の厚生年金加入の要否」を残りの契約期間の内容に基づいて判断することになります。
ところで、2022(令和4)年 10 月以降、短時間労働者の厚生年金加入の条件から「雇用期間が1年以上見込まれること」という要件がなくなっています。
そのため、同年 10 月以降は、短時間労働者が「2カ月を超える雇用契約」や「更新が見込まれる2カ月以内の雇用契約」で勤務する場合には、労働時間や賃金の要件なども満たすのであれば厚生年金に加入しなければなりません。
C さんの場合、所定労働時間変更後の残りの契約期間は2カ月であり、雇用契約書には「契約を更新する」と記載されているので、『契約の更新が見込まれる場合』に該当します。
つまり、「更新が見込まれる2カ月以内の雇用契約」が残っている状態のため、賃金などの要件も満たすのであれば C さんは所定労働時間が変更された 11 月1日から厚生年金に加入することになります。
ここがポイント! 勤務開始後に契約更新に関する条件が変更になった場合
勤務開始後に契約更新が見込まれた場合には、その時点で厚生年金に加入する。一方、契約更新が見込まれなくなった場合でもその時点では厚生年金から抜けず、契約期間の最後まで加入し続ける。
中級レベル 前後の契約の間が空いている場合
事例4 2カ月以内の雇用契約を数日の間を空けて繰り返した。
D さんは、X 社で 10 月1日から 11 月 30 日までの2カ月間、フルタイムで勤務する契約を結んで働いています。雇用契約書には「契約を更新しない」と記載されているため、厚生年金には加入していません。ただし、D さんと X 社との間では、11 月 30 日の契約期間満了後は 12 月5日から2月4日までの2カ月間の契約で再び勤務することが、すでに約束されています。
このケースでは、2つの雇用契約の期間は連続していないため、外見上は当初の契約が更新されていないように見えます。
しかしながら、D さんと X 社との間では、最初の雇用契約の段階で次の契約が約束されている状態にあり、加えて2つの契約の間はわずか4日間しか空いていません。
そのため、実質的には当初の契約が更新された状態と変わりがないと考えられます。
このようなケースは、事実上は会社と従業員の雇用関係が中断していないと判断され、最初の契約の段階から厚生年金に加入することが求められます。
従って、D さんは 10 月1日から厚生年金に加入しなければなりません。
つまり、2つの契約の間隔を少し空けて契約が更新されていないことを装い、社会保険加入を逃れるという手法は通用しないことになります。
ここがポイント! 前後の雇用契約の間が数日空いている場合
会社と従業員との間で契約更新の予定が明らかになっているような場合には、最初の雇用契約の時点で厚生年金に加入する。
中級レベル 雇用契約の期間が 2022 年 10 月1日(厚生年金の加入ルールが変更された日)をまたぐ場合
事例5 2022(令和4)年 10 月1日より前から「契約期間2カ月以内、更新する場合あり」の条件で勤務を始め、10 月1日以降もその契約に基づいて働いている。
E さんは、X 社に 2022(令和4)年9月1日から同年 10 月 31 日までの2カ月間、フルタイムで勤務する契約を結んで働いています。雇用契約書には「契約を更新する場合がある」と記載されていますが、2022(令和4)年9月以前に結んだ契約なので厚生年金には加入していません。2022(令和4)年 10 月1日以降も、同じ契約に基づいて働いているところです。
E さんは厚生年金の加入ルールが変更される前から、X 社と雇用契約を結んで勤務をしています。
このように、雇用契約が 2022(令和4)年 10 月1日をまたいで継続している場合には、「10 月1日以降の厚生年金加入の要否」を同日時点の契約内容に基づいて判断することになります。
E さんが X 社と 10 月1日時点で結んでいる雇用契約の内容は、契約期間が2カ月間であり、契約更新に関する条件は「更新する場合がある」です。
従って、「更新が見込まれる2カ月以内の雇用契約」に該当することとなり、E さんは2022(令和4)年 10 月 1 日からは厚生年金に加入して勤務をしなければなりません。
事例6 2022(令和4)年 10 月1日より前から「契約期間1年未満、更新なし」の条件で勤務を始め、10 月1日以降もその契約に基づいて働いている。10 月1日以降の契約期間の残りは「2カ月以内」である。
F さんは、X 社に 2022(令和4)年6月1日から同年 11 月 30 日までの6カ月間、短時間労働者としてパート勤務をする契約を結んで働いています。雇用契約書には「契約を更新しない」と記載されているので雇用期間は1年以上見込まれず、短時間労働者の F さんは厚生年金の加入対象になりませんでした。2022(令和4)年 10 月1日以降も、同じ契約に基づいて働いているところです。
F さんは厚生年金の加入ルールが変更される前から、X 社と雇用契約を結んで勤務をしています。
このようなケースでは、前述のとおり「10 月1日以降の厚生年金加入の要否」を同日時点の契約内容に基づいて判断することになります。
F さんの場合、X 社と 10 月1日時点で結んでいるのは、契約期間が6カ月間の雇用契約です。
2022(令和4)年 10 月以降は、短時間労働者が「2カ月を超える雇用契約」で勤務する場合には、労働時間や賃金の要件なども満たすのであれば厚生年金に加入しなければなりません。
従って、6カ月間の雇用契約を結んでいる F さんは、その他の要件も満たすのであれば2022(令和4)年 10 月 1 日から厚生年金に加入することになります。
ここがポイント! 雇用契約の期間が 2022 年 10 月1日をまたぐ場合
雇用契約が改正法の施行日をまたぐ場合には、2022 年 10 月1日時点で締結されている契約の内容で 10 月1日以降の厚生年金加入の要否を判断する。
上級レベル 派遣社員が複数の会社で同時に勤務する場合
事例7 同じ派遣会社から、派遣期間の更新の可能性が“ある会社”と“ない会社”とに同時に派遣されて勤務した。
G さんは Z 派遣会社と契約しており、同社から同時に2つの会社(X 社、Y 社)に派遣されて働いています。X 社、Y 社のいずれも派遣期間は 10 月1日から 11 月 30 日までの2カ月間で、1週間の所定労働時間はどちらも 10 時間です。ただし、X 社は派遣期間の更新がありませんが、Y 社では更新の可能性がある状態です。
同一の派遣会社から同時に複数の会社に派遣されて勤務する場合には、派遣期間が更新される可能性のある会社の就労形態で厚生年金加入の要否が判断されます。
上記のケースでは X 社は派遣期間の更新がないため、更新の可能性がある Y 社の就労形態で判断することになりますが、Y 社の1週間の所定労働時間は 20 時間未満で、短時間労働者が厚生年金加入を求められる労働時間数に満たない状態です。
従って、G さんは厚生年金に加入せずに勤務をすることになります。
なお、Y 社での派遣期間が更新された際、Y 社での1週間の所定労働時間が 20 時間以上になり賃金の要件なども満たすのであれば、派遣期間の更新時点から厚生年金に加入しなければなりません。
事例8 同じ派遣会社から、派遣期間の更新の可能性がある複数の会社に同時に派遣されて勤務した。
H さんは Z 派遣会社と契約しており、同社から同時に2つの会社(X 社、Y 社)に派遣されて働いています。X 社、Y 社のいずれも派遣期間は 10 月1日から 11 月 30 日までの2カ月間で、1週間の所定労働時間はどちらも 10 時間です。また、X 社、Y 社のいずれも派遣期間の更新の可能性がある状態です。
前述のとおり、同一の派遣会社から同時に複数の会社に派遣されて勤務する場合には、派遣期間が更新される可能性のある会社の就労形態で厚生年金加入の要否が判断されます。
上記のケースでは、X 社と Y 社のいずれも派遣期間の更新の可能性があるため、両社の所定労働時間を足した結果で判断することになります。
2社の1週間の所定労働時間を合算すると 20 時間となり、短時間労働者が厚生年金加入を求められる所定労働時間の条件を満たすため、H さんは賃金の要件なども満たすのであれば 10 月1日から厚生年金に加入する必要があります。
ここがポイント! 派遣社員が複数の会社で勤務する場合
同一派遣会社から同時に複数の会社に派遣される場合には、派遣期間の更新可能性がある会社の就労形態で厚生年金への加入の要否を判断する。
今回のニュースまとめ
今回は、2022(令和4)年 10 月から開始された「2カ月以内の雇用契約」で働く人の厚生年金加入ルールの変更について、具体的な事例を用いて実務での取り扱いを見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2022 年 10 月からは、「契約の更新が見込まれる2カ月以内の雇用契約」を結ぶと、契約当初から厚生年金に加入する。
- 勤務開始後に契約更新が見込まれると、その時点で厚生年金に加入する。一方、勤務開始後に契約更新が見込まれなくなっても、その時点では厚生年金から抜けない。
- 前後の雇用契約の間が数日空いていても、会社と従業員との間で契約更新の予定が明らかになっているようなケースでは、最初の雇用契約の時点で厚生年金に加入する。
- 雇用契約が 2022 年 10 月1日をまたぐ場合には、同日時点の契約内容で 10 月1日以降の厚生年金加入の要否を判断する。
- 同一派遣会社から同時に複数の会社に派遣される場合には、派遣期間の更新可能性がある会社の就労形態で厚生年金加入の要否を判断する。
「2カ月以内の雇用契約」の実務上の取り扱いは、分かりづらい面が少なくありません。
ぜひ、本コラムをよく読み込んで、理解を深めてください。
出典・参考にした情報源
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日本年金機構:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行(令和 4 年 10 月施行分)に伴う事務の取扱いに関する Q&A 集
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師