どんなニュース?簡単に言うと
2020年8月。「9月から厚生年金の等級が増える」という話を耳にすることが多くなりました。「厚生年金の等級が増える」とは、一体どういう意味なのでしょうか。今回は、この点について考えてみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「等級が増える」とは標準報酬月額のランクが1つ増えること
厚生年金の保険料額は、「標準報酬月額×厚生年金の保険料率」という計算で決定されます。
例えば、会社から支給されている給料額が 21 万円以上 23 万円未満の従業員の場合には、その中間の値に相当する 22 万円がその従業員の標準報酬月額とされます。
この 22 万円に厚生年金の保険料率を乗じることで、保険料額が決まる仕組みになっています。
厚生年金の制度では、「給料が○○万円以上○○万円未満の人は、標準報酬月額を〇〇万円とする」という決まり事が全部で 31 種類あり、この標準報酬月額の種類のことを“等級”と呼んでいます。
給料が低いほど1等級、2等級というような“小さな数字の等級”に割り当てられ、反対に給料が高いほど 30 等級、31 等級というような“大きな数字の等級”にランク付けされることになります。
ちなみに、給料額が 21 万円以上 23 万円未満の場合に決定される 22 万円という標準報酬月額は、15 等級に該当します。
「9月から厚生年金の等級が増える」というのは、保険料計算の基になっている標準報酬月額の種類が増えることを意味しています。
具体的には、2020 年(令和2年)8月までは 31 等級であった標準報酬月額の種類が、同年9月からは 32 等級になるということです。
等級の増やし方は、8月までの最高等級である 31 等級の上に 32 等級という新しい等級を新設することで行われます。
等級の新設が行われても、今まで使用していた標準報酬月額のうち1等級から 30 等級までについては、全く変更がありません。
例えば、給料額が 21 万円以上 23 万円未満の従業員の標準報酬月額は、8月までと同様に9月以降も 15 等級の 22 万円で変わりはありません。
ただし、8月の段階で最高等級である 31 等級の人については、9月以降は給料の金額により、次のとおりに取り扱いが変わります。
- 給料額が 60 万5千円以上 63 万5千円未満の人
⇒ 9月以降も標準報酬月額は 31 等級の 62 万円で変わらない
- 給料額が 63 万5千円以上の人
⇒ 9月からは標準報酬月額が 32 等級の 65 万円に上がる
つまり、8月の段階で 31 等級に該当する人のうち、給料額が 63 万5千円以上の人だけが等級新設の影響を受けるということです。
ちなみに、標準報酬月額の等級の新設は、「標準報酬月額の上限が引き上げられる」という表現で説明されることもあります。
標準報酬月額の新旧の等級を比較すると、次のとおりです。
ココがポイント! 「9月から厚生年金の等級が増える」とは?
2020 年(令和2年)9月から、標準報酬月額の最高等級の上に等級が新設され、32 等級
に変更されることになった。
「標準報酬月額の平均の2倍」が最高等級額を超えると等級新設へ
厚生年金の標準報酬月額の等級新設のルールは、厚生年金保険法の第 20 条第2項に次のように定められています。
毎年3月 31 日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額の 100 分の 200 に相当する額が標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額を超える場合において、その状態が継続すると認められるときは、その年の9月1日から、健康保険法第 40 条第1項に規定する標準報酬月額の等級区分を参酌して、政令で、当該最高等級の上に更に等級を加える標準報酬月額の等級区分の改定を行うことができる。
(厚生年金保険法第 20 条第 2 項)
一読しただけでは、何を言っているのかよく分かりませんね。
実は、厚生年金の標準報酬月額の最高等級額は、1989 年(平成元年)12 月から「全被保険者の標準報酬月額の平均額の2倍程度」になるように設定することになっています。
2倍程度かどうかは、年度末である3月 31 日時点の平均額で判断されます。
そのため、「全被保険者の標準報酬月額の平均額を2倍した金額」が、最高等級額を上回る状態が継続すると認められた場合には、最高等級の上に等級を新設できることになっています。
実は、3月末日時点における「全被保険者の標準報酬月額の平均額を2倍した金額」は、2016 年(平成 28 年)3月末日からずっと最高等級額である 62 万円を上回り続けてきたという事情があります。
そのため、「最高等級額を上回る状態が継続する」と認められ、2020 年(令和2年)9月から等級を新設し、最高等級額を引き上げることになったものです。
ちなみに、近年、厚生年金の標準報酬月額の最高等級の金額は、次のように引き上げられてきています。
ココがポイント! 標準報酬月額の等級新設の仕組み
3月末日時点における「全被保険者の標準報酬月額の平均額を2倍した金額」が、最高等
級額を上回る状態が継続すると認められた場合、最高等級の上に等級を新設できる。
等級新設の影響を受ける人は限定的
8月までの標準報酬月額が 31 等級の 62 万円であった人が、9月から 32 等級の 65 万円に該当した場合には、負担する厚生年金の保険料額が増えることになります。
現在、厚生年金の保険料率は 18.3%なので、標準報酬月額が 31 等級の場合に従業員が負担する 1 カ月当たりの厚生年金の保険料額は、56,730 円(=62 万円×18.3%÷2)になります。
しかしながら、32 等級に該当すると、従業員が負担する厚生年金の 1 カ月当たりの保険料額は、59,475 円(=65 万円×18.3%÷2)となります。
従って、32 等級に該当した被保険者は、1 カ月当たり 2,745 円(=59,475 円-56,730円)の負担増となるわけです。
1 年間にすれば、負担増は 32,940 円(=2,745 円×12 カ月)です。
会社側も同額の負担増になることは、言うまでもありません。
ところで、皆さんはこのように厚生年金の保険料負担が増える人は、世の中にどのくらいいると思いますか。
2019 年(平成 31 年)3月末日現在で厚生年金の標準報酬月額が最高等級である 31 等級の 62 万円に該当している人は、約 267 万人いるそうです(平成 30 年度厚生年金保険・国民年金事業年報/厚生労働省)。
実は、この 267 万人という人数は、厚生年金の全被保険者のわずか 6.7%程度に過ぎません(同年報/厚生労働省)。
さらに、267 万人のうちの給料額が 63 万5千円以上の人だけが等級新設の影響を受けるのですから、今回の標準報酬月額の等級新設は、ほとんどの被保険者にとっては何も影響がないということになります。
ココがポイント! 標準報酬月額の等級新設の影響
32 等級に該当した場合、年間約3万3千円の厚生年金保険料の負担増となる。ただし、ほとんどの厚生年金の被保険者は対象にならない。
今回のニュースまとめ
今回は、2020 年(令和2年)9月から始まる「厚生年金の標準報酬月額の等級新設(上限の引き上げ)」について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2020 年(令和2年)9月から、厚生年金の標準報酬月額は従前の最高等級の上に等級が新設され、32 等級に変更されることになった。
- 3月末日時点で「全被保険者の標準報酬月額の平均額を2倍した金額」が、最高等級額を上回る状態が継続すると認められると、最高等級の上に等級を新設し、標準報酬月額の上限を引き上げることができる。
- 32 等級に該当した場合、年間約3万3千円の厚生年金保険料の負担増が発生するが、影響を被るのはごく一部の被保険者だけである。
9月から 32 等級に該当する場合であっても、会社や従業員が個別に手続きを行う必要はありません。
対象者は日本年金機構側で自動的に抽出されるからです。
もしも、32 等級に該当した場合には、9月下旬以降、会社に「標準報酬改定通知書」という通知が届くことになっていますので、そちらで確認が可能です。
また、9月の標準報酬月額から 32 等級に変更になる場合に、実際に給料から引かれる厚生年金保険料の額が増えるのは“10 月に支払われる給料”からになります。
“9 月に支払われる給料”から引かれる厚生年金保険料は、まだ 31 等級の保険料ですので、会社で社会保険事務を担当している方は間違わないように気を付けましょう。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ウェブサイト:
厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定
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https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202007/072002.html
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師