どんなニュース?簡単に言うと
2022 年 10 月から、国民年金や厚生年金の受け取りに「公金受取口座」という口座を指定できるようになったことをご存じですか。
これにより、年金の受け取り手続きにどのような変化が出たのでしょうか。
今回は、始まったばかりの「公金受取口座」の仕組みについて見ていきましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
年金の受け取りに利用できる「公金受取口座」
公金受取口座とは正式には公的給付支給等口座といい、年金制度や健康保険制度などから支払われる金銭の受け取りに使用できる預金口座の名称です。
公金受取口座の登録は、希望者がデジタル庁に自分の預金口座とマイナンバーを登録することにより行います。
公金受取口座を登録している人がこの口座で年金を受け取る手続きを行うと、日本年金機構などはデジタル庁からその人の預金口座の情報提供を受け、振込先の確認を行います。
そのため、手続きの際に預金通帳のコピーを提出する必要がなくなり、手続きが今までよりも少し簡便になるようです。
なお、デジタル庁発行の『公金受取口座登録制度ってなんだろう?』というリーフレットを見ると、公金受取口座を登録することにより「年金 ~(中略)~ の申請をするときに、口座情報の記入や通帳の写しなどを提出する必要がなくなります」と記載されています。
しかしながら、日本年金機構に提出する年金請求書への「口座情報の記入」は不要になってはおらず、必ず記入しなければなりません。
公金受取口座で年金を受け取る手続きをする場合、日本年金機構に対して必要がなくなったのは「預金通帳のコピーの提出」のみですので、間違わないように注意が必要です。
日本年金機構では、年金支払い時の公金受取口座の利用を 2022(令和4)年 10 月 31 日から開始しています。
また、国家公務員共済及び私学共済が支払う年金も、2022(令和4)年 10 月 31 日から公金受取口座の利用が可能です。
地方公務員共済が支払う年金は、本稿執筆時点でデジタル庁から公金受取口座の利用開始時期が発表されていませんが、地方公務員共済関係のサイトの中には 2023(令和5)年3月下旬から利用可能になる旨の告知をしているものもあるようです。
ここがポイント! 年金の受け取りに公金受取口座を利用するメリット
公金受取口座で年金を受け取る手続きを行うと、日本年金機構に預金通帳のコピーを提出する必要がなくなる。
マイナンバーカードを用意してマイナポータルから登録
公金受取口座の登録手続きはマイナンバーカードを用意し、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)からオンライン上で行うことができます。
登録できる口座は本人名義の普通預金の口座・普通預金を扱う総合口座などで、1人1口座のみの登録が可能です。
通帳が発行されない口座やインターネット専業銀行の口座でも、登録可能なケースが多いようです。
残念ながら、貯蓄預金の口座は公金受取口座にすることができません。
普通預金の口座であっても、店名などの屋号が含まれている場合には登録が認められていません。
例えば、個人経営でホームズベーカリーというパン屋を営む猫野ホームズさんがいるとしましょう。
猫野さんは業務用の銀行口座として、「ホームズベーカリー 猫野ホームズ」という名義の普通預金の口座を持っています。
しかしながら、店名が含まれた口座は公金受取口座として登録が認められていないので、「ホームズベーカリー 猫野ホームズ」という名義の口座をデジタル庁に登録することができません。
そのため、「猫野ホームズ」名義の普通預金の口座などを登録する必要があります。
また、登録をした公金受取口座は、事後に別の口座へ変更することも可能です。
公金受取口座の利用を辞めたければ、登録した口座情報の削除も行えます。
以上の手続きは、全てマイナポータルから行える仕組みになっています。
なお、公金受取口座の利用に国籍の制限は設けられていません。
そのため、外国籍の人でもマイナンバーカードの発行を受けているのであれば、公金受取口座を登録して年金などを受け取ることが可能です。
ここがポイント! 公金受取口座に登録できる口座の種類
公金受取口座はマイナポータルから登録する。登録できるのは本人名義の普通預金の口座などで、1人1口座のみ登録可能である。
公金受取口座を使うと預金残高が国にバレる?
公金受取口座とは、自分の預金口座の情報を国に登録する仕組みです。
しかも、マイナンバーと一緒に登録をすることが求められます。
そのため、この制度を利用する上では登録した情報が本来の目的以外に使用されるのではないかという点が、非常に心配されるところです。
心配になるのも無理はありません。
しかしながら、公金受取口座はあくまで公的な給付金の受け取りだけに使用されるものであり、その他の用途には使用しないとされています。
従って、公金受取口座を利用したことで預金残高が行政機関に知られることはなく、登録口座から税金が強制的に引かれることもないようです。
どうしても不安感を拭い切れないのであれば公金受取口座は登録せず、従来どおり年金請求書に預金通帳のコピーを添付して年金の受け取り手続きをすることも可能です。
公金受取口座の利用は法律上の義務ではなく、あくまで年金受け取りの選択肢の一つに過ぎないからです。
ここがポイント! 公金受取口座の利用が心配な場合
公金受取口座を登録しても、預金残高が行政機関にチェックされることはない。心配ならば登録はせず、従来どおりの手続きで年金を受け取ればよい。
デジタル庁に登録するだけでは、年金の振込先は公金受取口座にならない
年金の受け取りに公金受取口座を使用する場合には、注意点があります。
デジタル庁に公金受取口座を登録しただけで、自動的に年金の振込先が公金受取口座になるわけではないことです。
別途、日本年金機構に「公金受取口座で年金を受け取りたい」旨を記載した年金請求書を提出して初めて、同口座での年金受け取りが可能になります。
老齢年金の請求書であれば、「受取機関」欄の「公金受取口座として登録済の口座を指定」と書かれている左側の四角にチェック(✔)を付けて意思表示を行います(下図参照)。
ただし、公金受取口座での年金受け取りを指定した場合であっても金融機関名・支店名・口座名義人氏名・預金種別・口座番号の記入は省略できませんので、公金受取口座に登録した口座情報を年金請求書にも記載します。
これにより年金請求書に預金通帳のコピーを添付する必要がなくなり、また、年金は公金受取口座に振り込まれることになります。
すでに年金を受け取っている人が口座を変更する場合も同様です。
例えば、公金受取口座である「A銀行の口座」で年金を受給中の人が、公金受取口座を「B銀行の口座」に変更しようと考えたとします。
年金の振込先は、変更後の公金受取口座である「B銀行の口座」を希望しています。
このような場合も、マイナポータルから公金受取口座を「B銀行の口座」に変更しただけで、年金の振込先が「B銀行の口座」に変わるわけではありません。
別途、日本年金機構の受取機関変更届に必要事項を記載し、届け出る必要があります。
具体的には、受取機関変更届の「変更後の受取機関」欄にある「下記に記載する変更後の受取機関が「公金受取口座」として登録済の場合は左欄に✔してください」と書かれている左側の四角にチェック(✔)を付けます(下図参照)。
公金受取口座での年金受け取りを指定したとしても金融機関名・支店名・口座名義・預金種別・口座番号の記入は省略できませんので、変更後の公金受取口座である「B銀行の口座」の情報を受取機関変更届にも記載します。
これにより、日本年金機構に受取機関変更届を提出する際にB銀行の通帳のコピーは添付が不要となり、また、年金は変更後の公金受取口座である「B銀行の口座」に振り込まれることになります。
公金受取口座での年金の受け取りは、デジタル庁への口座の登録が済んでいるのであれば、預金通帳のコピーを用意する必要がなくなる分だけ手間が省かれます。
しかしながら、デジタル庁への登録が済んでいない場合には、デジタル庁と年金制度運営団体の2カ所に手続きが必要となるため、二度手間の感を否めません。
ただし、公金受取口座は年金だけでなく「税金の還付」「子育て給付」「障害福祉」「生活保護」「労災保険・公務災害補償」「失業保険」「職業訓練給付」「健康保険」「介護保険」など、数多くの公的な金銭・手当の受け取りで利用可能です。
そのため、「さまざまな公的給付の受け取り手続きを少しでも簡便にしたい」などの意向があるのであれば、この機会にデジタル庁へ公金受取口座を登録するのもよいかもしれません。
ここがポイント! 年金以外の受け取りにも使える公金受取口座
公金受取口座は年金の他にも「税金の還付」「子育て給付」「失業保険」「健康保険」「介護保険」など、さまざまな公的な金銭・手当の受け取りに利用できる。
今回のニュースまとめ
今回は、2022(令和4)年 10 月 31 日から開始された「公金受取口座での年金受け取りの仕組み」について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 年金の受け取り手続き時に公金受取口座を指定すれば、預金通帳のコピーを日本年金機構に提出する必要がなくなる。
- 公金受取口座はマイナポータルから登録する。登録できるのは1人1口座で、本人名義の普通預金の口座などが登録対象となる。
- 公金受取口座を登録しても、預金残高は行政機関にチェックされない。
- 公金受取口座は年金の他にも「税金の還付」「子育て給付」「失業保険」「健康保険」「介護保険」など、さまざまな公的給付の受け取りに利用できる。
年金制度での公金受取口座の利用について、日本年金機構では「ホームページ上に専用ページを開設し、詳細に説明する」などの対応を実施していません。
そのことがどの程度影響しているかは定かでありませんが、年金業務に携わる人であっても、年金と公金受取口座との関係を正しく認識できていないケースが少なくないように思います。
みんなのねんきんの読者の皆さんは、ぜひ、本稿で基本的な理解を深めてください。
出典・参考にした情報源
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デジタル庁ホームページ:公金受取口座登録制度
デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを一気呵成に作り上げることを目指します。
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デジタル庁:公金受取口座登録制度ってなんだろう?
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師