どんなニュース?簡単に言うと
年金を語る上で、働き方と扶養の考え方は切っても切り離せません。
例えば、働き方次第で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に入る入らないという話になりますし、扶養されていなければ国民年金の第3号被保険者にはなれません。
今回は年金からは少し話が逸れますが、2021(令和3)年8月1日から基準が明確となる 共働き夫婦の子供は、父母どちらの健康保険の扶養扱いになるのか? という点についてまとめました。
共働きということは、夫婦どちらも子供を扶養している状態。
この場合はどちらの保険の被扶養者にするかが問題となります。
間接的に年金にも関係する「健康保険の扶養の仕組み」を整理してみましょう。
全2回の前編となります。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
健康保険の「被扶養者」とは
公的な医療保険制度である健康保険制度には、2種類の加入者が存在します。「被保険者」と「被扶養者」です。
このうち「被保険者」は、会社勤めをしている本人が該当します。
また、すでに勤めを辞めている人が、任意継続被保険者という名称の「被保険者」として、健康保険制度に加入することもあります。
これに対し、「被保険者」に養われている一定範囲の家族は、「被扶養者」という立場で
健康保険制度のメンバーになることができます。
健康保険制度に加入すると、「被保険者」には月々の健康保険料の支払いが義務付けられます。
しかし、「被扶養者」には健康保険料の支払い義務がありません。
それでも、「被保険者」と「被扶養者」とで、診療を受ける際の医療費の自己負担割合に違いはありません。
ここがポイント! 健康保険の「被扶養者」とは
被保険者に養われる一定範囲の家族は、「被扶養者」として健康保険制度に加入できる。「被扶養者」には健康保険料を負担する義務がない。
共働き夫婦の子供を被扶養者に認定する「5つのルール」
共働きをする夫婦が2人とも健康保険の被保険者であり、子供を養育している場合には、子供を夫と妻のどちらの健康保険の被扶養者にするかが問題になることがあります。
この点に関し、本年(2021 年)8月1日から、基本的な制度の仕組みを変更することなく、従来よりも基準が明確化されることになりました。
目的は「保険者間でいずれの被扶養者とするかを調整する間、その子が無保険状態となって償還払いを強いられることのないようにするため」と説明されています。
この説明文に出てくる「保険者(ほけんじゃ)」とは、保険制度の運営主体を表す言葉で、協会けんぽでは全国健康保険協会が、組合健保では各健康保険組合が保険者となります。
また、「償還払い」とは、医療機関で診療を受けた本人が医療費の全額を立て替え払いし、後日、保険者から差額の払い戻しを受ける仕組みをいいます。
それでは、明確化された認定の仕組みを、順を追って見ていきましょう。
《ルール1》夫婦の年間収入に差がある場合
夫婦とも健康保険の被保険者である場合には、制度上、その子供は「今後1年間の収入」が多い親の扶養扱いになります。
扶養の対象となる子供が2人以上いる場合には、全員、「今後1年間の収入」が多い親の被扶養者とされます。
ただし、「今後1年間の収入」がいくらになるかは、子供を扶養に入れる時点では、必ずしも正確に分かるわけではありません。
そこで、被扶養者の認定に当たっては、「今後1年間の収入」の“見込額”を予想する必要があります。
具体的には、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から「今後1年間の収入」の“見込額”を算出することになります。
例えば、給与額の変動がない職場・勤務形態の場合には、過去1年間の収入がそのまま「今後1年間の収入」の“見込額”として使えることになります。
これに対して、最近給料が増えたケースであれば、過去の収入ではなく現時点の収入を基に「今後1年間の収入」の“見込額”を計算する必要があります。
さらには、「最近、給料が増えたのは一時的なことで、近々、また減ることが分かっている」等の事情があれば、「今後1年間の収入」の“見込額”は将来の収入も見据えて計算すべきといえます。
過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から「今後1年間の収入」の“見込額”を算出するとは、このような考え方になります。
実は、共働きの夫婦が家族を健康保険の扶養扱いにする場合には、以前から「年間収入が多いほうの被扶養者とすること」が原則とされていました。
ただし、夫婦の収入の比較に用いる年間収入は、「扶養の届けが提出された前年分の年間収入」と決められていたものです。
しかしながら、子供が被扶養者と認定された後、被保険者である親の収入が「前年分の年間収入」に一致するとは限りません。
そこで、過去・現時点・将来の収入等により、子供が被扶養者と認定された後の被保険者の収入額を見積もることにしたものです。
この考え方により、「子供を被扶養者として認定中、“真に”収入が多いのは夫婦のどちらか」を適切に判定しようという趣旨になります。
ところで、過去・現時点・将来の収入等から「今後1年間の収入」を見込むという考え方は、健康保険の被扶養者になるための収入要件である「年間収入が 130 万円未満であるか」等を判定する際に、以前から使用されている「年間収入の考え方」でもあります。
つまり、従前は健康保険の被扶養者の認定に関し、異なる「年間収入の考え方」が併用されていたものです。
そのため、今回の基準の明確化では、「年間収入の考え方」の統一が図られたともいえます。
《ルール2》夫婦の年間収入の差が小さい場合
夫婦の年間収入の差異が小さい場合には、「2人の年間収入の差額」が年間収入の多い被保険者の“1割以内”か“1割超”かで取り扱いが変わります。
差額が“1割超”の場合には、前述の《ルール1》の考え方のとおり、子供は「今後1年間の収入」が多い親の被扶養者になります。
これに対して、差額が“1割以内”の場合には、「主として生計を維持する者」の被扶養者とされます。
具体例で考えてみましょう。
例えば、「今後1年間の収入」の見込額が夫は 350 万円、妻は 400 万円の夫婦がいるとします。
この夫婦の場合、年間収入の差額である 50 万円(=妻 400 万円-夫 350 万円)は、年間収入が多い妻の年収の 12.5%(=50 万円÷妻 400 万円×100)に当たります。
差額が“1割超”なので、子供は「今後1年間の収入」が多い妻の被扶養者となります。
次に、「今後1年間の収入」の見込額が、夫は先ほどよりも 10 万円多い 360 万円、妻は先ほどと同じ 400 万円のケースを考えてみましょう。
このケースでは、年間収入の差額である 40 万円(=妻 400 万円-夫 360 万円)は、年間収入が多い妻の年収の 10%(=40 万円÷妻 400 万円×100)に当たります。
この場合、差額が“1 割以内”なので、「主として生計を維持する者」の被扶養者とされます。
そのため、年間収入が多いのは妻ですが、「主として生計を維持する者」が夫の場合には、届け出ることによって子供は夫の被扶養者とされるものです。
この点について 2021(令和3)年7月までは、「夫婦双方の年間収入が同程度である場合は、~(中略)~主として生計を維持する者の被扶養者とする」とされていました。
しかしながら、“同程度”がどのくらいの収入差を指すのかが、明確ではありませんでした。
そこで、8月からは夫婦の収入差について、“1割”という定量的な基準が設けられたものです。
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《ルール3》公務員の場合(共済組合に加入している場合)
次は公務員の場合です。
夫婦のいずれか一方または双方が公務員等で共済組合に加入していると、公的な医療保険サービスは加入している共済組合から提供を受けます。
この場合に、共働き夫婦の家族に関する被扶養者認定は、年間収入の比較に替えて、「扶養手当」の支給の有無で判断することが認められます。
具体的には、「扶養手当」の支給を受けている親(共済組合に加入中)の被扶養者とすることができるものです。
例えば、夫は公務員で共済組合に加入しており、妻は民間企業の社員で健康保険に加入しているとします。
この場合、扶養に入れようと考えている子供に関する「扶養手当」が、共済組合に加入する夫に支払われているのであれば、子供を夫の被扶養者にすることが可能です。
ただし、共済組合に加入する夫に「扶養手当」が支払われていない場合に、「扶養手当」が支払われていないという理由で、「子供を夫の被扶養者にしない」という取り扱いはできません。
この場合には、「今後1年間の収入」の見込額の比較により、どちらの被扶養者になるかを決定することになります。
実は、夫婦の一方または双方が共済組合に加入している場合に、「扶養手当」が支給されている親の被扶養者にできるという取り扱いは、2021(令和3)年7月までのルールにも存在しました。
しかしながら、「扶養手当が支給されていないことを理由に、被扶養者に認定しない」という取り扱いを禁止する旨までは定められておらず、今回、新たなルールとして盛り込まれたものです。
《ルール4》扶養が認定されなかった場合
具体例で考えてみましょう。
例えば、夫婦とも健康保険の被保険者であり、夫が加入するのはA保険者、妻が加入するのはB保険者だとします。
前述のとおり、「保険者」とは保険制度の運営主体を表す言葉であり、健康保険制度では全国健康保険協会や各健康保険組合が「保険者」になります。
夫婦は子供を夫の被扶養者にしたいと考え、夫が加入するA保険者に扶養の届出をしたのですが、扶養は認定されなかったとします。
扶養が不認定の場合には、A保険者から夫に対して、扶養を認定しなかった旨を記載した通知が発行されます。
その通知には、「不認定の理由」「夫の標準報酬月額」「決定した日付」等が記載されています。
そこで、今度は、子供を妻の被扶養者にするため、妻が加入するB保険者に扶養の届出を行うことになります。
ただし、B保険者に届出を行う場合には、「A保険者から発行された不認定の通知」を添付して行う必要があります。
このとき、妻からの届出を受けたB保険者が「A保険者の不認定の決定はおかしいのではないか?」等と考えた場合には、「どちらの保険者で被扶養者の認定をするのが適切か」についてA・B保険者間で話し合いが行われることになります。
ココで話がまとまればよいのですが、万一、話がまとまらない場合には、A保険者に扶養の届出が行われた月の標準報酬月額が高いほうの被扶養者とすることになります。
もしも、夫婦の標準報酬月額が全く同額の場合は、届出により「主として生計を維持する者」の被扶養者とされます。
仮に、妻の標準報酬月額のほうが夫よりも高ければ、B保険者が扶養を認定し、子供は妻の被扶養者としなければなりません。
ところが、この決定に対してB保険者が「ウチで認定するなんて納得できない!」等と考えた場合には、もう保険者同士の話し合いでは解決ができません。
その場合は、地方厚生局という行政機関に申し立てを行い、解決を図ることになります。
地方厚生局とは、全国に設置されている厚生労働省の部局の名称です。
このように、子供の被扶養者認定について、夫婦の加入する保険者同士で見解が分かれた場合には、かなり複雑な手続きを踏むことになります。
上記ルールは、2021(令和3)年7月までよりも、細かい手続きに改められています。
《ルール5》夫婦の一方が国民健康保険の被保険者の場合
こちらも具体例で考えてみましょう。
夫は会社員で健康保険に加入しており、妻は自営業者で国民健康保険に加入しているとします。
実は、健康保険と異なり、国民健康保険には「扶養」という仕組みがありません。
国民健康保険は、加入者全員が「被保険者」となります。
そのため、この夫婦の場合、公的な医療保険制度上の子供の立場は、「夫の健康保険の被扶養者になる」または「妻と一緒に国民健康保険の被保険者になる」のいずれかとなります。
具体的には、「今後1年間の収入」が多い親が“主として生計を維持する者”とされ、夫のほうが多ければ子供は夫の健康保険の被扶養者となり、妻のほうが多ければ子供は国民健康保険の被保険者となります。
ただし、国民健康保険に加入している妻の「今後1年間の収入」いついては、直近の年間所得から見込んだ金額が使用されることになっています。
ところで、夫が加入する健康保険の保険者に子供の扶養の届出をしたところ、被扶養者として認定されなかったとします。
そのような場合には、保険者から夫に対し、扶養を認定しなかった旨を記載した通知が発行されます。
そこで、妻が加入する国民健康保険の保険者に、子供の加入手続きを行うことになります。
ただし、その場合は「夫が加入する保険者から発行された不認定の通知」を添付して手続きを行う必要があります。
このとき、妻からの届出を受けた国民健康保険の保険者が「夫が加入する保険者の不認定の決定はおかしいのではないか?」等と考えた場合には、「どちらの保険者で被扶養者の認定をするのが適切か」について保険者間で話し合いが行われることになっています。
ココで話がまとまればよいのですが、万一、話がまとまらない場合には、直近の課税・非課税証明書の所得金額の多いほうが“主として生計を維持する者”とされ、夫のほうが多ければ子供は夫の健康保険の被扶養者となり、妻のほうが多ければ子供は国民健康保険の
被保険者となります。
それでは、仮に夫の課税証明書の所得金額のほうが、妻よりも多かったとしましょう。
この場合には、夫が加入する健康保険の保険者が扶養を認定し、子供は夫の被扶養者としなければなりません。
ところが、この決定に対して夫が加入する健康保険の保険者が「ウチで認定するなんて納得できない!」等と考えた場合には、もう保険者同士の話し合いでは解決ができません。
その場合は、地方厚生局という行政機関に申し立てを行い、解決を図ることになります。
8月からは、夫婦の一方が国民健康保険の被保険者である場合の取り扱いも、細かい手続きに改められています。
ここがポイント! 共働き夫婦の「子供の被扶養者認定」の基本ルール
夫婦とも健康保険の被保険者である場合には、子供は「今後1年間の収入」が多い親の被扶養者になる。ただし、夫婦の収入差が“1 割以内”の場合には、「主として生計を維持する者」の被扶養者とされる。
今回のニュースまとめ
今回は、共働き夫婦の家族に関する「健康保険の被扶養者認定」について、2021(令和3)年8月から始まる基準の明確化の内容を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 被保険者に養われる一定範囲の家族は、「被扶養者」として健康保険制度に加入できるが、健康保険料を負担する義務はない。
- 夫婦とも健康保険の被保険者の場合には、子供は「今後1年間の収入」が多い親の被扶養者になる。ただし、夫婦の収入差が“1 割以内”の場合には、「主として生計を維持する者」の被扶養者とされる。
- 一方の保険者が扶養認定しなかった場合は、自動的に他方の保険者が扶養認定をするわけではない。他方の保険者も扶養認定に疑義がある場合は、両保険者間で話し合いが行われる場合がある。
- 扶養認定に関して保険者同士の話し合いで解決しない場合は、地方厚生局に申し立てて解決を図ることとなる。
実は、共働き夫婦の家族に関する「健康保険の被扶養者認定」については、本稿執筆時点で取り扱いの詳細等が発表されていません。
そのため、今後、厚生労働省から「Q&A」等の追加情報が公開される可能性もあります。
追加情報が公開された場合には内容を確認し、制度理解を深めていただければと思います。
後編では被扶養者の認定基準に関連して、ワクチン接種業務に従事する医療職の方の特例措置についてまとめます。
出典・参考にした情報源
厚生労働省:
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師