【令和6年能登半島地震】被災者の方々に対する年金制度の対応とは|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

  どんなニュース?簡単に言うと

2024(令和6)年1月1日に発生した能登半島地震。

大規模な天災の発生を受け、国民年金や厚生年金についてもさまざまな支援措置が講じられています。

今回のコラムでは、地震の被災者の皆さんに対する「年金関係の支援策」を整理します。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

元日に発生した地震被害

2024(令和6)年1月1日の午後4時過ぎ、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震が発生しました。

地震の後には降雨、降雪などによる天候不順が続き、被災をした方、救助活動に当たる方の双方にとって過酷な時間が流れています。

震災から3週間以上を経過した現在も停電や断水、ガスの供給停止が続く地域があるなど、被害は甚大です。

今回の震災では新潟県、富山県、石川県および福井県の35市11町1村に災害救助法を適用することが、地震発生当日に決定されています。

また、1月6日には石川県が、1月9日には富山県が被災者生活再建支援法の適用を発表。

さらには、1月11日に激甚災害特定非常災害の指定が行われるなど、各方面でさまざまな施策が開始されています。

年金関係についても複数の支援措置が講じられ、厚生労働省や日本年金機構のホームページなどで告知が行われています。

ここがポイント! 元日に発生した能登半島地震

2024年1月1日に発生した能登半島地震の被害は甚大である。現在、各方面でさまざまな施策が開始されている。

「国民年金の加入者」に対する支援策

それでは、被災者の方々に対する年金関係の施策を、順を追って見ていきましょう。

はじめに、国民年金に加入中の方に対する支援策です。

1.保険料の口座振替を一時的に止められる

被災をした方が国民年金保険料を口座振替で納付している場合、今後の納付が難しければ口座振替を一時的にストップすることが可能になりました。

保険料の引き落としは、翌月末日が原則です。

そのため、本来であれば2024(令和6)年1月31日に2023(令和5)年12月分の保険料が口座から引き落とされることになります。

しかしながら、年金事務所や取引金融機関に連絡をすることで、原則として1月31日の引き落としを止めることが可能とされました。

国民年金保険料の口座振替は、通常であれば「一時的に引き落としを止める」ということは認められていません。

仮に残高不足で保険料の引き落としができなかったとしても、翌月以降の口座振替が止まることはありません。

どうしても口座から保険料を引き落とされたくなければ、『辞退申出書』という書類を出して口座振替を正式に辞める手続きをとることが必要です。

そのため、「一時的に保険料の引き落としを止める」という今回の支援措置は、被災者の方々の事情を考慮した特別な対応といえます。

2.所得があっても保険料が免除される

国民年金保険料の納付が、所得の状況にかかわらず免除可能になりました。

国民年金の保険料免除制度の中には、所得審査を通った場合に免除が認められる「申請免除」という仕組みがあります。

この制度で審査されるのは、“現在の所得” ではなく “前年の所得” です。

そのため、“今年の保険料” の免除が認められるためには、“去年の所得” が低い必要があります。

しかしながら、被災者の方の場合には、住宅などの財産の損害額が被災前の価額のおおむね2分の1以上であれば、“去年の所得” が多くても保険料の免除が認められることになります。

このような仕組みを「災害による特例免除」といいます。

「災害による特例免除」については、本サイトの2019(令和元)年9月24日付コラム『台風15号の被災者を支援する「国民年金の特例免除」とは』で仕組みを詳しく解説していますので、参照してください。

台風 15 号の被災者を支援する「国民年金の特例免除」とは|みんなのねんきん

どんなニュース?簡単に言うと 2019年9月中旬、台風 15 号が関東地方を直撃し、甚大な被害をもたらしました。実は、このような災害に遭われた方を支援するため、国民年金には「災害による特例免除」という ...

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ここがポイント! 「国民年金の被保険者」に対する施策

被災をした国民年金の被保険者に対しては、「口座振替の一時的な停止」「災害による特例免除」が用意されている。

「企業」に対する支援策

次に、厚生年金に加入している企業に対する支援策です。

1.富山県、石川県の企業は保険料の納付期限が延長(先延ばし)される

富山県と石川県の企業については、厚生年金の保険料の納付期限が延長(先延ばし)されました。

厚生年金保険料の納付期限は、国民年金と同様に翌月末日が原則です。

しかしながら、富山県と石川県に所在する企業に限り、地震の発生した2024(令和6)年1月1日以降に期限を迎える保険料から期限延長が決まりました。

そのため、富山県と石川県の企業については当面の間、保険料の口座振替も行われません。

もちろん、その間に年金事務所から督促が行われることはありません。

なお、口座振替が行われない代わりに、保険料を現金で納めるための納入告知書が届くことになります。

従って、被災の程度が軽微で保険料を納められる企業などは、届いた納入告知書を使い金融機関の窓口で保険料を納めることが可能です。

新しい納付期限は災害の復興状況を見て判断されるため、現時点では決定していません。

2.保険料の口座振替を一時的に止められる

富山県・石川県以外に所在する企業は、厚生年金保険料の納付期限は延長されません。

そのため、通常であれば、2024(令和6)年1月31日に2023(令和5)年12月分の保険料が口座から引き落とされてしまいます。

しかしながら、今後の納付が難しければ、保険料が引き落とされる5営業日前までに年金事務所に連絡をすることで口座振替を一時的にストップすることが可能とされました。

また、引き落としまで5営業日ない場合には、取引金融機関に口座振替の停止の相談をするよう呼びかけられています。

3.申請により保険料の納付が猶予される

富山県・石川県以外に所在する企業は厚生年金保険料の納付期限は延長されないため、翌月末日までに保険料を納めることが必要となります。

しかしながら、震災の影響で保険料納付が困難な場合には、年金事務所に申請をすることで保険料の納付が猶予されることもあります。

保険料の納付の猶予とは、各企業の個別の事情を考慮して保険料の納付をしばらく待ってもらえる制度です。

納付が猶予されている間は、保険料を納めなくても督促を受けることはありません。

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ここがポイント! 「企業」に対する施策

被災企業が厚生年金の適用事業所の場合には、「保険料の納付期限延長」「口座振替の一時的な停止」「保険料の納付猶予」が行われる。

「納付期限の “延長”」と「納付の “猶予”」の違い

被災企業に対する施策では、厚生年金保険料について「納付期限の “延長”」と「納付の “猶予”」という似たような施策が設けられています。

この2つの違いについて、考えてみましょう。

まず、「納付期限の “延長”」は、厚生労働省が指定した地域の全企業が自動的に対象とされる施策です。

企業側が個別に “延長” を申請する必要はありません。

また、仮に被災企業であったとしても、指定地域内に所在していなければ “延長” の対象にはなりません。

反対に、指定地域内の企業であれば、被災をしていなくても期限は “延長” されることになります。

“延長” 後の新しい納付期限は一律に決まっているわけではなく、災害の復興状況を見て厚生労働省が決定します。

復興の進捗によっては、かなりの長期間にわたって期限が “延長” され続けるケースも少なくありません。

なお、期限が “延長” された地域では、企業に対する保険料の口座振替が一律に停止されます。

そのため、被災をしていない企業も口座振替による保険料納付ができなくなってしまいます。

もしも、新しい期限が決まる前に口座振替での保険料納付を希望する場合には、『災害時口座振替再開申出書』という書類で手続きをする必要があります。

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一方、「納付の “猶予”」は、企業側が個別に申請をして認められた場合に限り有効となる仕組みです。

納付期限が厚生労働省によって “延長” された地域の企業であれば、新しい期限が到来するまでは、個別に “猶予” を願い出る必要はありません。

しかしながら、納付期限が “延長” されていない地域の企業の場合には、被災をしていたとしても翌月末日までに保険料を納めなければ年金事務所から督促を受けることになります。

そのため、保険料の納付が困難であれば、個別に “猶予” を申し出る必要があるでしょう。

保険料の納付が “猶予” される期間は、最長で3年間とされています。

ここがポイント! 「納付期限の “延長”」と「納付の “猶予”」

「納付期限の “延長”」は指定された地域の全企業が自動的に対象とされる。「納付の “猶予”」は希望する企業が申請をして認められると対象とされる。

年金をもらっている人」に対する支援策

次は、年金を受給中の被災者の方に対する支援策を見ていきましょう。

1.必要書類がなくても年金の「窓口受け取り」ができる

郵便局などの窓口で年金を受け取っている方は、必要書類が手元になくても年金受け取りが可能になりました。

年金の受け取りは金融機関の口座への振り込みの他に、ゆうちょ銀行や郵便局の窓口で直接、現金を受け取ることも可能です。

窓口で年金を受け取る際には指定のゆうちょ銀行や郵便局の窓口に行き、日本年金機構から届いた送金通知書と呼ばれるハガキを提示する必要があります。

送金通知書を持参できなければ、年金は受け取ることができません。

しかしながら、新潟県、富山県、石川県および福井県の災害救助法適用地域に住む年金受給者の方については、「震災により送金通知書がなくなってしまった」などの場合には送金通知書を持参できなくても年金が受け取れることとされました。

また、「送金通知書はあるが、指定の郵便局まで行くことができない」というケースでは、近隣にある他のゆうちょ銀行・郵便局の窓口でも年金を受け取ることが可能です。

ただし、これらの措置は現状では2024(令和6)年3月18日までの間の特例措置とされています。

新潟県、富山県、石川県および福井県の災害救助法の適用地域は、次のとおりです。

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なお、年金の受け取りに金融機関の口座への振り込みを利用している方でも、震災により「キャッシュカードが見つからない」「通帳と印鑑が手元にない」などのことがあるでしょう。

そのようなケースでは、口座を設けている金融機関に年金の引き出し方法を相談してほしいとのことです。

2.書類の提出期限が先延ばしされる

年金の受け取りを継続するために、定期的に提出が必要となる書類の提出期限が延長されました。

国民年金や厚生年金では「継続して年金を受け取る権利があるか」を確認するため、年金を受け取っている人に対して定期的に書類の提出を求めることがあります。

書類を期限までに提出しなければ、年金の支払いが一時的にストップされるのが通常です。

しかしながら、「震災により必要書類を期限までに提出できない」というケースに対応するため、2024(令和6)1月1日現在、災害救助法の適用地域に住む方で、誕生日が1月1日から5月31日までの方については、以下の書類の提出期限が延長されました。

  • 現況届
  • 生計維持確認届
  • 障害状態確認届

これらの書類は、それぞれ「受給者の生存を確認する」「家族の扶養状況を確認する」「障害の状態の変化を確認する」という目的で使用されており、通常であれば誕生月の末日までに提出することが求められます。

しかしながら、2024(令和6)年6月30日まで提出期限が延長されたため、すぐに提出できなくても年金の支払いが止められることはありません。

3.所得があるために支払いがストップされていた年金が受け取れる

災害救助法の適用地域に住む年金受給者の方の場合には、仮に「一定の所得がある」という理由で年金の支払いが停止されていたとしても、申請をすることで支払いが受けられることになりました。

対象となるのは、住宅などの財産がおおむね2分の1以上の損害を受けている方で、次の年金が所得制限によって支給停止となっている方です。

① 20歳前に初診日がある傷病の障害基礎年金

② 老齢福祉年金

③ 特別障害給付金

年金が受け取れるようになる期間は「震災による損害を受けた月の分」からで、①と③の年金は「2025(令和)7年9月分」の年金まで、②の年金は「2025(令和)7年7月分」の年金までです。

ただし、2025(令和7)年に2024(令和6)年の所得確認が行われ、所得が基準を上回っている場合には改めて「損害を受けた月の分」の年金から支払いがストップされることになります。

ここがポイント! 「年金受給者」に対する施策

被災をした受給者に対しては「年金の窓口受け取りの簡便化」「現況届などの提出期限延長」「所得制限による年金支給停止の解除」が行われる。

問い合わせは「被災者専用フリーダイヤル」へ

現在、日本年金機構では能登半島地震で被災された方のための問い合わせ窓口として「被災者専用フリーダイヤル」を開設しています。

詳細は次のとおりです。

【名  称】被災者専用フリーダイヤル

【電話番号】0120ー808ー678

【受付時間】月 曜 日:午前8時 30 分~午後7時

      火~金曜日:午前8時 30 分~午後5時 15 分

      第2土曜日:午前9時 30 分~午後4時

電話をかけると音声ガイダンスが流れますので、相談したい内容に応じて次のとおり番号を選びます。

国民年金の保険料納付や免除、手続きに関する相談 …「1」を選ぶ

厚生年金の保険料納付、手続きに関する相談 …「2」を選ぶ

ここがポイント!被災者用の問い合わせ窓口

日本年金機構では能登半島地震の被災者用の問い合わせ窓口として「被災者専用フリーダイヤル(0120‐808‐678)」を開設している。

今回のニュースまとめ

【みんなのねんきん】上級認定講師大須賀先生

今回は、2024(令和6)年1月1日に発生した能登半島地震の被災者の皆さんに対する「年金関係の支援策」について見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  • 2024年1月1日に発生した能登半島地震の被害は甚大であり、さまざまな支援施策が開始されている。
  • 国民年金被保険者は「口座振替の一時的な停止」「災害による特例免除」が利用できる。
  • 厚生年金の適用事業所は「保険料の納付期限延長」「口座振替の一時的な停止」「保険料の納付猶予」が利用可能である。
  • 「納付期限の延長」は指定地域の全企業が対象である。「納付の猶予」は希望する企業が申請をして認められると対象になる。
  • 受給者に対しては「年金の窓口受け取りの簡便化」「現況届などの提出期限延長」「所得制限による年金支給停止の解除」が行われる。
  • 日本年金機構では「被災者専用フリーダイヤル(0120‐808‐678)」を開設している。

今般の震災により亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。

被災された皆様方の生活再建が一日でも早く実現しますよう、心より祈念しております。

出典・参考にした情報源

令和6年石川県能登地方を震源とする地震について|厚生労働省
厚生労働省ホームページ:石川県能登地方を震源とする地震について

www.mhlw.go.jp

令和6年能登半島地震により被害を受けられた皆さまへ|日本年金機構
日本年金機構ホームページ:令和6年能登半島地震により被害を受けられた皆さまへ

www.nenkin.go.jp



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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。