大事なとこだけ手早く理解!2024年の年金財政検証【前編】|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

  どんなニュース?簡単に言うと

公的年金の財政状況を定期的に確認する「財政検証」。

2024(令和6)年7月3日、最新の財政検証の結果が厚生労働省から公表されました。

果たしてどのような結果だったのか。

今回は、2024年財政検証の基本的なポイントを整理してみましょう。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

今後100年間の年金財政の見通しをチェック

トラ
トラ
この間、テレビで「日本の年金は危ない」って言ってたぞ。
チャーミー
チャーミー
年金が破綻することはないのかしら?

毎月、保険料をキチンと納めていても、いざというときに年金がもらえないのでは困ってしまいます。

トラやチャーミーが心配するのも無理はありません。

そこで、日本の年金制度では将来的に継続可能であるかを確認するため、5年に1度、財政状況のチェックが行われます。

この仕組みを「財政検証」といいます。

モモ
モモ
どんなチェックをするの?

年金制度の財政状況が健全かどうかは、制度に入ってくるお金と制度から出ていくお金との比較で決まります。

そのため、財政検証では年金制度に出入りするお金の状況をチェックすることになります。

具体的には、年金制度に入ってくるお金として「保険料収入」が、年金制度から出ていくお金として「年金支払い」が、それぞれ今後どのように変化するかを確認します。

また、余った保険料を積み立てた「積立金」やその「運用益」、国からの補助である「国庫負担」の今後についてもチェックをしていきます。

以上のような確認作業が、将来の約100年間に対して行われます。

つまり、財政検証では今後100年間にわたって年金制度の運営が可能かについて、長期間にわたる収支の見通しを作成して検証するわけです。

日本の年金制度は、このような仕組みによって守られています。

ちなみに、前回の財政検証は、今からちょうど5年前の2019(令和元)年に行われました。

そのため、今年(2024年)は財政検証の年であり、7月3日にその結果が厚生労働省から発表されたところです。

ここがポイント! 財政検証とは

年金の財政検証では、おおむね100年間の財政収支の見通しが作成される。

人口・労働力・経済に前提を置いて将来をシミュレーション

ホームズ
ホームズ
今後100年間のことなんて、どうすれば分かるんだ?

もちろん、未来のことを正確に予測することは、できるものではありません。

そこで、年金の財政検証では未来に起こり得る状況を複数パターン想定することにより、予測が行われます。

具体的には、「保険料収入」や「年金支払い」などに影響を与える要素として、人口面・労働力面・経済面の3点について起こり得るパターンを仮定しています。

人口面では「出生率」「死亡率」「入国超過数(入国者数から出国者数をマイナスした人数)」について、高位・中位・低位などの3段階の前提条件を設定しています。

例えば、「出生率」では合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に出産する子供の人数)の数値が高い場合、中くらいの場合、低い場合の3種類を想定しています。

労働力面では、働きに出る人の人数や割合が相当程度増加する「労働参加進展シナリオ」、一定程度は増加する「労働参加漸進シナリオ」、あまり増加しない「労働参加現状シナリオ」の3種類の前提条件を設けています。

最後に、経済面では物価上昇率・賃金上昇率などの6つの指標を基に、経済成長が相当程度進む「高成長実現ケース」、一定程度は進む「成長型経済移行・継続ケース」、最近30年間の状況に準ずる「過去30年投影ケース」、経済の進展が乏しい「1人当たりゼロ成長ケース」の4種類が想定されています。

チャーミー
チャーミー
随分、いろいろな想定をするのね。

上記のような人口面・労働力面・経済面の想定をさまざまに組み合わせ、それぞれのパターンについて100年という長期間における財政状況の確認を行うわけです。

ここがポイント! 財政検証の3つの前提

財政検証では人口・労働力・経済の3項目について複数の前提を置き、シミュレーションが行われる。

年金の支払い水準を示す所得代替率

年金制度では、年金の支払い額のレベルを判断する基準として「所得代替率」という数値を使用しています。

「所得代替率」とは年金を受け取り始める時点の金額が、現役男性会社員の給料額(ボーナスを加味した手取り収入額)に対してどのくらいの割合かを示すもので、数値が高いほど年金の支払い水準も高いことになります。

政府ではモデル年金(平均的な給料額で40年間働いた夫と40年間専業主婦であった妻の2人が受け取る合計の年金)の所得代替率が将来的に50%を下回らないようにすることを目標としています。

モモ
モモ
今の所得代替率はどのくらいなの?

2024(令和6)年度のモデル年金の所得代替率は、以下のとおり61.2%と算出されています。

① 夫婦2人の老齢基礎年金:13.4万円

② 夫の老齢厚生年金:9.2万円

③ 現役男性会社員の給料額(ボーナスを加味した手取り収入額):37.0万円

・所得代替率:(①13.4万円+②9.2万円)÷③37.0万円≒61.2%

財政検証の結果を見る際には、「モデル年金の最終的な所得代替率が50%を維持できるか」に着眼することがポイントです。

ところで、前述のとおり財政検証では、経済面で「高成長実現ケース」「成長型経済移行・継続ケース」「過去30年投影ケース」「1人当たりゼロ成長ケース」の4つのケースを仮定してシミュレーションが行われています。

そのうち、「高成長実現ケース」と「成長型経済移行・継続ケース」は、経済の状況が現状よりも良くなることを想定したものです。

トラ
トラ
日本の経済って、本当に良くなるのか?

もちろん、経済状況の改善が実現不可能とは言い切れません。

しかしながら、トラが言うように「本当に経済状況が好転するのだろうか?」との疑問も禁じ得ないものです。

そのため、年金の今後の状況を判断する上では、経済面では最近30年間の経済状況に準じたケースである「過去30年投影ケース」を参考にするのが最も現実的ではないかと思います。

ここがポイント! 財政検証の現実的な経済前提

今回の財政検証では、最近30年間の経済状況に準じたケースである「過去30年投影ケース」の結果が最も現実的と思われる。

「過去30年投影ケース」の所得代替率は50%以上を確保?

それでは、今回の財政検証の結果について、「過去30年投影ケース」の場合を見てみましょう。

このケースでは、2024年度に61.2%であったモデル年金の所得代替率は徐々に低下し、33年後の2057年度に50.4%に到達、その後は50.4%が維持されるとされています。

つまり、今後100年間について、政府目標である「モデル年金の所得代替率50%以上の確保」が可能という検証結果が示されたものです。

なお「高成長実現ケース」の最終的な所得代替率は56.9%、「成長型経済移行・継続ケース」では57.6%と試算されています。

【みんなのねんきん】大事なとこだけ手早く理解!2024年の年金財政検証【前編】

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一方、5年前に行われた前回の財政検証では、経済成長が相当程度進んだ場合の最終的な所得代替率は50.8~51.9%であり、一定程度進んだケースでは44.5~46.5%と試算されていました。

そのため、今回の財政検証では前回よりも財政状況の見通しが改善したと言ってよいでしょう。

モモ
モモ
何で所得代替率は年々減っちゃうの?

マクロ経済スライドが行われるからです。

マクロ経済スライドとは、「現役世代の人口の減り具合」や「平均余命の伸び具合」に応じて年金の支払い額を減額する仕組みです。

年金制度では、制度に入ってくるお金と制度から出ていくお金とのバランスが取れるまでは、マクロ経済スライドによって年金額をマイナス調整することが決められています。

そのため、マクロ経済スライドが実施されている期間中(これを調整期間といいます)は所得代替率が低下し続けることになります。

チャーミー
チャーミー
所得代替率が50%以上を確保できるってことは、今後も年金は安心ってことなの?

実はそうとも言い切れません。

厚生労働省が上図で説明している「過去30年投影ケース」の所得代替率は、人口面の前提が全て高位・中位・低位の3段階のうちの中位で試算されています。

「過去30年投影ケース」でも人口面の前提を低位で試算した場合には、モデル年金の最終的な所得代替率は50%を維持できないことが確認されています。

【みんなのねんきん】大事なとこだけ手早く理解!2024年の年金財政検証【前編】

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従って、「出生率が想定よりも低かった」などの事態になれば、政府目標である「モデル年金の所得代替率50%以上の確保」も困難になりかねないといえるでしょう。

ここがポイント! 「過去30年投影ケース」では所得代替率50%を維持できる?

「過去30年投影ケース」では最終的な所得代替率が50.4%と試算された。ただし、人口面の前提を低位で試算すると、所得代替率は50%を維持できていない。

所得代替率の低下と年金額の低下は同じ割合ではない

「過去30年投影ケース」の場合、モデル年金の所得代替率は2024年度の61.2%から2057年度には50.4%にまで下がることが試算されました。

確かに政府目標である「モデル年金の所得代替率50%以上の確保」は可能とされていますが、今から33年後には所得代替率が現在よりも大きく下がることには変わりがありません。

低下率は17.6%(≒(61.2%-50.4%)÷61.2%×100)にもなります。

ホームズ
ホームズ
じゃあ、33年後には年金額も17.6%下がるのかな?

実はそうではありません。

実際の年金受け取り額は、所得代替率の低下割合とは異なります。

例えば、「過去30年投影ケース」で所得代替率が50.4%になった2057年度について、モデル年金の年金額を2024年度時点の金額に換算すると21.1万円となります。

2024年度のモデル年金の年金額は前述のとおり22.6万円ですので、年金の減額割合は6.6%程度(≒(22.6万円-21.1万円)÷22.6万円×100)となります。

【みんなのねんきん】大事なとこだけ手早く理解!2024年の年金財政検証【前編】

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所得代替率の低下割合よりも随分と少ないことが分かるでしょう。

つまり、所得代替率が下がった割合だけ、年金額が減額になるとは限らないわけです。

ここがポイント! 低下割合が異なる所得代替率と年金額

「過去30年投影ケース」ではモデル年金の最終的な所得代替率は現状よりも17.6%低下するが、年金額の低下は6.6%である。

今回のニュースまとめ

【みんなのねんきん】上級認定講師大須賀先生

今回は2024(令和6)年7月3日に発表された年金の財政検証の結果について、基本的なポイントを見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  • 年金の財政検証では、おおむね100年間の財政収支の見通しが作成される。
  • 財政検証では人口・労働力・経済の3項目について複数の前提を置き、試算が行われている。
  • 4つの経済前提の中では、最近30年間の経済状況に準じたケースである「過去30年投影ケース」の結果が最も現実的ではないか。
  • 「過去30年投影ケース」ではモデル年金の最終的な所得代替率が50.4%と試算されたが、人口の前提が低位の場合には50%を維持できない。
  • モデル年金の年金額の低下割合は、所得代替率の低下割合と同じではない。

今回の財政検証では、年金制度を改正した場合に所得代替率がどのように変化するかについても試算されています。

このような試算を『オプション試算』といいます。

次回の後編では、財政検証の『オプション試算』の結果について見ていこうと思います。

出典・参考にした情報源

将来の公的年金の財政見通し(財政検証) |厚生労働省
厚生労働省ホームページ:将来の公的年金の財政見通し(財政検証)

将来の公的年金の財政見通し(財政検証)について紹介しています。

www.mhlw.go.jp



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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。

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