どんなニュース?簡単に言うと
2020 年(令和2年)4月から、国民年金の第3号被保険者になれる人が、原則として日本国内に住んでいる人に限定されたことをご存知ですか。この仕組みを『国内居住要件』といいます。今回は、新しく始まった第3号被保険者の『国内居住要件』を見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「居住地」に制限がなかったこれまでの第3号被保険者
国民年金の加入の分類には、第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3つの種類があります。
このうち第3号被保険者は「第2号被保険者に扶養される配偶者」で、20 歳以上 60 歳未満の人が該当します。
第2号被保険者とは、一般的に厚生年金に加入して働いている人の“国民年金上の立場”を指します。
従って、第3号被保険者になれる人である「第2号被保険者に扶養される配偶者」とは、会社員や公務員の夫を持つ女性のうち“専業主婦の妻”“扶養の範囲でパート勤務をする妻”などが典型例といえます。
ただし、2020年(令和2年)3月まで、第3号被保険者になれる人には、「性別」「国籍」「居住地」には制限が設けられていませんでした。
そのため、“男性”“外国籍者”“海外居住者”のいずれであったとしても、「第2号被保険者に扶養される配偶者」という立場の場合には、20 歳以上 60 歳未満という年齢の要件を満たすのであれば、第3号被保険者に該当したことになります。
第3号被保険者には、保険料の支払い義務が課されていません。
しかしながら、将来は保険料を払った人と同じように年金が受け取れます。
つまり、第3号被保険者とは「保険料を払わずに年金をもらう」ことが可能な立場になります。
これが、国民年金に加入している人のうち、第3号被保険者にだけ認められている大きなメリットといえます。
前述のとおり、これまでの国民年金の制度では、「性別」「国籍」「居住地」に関係なく第3号被保険者になることが可能です。
そのため、“男性”“外国籍者”“海外居住者”のいずれであったとしても第3号被保険者になることができ、第3号被保険者である期間については「保険料を払わずに年金をもらう」というメリットを享受できた仕組みになっています。
ココがポイント!これまでの第3号被保険者制度の特徴
2020年(令和2年)3月までの第3号被保険者制度には、「性別」「国籍」「居住地」に制限がなかった。そのため、“男性”“外国籍者”“海外居住者”でも第3号被保険者になることができ、第3号被保険者のメリットを享受できた。
“海外居住者”を対象外とした新しい第3号被保険者制度
前述のような第3号被保険者のルールが、2020 年(令和2年)4月1日から一部、変更になりました。
具体的には、第3号被保険者になれる人の「居住地」に制限が設けられ、原則として“海外居住者”は第3号被保険者になれなくなりました。
つまり、日本国内に住んでいなければ第3号被保険者にはなれず、「保険料を払わずに年金をもらう」というメリットも享受できなくなったのが、2020 年(令和2年)4月1日からの原則的な取り扱いとなります。
これを『国内居住要件』といいます。
実はこの制度変更は、健康保険の被扶養者になれる家族の条件に『国内居住要件』が導入されたのに連動して、開始されるものです。
元来、健康保険の被扶養者になれる家族の条件には、国民年金の第3号被保険者と同様に「居住地」に制限がありませんでした。
そのため、海外に居住する家族も健康保険の被扶養者になることができ、「保険料を払わなくても、医療費を全額自己負担しなくて済む」などの取り扱いが行われていました。
しかしながら、外国籍者が日本の会社に勤務して健康保険に加入し、海外に居住する家族を健康保険の被扶養者にする場合には、制度が適切に利用されないこともありました。
例えば、「海外療養費」の悪用という問題です。
健康保険制度には海外で病気やケガをした場合に、海外の医療機関に払った医療費の一部を日本の健康保険制度から払い戻してもらえる「海外療養費」という仕組みがあります。
そのため、日本で働く外国籍者が母国にいる家族を日本の健康保険の扶養に入れている場合、その家族が現地の医療機関に払った費用の一部は、日本の健康保険制度から「海外療養費」として払い戻しを受けられることになります。
しかしながら、海外で行われた医療行為の実態を日本で正確に把握するのは困難なため、実際には海外の医療機関を利用していないにもかかわらず、“医療機関を受診したことを証明する書類”を偽造し、不正に「海外療養費」を受け取るなどの行為が行われることがありました。
このような問題に対応するため、2020 年(令和2年)4月1日からは健康保険の被扶養者の条件に『国内居住要件』が設けられ、原則として日本国内に居住する家族でなければ被扶養者になれなくなったものです。
具体的には、原則として日本に住民票のある家族であることが、健康保険の被扶養者になれる条件とされます。
健康保険の被扶養者になる家族が配偶者の場合には、20 歳以上 60 歳未満であれば年金制度上は国民年金の第3号被保険者に該当することになります。
従って、第3号被保険者にも同様の『国内居住要件』が設けられることになったものです。
ココがポイント! 新しい第3号被保険者制度の特徴
2020 年(令和2年)4月1日からは、原則として『国内居住要件』を満たす場合にのみ第3号被保険者になれることになった。これは、健康保険の被扶養者に『国内居住要件』が導入されるのに連動して設けられた仕組みである。
海外に居住していても、例外的に第3号被保険者になれる『海外特例要件』
ただし、第3号被保険者の『国内居住要件』には、海外に居住していても第3号被保険者になることが可能な“例外”が設けられています。
この例外を『海外特例要件』といいます。
配偶者が『海外特例要件』に該当するのは、次のようなケースです。
1.海外赴任の夫に同行して海外居住する妻
例えば、日本の会社に勤務する夫がアメリカ赴任を命じられ、妻も夫と一緒に渡米するという場合があります。
このようなケースでは、仮に妻が夫に扶養されているとしても、日本国内に居住しなくなるため、第3号被保険者に求められる『国内居住要件』を満たすことができません。
しかしながら、このような場合には『国内居住要件』の例外に当たるとして、渡米後も第3号被保険者になることが認められます。
2.海外赴任した男性と現地で結婚した女性
日本の会社に勤務する独身の男性社員がイギリス勤務を命じられて赴任し、赴任国のイギリスで結婚をして配偶者を持つなどのこともあります。
この場合、仮に結婚した女性が男性社員に扶養されているとしても、第3号被保険者に求められる『国内居住要件』を満たすことができません。
しかしながら、このような場合にも『国内居住要件』の例外に当たるとして、イギリスに居住しながら第3号被保険者になることが認められます。
第3号被保険者の『国内居住要件』は、あくまで外国籍者が海外に居住する家族を健康保険の被扶養者にした場合の“健康保険制度の不適切な利用”というリスクを回避する関連で設けられた制度です。
従って、海外展開を行う会社に勤めていれば常識的に発生し得る「海外赴任の夫に同行する妻」などのケースでは、『国内居住要件』の例外として第3号被保険者としての立場と権利を引き続き認めていくことになります。
ココがポイント!『国内居住要件』の例外となる『海外特例要件』
「海外赴任の夫に同行する妻」「海外赴任先で結婚した女性」などは、『国内居住要件』
の例外として第3号被保険者になることができる。これを『海外特例要件』という。
『海外特例要件』に該当したら「第3号被保険者関係届」で手続きを
『海外特例要件』に該当したことによって第3号被保険者になりたい場合には、手続きが必要です。
具体的には、「国民年金 第3号被保険者関係届」という手続き用紙に「海外特例要件の理由」や「海外特例要件に該当した日」を記載し、会社経由で日本年金機構に提出をすることになります。
ただし、会社の健康保険の種類により使用する手続き用紙の種類が異なるため、注意が必要です。
会社の健康保険には、2つの種類があります。
健康保険組合が運営する健康保険(通称:組合健保)と全国健康保険協会が運営する健康保険(通称:協会けんぽ)の2種類です。
例えば、妻が夫の健康保険の被扶養者になる場合、夫が組合健保の会社に勤務しているのであれば、妻の第3号被保険者の『海外特例要件』の手続きには様式コード 4300 の「国民年金 第3号被保険者関係届」を使用します。
様式コード4300 の「国民年金 第3号被保険者関係届」とは、次のような用紙です。
これに対して、夫が協会けんぽの会社に勤務している場合には、妻の第3号被保険者の『海外特例要件』の手続きには様式コード2202 の「国民年金 第3号被保険者関係届」を使用します。
この手続き用紙は、協会けんぽに対する健康保険の扶養関係手続きも同時にできる兼用の用紙になっています。
様式コード2202 の「国民年金 第3号被保険者関係届」とは、次のような用紙です。
『海外特例要件』に該当しなくなったために第3号被保険者でなくなる場合にも、上記の手続き用紙による手続きが必要となります。
ただし、2020 年(令和2年)3月 31 日の時点ですでに海外に居住している第3号被保険者が、同年4月1日から『海外特例要件』に該当して引き続き第3号被保険者になる場合の手続きについては、現状では明確にされていません。
日本年金機構のホームページには、「現在海外に住所を有している被扶養者について、施行日(令和2年4月1日)前に、施行日時点の状況を記載した届出を提出することができます」との記載はあります。
しかしながら、改正法の施行前から海外に居住して第3号被保険者である場合について、そもそも「法改正に伴い、手続きを行わなければならない“法律上の義務”があるのか?」については、この文章だけでは判断がつきません。
本稿の執筆に際して、複数の年金事務所に本件を問い合わせたところ、「第3号被保険者関係届による手続きが必要である」と回答した年金事務所がある一方で、「手続きは不要。何もしなくてよい」と回答する年金事務所もあるのが現状です。
この点については、日本年金機構側の対応が明確になるのを待つ必要がありそうです。
ここがポイント! 『海外特例要件』の手続き方法
第3号被保険者の『海外特例要件』に該当した場合や、『海外特例要件』に該当しなくな
った場合には、「国民年金 第3号被保険者関係届」を提出することで手続きが可能である。
今回のニュースまとめ
今回は、2020 年(令和2年)4月1日から始まった、国民年金の第3号被保険者の『国内居住要件』について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2020 年(令和2年)3月 31 日までは、第3号被保険者制度には「居住地」の制限がなかった。
- 2020 年(令和2年)4月1日からは、第3号被保険者制度に『国内居住要件』が設けられ、原則として海外居住者は第3号被保険者になれなくなった。
- ただし、「海外赴任の夫に同行する妻」などは『国内居住要件』の例外である『海外特例要件』に当てはまるとして、第3号被保険者になることが可能である。
- 第3号被保険者の『海外特例要件』に関する手続きは、「国民年金 第3号被保険者関係届」で行う。
「海外居住の配偶者は、原則として国民年金の第3号被保険者にしない。海外居住の家族は、原則として健康保険の被扶養者にしない」という制度に対しては、異論を唱える有識者がいるのも事実です。
“健康保険制度の不適切な利用”などは全く行わず、日本で真面目に働く外国籍者も数多く存在するからです。
少子高齢化が進むわが国では、今後、不足する労働力をいやが応でも外国籍者に頼らざるを得ないという事情を抱えています。
従って、多くの外国籍者に日本で安心して働いてもらう必要があり、そのためには「いかにして外国籍者が働きやすい環境を整えるか」が、極めて重要な課題となります。
このような事情を鑑みたとき、「海外居住の配偶者は、原則として国民年金の第3号被保険者にしない。海外居住の家族は、原則として健康保険の被扶養者にしない」という制度は、本当に好ましい制度なのか。
皆さんはどのように考えますか。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ウェブサイト:
健康保険法等の一部改正に伴う国内居住要件の追加(令和 2 年 4 月 1 日施行)
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https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202003/20200324.html
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師