どんなニュース?簡単に言うと
2018年11月2日に開催された社会保障審議会年金部会。そこで配布された資料からこれからの年金制度をどう変えようとするのかが見えてきました。3回にわたりこれからの年金制度改正の行方を占ってみます。第3回は在職老齢年金制度についてです。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
2018年11月2日に社会保障審議会で配布された資料を引用しながら連続3回の記事でまとめる最終回。
第1回は世界の年金制度の現状と日本の年金改正の方向性についてまとめ、
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徹底予想!202X年の年金制度はこうなる!(第1回/全3回)基本方針編|みんなのねんきん
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第2回は繰下げ制度の改正の方向性についてまとめました。
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最終回は、年金を受け取りながら社会保険に入ると年金が減らされる在職老齢年金の仕組みを取り上げます。
高齢者雇用が進めば、多くの高齢者が社会保険に入ることになります。
すると、この在職老齢年金の仕組みが立ちはだかります。
誰だって自分が掛けてきた年金を減らされたくありませんから、”だったら働かない”となるかもしれません。
だから、高齢者雇用を推進するなら、在職老齢年金の見直しも避けて通れません。
廃止すべきという意見もある位ですから、なんらかの改正がされる可能性があります。
最終回も資料を引用しながら、在職老齢年金の改正の方向性を考えてみます。
ざっくりと在職老齢年金の仕組み
年金を受け取りながら社会保険に入ると年金が減らされる。
在職老齢年金とはざっくり言うとこんな仕組みです。
年金はそもそも職業生活をリタイアした人が老後の生活保障のために受け取るもの。
ですので、”リタイアせずに収入があるなら年金はカットします”というもの。
ただ、年金行政側は社会保険に入ってもらわないとその収入を把握できません。
(会社は社会保険に入った人の月額給与とボーナスを年金機構に届出します)
だから、社会保険に入る働き方をする高齢者だけの話なんです。
ただ、社会保険に入る働き方をしたとしても全ての人が減額されるわけではありません。
減額されるか否かの基準があります。
基準は60歳台前半と後半で違うのですが、要は高給取りなら減額されます。
ちなみに、在職老齢年金自体を業界用語で”在老”(ざいろう)といいます。
また、64歳までの在職老齢年金を業界用語で”低在老”、65歳からの在職老齢年金を同じく”高在老”と言います。
以下、この業界用語を使っていきます。
また、より詳しい在老の仕組みはこのブログでも何度か取り上げたことがあります。
以下の記事をご覧ください(この記事が一番わかりやすいかなと)。
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発表!2017年度年金の改定はこうなる!在職中の年金は停止額アップ編|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 厚生労働省より2017年度(平成29年度)の年金額の改定について発表がありました。今年度に比べて0.1%減額とのこと。他には国民年金の保険料額や在職老齢年金の数値も発表さ ...
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在職老齢年金の影響を受けている人はどれくらいいる?
では、この在老。
一体どのくらいの人たちが年金減額の影響を受けているのでしょう。
資料を引用しながら在老の現状をご紹介します。
低在老の現状
平成28年度末において60歳台前半の老齢年金受給者は約452万人。
そのうち、社会保険に入って低在老として受給している人は約154万人。
低在老受給者のうち、いくらかでも減額されている人は約88万人。
低在老受給者全体の57%が減額の対象となっています。
停止額の総額は約7,000億円とのこと。
グラフは給料と年金月額の合計が26万円を超え、28万円未満の人が最も多いということを示しています。
この28万円が低在老における減額になるかならないかのラインです。
このラインを意識して、ギリギリ減額にならないような条件で就労する人が多い。
資料では、在職老齢年金制度が高齢者の就業を抑制する効果があるのでは?と学者の意見を紹介しています。
高在老の現状
一方の高在老。
平成28年度末において65歳からの老齢年金受給者は約2,537万人。
そのうち高在老として受給している人は204万人。
高在老受給者のうち、いくらかでも減額されている人は36万人。
高在老受給者全体の18%が減額の対象となっています。
低在老に比べると減額対象者は大幅に少なくなります。
停止額の総額は4,000億円とのこと。
グラフは給料と年金月額の合計が70万円以上の人が最も多く、次いで22万円を超え24万円未満の方が多いこと示しています。
70万円以上というのは役員クラスの人たちだと思いますが、そういう人を除いた一般の人たちが減額ライン手前に固まっているわけではありません。
高在老の減額ラインは46万円です(平成28年度は47万円)。
資料では、高在老の停止ラインと高齢者就労に明確な関係はないと説明がされています。
政府は在職老齢年金制度についてどう考えている?
資料には高齢社会対策大綱の抜粋が載っています。
それによると、こんな方向性が示されています。
在職老齢年金については、高齢期における多様な就業と引退への移行に弾力的に対応する観点から、年金財政に与える影響も考慮しつつ、制度の在り方について検討を進める。
(出典:厚労省資料35ページ)
また、2015年の社会保障審議会年金部会では既にこんな議論の整理がされています。
65歳までの在職老齢年金については、支給開始年齢の引上げに伴い自然と対象者が減少していくということにもなるので、特段の見直しを行う必要はないものと考えられる。
(出典:厚労省資料31ページ)
厚労省の資料において、これら過去の資料の引用の仕方をみると、
- 低在老については、放っておいても対象者がいなくなるから現状維持でいいのでは
- 高在老を議論の対象として制度のあり方について検討したい
という方向のように見えます。
審議会の議論を見てみると、まさに賛否両論でたしかに「検討」しているものの、どう決着するかは見えてきません。
議論を踏まえて厚労省がどのような改正案を作るか、引き続き様子見状態という感じです。
今回のニュースまとめ
今回は社会保障審議会年金部会の資料から在職老齢年金の現状と改正の方向性を分析してみました。
ポイントは次のとおり。
- 低在老受給者のうち停止額が生じない賃金と年金の合計を28万円未満に抑える人多数
- 高在老受給者には低在老受給者のような就労抑制の要素は見られない
- 厚労省は現状維持のスタンスか
在老の改正はどうなりますかねぇ。
個人的には高齢者雇用を推進するという大方針から考えれば、在老制度がその妨げになっているなら廃止すべきだと思います。
ただ、低在老に関しては60歳台前半で年金を貰う人がいなくなれば自然消滅しますから手をつけなくても時間が解決します。
高在老はデータを見る限り、就業抑制とは無関係とのことなので高齢者雇用推進の妨げにならないでしょう。
とすれば・・・
「引き続き検討する」
で終わりってことになるのではないかと・・。ましてや賛否両論で議論の行方は見えませんし。
前回解説した繰下げ制度を使いやすくするという点については、何らかの改正はあると思いますが、私は在老はこのままなんじゃないか。
そんな予想をしています。
また何か新しい動きがあればブログでご紹介していきます。
シモムー
みんなのねんきん主任講師