年金試験受験生のための施行順!これからの年金改正はこれだ!私的年金編 前編|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

どんなニュース?簡単に言うと

2020年6月。国会で可決された年金の改正法が交付されました。そこで、今回は年金試験受験生に向け、改正事項のうち私的年金について、改正の全体像と 2020年度に施行される内容を「施行順」にご紹介します。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

法改正の目的は「長生きしてもキチンと年金をもらえるようにする」こと

初めに、法改正の趣旨を確認しておきましょう。

今回の法改正の趣旨は、厚生労働省発表の資料によると「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る」ことにあるとされています。

これは一体、どういう意味なのでしょうか。

初めに、趣旨文の後半の記述を見てみましょう。

後半部分は、「~長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る」とあります。

この記述はごく平易な言い方をすれば、「長生きしてもキチンと年金をもらえるようにする」ということを意味しています。

これが、今回の“法改正の目的”に当たります。

それでは、この「長生きしてもキチンと年金をもらえるようにする」という目的は、どのような手段で実現されるのでしょうか。

その答えが、趣旨文の前半の記述に当たります。

前半部分は、「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、〜」とあります。

この記述を、先ほどの「長生きしてもキチンと年金をもらえるようにする」という目的を踏まえて少し書き直すと、次のようになります。

「『より多くの人がより長く働く』という状況を上手く利用して〜」。

つまり、今回の法改正の趣旨は、「『より多くの人がより長く働く』という状況を上手く利用して、長生きしてもキチンと年金をもらえるようにしましょう」ということなのだと思います。

今回の法改正は、原則としてこの趣旨に沿う形で、公的年金・私的年金の両面からさまざまな施策が講じられているものです。

確定拠出年金が中心の私的年金改正

それでは、私的年金の改正事項について、初めに全体像を確認しましょう。

主要な改正事項を施行時期の順で整理すると、次のとおりです。

【みんなのねんきん】私的年金関係の主要な2020年改正事項

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表の左上に「対象制度」という項目があり、この項目は「DB」と「DC」の2つに分かれてます。

「DB」は確定給付企業年金を、「DC」は確定拠出年金を表していますが、「DC」の列に丸印がたくさんついているのが分かると思います。

つまり、今回の私的年金に関する改正は、確定拠出年金関係の改正事項が中心であるといえます。

次に、表の右上の「施行時期」を見てみましょう。

今回の私的年金に関する法改正は、「2020(令和2)年度施行」の改正事項と「2022(令和4)年度施行」の改正事項の2つに分かれることが確認できます。

最後に表の中ほどにある「改正事項」の項目を見ると、太字で記載されている改正事項が5つあることが分かると思います。

「長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る」という法改正の目的に照らしたとき、特に重要であろう改正事項を太字で表示しています。

施行順これからの年金制度はこうなる!

それでは、施行時期の順に内容を見ていきましょう。

今回は、2020(令和2)年度施行の改正事項を確認することにします。

2020(令和2)年度施行の改正事項は、次の5点でした。

【みんなのねんきん】私的年金関係の主要な2020年改正事項

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2020(令和2)年6月5日施行

確定給付企業年金の「支給開始時期」の拡大

最長で“70 歳”まで設定可能になった

今回の私的年金に関する改正の中で、数少ない確定給付企業年金に関する改正事項がこの「支給開始時期」の拡大です。

元来、確定給付企業年金の老齢給付金の支給開始時期は、原則として“60 歳から 65 歳”の間で設定できることになっていました。

これは、次の点などを踏まえた仕組みといえます。

  • わが国の企業における標準的な定年年齢が 60 歳であること。
  • 高年齢者雇用安定法により、企業には「従業員が 65 歳まで働ける機会」を設ける義務があること。

例えば、60 歳定年制の企業では、確定給付企業年金の老齢給付金の支給開始時期を 60 歳に設定するケースがよく見られます。

これは、

「“60歳まで”は『給料』で生活する世代、“60歳から”は『年金』で生活する世代」

というライフスタイルを想定して、制度設計が行われていることを意味します。

また、65歳までの継続雇用制度を設けている企業が、支給開始時期を 65歳と設定しているケースでは、

「“65歳まで”は『給料』で生活する世代、“65歳から”は『年金』で生活する世代」

との想定により、制度が設計されていることになります。

ところが、今回の法改正によって確定給付企業年金の老齢給付金は、支給開始時期の上限年齢が5歳引き上げられ、“60歳から 70歳”の間で支給を開始することが可能になりました。

つまり、今までは原則として認められていなかった、確定給付企業年金を「67歳から支給する」「70歳から支給する」などの仕組みを採用できるようになったわけです。

これは、2020(令和2)年3月 31 日に成立した改正高年齢者雇用安定法に関連する仕組みといえます。

改正高年齢者雇用安定法は、「従業員が 70 歳まで働ける機会」を設けることを企業の努力義務とする法律で、2021(令和3)年4月に施行されます。

そのため、今後は「65歳から 70歳までの従業員」を雇用する企業の増加が見込まれています。

この点を企業年金との関係で考えると、今後は例えば、

「“70歳まで”は『給料』で生活する世代、“70歳から”は『年金』で生活する世代」

などのライフスタイルを想定した制度設計も必要となります。

このような事情から、確定給付企業年金の老齢給付金の支給開始時期が、原則として“60歳から 70歳”の間で設定可能になったものです。

【みんなのねんきん】2020年改正 DBの支給開始時期

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確定拠出年金の運営管理機関の「登録手続き」の見直し

登録事項から“役員の住所”が削除された

確定拠出年金の制度には、「運営管理機関」という組織が設けられています。

「運営管理機関」とは確定拠出年金の運営管理業務を行う組織で、銀行や証券会社、生命保険会社などがその役割を担うのが一般的です。

実は、「運営管理機関」になるためには、厚生労働大臣等の登録を受ける必要があります。

この登録手続きの際には、企業名、所在地、資本金額、役員の氏名などを申請書に記載して登録するのですが、従来は“役員の住所”についても登録することが求められていました。

しかしながら、改正法施行後は登録事項から“役員の住所”が削除されたため、住所を登録する必要がなくなったものです。

これは、金融機関を監督する他の業法とルールを合わせるために行われた改正のようです。

【みんなのねんきん】2020年改正 DCの役員の住所の登録が不要になった

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iDeCo の継続投資教育

企業年金連合会への委託が可能になった

確定拠出年金では、加入者に対して継続投資教育を行うことが努力義務とされています。

確定拠出年金は必ずしも元本保証の制度ではなく、商品選択のリスクは加入者が負う仕組みのため、一定の投資教育を継続的に行うことが必要とされているものです。

企業型DCの場合には、継続投資教育は企業年金連合会または銀行などの運営管理機関に委託をして行うケースが多くなります。

iDeCo を実施している国民年金基金連合会も、企業型DCと同様に銀行などの運営管理機関に委託して継続投資教育を行うことが可能です。

しかしながら、国民年金基金連合会の場合には、企業型DCと異なり継続投資教育を企業年金連合会に委託することができませんでした。

この点について改正法施行後は、国民年金基金連合会が企業年金連合会に委託して継続投資教育を実施することが可能となっています。

ちなみに企業年金連合会とは、確定給付企業年金などを短期間で辞めた人に対し、年金の支払いなどを行っている団体になります。

【みんなのねんきん】2020年改正 iDeCoの継続投資教育

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2020(令和2)年 10 月1日施行予定

確定拠出年金の中小企業向け制度の「対象範囲」の拡大

簡易型DC、iDeCo プラスが従業員規模“300人以下”の企業まで利用可能になる

現在の確定拠出年金の制度には、通常の企業年金制度を導入することが困難な中小企業のために用意された制度が2つあります。

一つは「簡易企業型年金制度(簡易型DC)」、もう一つは「中小事業主掛金納付制度(iDeCo プラス)」と呼ばれる制度で、どちらも 2018(平成 30)年5月から始まった制度です。

「簡易型DC」は中小企業でも導入しやすいよう、通常の企業型DCよりも規約の承認に必要な書類や制度設計が簡素化された制度です。

また、「iDeCo プラス」とは、企業年金制度を導入していない中小企業が、iDeCo に加入している従業員の掛金に事業主の掛金を追加して払える仕組みになります。

「簡易型DC」や「iDeCo プラス」は中小企業を対象とした制度なので、通常の企業型DCと異なり、従業員数の多い企業は利用ができません。

現行の仕組みでは、従業員規模が 100人以下の企業であることが利用する上での条件とされています。

ところが、この点が改正され、改正法施行後はいずれの制度も従業員規模が 300人以下の企業で導入が可能となります。

つまり、従業員規模が 100人台の企業でも 200人台の企業でも、「簡易型DC」や「iDeCo プラス」が利用できるようになるということです。

2016(平成 28)年現在、従業員数が 100人以上 300人未満の事業所は全国に約5万社あるといわれます(日本の統計 2020/総務省統計局)。

これらのうち条件に当てはまる企業があれば、「簡易型DC」または「iDeCo プラス」の制度を利用できるようになるものです。

【みんなのねんきん】2020年改正 DCの中小企業向け制度の対象範囲

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企業型確定拠出年金の規約変更手続きの見直し

軽微な規約変更の一部が届け出不要になる

元来、企業型DCで規約を変更する場合には、変更内容が「軽微なもの」や「特に軽微なもの」であっても、厚生労働大臣に届け出ることが必要とされていました。

しかしながらこの点が改正され、改正法施行後は「軽微な規約変更」「特に軽微な規約変更」のうちの一部については、届け出が不要とされます。

例えば、企業型DCの制度では、掛金の運用や年金の支払いを「資産管理機関」という組織に任せることになっています。

通常、企業型DCの「資産管理機関」は、信託銀行や生命保険会社がその役割を担います。

この「資産管理機関」の名称や所在地が変更になった場合、従前は厚生労働大臣への届け出が必要でしたが、改正法の施行日以降は届け出る必要がなくなるものです。

「軽微な規約変更の一部は届け出不要」というルールは、現行の確定給付企業年金と同じになります。

今回のニュースまとめ

今回は、2020年の私的年金の改正について、全体像と 2020(令和2)年度施行の内容を施行順に見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  •  2020(令和2)年6月5日施行
    • 確定給付企業年金の支給開始時期が最長で 70歳まで設定可能に
    • 確定拠出年金の運営管理機関の登録事項から“役員の住所”を削除
    • iDeCo の継続投資教育が企業年金連合会へ委託可能に
  • 2020(令和2)年 10 月1日施行予定
    • 簡易型DC、iDeCo プラスを利用できる対象範囲を、従業員規模 300人以下の企業にまで拡大
    • 企業型確定拠出年金の軽微な規約変更の一部は届け出不要に

今回の法改正の趣旨は、「『より多くの人がより長く働く』という状況を上手く利用して、長生きしてもキチンと年金をもらえるようにしましょう」ということでした。

この点を踏まえると、私的年金の 2020(令和2)年度施行の改正事項の中で特にキーになるのは、

・確定給付企業年金の支給開始時期が最長で 70歳まで設定可能になったこと。
・簡易型DC、iDeCo プラスを利用できる対象範囲が、従業員規模 300人以下の企業にまで拡大されたこと。

の2点といえそうです。

次回は 2022(令和4)年度施行の改正点について整理をしますので、どうぞお楽しみに。

出典・参考にした情報源

厚生労働省ウェブサイト:

2020 年の主な法改正

2020年の制度改正|厚生労働省
2020年の制度改正|厚生労働省

続きを見る

確定給付企業年金制度の主な改正(令和2年6月5日施行、令和4年5月1日施行)

確定給付企業年金制度の主な改正(令和2年6月5日施行、令和4年5月1日施行)
確定給付企業年金制度の主な改正(令和2年6月5日施行、令和4年5月1日施行)

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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。