どんなニュース?簡単に言うと
公的年金は日本年金機構が運営しています。
それにもかかわらず、国民年金に加入していると「指定全額免除申請事務取扱者」を名乗る民間企業から、連絡が来ることがあります。
果たして、「指定全額免除申請事務取扱者」とは何者なのか。
今回はこの点を見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
未納保険料の支払いを求める民間企業
ホームズのような疑問を持つ人は少なくありません。
私のところにも、同様のご相談が持ちかけられることがあります。
例えば、「〇〇社っていう会社から年金の保険料を督促する電話がかかってきたんですが、詐欺か何かでしょうか」というご質問をいただくことは、決して珍しくありません。
実は、民間企業から国民年金保険料の支払いに関する連絡が来た場合に、相手が信用できるかどうかの判断には悩ましいところがあります。
「詐欺まがいのケース」と「そうではないケース」との両方が考えられるからです。
日本年金機構では、国民年金の保険料を期限までに支払っていない人に対して支払いを求める業務の一部を、民間企業に委託しています。
そのため、国民年金に加入している人に対して民間企業から電話や手紙で連絡があり、保険料の支払いを求められるというのは、よくある話です。
このような業務は「納付督励(とくれい)業務」などと呼ばれています。
現在、この業務を日本年金機構から正式に請け負って実施している企業は、以下のとおりです。
- アイヴィジット・NTT印刷共同企業体
- ㈱バックスグループ
アイヴィジットとバックスグループの両社は、国民年金保険料の未納者に対して保険料の支払いを求める業務を、10年以上前から行っています。
なお、上記2社は担当する都道府県が日本年金機構から指定されています。
そのため、住んでいる地域によって連絡が来る企業は異なり、例えば東京都内に住んでいる人に対しては必ずバックスグループから連絡が行われる決まりになっています。
それぞれの企業の担当エリアは、下図のとおりです。
かりに上記2社以外の民間企業から連絡が入った場合には、日本年金機構から正式な委託を受けて行われている業務ではないということになります。
ここがポイント! 日本年金機構の納付督励業務
日本年金機構では国民年金保険料の未納者に支払いを促す業務の一部を、アイヴィジット・NTT印刷共同企業体と㈱バックスグループに委託している。
保険料の免除手続きも民間企業に
日本年金機構が上記企業に委託をしているのは、支払われていない国民年金保険料を督促する業務だけではありません。
国民年金保険料の免除・猶予手続きを代行する業務も委託しています。
通常、国民年金の保険料を免除・猶予してもらうためには、市役所・区役所または年金事務所に対して本人が直接、手続きをしなければなりません。
しかしながら、厚生労働大臣から指定を受けた特定の民間企業に限り、免除や猶予の申請手続きを本人に代わって行うことが認められています。
このような仕組みを免除委託制度といいます。
この制度がスタートしたのは2015(平成27)年7月で、手続きを代行する企業は「指定全額免除申請事務取扱者」と呼ばれます。
つまり、前述のアイヴィジットとバックスグループの両社は、国民年金保険料の免除・猶予手続きを代行することが厚生労働大臣によって認められた「指定全額免除申請事務取扱者」ということです。
従来の免除・猶予手続きと免除委託制度とを比較すると、下図のとおりです。
免除委託制度は、国民年金法の第109条の2第1項に次のように定められています。
国民年金法 第109条の2第1項
~(全額免除申請)に関する事務を適正かつ確実に実施することができると認められる者であって、厚生労働大臣が当該者からの申請に基づき指定するもの ~ は、~ 委託を受けて、全額免除要件該当被保険者等に係る全額免除申請をすることができる。
このように、「指定全額免除申請事務取扱者」は法律にキチンとした根拠を持つ仕組みです。
ただし、「指定全額免除申請事務取扱者」が申請を代行できるのは、申請免除の全額免除と納付猶予制度に限定されています。
申請免除の一部免除(4分の3免除、半額免除、4分の1免除)や学生納付特例制度の手続きは、代行が認められていません。
「指定全額免除申請事務取扱者」が免除・猶予手続きを代行する場合、免除などの申請日は「日本年金機構が申請書を受け付けた日」ではなく「指定全額免除申請事務取扱者である民間企業が手続きを依頼された日」とされます。
「手続きを依頼された日」は、免除・猶予申請書に明確に表記されています。
そのため、国民年金の加入者から見れば申請書を直接、市役所などの窓口に提出したのと変わらず、手続きが遅れることはないようです。
ここがポイント! 「指定全額免除申請事務取扱者」の役割
国民年金保険料の申請免除の全額免除・納付猶予手続きを代行することが認められた企業を「指定全額免除申請事務取扱者」という。
年金機構から業務を請け負っている会社の見分け方
前述のとおり、現在、日本年金機構から正式に委託され、国民年金保険料を支払っていない人に対する業務を行っている会社は、ごく限られています。
そのため、社名を確認すれば判断はできると思いますが、他にも日本年金機構から正式に業務を請け負った会社が「必ず行うこと」「絶対に行わないこと」が、以下のとおり決められています。
- 自宅は訪問しない。
- 社名・氏名を名乗る。
- 現金は受け取らない。
- 手数料は要求しない。
- ATMの操作は求めない。
- 通帳・キャッシュカード・基礎年金番号通知書・年金手帳・年金証書などを預からない。
従って、上記ルールに反する行為が確認できた場合には、詐欺行為の可能性が高いといえるでしょう。
なお、特に注意をしたいのが、1番目の「自宅は訪問しない」というルールです。
ごく最近まで、日本年金機構からの依頼により「民間企業の社員が保険料未納者の自宅を直接訪問する」という業務が存在したからです。
しかしながら、2023(令和5)年5月以降、この業務は廃止されています。
従って、現在は民間企業の社員が、未納者の自宅を直接訪問することはないようです。
以上のように、現在では「指定全額免除申請事務取扱者」である民間企業は、国民年金保険料の未納者の自宅を直接訪問することができません。
そのため、「保険料未納者の自宅に届いている申請書を自宅訪問時に預かり、申請手続きを代行する」という行為は、原則としてできなくなっています。
ここがポイント! 民間企業社員による訪問業務の廃止
日本年金機構から正式に業務を請け負っている民間企業の社員は、2023年5月以降は保険料未納者の自宅訪問を行わないことになっている。
今回のニュースまとめ
今回は国民年金の「指定全額免除申請事務取扱者」について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 日本年金機構では国民年金保険料の納付督励業務の一部を、アイヴィジット・NTT印刷共同企業体と㈱バックスグループに委託している。
- 国民年金保険料の申請免除の全額免除・納付猶予手続きを代行することが認められた企業を「指定全額免除申請事務取扱者」という。
- 2023年5月以降、日本年金機構から業務を請け負った民間企業の社員が保険料未納者の自宅訪問を行う業務は、廃止されている。
国民年金保険料の免除や猶予は、7月から翌年6月までの12カ月間を単位として実施する制度です。
そのため、もうすぐ2024(令和6)年7月から2025(令和7)年6月までを対象とした免除・猶予の申請受け付けが、全国の自治体で開始されるでしょう。
国民年金保険料を支払っていない人の中には、「免除や猶予の申請をすれば認められる所得状態の人」が少なからず存在しています。
それにもかかわらず手続きをしないで未納のままにすると、年金上の不利益を被りやすくなってしまいます。
そのようなことがないよう、免除・猶予の要件に該当する皆さんは制度を上手く利用していただきたいと思います。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ホームページ:
-
国民年金保険料のご案内は、民間事業者に委託しています|日本年金機構
www.nenkin.go.jp
-
国民年金保険料の全額免除申請等の事務手続きに関する特例
www.nenkin.go.jp
-
日本年金機構の職員や委託事業者などと称して、現金を詐取する「不審な電話や訪問」にご注意ください
www.nenkin.go.jp
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師