どんなニュース?簡単に言うと
2022(令和4)年4月は在職老齢年金制度の改正など、主に「年金の受け取りルール」の制度改正が行われました。
これに続き同年 10 月からは、「年金の加入ルール」を中心に制度改正が予定されています。
そこで今回は、2022(令和4)年 10 月からの公的年金の改正について整理しましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
2022 年 10 月から始まる7つの改正
2022(令和4)年 10 月からは、「年金の加入ルール」や「保険料の支払いルール」などについて、次のような制度改正が予定されています。
それでは、順を追って各制度改正の概要を見ていきましょう。
1 《適用事業所の範囲の見直し》従業員数5人以上の「士業」の個人事務所を、厚生年金の強制適用事業所とする。
2022(令和4)年 10 月から始まる「年金の加入ルール」の最初の改正点は、個人経営の職場について強制的に厚生年金の対象と扱われる範囲が広がることです。
現状では、個人経営の職場が本人の意思にかかわらず厚生年金の対象とされるのは、
- 従業員が常時5人以上働いている。
- 特定の 16 業種を営んでいる。
という2つの条件を満たした場合です。
ところが、2022(令和4)年 10 月からは「特定の 16 業種」に新しい業種が1つ加わり、「特定の 17 業種」に変更されます。
新たに加わるのは弁護士や税理士などのいわゆる士業を営む個人事務所で、以下の士業の事務所が対象となります。
弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士、弁理士
従って、上記の士業を営む個人経営の事務所が従業員を常時5人以上雇用していると、2022(令和4)年 10 月からは好むと好まざるとにかかわらず、厚生年金の対象の職場とされるわけです。
具体例で考えてみましょう。
例えば、7人の従業員を抱える個人経営の弁護士事務所の場合、現在は特定の 16 業種に該当しないため、強制的に厚生年金の対象の職場と取り扱われることがありません。
そのため、7人の従業員は 20 歳以上 60 歳未満であれば自分で国民年金に加入し、毎月、保険料を納めることになります。
しかしながら、2022(令和4)年 10 月からは、この弁護士事務所は厚生年金の対象の職場として取り扱われるため、従業員は厚生年金に加入することが原則となります。
厚生年金に加入すると、保険料は勤務する弁護士事務所が半額を負担するので、従業員は10 月以降、厚生年金の保険料を半分だけ納めればよいことになります。
ただし、弁護士事務所を経営する弁護士本人は、厚生年金に加入ができません。
そのため、2022(令和4)年 9 月までと同様に 10 月以降も、年齢の条件を満たせば弁護士は国民年金に加入を継続することになります。
なお、厚生年金と健康保険は加入ルールがほぼ同じなので、2022(令和4)年 10 月以降、従業員は公的な医療保険も自治体などが運営する国民健康保険から健康保険に変わるのが原則です。
健康保険の保険料も勤務する弁護士事務所が半額を負担するため、従業員は 10 月以降の医療保険の保険料も半分だけ納めればよくなります。
ここがポイント! 適用事業所の範囲の見直し
従業員数5人以上の「士業」の個人事務所は厚生年金の強制適用事業所となり、従業員は原則として厚生年金に加入する。
2 《短時間労働者の適用拡大①》短時間労働者の厚生年金加入の条件から、「1年以上勤務見込み」を削除する。
「年金の加入ルール」の2番目の改正点は、パートやアルバイトが短時間労働者として厚生年金に加入する条件が一部変更されることです。
パート・アルバイトであっても、勤務先と契約をした「1週間の働く時間数」と「1カ月の働く日数」の両方がフルタイムで働く人の4分の3以上の場合には、原則として厚生年金に加入をしなければなりません。
このルールを4分の3基準といいます。
また、4分の3基準に該当しなくても、従業員数が常時 500 人を超える企業でパート勤めをする場合には、次の条件を全て満たすと短時間労働者として厚生年金に加入することが義務付けられます。
- 週の所定労働時間が 20 時間以上である。
- 雇用期間が1年以上見込まれる。
- 賃金の月額が 8.8 万円以上である。
- 学生ではない。
ところが、2022(令和4)年 10 月からは、上記条件のうち、「2.雇用期間が1年以上見込まれる」が削除されます。
つまり、フルタイムで働く人や 4 分の 3 基準を満たして働く人と同様に、雇用期間が2カ月を超えるのでれば他の3つの要件を満たすことにより、短時間労働者として厚生年金への加入が義務付けられることになります。
例えば、従業員数が常時 500 人を超える企業で3カ月契約や6カ月契約で勤務をするパート・アルバイトの場合、「週の所定労働時間が 20 時間以上である」「賃金の月額が 8.8万円以上である」「学生ではない」という要件を全て満たしても、現状では厚生年金の加入対象になりません。
そのため、年齢の条件を満たしているのであれば、自身で国民年金に加入をして保険料を納めることになります。
結婚をしている人の中には、配偶者の扶養扱い(国民年金の第3号被保険者)になるケースもあるでしょう。
しかしながら、2022(令和4)年 10 月からは厚生年金に加入するため、それまで自分で国民年金保険料を納めていた人であれば、厚生年金に切り替わることで保険料が半額負担に変わります。
ただし、同年9月まで配偶者の扶養扱い(国民年金の第3号被保険者)で年金保険料を納めていなかった人の場合には、新たに厚生年金保険料の負担が発生することになります。
ここがポイント! 短時間労働者の適用拡大①
短時間労働者の厚生年金加入の条件から「1年以上勤務見込み」が削除されるため、3カ月契約や6カ月契約でも他の要件を満たすと厚生年金に加入する。
3 《短時間労働者の適用拡大②》「従業員数 100 人超の企業」で働く一定の短時間労働者に、厚生年金の加入を義務付ける。
「年金の加入ルール」の3番目の改正点は、パート・アルバイトを短時間労働者という立場で厚生年金に加入させなければならない企業の規模が変更されることです。
現在は、前述のとおり従業員数が常時 500 人を超える企業でパート勤めなどをする人が一定の基準を満たすと、短時間労働者として厚生年金への加入が義務付けられています。
この制度が適用されると企業側の社会保険料負担が重くなるため、企業規模の小さい組織は制度の対象外としているわけです。
ところが、2022(令和4)年 10 月からは、この制度の導入が義務付けられる企業規模のハードルが下げられ、従業員数が常時 100 人を超える企業で義務化されます。
つまり、従業員数 101 人以上 500 人以下の企業で働くパート・アルバイトも、要件を満たせば新たに短時間労働者として厚生年金に加入しなければならないわけです。
ただし、従業員数が 100 人を超えるかどうかは現状の厚生年金の加入者数で判断され、今回の制度改正で新たに厚生年金に加入する可能性がある短時間労働者の人数は、計算に含めません。
従って、「現在、厚生年金に加入している人数は 80 人だが、制度が改正されると厚生年金に加入するパートが 30 人いるので、足すと 100 人を超える」といった場合には、従業員数が常時 100 人を超える企業と判断されないため、今回の制度改正の対象にはなりません。
また、従業員数は職場単位ではなく、会社単位(正確には法人番号単位)で判断されます。
そのため、仮に自身が働いている職場の従業員数が少なくても、会社全体では厚生年金に加入している従業員数が 100 人を超えるのであれば、今回の制度改正の対象となるので注意が必要です。
なお、パート・アルバイトを短時間労働者として厚生年金に加入させなければならない企業の規模は、2年後の 2024(令和6)年 10 月からは従業員数が常時 50 人を超える企業に変更することがすでに決定しています。
ここがポイント! 短時間労働者の適用拡大②
従業員数 101 人以上 500 人以下の企業で働く一定の短時間労働者が、新たに厚生年金の加入を義務付けられる。
4 《被保険者の適用要件の見直し》「2カ月以内の雇用契約」で働く人は、契約更新の可能性があれば採用直後から厚生年金に加入する。
「年金の加入ルール」の4番目の改正点は、「2カ月以内の雇用契約」で勤務する人の取り扱いが一部変わることです。
厚生年金には、「臨時雇いの人は加入させない」という原則ルールがあります。
そのため、現状では、新規に採用した従業員の雇用契約が2カ月以内の場合には、厚生年金の加入対象にならないのが原則です。
このようなケースでは、当初の契約が満了して契約を更新した場合に、更新の時点から厚生年金への加入が義務化されます。
ところが、2022(令和4)年 10 月からは、新規に採用した従業員の雇用契約が2カ月以内であっても、その契約期間を超えて雇うことが見込まれる場合には、採用直後から厚生年金に加入することが義務化されます。
契約期間を超えて雇うことが見込まれる場合とは、雇用契約書に「契約が更新される」とか「契約が更新される場合がある」などの記載があるケースや、その企業で同様の雇用契約に基づく採用者の契約を更新したことがあるケースが当てはまります。
ただし、企業と新規採用者との間に「契約を更新しない」という明確な合意がある場合には、厚生年金に加入することはありません。
この制度改正の影響を最も受けるのは、非正規従業員の採用を頻繁に行う企業かもしれません。
非正規従業員を多く採用する企業では、「採用当初は2カ月以内の雇用契約を締結して厚生年金には加入させず、契約更新の時点から加入させる」という手法を採るケースが少なくないからです。
厚生年金の保険料率は他の社会保険制度よりも高いため、企業側の保険料負担は決して小さくありません。
そのため、「採用当初は2カ月以内の雇用契約を締結し、厚生年金には加入させない」という手法により、保険料負担の削減を行う企業が散見されています。
しかしながら、2022(令和4)年 10 月からは、このような手法が利用できなくなります。
ここがポイント! 被保険者の適用要件の見直し
「2カ月以内の雇用契約」で働く人は、雇用契約書に「契約が更新される場合がある」などの記載があると採用直後から厚生年金に加入する。
5 《育児休業中の保険料免除の見直し①》月々の保険料は、「同月中に 14 日以上の育児休業を取得した場合」も免除対象とする。
次は、「保険料の支払いルール」の改正です。
2022(令和4)年 10 月から施行される改正法では、育児休業中の保険料免除について2つの制度改正が行われます。
1番目は、月々の保険料は「同月中に 14 日以上の育児休業を取得した場合」を新たに免除対象とするというルールです。
育児休業を取得している場合、現状のルールでは月の末日に休業を取得していなければ、保険料は免除対象になりません。
そのため、妻が出産をした男性従業員が1カ月未満の育児休業を取得する場合、育児休業をいつから取り始めるのかにより、保険料が免除されるケースと免除されないケースが発生してしまいます。
例えば、20 日間の育児休業を取得する場合を考えてみましょう。
もしも、10 月 20 日から 20 日間の育児休業を取得するのであれば、月末である 10 月 31日は休業を取得しているので、10 月分の保険料は免除されます。
これに対し、10 月5日から 20 日間の育児休業を取得する場合には、10 月 31 日は休業をしていないため、10 月分の保険料は免除対象となりません。
結果として、同じ日数の育児休業を取得したのにもかかわらず、保険料が免除されるケースと免除されないケースが発生し、公平性を欠くことになってしまいます。
そのため、2022(令和4)年 10 月からは、月末に育児休業を取得していなくても、休業日数が 14 日以上であればその月の保険料を免除することになりました。
この制度改正により、「1カ月未満の育児休業について、保険料が免除されるケースと免除されないケースが発生する」という問題が、一定程度、解消されることになります。
ここがポイント! 育児休業中の保険料免除の見直し①
月末に育児休業を取得しなくても、同月中に取得した休業が 14 日以上であれば月々の保険料は免除される。
6 《育児休業中の保険料免除の見直し②》賞与に関する保険料は、「育児休業の期間が1カ月を超える場合」のみを免除対象とする。
育児休業中の保険料免除に関する2番目の改正点は、賞与に関する保険料は「育児休業の期間が1カ月を超える場合」にのみ免除対象とするというものです。
前述のとおり、育児休業中の保険料は、現状では月の末日に休業を取得していると免除対象となります。
月末に育児休業を取得してさえいれば、休業日数は多くても少なくても保険料は免除されることになります。
そのため、現行の仕組みでは、例えば月の末日と翌月1日のわずか2日間だけ育児休業を取得した場合でも、1カ月分の保険料が免除されてしまいます。
実は、このルールを逆手に取り、「賞与支給月の終わりからごく短期間の育児休業を取得する」という行為が数多く確認されています。
賞与に関する保険料納付を回避できるからです。
しかしながら、これではもはや「育児のための休業」とは言えません。
そこで、法律の趣旨から逸脱した恣意的な制度利用に一定の歯止めを掛けるため、2022(令和4)年 10 月から賞与に関する保険料は、育児休業の期間が1カ月を超える場合にのみ免除対象とすることに変更されたものです。
この制度改正により、保険料逃れを目的とした育児休業の取得が困難になり、真面目に保険料を納めている企業・従業員との公平性が一定程度、確保されると言えるでしょう。
ここがポイント! 育児休業中の保険料免除の見直し②
賞与の支給に合わせて「1カ月以下の育児休業」を取得しても、賞与に関する保険料は免除されない。
7 《老齢厚生年金の支給停止の経過措置》障害者・長期加入者の特例対象者が被用者保険の適用拡大で厚生年金に加入した場合には、定額部分を停止しない。
最後は、年金を受け取っている人を対象とした制度改正です。
65 歳未満で受け取る特別支給の老齢厚生年金には、本来は受け取れないはずの定額部分の年金を特別に受け取れる2つの特例が設けられています。
1つは障害厚生年金の 1 級から 3 級に該当する障害を持つ人を対象とする「障害者の特例」、もう1つは厚生年金に 44 年以上加入した人を対象とする「長期加入者の特例」です。
いずれの特例も、経済的な支援をすることが目的の制度のため、「厚生年金に加入中でないこと」を条件に定額部分の年金が支払われます。
厚生年金に加入中であれば給与収入があるので、定額部分の年金を特例的に支払うことで経済支援をする必要はないとされるためです。
ところで、2022(令和4)年 10 月からのさまざまな法改正により、「障害者の特例」や「長期加入者の特例」の対象者が厚生年金に新たに加入することも考えられます。
その場合、定額部分の年金を特例的に受け取れる条件である「厚生年金に加入中でないこと」という条件を満たさなくなるため、今までもらえていた定額部分の年金がもらえなくなってしまいます。
しかしながら、本人が自分の意思で働き方を変えたわけでないにもかかわらず、今までもらえていた年金がもらえなくなるのは、好ましいとは言えません。
そこで、次の2つの条件を満たす方については、必要な手続きを取ることにより 2022(令和4)年 10 月以降も引き続き定額部分の年金が受け取れる特別措置が講じられます。
- 2022(令和4)年9月 30 日以前から、「障害者の特例」または「長期加入者の特例」の年金をもらっている。
- 2022(令和4)年9月 30 日以前から引き続き同じ事業所に勤務し、次のいずれかの理由で同年 10 月から厚生年金に加入した。
- 従業員数5人以上の士業の個人事務所で働いているため。
- パートの社会保険加入の条件から「1年以上勤務見込み」が削除されたため。
- 従業員数が常時 100 人超の企業で一定の短時間労働者として働いているため。
この経過措置は、2022(令和4)年9月 30 日以前から「障害者の特例」または「長期加入者の特例」の年金をもらっている人を対象としています。
そのため、同年 10 月以降に新たに特例の年金をもらえるようになった人は対象とならず、厚生年金に加入中は定額部分の年金を受け取ることができません。
また、2022(令和4)年9月 30 日以前から引き続き同じ事業所に勤務している人が対象なので、同年9月までと同年 10 月からとで勤務先が異なる場合にも経過措置の対象とはなりません。
なお、「障害者の特例」「長期加入者の特例」の対象者であっても在職老齢年金制度は適用されるため、年金額と給料額などとの兼ね合いで年金の全部または一部が支払われない可能性はあります。
ここがポイント! 老齢厚生年金の支給停止の経過措置
「障害者の特例」や「長期加入者の特例」の対象者が被用者保険の適用拡大で厚生年金に加入することになっても、定額部分の年金は今までどおり受け取れる。
今回のニュースまとめ
今回は 、2022(令和4)年 10 月からの年金制度改正の概要を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 従業員数5人以上の「士業」の個人事務所は、厚生年金の強制適用事業所になる。
- 短時間労働者の厚生年金加入の条件から、「1年以上勤務見込み」が削除される。
- 従業員数 101 人以上 500 人以下の企業で働く一定の短時間労働者が、新たに厚生年金の加入を義務付けられる。
- 「2カ月以内の雇用契約」で働く人は、雇用契約書に「契約が更新される場合がある」などの記載があると採用直後から厚生年金に加入する。
- 同月中に取得した育児休業が 14 日以上であれば、月々の保険料は免除される。
- 賞与の支給に合わせて「1カ月以下の育児休業」を取得しても、賞与に関する保険料は免除されない。
- 「障害者の特例」や「長期加入者の特例」の対象者が被用者保険の適用拡大で厚生年金に加入しても、定額部分の年金は今までどおり受け取れる。
次回は、今回ご紹介した「育児休業中の保険料免除の見直し」について、改正法の影響を詳しく掘り下げて検証しようと思います。
どうぞ、お楽しみに。
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出典・参考にした情報源
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令和4年10月からの短時間労働者の適用拡大・育児休業等期間中の社会保険料免除要件の見直し等について|日本年金機構
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師