どんなニュース?簡単に言うと
2020年6月。国会で可決された年金の改正法が公布されました。今回の改正は「より多くの人がより長く働く」ことに対応した内容。年金試験受験生向けに「施行順」に改正内容をご紹介します。今回は2020年6月から2021年8月までで施行されるものを見ていきます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
2020年6月5日「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が公布されました。
時系列では
- 3月3日 法案提出
- 5月12日 修正案が衆議院で可決
- 5月29日 参議院で可決
- 6月5日 公布
となっています。
メモ
衆議院で一部修正されたのですが、「全般的な検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」という検討に関する経過措置が加わっただけで、制度の中身は提出されたとおりです。
既に交付されてから数週間経っており、いろいろなところで改正の中身が紹介されていますが、「みんなのねんきん」でも触れなければならん!ということで主任講師である私が執筆することに。
とはいえ、
他と同じではつまらん。
そこで、年金試験受験生に向けて、施行順に制度の内容を簡単にご紹介することにしました。
受験生ならいつまでに知っておかなければいけないか気になるはず。
これでも一応、予備校講師経験者なので、そんな視点でまとめてみましたよ。
参考にしていただければ幸いです。
メモ
改正は公的年金のみならず私的年金(確定拠出年金とか)にも及んでいますが、範囲が広くなりすぎるので公的年金のみに特化してまとめていきます。
まずは改正の趣旨を押さえる
施行順のその前に、まずは改正の理由を知りたい。
趣旨を押さえるところから始めましょう。
より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため
(出典:「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要」厚労省ウェブサイト)
だそうです。そこで、
短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し
(出典:同上)
をしたとのことです。
主要なキーワードは
- 短時間労働者
- 在職老齢年金
- 受給開始時期
といったところでしょう。
改正の方向性がわかったところで、コラム執筆時点2020年6月から将来に向かって、施行順にいってみましょうか!
施行順これからの年金制度はこうなる!
2020(令和2)年6月5日(公布日で施行)
国民年金:保険料納付猶予制度
50歳未満の納付猶予制度が5年延長して令和12年6月まで
国民年金の保険料が全額猶予される納付猶予制度はもともと平成37(令和7)年6月までの時限措置だって知ってました?
これが5年延長することになりました。
平成16年の改正で登場した納付猶予制度。期限までまだ5年も時間があるのですがこのタイミングで延長となりました。
厚生年金:雑則
適用事業所でない事業所に立入検査を行うことができる
厚生年金に入っているはずの会社が入っていないということが社会問題になっています。
これに対応して適用事業所の可能性がある事業所に対して立入検査できるよう改正されました。
現行のルールでは適用事業所への立入・適用事業所の事業主に対してしか検査ができないからです。
2021(令和3)年4月
国民年金・厚生年金:毎年度の年金額の改定
賃金が物価より伸びなくても賃金の指標で年金額を変える
と思ったあなたはよく勉強しています。
そうです。
この話は今回の年金改正ではなく、前回2016年の年金改正の話。
まだ施行されてなかったんです。
簡単に説明すると、
- 毎年度の年金額改定で物価が+なのに賃金がマイナスの場合は前年度と同じにするのが現行制度
- 物価も賃金もマイナスで、物価よりも賃金のマイナス幅がより大きい場合は影響の小さい物価で改定するのが現行制度
- 以上の現行制度を改めて、上2つの場合でも賃金で改定する
というもの。詳しくは図解も使って当時まとめていますので確認してみてください(もう4年も経ったのか・・)。
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国民年金:寡婦年金
老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある夫の死亡では寡婦年金はもらえない
もともと、死亡した夫が
障害基礎年金の受給権者であったことがあるとき又は老齢基礎年金の支給を受けていたとき
(国民年金法49条1項但書)
は寡婦年金がもらえません。
老齢基礎年金は繰下げができるので、65歳で権利が生じていても繰下げ待機中で支給を受けていないという状態が考えられます。
障害基礎年金は繰下げは無いので受給権が生じたら翌月分から支給を受けることになります。
ですので、表現を変えていると理解しています。
今回の改正によって、
老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある夫が死亡した
という表現になり、寡婦年金がもらえない条件として老齢も障害もどちらも「支給を受けたことがある夫」で統一されました。
改正の理由は・・よくわからないです。
そこまで厳密に分けなくても「支給を受けていたら寡婦年金はNGでいいのでは?」ということでしょうか・・。
寡婦年金の仕組み自体に変更はありません。
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国民年金:保険料免除
未婚のひとり親や寡夫も保険料免除を受けられる
現行法では「地方税法に定める障害者と寡婦」は一定の所得額以下なら免除されますが、「寡夫」は対象外。
障害者と寡婦以外の人も免除を受けられるように政令でその範囲を広げられるようになりました。
メモ
政令は内閣が出す命令でここでは「国民年金法施行令」です。厚生労働省令としての「国民年金法施行規則」とは別なので注意です。
国民年金:任意加入被保険者
特別の理由がある場合任意加入被保険者になれない
任意加入できる人は以下の3種類に限定しているのはみなさんも勉強しているとおり。
- 国内居住20歳以上60歳未満で老齢給付をもらえる人
- 国内居住60歳以上65歳未満の人
- 20歳以上65歳未満の在外邦人
この国内居住している1号と2号の末尾に
(この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者を除く)
として、任意加入できない人を厚生労働省令で定めることになりました。
国民年金・厚生年金:外国人の脱退一時金
支給上限の納付期間を3年から5年へ
脱退一時金は6ヶ月以上の保険料納付をした外国人が帰国した後に戻ってくる掛け捨て救済制度。
国民年金も厚生年金も同じ仕組みがあります。
現行法上3年以上納付しても3年を超える分は戻ってきません。
国民年金も厚生年金も法律の中に表があり、この表が3年分が上限として書かれています。
今回の改正で、この表をカットして、政令で金額を変えることができるようになりました。
結果、5年分を上限とすることになりました。
2019年に出入国管理法が改正されて、「特定技能」という資格で最長5年在留できるようになったことを受けた改正です。
2021(令和3)年8月
国民年金:20歳前の傷病による障害基礎年金
所得の多寡による支給停止期間が10月から翌年9月へ
20歳前の傷病による障害基礎年金は前年の所得額により、半額か全額が停止になります。
この停止の期間が、従来は8月から翌年7月までだったところ、10月から翌年9月までと期間が変更になりました。
年金生活者支援給付金の所得を調べる人の対象者を広げた関係で「簡易な請求書」というハガキを送ることになりました。
その事務処理の関係で2ヶ月後ろ倒しにしたようです。
今回のニュースまとめ
今回は、2020年の年金改正について施行順に2020(令和2)年6月から2021(令和3)年8月までを見ていきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2020(令和2)年6月5日
- 50歳未満の納付猶予制度が5年延長して令和12年6月まで
- 適用事業所でない事業所に立入検査を行うことができる
- 2021(令和3)年4月
- 賃金が物価より伸びなくても賃金の指標で年金額を変える
- 老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けたことがある夫の死亡では寡婦年金はもらえない
- 未婚のひとり親や寡夫も保険料免除を受けられる
- 特別の理由がある場合任意加入被保険者になれない
- 外国人の脱退一時金 支給上限の納付期間を3年から5年へ
こうして見てみると、改正されて公布されたものの、ここ1年は小粒の改正項目しか並んでいません。
今回の改正の大きな目玉である繰下げ制度の拡大や短時間労働者の拡大はまだ先なんですよね。
周知の期間も必要ですし施行まで時間をおくのは当然でしょう。
今から2年後の2022(令和4)年4月からは続々と大きな改正が施行されます。
(ということは、年金資格試験受験者は来年(2021年)までに合格しておかないとマズイ?か と小文字にしてみる)
次回は今回の改正の本丸に突撃します。お楽しみに。
出典・参考にした情報源
厚生労働省ウェブサイト:第201回国会(令和2年常会)提出法律案
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第201回国会(令和2年常会)提出法律案|厚生労働省
第201回国会(令和2年常会)提出法律案について紹介しています。
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シモムー
みんなのねんきん主任講師