短期間の育休予定なら必見!厚生年金の保険料免除に追加された2つのルールとは|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

  どんなニュース?簡単に言うと

育児休業期間中の厚生年金保険料の納付を免除する制度。2022(令和4)年 10 月から、この制度が一部改正されることをご存じですか。この改正では、「短期間の育児休業に関する取り扱い」が追加される予定です。今回はこの点を整理してみましょう。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

保険料を納めずに加入を継続できる「保険料免除制度」

厚生年金の制度は、一定のルールに基づいて加入者に保険料納付を義務付け、納められた保険料を年金の支払い原資に充てることで、制度運営が成り立っています。

このような仕組みから考えれば、加入者に対して「保険料の納付を免除する」ということは、本来はあり得ないはずです。

保険料を納めないことを安易に認めては、年金の支払いが困難になりかねないからです。

しかしながら、公的な制度では政策的な理由などから、一定の条件に合致した場合に加入者の保険料納付を免除することがあります。

保険料を納付せずに制度への加入を継続できる仕組みを「保険料免除制度」と言い、厚生年金には加入者が育児休業を取っている場合などに、保険料納付を免除する制度が設けられています。

ここがポイント! 「保険料免除制度」とは

「保険料免除制度」とは、保険料を納付せずに制度加入を継続できる仕組みであり、厚生年金では加入者が育児休業を取得している場合などに、保険料の納付が免除される。 

厚生年金の「育児休業期間中の保険料免除制度」の歴史

育児休業とは会社に在籍したまま、子育てのために勤務を休める制度です。

この制度が法律で義務化されたのは、今から約 30 年前の 1992(平成4)年4月から。

ただし、現行の育児休業制度が、最長で子供が2歳に達するまで休業できるのに対し、当時の制度は子供が1歳に達するまで休業できるという仕組みでした。

また、従業員数が 30 人を超える事業所のみが育児休業を義務化され、従業員数 30 人以下の事業所については、制度の適用をしばらく先に延ばすことにされました。

3年後の 1995(平成7)年4月、育児休業の適用が先延ばしにされていた従業員数 30 人以下の事業所でも制度が義務化され、子供が1歳に達するまでの育児休業を実施することが、従業員数の多寡にかかわらず必要となります。

ところで、育児休業の期間中は勤務をしていないのですから、会社からは給料が支払われないのが通常です。

それにもかかわらず社会保険料の納付を求めたのでは、育児休業を取得する人の経済的な負担が大きくなってしまいます。

そこで、全事業所で育児休業が義務化された 1995(平成7)年4月から、育児休業中の加入者については、厚生年金と健康保険の保険料納付を免除する制度も開始されることになりました。

ただし、当時の保険料免除制度では、納付が免除されたのは社員負担分の保険料に限定されていました。

会社負担分の保険料は免除対象にならなかったため、「従業員にはメリットがあるが、会社には必ずしもメリットがない制度」であったとも言えます。

その5年後の 2000(平成 12)年4月からは、育児休業中の厚生年金などの保険料について、社員負担分・会社負担分の両方が免除されるように制度変更が行われ、本制度は会社にとってもメリットのある制度にリニューアルされました。

さらに5年経過した 2005(平成 17)年4月からは、法律上の育児休業に加えて「法律上の育児休業に“準ずる休業”」を取得している場合についても、子供が3歳になるまでであれば保険料を免除するように制度が拡充され、現在に至ります。

「法律上の育児休業に“準ずる休業”」とは、会社が福利厚生の一環で独自の育児休業制度を設けている場合が対象となります。

例えば、会社の育児休業制度として「子供が3歳になるまで育児休業を認める」という仕組みがある場合には、その会社の社員であれば最長で子供が3歳になるまで、厚生年金などの保険料が社員負担分・会社負担分ともに免除されることになりました。

また、現行の保険料免除制度には子供の人数制限がないため、2人目以降の子供の育児休業期間についても保険料の免除が認められます。

加えて、この保険料免除制度は女性社員だけでなく、男性社員でも利用が可能です。

もちろん、男性社員が育児休業を取得するのは、法律で権利として認められていても実際には容易ではないという現実があります。

しかしながら、制度上は「育児休業を取得する男性社員」も、保険料免除の恩恵を受けることが可能となっています。

なお、育児休業による保険料の免除が認められた期間については、年金額を決定する際は「保険料を納めた期間」と同等に扱われます。

そのため、この免除制度を利用したために、将来の年金額が目減りしてしまう心配もありません。

ここがポイント! 厚生年金の「育児休業期間中の保険料免除制度」

厚生年金の「育児休業期間中の保険料免除制度」とは、育児休業やそれに準ずる休業を取得している場合に、最長で子供が3歳になるまで保険料納付が免除される制度である。

現在の保険料免除制度が抱える問題点

育児休業を取得している場合に、厚生年金の保険料が免除される具体的な期間は、育児休業やそれに準ずる休業の『開始日の属する月』から『終了日の翌日が属する月の前月』までとなります。

例えば、女性社員が 10 月 20 日に出産をし、子供が 1 歳に達するまで育児休業を取得する場合、原則として育児休業の期間は産後休業(出生日の翌日から8週間)終了の翌日から1歳の誕生日の前日までです。

具体的には、12 月 16 日から翌年の 10 月 19 日までが育児休業の期間となります。

この場合に保険料の免除が始まるのは、育児休業の『開始日の属する月』からなので 12月分の保険料からとされます。

また、免除が終了するのは、育児休業の『終了日の翌日が属する月の前月』なので、

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となり、翌年9月分の保険料となります。

なお、男性社員の場合には、対象となる子供の出生日から育児休業を取得することが可能です。

その場合の保険料の免除は、育児休業の『開始日の属する月』である出生月分の保険料からとなります。

実は、上記のような「育児休業の『開始日の属する月』から『終了日の翌日が属する月の前月』まで保険料を免除する」という考え方には、大きな問題があると言われます。

育児休業の期間が1カ月未満の場合には、休業の日数が同じでも保険料が免除になるケースと免除にならないケースがあるからです。

例えば、前述の 10 月 20 日に子供が生まれたケースで考えてみましょう。

妻の出産日が 10 月 20 日で、同日から 11 月2日までの2週間、夫である男性社員が育児休業を取得したとします。

この場合、育児休業の『開始日の属する月』は 10 月です。

育児休業の『終了日の翌日が属する月の前月』についても、

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となり、10 月になります。

つまり、保険料が免除される開始月と終了月がどちらも 10 月になり、この男性社員に関する 10 月分の厚生年金保険料は免除されることになります。

それでは、妻の出産日が 10 月 17 日で、同日から 10 月 30 日までの2週間、夫である男性社員が育児休業を取得したらどうなるでしょうか。

育児休業の『開始日の属する月』は、前述のケースと同様に 10 月です。

ただし、育児休業の『終了日の翌日が属する月の前月』については、

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となり、9月になります。

つまり、保険料が免除される期間は開始月が 10 月、終了月が9月となるわけです。

ところが、「10 月から9月まで」というように、開始月が終了月よりも時間的に後になる状態は、物理的にあり得ません。

これは、保険料の免除期間がないことを示しており、育児休業を取得した 10 月分の保険料は納めなければなりません。

現行の制度は、上記のように育児休業の期間が同じ2週間であるにもかかわらず、保険料が免除になるケースと免除にならないケースが発生するなど、公平性に欠ける面があると言われています。

ここがポイント!現在の保険料免除制度の問題点

現在の制度では、社員が1カ月未満の育児休業を取得した場合には、休業日数が同じでも保険料が免除になるケースと免除にならないケースがある。

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「2週間以上の育児休業」は必ず保険料免除の対象に

2022(令和4)年 10 月から施行される改正法では、現行の保険料免除ルールはそのままに、短期間の育児休業に関する2つのルールが追加されています。

追加される1番目のルールは、育児休業やそれに準ずる休業が以下の2つの要件を満たす場合には、その月の厚生年金保険料を免除するというものです。

  1. 『開始日の属する月』と『終了日の翌日が属する月』が同じ月であること。
  2. 休業日数が2週間以上であること。

具体例で考えてみましょう。

前述のとおり、妻の出産日が 10 月 17 日の場合に、夫である男性社員が同日から 10 月 30日までの2週間の育児休業を取得するケースは、「育児休業の『開始日の属する月』から『終了日の翌日が属する月の前月』まで保険料を免除する」という仕組みでは、保険料が
免除になりませんでした。

それでは、新設のルールに当てはめてみるとどうでしょうか。

取得した育児休業の『開始日の属する月』は 10 月、『終了日の翌日が属する月』も

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となり、10 月になります。

どちらも 10 月であるため、1番目の要件である「『開始日の属する月』と『終了日の翌日が属する月』が同じ月であること」を満たしています。

また、育児休業の日数は2週間なので、2番目の要件である「休業日数が2週間以上であること」も満たすことになります。

以上から、2022(令和4)年 10 月以降の追加ルールの下では、10 月分の保険料が免除対象になるわけです。

このように、追加されたルールが施行されると、2週間以上の育児休業が必ず保険料免除の対象になることになります。

その結果、現行制度が抱える問題である「1カ月未満の育児休業について、同じ日数の休業を取得しても保険料が免除になるケースと免除にならないケースがある」という点が一定程度、解消されることになるものです。

なお、このルールは育児休業制度の改正を見据えた仕組みでもあるようです。

実は、育児休業制度も改正法の施行が予定されており、改正点のひとつに 2022(令和4)年 10 月から始まる「出生時育児休業(通称:産後パパ育休)」があります。

これは、男性の育児休業の取得を促進するために新設される制度で、「子供の誕生から8週間の間に、最大4週間の育児休業を取得できる」という仕組みです。

ところが、仮に保険料免除制度が現行のままで出生時育児休業が開始された場合には、4週間の出生時育児休業を取得しても、保険料が免除になるケースと免除にならないケースが発生してしまいます。

また、育児休業制度の改正法の施行により、子供が1歳になるまでの間について、男性社員が分割して取得可能な育児休業の回数が、最大2回から4回に増えるという特徴もあり、男性社員の育児休業取得の増加が見込まれています。

育児休業制度の改正内容の詳細は割愛しますが、以上のような事情から新しいルールを追加し、短期間の育児休業を取得した場合に発生する「保険料免除制度の問題点」の解消を図ったという側面もあるように思います。

なお、厚生労働省の資料では、1番目の追加ルールについて「月内に2週間以上の育児休業を取得した場合には当該月の保険料を免除する」という表現で説明されることがあります。

ここがポイント!短期間の育児休業に関する「1番目の改正点」

新制度が施行されると、「2週間以上の育児休業」が必ず保険料免除の対象になり、1カ月未満の育児休業を取得した場合に発生する問題点が、一定程度、解消される。

賞与の保険料が免除されなくなる「1カ月以下の育児休業」

2022(令和4)年 10 月から追加されるルールの2番目は、

賞与に関する保険料は、育児休業の期間が1カ月を超える場合にのみ免除対象とする

というものです。

現行の保険料免除ルールは、「育児休業の『開始日の属する月』から『終了日の翌日が属する月の前月』まで保険料を免除する」というものでした。

実は、この制度には月末に育児休業を取得すれば、その月の保険料が免除になる」という特徴があります。

また、現行の免除制度には「〇〇日以上の育児休業を取得した場合に保険料を免除する」というような育児休業の日数の制約がありません。

そのため、極論すれば、月末の1日だけ育児休業を取得した場合でも、その月の保険料が免除されることになります。

具体例で考えてみましょう。

例えば、ある男性社員が 10 月 31 日に、1日だけの育児休業を取得したとします。

この場合、育児休業の開始日は 10 月 31 日なので、『開始日の属する月』は 10 月になります。

また、育児休業の終了日も 10 月 31 日のため、『終了日の翌日が属する月の前月』についても、

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となり、10 月になります。

そのため、育児休業の開始月も終了月も 10 月となり、10 月 31 日に1日だけの育児休業を取得したことにより、10 月分の保険料が免除されることになるわけです。

ところで、健康保険組合の調査などでは、「賞与の支給月に育児休業を取得する加入者が多い」という傾向が見られているそうです。

このような現象が発生する理由は、現行制度の「月末に育児休業を取得すれば、その月の保険料が免除になる」「育児休業の日数の制約がない」という特徴を逆手にとり、賞与に関する保険料の納付を回避する目的で、意図的に賞与支給月の末日に育児休業を取得する
などの行為が行われているためと考えられます。

つまり、「育児をするために休業を取っている」わけではなく、「保険料を払わないために休業を取っている」状態と言えます。

このように、法律の趣旨から逸脱した制度利用を許容し続けると、保険料を真面目に納めている企業や加入者との公平性を大きく欠くことになり、厚生年金制度への信頼性・納得性を損ねる結果となってしまいます。

このような事情から、「賞与に関する保険料は、育児休業期間が1カ月を超える場合にのみ免除対象とする」という2番目のルールを追加し、恣意的な制度利用に一定の歯止めを掛けようとしていると考えられます。

ここがポイント!短期間の育児休業に関する「2番目の改正点」

賞与に関する保険料は、育児休業の期間が 1 カ月を超える場合にのみ免除対象になる。休業期間が1カ月以下の場合には、免除対象にならない。

今回のニュースまとめ

今回は、2022(令和4)年 10 月1日に施行される「育児休業期間中の厚生年金保険料免除制度の改正点」について見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  • 保険料免除制度とは、保険料を納付せずに制度に加入し続けられる仕組みである。
  • 育児休業期間中の厚生年金の保険料免除制度では、育児休業を取得している場合に、最長で子供が3歳になるまで保険料の納付が免除可能である。
  • 現在の免除制度には、「1カ月未満の育児休業では、保険料が免除になるケースと免除にならないケースがある」という問題がある。
  • 2022 年 10 月からは、「2週間以上の育児休業」は必ず保険料免除の対象とされる。
  • 賞与に関する保険料は、育児休業期間が 1 カ月を超えなければ免除されなくなる。

厚生年金の数ある制度の中でも、育児休業に関する保険料免除制度は非常に優れた制度です。

ただし、手続き時期に制約があるなど、実務上は若干の注意が必要です。

本制度を利用する上では、管轄の年金事務所によく確認をした上で手続きすることをお勧めします。

出典・参考にした情報源

厚生労働省:全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案の概要



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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。