どんなニュース?簡単に言うと
昨年(2019 年)も多くの若者が国民年金に加入し、毎月、保険料を払う立場となりました。ところで、もしこのような若者が保険料を払わないと、何か不利益を被るのでしょうか。今回は、国民年金保険料を払わなかった場合に「何が起こるのか」を見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
20 歳は国民年金の加入年齢
昨年(2019 年)1年間に 20 歳を迎えた若者は、約 122 万人にのぼります。
20 歳は国民年金に加入が義務付けられている年齢でもあるため、昨年(2019 年)も多くの若者が、新たに国民年金のメンバーになったことになります。
ただし、成人する前から社会に出て会社員や公務員として働いている場合には、社会に出た時点ですでに、厚生年金に加入をしています。
従って、20 歳で国民年金に加入する人というのは、通常、社会に出る前の段階である学生の皆さんとなります。
つまり、学生生活を送っている皆さんにとっては、20 歳は大人の仲間入りをする年齢であると同時に、国民年金のメンバーに仲間入りをする年齢でもあるわけです。
元来、20 歳になった時の国民年金の加入手続きは、自ら行う必要がありました。
具体的には、20 歳になる少し前に日本年金機構から国民年金の加入用紙が届くので、必要事項を記入して市役所の国民年金の窓口に提出しなければなりませんでした。
しかしながら、昨年(2019 年)10 月からは本人の手続きが原則として不要となり、加入手続きが自動的に行われる仕組みに変更されています。
そのため、現在では、20 歳になってから2週間くらいすると、国民年金への加入手続きが行われたことを知らせる『国民年金加入のお知らせ』という案内が日本年金機構から届くことになっています。
『国民年金加入のお知らせ』とは、次のような手紙です。
保険料を“未納”にすると将来の年金が減る
学生といえども、国民年金加入後は毎月、保険料を払うことを求められます。
支払額は1カ月当たり 2019 年度(令和元年度)で 16,410 円、2020 年度(令和2年度)で16,540 円です。
しかしながら、学生の皆さんが毎月1万数千円を欠かさず払うのは、簡単なことではないかもしれません。
そのため、往往にして「国民年金に加入はしたが、保険料は払わない」という状況が起こりがちです。
このように、国民年金の保険料を期限までに払わないことを“未納”といいます。
それでは、保険料を“未納”にしてしまうと、どのようなことが起こるのでしょうか。
国民年金は「保険料を 40 年間欠かさず払うと、“満額の老後の年金”をもらえる」というルールで運営されています。
もしも、保険料の支払い実績が 40 年間に届かなければ、それに応じて将来受け取れる年金も減額されることになります。
例えば、保険料を払うべき 40 年間のうち、実際に払ったのは4分の3に当たる 30 年間で、残りの 10 年間は“未納”だったとします。
この場合には、老後の年金も満額の4分の3の金額とされてしまいます。
つまり、保険料の“未納”は、将来もらう年金の“減額”に直結するわけです。
ココがポイント!保険料を”未納”にした場合のデメリット①
国民年金は「保険料を40年間欠かさず払うと、"満額の老後の年金”をもらえる」というルールのため、”未納”は年金の”減額”に直結する。
「財産を差し押さえる!」と書かれた手紙が自宅に
それでは、将来の年金が減っても構わないのであれば、保険料を“未納”にしていても問題はないのでしょうか。
実は、国民年金の保険料を払わないでいると、ある日突然、次のような趣旨の文章が記載された手紙が届くことがあります。
「保険料を払わないと、あなたやあなたの“世帯主の財産”を差し押さえますよ!」
「財産を差し押さえる」とは、ただ事ではありません。
しかも、自分だけでなく“親の財産”まで差し押さえるなどと書かれているのですから、このような手紙を受け取った人の驚きは、言葉では言い尽くせません。
「たかだか年金の保険料を払わないくらいで、なんで“親の財産”まで差し押さえるんだ!」と思う方も少なくないでしょう。
しかしながら、このような手紙が届くのには理由があります。
親子が一緒に暮らしている場合、子供の国民年金保険料は世帯主である同居の親にも、“法律上の支払い義務”が課されているからです。
国民年金のルールを定めた法律を国民年金法といいますが、同法の第 88 条第2項には次のような記述があります。
第 88 条第2項
世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う。
つまり、保険料を払うべき本人が実家暮らしをしている学生さんの場合には、世帯主である同居の親にも、子供の保険料について“法律上の支払い義務”が課されていることになります。
このような仕組みを連帯納付義務といい、本人以外に保険料の支払い義務が課されている人を連帯納付義務者と呼びます。
国民年金の保険料の場合には世帯主と配偶者を連帯納付義務者とし、本人と一緒になって保険料を払わなければならないことが、法律上、定められています。
ところが、残念ながら多くの人がこの事実を知りません。
ココがポイント!国民年金保険料を払う義務があるのは・・
国民年金の保険料は、本人のほかに世帯主と配偶者にも"法律上の支払い義務”が化されている。そのため、学生が実家暮らしをするケースでは、世帯主である同居の親にも子供の保険料を払う義務があることになる。
子供の保険料の“未納”は、世帯主である同居の親も法律違反を問われる
また、国民年金の保険料を払わないことに対する措置として、国民年金法第 96 条第1項には次のようなルールが定められています。
第 96 条第1項
保険料その他この法律の規定による徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は、期限を指定して、これを督促することができる。
「~督促することができる」とあるため、保険料を“未納”にしている人に対しては、支払いを求める手紙が送られることがあります。
さらに、同条第4項には次のようなルールも定められています。
第 96 条第4項
厚生労働大臣は、第1項の規定による督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は滞納者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる。
「~納付しないときは、国税滞納処分の例によってこれを処分し、~」とあるため、義務があるにもかかわらず支払いに応じない人の財産を差し押さえ、強制的に保険料の徴収を行うことが可能となります。
国民年金保険料の支払い義務は、本人だけでなく世帯主にも課されているわけですから、保険料を“未納”にしていれば世帯主も法律に違反していることになります。
そのため、法律違反の世帯主も財産差し押さえの対象者になるわけです。
ココがポイント!保険料を”未納”にした場合のデメリット②
実家暮らしをする子供の国民年金保険料の”未納”に対しては、世帯主である同居の親も法律違反を問われることになる。そのため、世帯主も財産差し押さえの対象になる。
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保険料を払えなければ「学生納付特例制度」の利用を
保険料を“未納”にするのは単に将来の年金が減るだけでなく、最悪の場合には家族の財産までが差し押さえられるという、極めて大きなリスクを伴う行為です。
従って、保険料はキチンと払うに越したことがありません。
ただし、国民年金に加入している学生の皆さんが保険料の支払いが困難な場合には、支払いを猶予してもらえる「学生納付特例制度」を利用する方法もあります。
20 歳になったら、市役所の国民年金の窓口で「学生納付特例制度」を申し込んで利用すれば、保険料を払わなくても“未納”扱いされることはありません。
この場合には、もちろん保険料の支払いを催促する手紙が届くこともありません。
実は、この「学生納付特例制度」は学生の皆さんが手続きをしやすいよう、学校側が申し込み受付と申請の代行をしてくれることがあります。
このような学校を「学生納付特例事務法人」といいます。
そのため、自分が通っている学校が「学生納付特例事務法人」に指定されているのであれば、授業が終わった後などに学校で友人と一緒に「学生納付特例制度」の手続きを済ませることもでき、とても便利です。
ただし、残念ながら大学の場合には、「学生納付特例事務法人」に指定されている学校はあまり多くありません。
東京都を例に説明しましょう。
都内の大学および短期大学の総数は優に 100 校を超えていますが、そのうち「学生納付特例事務法人」の指定を受けているのは 2020 年(令和2年)1月6日現在、以下の 10 校しかありません(厚生労働省関東信越厚生局発表)。
- 鶴川女子短期大学(町田市)
- 東京有明医療大学(渋谷区)
- 東洋英和女学院(港区)
- 大正大学(豊島区)
- 白梅学園大学(小平市)
- 白梅学園短期大学(小平市)
- 武蔵野音楽大学(練馬区)
- 電気通信大学(調布市)
- ビジネス・ブレークスルー大学(千代田区)
- 城西国際大学観光学部キャンパス(千代田区)
2008 年度(平成 20 年度)にスタートした「学生納付特例事務法人」の制度ですが、残念ながら「多くの学生の皆さんの手続きが楽になった」とはいえないのが現状です。
従って、“未納”を回避するために「学生納付特例制度」を利用するには、まだまだ市区町村の窓口への手続きが必要といえそうです。
ココがポイント!学生の保険料納付を猶予する「学生納付特例制度」
「学生納付特例制度」を利用すれば、保険料を払わなくても”未納”にならない。ただし、学校で申し込みができる「学生納付特例事務法人」になっている大学は、非常に少ない。
今回のニュースまとめ
今回は、国民年金保険料を払わなかった場合の不利益について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 成人する前から社会に出ているのでなければ、20 歳で国民年金に加入することになる。
- 国民年金保険料の“未納”は、将来もらう年金の“減額”に直結する。
- 保険料を払うべき本人が親と同居している場合、世帯主である親にも子供の保険料について“法律上の支払い義務”が課される。
- そのため、「保険料を払わないと、あなたやあなたの“世帯主の財産”を差し押さえます」という趣旨の手紙が届くことがある。
- 「学生納付特例制度」を利用すれば保険料を払わなくても“未納”にならず、保険料支払いの督促を受けることもない。
国民年金保険料の“未納”は単に将来の年金額が減額になるだけでなく、「財産の差し押さえが行われる」という大きな問題を引き起こしかねない行為です。
従って、国民年金に加入したての学生の皆さんは、親子でよく相談をした上で“未納”が発生しないようにするのが賢明といえます。
国民年金では「“親名義の銀行口座”や“親名義のクレジットカード”で子供の保険料を払う」などの方法も認められています。
支払いの催促を受ける前に、個々の家庭の事情に応じた“しかるべき対応”を取ることが大切です。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ウェブサイト:
20 歳になったら、どのような手続きが必要ですか
-
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/kanyu/hatachi-tetsuduki.html
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師