どんなニュース?簡単に言うと
健康保険の扶養と年金とは、表裏一体の関係にあります。
そこで前編では、2021 年8月1日から始まる「健康保険の被扶養者認定基準の明確化」について確認しました。
後編の今回は、ワクチン接種業務従事者に対する「被扶養者の収入確認の特例」を見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「健康保険の被扶養者認定基準の明確化」とは
後編の本題に入る前に、前編の『共働きなら必見!子供の健康保険の扶養認定 明確化された5つのルールとは』(2021 年 7 月 19 日付)でご紹介したポイントを振り返っておきましょう。
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共働きなら必見!子供の健康保険の扶養認定 明確化された5つのルールとは|みんなのねんきん
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前編では、共働き夫婦の家族に関する「健康保険の被扶養者認定」について、2021(令和3)年8月1日から次のようなルールが明確化されることを説明しました。
- 夫婦とも健康保険の被保険者の場合には、子供は「今後1年間の収入」が多い親の被扶養者になる。
- ただし、夫婦の収入差が“1 割以内”の場合には、「主として生計を維持する者」の被扶養者とされる。
なお、基準を明確化する目的は、「保険者間でいずれの被扶養者とするかを調整する間、その子が無保険状態となって償還払いを強いられることのないようにするため」と発表されています。
もちろん、この点は重要な目的だと思うのですが、筆者にはもう一つ“別の目的”もあるように感じられます。
それは「被扶養者認定をより厳格に行うため」です。
仮に、認定基準が不明確なままで、対象ではない人を健康保険の被扶養者と認定した場合には、本来支払う必要のないその人の医療費の7割分を認定した保険者が負担することになります。
そもそも被扶養者には健康保険料を支払う義務がありませんから、このような被扶養者認定の誤りは保険者の財政悪化に直結し、最悪の場合、保険者の破綻に繋がりかねません。
現在、健康保険組合の約8割は赤字状態にあるといわれ、毎年度、数組合が解散に追い込まれている状況です。(令和3年度(2021 年度)健康保険組合の予算編成状況/健康保険組合連合会)。
上記のような状況を鑑みれば、保険者が被扶養者認定を厳格に実施し、認定の適正化が図られることは、私たちが健康保険制度を安定的に利用する上で、必要不可欠な措置といえるでしょう。
保険者が被扶養者認定を厳格・適正に行うには、認定ルールから曖昧性を排除しなければなりません。
そのために必要な「被扶養者認定ルールの明確化」と考えられなくもありません
ここがポイント! 「被扶養者認定ルールの明確化」の“もう一つの目的”
共働き夫婦の家族に関する「被扶養者認定ルールの明確化」には、誤認定による保険者の財政悪化を削減するために、「より厳格に認定を行う」という“別の目的”もあるのではないか。
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ワクチン接種業務に従事する医療職の方のために「特例措置」が発動
それでは、後編の本題に入りましょう。
健康保険の被扶養者と認定されるためには、原則として次の2つの収入要件を満たす必要があります。
- 年間収入が 130 万円未満(60 歳以上または一定の障害状態にある場合は 180 万円未満)であること。
- 被保険者の年間収入の2分の1未満であること。
ここでいう年間収入には過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から見込んだ「今後1年間の収入」が用いられます。
現在、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種業務に、多くの医療職の皆さんが尽力されていますが、中には、健康保険の被扶養者や国民年金の第3号被保険者である医療職の方もいるようです。
そのような皆さんが、ワクチン接種業務に従事して対価を受け取ったために現時点の収入が増加し、健康保険の被扶養者認定等の収入要件から外れてしまっては意味がありません。
そこで、今般、「健康保険の被扶養者認定等の収入確認の際は、医療職の方がワクチン接種業務に従事したことにより得た収入は含めないこととする」という特例措置が取られることになりました。
特例措置の対象者はワクチン接種業務に従事する医師、歯科医師、看護師等の皆さんで、2021(令和3)年4月から 2022(令和4)年2月末までのワクチン接種業務に対する賃金が、被扶養者認定等の収入確認に際して収入に含まれないことになります。
例えば、看護師の方が上記の期間にワクチン接種会場で、5日間のワクチン接種業務に従事したとします。
その対価が日給2万円だとすると、10 万円(=2万円×5日間)が特例措置の対象となり、被扶養者認定等の収入確認に際して収入には含まれません。
ちなみに、ワクチン接種業務とは、ワクチンの注射、予診、予診のサポート、ワクチンの調整、接種後の経過観察等が該当します。
ここがポイント! ワクチン接種業務に伴う「医療職の方への特例措置」とは
健康保険の被扶養者認定等の収入確認の際は、「医療職の方がワクチン接種業務に従事したことにより得た収入は含めない」という特例措置が取られることになった。
「特例措置」の利用には『申立書』の提出が必要
医療職の方がこの特例措置の適用を受けるには、ワクチン接種業務を行う事業者等から『新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事した際の収入に係る申立書』という書類の発行を受け、被扶養者認定等の収入確認の際に保険者に提出する必要があります。
『新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事した際の収入に係る申立書』とは、次のような書類です。
ただし、医療職ではない方がワクチン接種会場等で勤務をしても、それによって得た収入が特例措置の対象になることはありません。
例えば、医療職ではない方がワクチン接種会場で誘導・案内業務に従事するケース、ワクチン接種を行っている医療機関で受付として勤務するケース等は、特例措置の対象にはなりません。
また、医療職の方がワクチン接種業務以外の業務で得た収入も、特例措置の対象とはされません。
そのため、看護師の有資格者の方がワクチン接種会場で受付業務を行うケース、医療機関に一般事務を行う契約で勤務するケース等は、特例措置の対象外とされます。
ココがポイント! 「特例措置」の利用方法
医療職の方が特例措置の適用を受けるには、『新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事した際の収入に係る申立書』を被扶養者認定等の収入確認の際に保険者に提出する。
今回のニュースまとめ
今回は、「健康保険の扶養」の後編として、ワクチン接種業務従事者に対する「被扶養者の収入確認の特例」の内容を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 共働き夫婦の家族に関する「被扶養者認定ルールの明確化」には、保険者の財政悪化を削減するために、「より厳格に認定を行う」という目的もあるのではないか。
- 現在、健康保険の被扶養者認定等の収入確認の際は、「医療職の方がワクチン接種業務に従事したことにより得た収入は含めない」という特例措置が取られている。
- 特例措置の適用を受けるには、『新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事した際の収入に係る申立書』を被扶養者認定等の収入確認の際に保険者に提出する必要がある。
- 医療職の方がワクチン接種業務以外の業務で得た収入は、特例措置の対象にはならない。
前回、今回と2回にわたり、健康保険の扶養について見てきました。
年金制度の理解を深める上で、健康保険の扶養に関する知識は不可欠ですので、よく確認をしていただければと思います。
また、「年金と健康保険との関係」はこれだけではありません。
次回は、別の「年金と健康保険との関係」についてご説明しようと思いますので、お楽しみに。
出典・参考にした情報源
厚生労働省ホームページ:新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の被扶養者の収入確認の特例について
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師