どんなニュース?簡単に言うと
新型コロナウイルス感染症の影響で、倒産に追い込まれる企業が出始めています。企業が倒産をした場合、経営者は従業員を解雇せざるを得なくなります。そこで今回は、企業を解雇された従業員について、その後の年金上の取り扱いを考えてみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
新型コロナウイルスのまん延で経済活動に大打撃
新型コロナウイルス感染症は 2020 年(令和2年)2月から拡大し、現在、わが国の経済活動に多大な影響を及ぼしています。
約7割の企業で 2020 年(令和2年)2月の売上が前年同月より減少しており、新型コロナウイルス感染症の企業活動への影響について、「すでに影響が出ている」または「今後影響が出る可能性がある」と回答した企業は、実に 94.6%に上ります(第2回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査/(株)東京商工リサーチ)。
その結果、2020 年(令和2年)3月 11 日 13 時現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた倒産(法的整理または事業停止)が全国で8件発生していることが確認されており、今後は連鎖倒産の発生なども懸念されています(2020 年3月 12 日(株)帝国データバンク発表)。
ココがポイント!新型コロナウイルス感染症の経済活動への影響
9割以上の企業が新型コロナウイルス感染症の企業活動への影響を回答しており、2020 年(令和2年)3月 11 日 13 時現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた倒産が、全国で8件確認されている。
解雇された従業員の多くは国民年金の第1号被保険者になる
企業が倒産に追い込まれた場合、経営者は従業員を解雇せざるを得なくなります。
また、現在の経済下では、解雇された従業員が次の職場を見つけるのは、容易ではありません。
そのため、解雇後は定職に就かない無職の状態になってしまうことがあります。
それでは、企業に勤務をしていた人が解雇されて無職になると、年金上の取り扱いはどうなるのでしょうか。
一般的に会社員は在職中、厚生年金に加入することが多くなります。
しかしながら、解雇されて無職になった場合には、年齢が 20 歳以上 60 歳未満で日本に住んでいるのであれば、原則として解雇後の年金上の立場は、国民年金の第1号被保険者に変わります。
国民年金の第1号被保険者に該当すると、毎月、自分で保険料を払わなければなりません。
現在、第1号被保険者が支払いを求められる金額は、2020 年(令和2年)3月までは1カ月当たり 16,410 円、同年4月からは1カ月当たり 16,540 円です。
所定の保険料を払っていないと、支払いを督促する通知が自宅に届くこともあります。
ココがポイント!解雇後の年金上の立場
無職の場合、年齢が 20 歳以上 60 歳未満で日本に住んでいるのであれば、原則として国民年金の第1号被保険者になり、毎月、国民年金保険料の支払いが必要になる。
定職を失った人にも日々の生活があり、生活を営むためには資金が必要です。
そのため、定期的な収入がない状態で、毎月、1万数千円もの国民年金保険料を払うことは、決して簡単ではありません。
それでは、解雇後に国民年金の第1号被保険者になった人が、経済的に保険料の支払いが困難な場合には、一体、どうすればよいのでしょうか。
国民年金には、経済的に保険料の支払いが困難な人に対して所得審査を行い、審査を通れば保険料を払わなくてもよいことにする「保険料免除制度」という仕組みがあります。
具体的には、前年の所得が一定額以下の場合には、保険料を1年間払わなくてもよくなるものです。
例えば、2018 年(平成 30 年)の1年間の所得が一定額以下であれば、2019 年(令和元年)7月から2020 年(令和2年)6月までの1年間は、保険料の支払いが免除されることになります。
従って、現在の保険料支払いを免除してもらいたいのであれば、2018 年(平成 30 年)の所得が審査を通ればよいことになります。
図で見ると、次のとおりです。
しかしながら、所得審査の対象期間である 2018 年(平成 30 年)の時点では、まだ新型コロナウイルス感染症は発生していません。
そのため、この感染症が原因で会社が倒産して解雇された人の場合、2018 年(平成 30年)時点で会社勤めをしていたのであれば、2018 年(平成 30 年)は会社から給料を受け取っていたことになります。
このような場合には、一般的には「保険料免除制度」の所得審査の基準をクリアすることが難しく、同制度の利用はできないケースも多くなります。
ココがポイント!「保険料免除制度」の所得審査の仕組み
「保険料免除制度」では前年の所得が審査対象になる。そのため、会社を解雇されたケー
スでは、所得審査の対象期間が在職期間に当たるのであれば、審査の基準をクリアすることが難しくなる。
前年の所得が高くても利用できる「失業等による特例免除」
実は、このようなケースに対応するため、国民年金には「失業等による特例免除」という仕組みも用意されています。
「失業等による特例免除」とは、所得審査は行わずに「失業をした」という事実があれば国民年金保険料の免除を認めるという“特例的な仕組み”です。
失業してから間がない人の場合には、前年の時点では会社から給料を受け取っていたため、現在は保険料を払う資力がないにもかかわらず、通常の「保険料免除制度」の利用が難しくなります。
そこで、このような人でも利用できる免除制度として設けられているのが、「失業等による特例免除」です。
今回、新型コロナウイルス感染症の影響で会社を退職せざるを得なくなった人が、経済的に国民年金保険料を払うことが困難な場合には、この「失業等による特例免除」という仕組みを利用できる可能性があります。
この仕組みにより免除が認められる期間は、最長で「失業をした年の翌々年の6月まで」です。
例えば、仮に 2020 年(令和2年)3月 20 日付で退職となったケースであれば、最長で2022 年(令和4年)6月まで「失業等による特例免除」の対象となり、前年の所得状況にかかわらず保険料を払わなくてもよいことになります。
もちろん、保険料が免除されている間は、支払いの督促を受けることもありません。
ココがポイント!「失業等による特例免除」とは
「前年の所得審査は行わず、「失業をした」という事実があれば国民年金保険料の免除を認める“特例的な仕組み”。会社を退職してから間がない場合などに利用できる。
「失業等による特例免除」は市役所に申し込みを
「失業等による特例免除」の手続きは、一般的には市区町村の国民年金の担当窓口に『国民年金保険料免除・猶予申請書』という書類を提出することで行います。
『国民年金保険料免除・猶予申請書』とは、次のような手続き用紙です。
その際は、失業したことが分かる次のいずれかの書類などを添付する必要があります。
- 雇用保険受給資格者証のコピー
- 雇用保険被保険者離職票のコピー
企業が倒産をすると、従業員だけでなく経営者も無職の状態に陥ることがあります。
この場合、元経営者の年金上の立場も、年齢が 20 歳以上 60 歳未満で日本に住んでいるのであれば、解雇された従業員と同様に、原則として国民年金の第1号被保険者に変わります。
従って、倒産に追い込まれた元経営者も、経済的に国民年金の保険料を払うことが困難であれば、「失業等による特例免除」を利用できる可能性があります。
元経営者の場合には、『国民年金保険料免除・猶予申請書』という手続き用紙に、事業の廃止(廃業)または休止の届出を行った事実が確認できる次の書類を添付して申し込みます。
- 厚生労働省が実施する総合支援資金貸付の貸付決定通知書のコピーおよびその申請時
の添付書類のコピー - 履歴事項全部証明書または閉鎖事項全部証明書
- 税務署等への異動届出書、個人事業の開廃業等届出書または事業廃止届出書のコピー
(税務署等の受付印のあるものに限る) - 保健所への廃止届出書の控(受付印のあるものに限る)
- その他、公的機関が交付する証明書等であって、失業の事実が確認できる書類
ただし、上記2から5までについては、別途、失業の状態にあることの申し立てが必要とされています。
実は、「失業等による特例免除」という制度は、今回の新型コロナウイルス感染症の対策として講じられた仕組みではありません。
元来、国民年金の制度の中に存在する仕組みです。
そのため、新型コロナウイルス感染症とは関係なく、単に「会社を自己都合で退職した」などの場合でも、要件に該当すれば利用が可能です。
会社を退職後に次の職場が決まっておらず、国民年金保険料の支払いが難しいという人は、利用を検討してはどうでしょうか。
ココがポイント!「失業等による特例免除」の申込方法
「失業等による特例免除」を利用したい場合は、『国民年金保険料免除・猶予申請書』に
雇用保険受給資格者証のコピーなどを添付し、市役所に申し込む。
今回のニュースまとめ
今回は、新型コロナウイルス感染症の影響で企業が倒産に追い込まれ、解雇された従業員について、その後の年金上の取り扱いを見てきました
ポイントは次のとおりです。
- 2020 年(令和2年)3月 11 日 13 時現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受け
た倒産が、全国で8件確認されている。 - 解雇後に無職の場合、年齢が 20 歳以上 60 歳未満で日本に住んでいるのであれば、原
則として国民年金の第1号被保険者になる。 - 会社を解雇された場合、通常の「保険料免除制度」では所得審査の対象期間が在職期
間に当たるのであれば、審査基準をクリアしにくい。 - 前年の所得審査は行わず、「失業をした」という事実があれば国民年金保険料の免除
を認める“特例的な仕組み”を「失業等による特例免除」という。 - 「失業等による特例免除」を利用したいときは、申請書に雇用保険受給資格者証のコ
ピーなどを添付し、市役所に申し込む。
「失業等による特例免除」で支払いが免除された保険料は、10 年以内であれば後から払うことが認められています。
後日、経済的な余裕が出てきた時に免除された保険料を払っておけば、将来の年金は通常どおり保険料を払った人と同じように受け取ることも可能です。
このような仕組みを「追納制度」といいます。
「失業等による特例免除」と「追納制度」をセットで活用し、ぜひ新型コロナウイルス感染症による苦難を乗り越えてください。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ウェブサイト:
【国民年金被保険者の方へ】新型コロナウイルスの感染症の影響により国民年金保険料の納付が困難となった場合の免除制度の活用について
-
【国民年金被保険者の方へ】新型コロナウイルスの感染症の影響により国民年金保険料の納付が困難となった場合の免除制度の活用について|日本年金機構
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師