どんなニュース?簡単に言うと
2016年1月から開会している通常国会に年金制度改正の法律案が提出されました。その具体的な中身を噛み砕いて説明してみます。思った以上に大きな影響がありそうな改正案。今回は年金受取世代に与える影響を検証します。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
年金の改正案の3大ポイントはこれ
2016年1月から開いている通常国会に年金制度改正の法律案が3月11日に提出されました。
この中で私たちに直接関係するものは以下の3つ。
- 社会保険への加入条件が緩和される
- 産前産後の期間中に国民年金の保険料が免除される
- 年金額の改定ルールが変更される
この3つについて、何がどう変わるのか、法律案ができるまでの背景事情も交えながら解説してみます。
今回は年金受給者に関する改正(3)について解説します。
1と2の現役世代に関する改正はこちらで解説しました。
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2016通常国会 年金改正案提出!年金はこう変わる 現役世代編|みんなのねんきん
出典記事が発表された日:2016年03月11日 どんなニュース?簡単に言うと 2016年1月から開会している通常国会に年金制度改正の法律案が提出されました。その具体的な中身を噛み砕いて説明してみます。 ...
賃金が物価より伸びないなら徹底して賃金の指標で年金額を変える
上の厚生労働省の資料を見るとこうあります。
「3(2) 賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を徹底」
考え方を徹底?
なんだか言っていることがよくわかりません。
そこで、改正案の前提として、今の年金改定の仕組みがどうなっているかをみてみます。
物価よりも賃金の方が伸びていくことが年金額改定の前提
年金額を毎年度変える仕組みは物価と賃金の指標を元にします。
2つの指標が
賃金>物価
の関係でプラスに伸びていくことが前提(原則)となっています。
なぜこんな前提なのかは別の記事で説明したことがあるのでご覧になってください。
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2016年度の年金額は現状維持で確定!|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 2016年度の年金額は2015年度と同じで確定しました。どんな仕組みで年金額を決めているか。物価と賃金の関係によるその仕組みを解説してみます。 どんなニュース?もう少し詳 ...
ところが、この2つの指標が
賃金<物価
と、逆になってしまうとどうなるか。
以前に執筆した 「参考」の記事内容を引用します。
例外1 物価>1 賃金>1 物価>賃金
物価も賃金もプラスの伸びだけど、物価の方が上回って伸びている。
こんな場合は全員が伸びの小さい賃金の指標で改定する。
例外2 物価<1 賃金<1 物価>賃金
物価も賃金もマイナスだけど、物価の方が下げ幅が小さい。
こんな場合は全員が下げ幅の小さい物価の指標で改定する。
例外3 物価>1 賃金<1 物価>賃金
物価はプラスの伸びだけど、賃金はマイナスになっている。
こんな場合は全員が前年度と同じにする。
ここ10年、例外が原則のような状態
3つの例外はどれも賃金<物価という状態です。
実は例外と言いつつも、このシステムが作られた平成16年以降、ほぼ全ての年度で例外規定が使われてきたんです。
ここ10年、賃金って全然上がらなかったんですね。
で、例外規定が使われ続けてきた結果どうなかったか。
賃金は減少しているのに、その分年金額は減らなかった。
年金財政が悪化したことになります。
なぜ悪化?
考えてみてください。
受け取る年金は私たちの保険料から賄われています。
その保険料は給料に連動して計算されます。
だから、
給料が減れば保険料が減る → 保険料が減れば年金を減らす
としなければ財政が悪化するのは当然です。
改正案は例外2と例外3を改める話
そこで、
最初の話に戻ります。
「3(2) 賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を徹底」
「賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせる」というので、例外2と3が変わるという話。
一言で言うと、
物価より賃金が低いなら、どんな場合でも賃金に連動させる
ということなんです。
図解してみると、例外2は大幅なマイナス改定。
例外3もこんな形になって、つまり、マイナス改定。賃金の指標を使うから。
まとめれば、
賃金が物価よりも伸びない場合でも徹底して賃金の指標を使っていく
ということなんです。
マクロ経済スライドが繰越し方式へ
年金額改定の改正案にはもう1つあります。
それがマクロ経済スライドの見直し。
マクロ経済スライドって何でしょう?
こちらも以前、解説したことがありますので参考にしてください。
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2016年度の年金は増えるか減るか|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 2016年度の年金額はどうやら今年度と同じ現状維持になりそう。どんな仕組みで年金額を決めているか。鍵を握るのは2015年度から動き出した「マクロ経済スライド」。解説してみ ...
要は
現役世代の減少や平均寿命の伸びを考慮した大きな視点での減額制度
です。減らすことありきの仕組みで、期間限定の措置です。
現行のマクロ経済スライドはこんな仕組み
このマクロ経済スライドは前年度に年金額が増える(プラス改定)時にしか使えない。
これまで2015年度で発動しただけです。
現行の仕組みを図解してみましょう。
物価の指標を使って改定すると仮定します。
この図を見ると、前年度より3%増額するするものが、2%分の増額にとどまっています。
1%分の減額スライドがあったということです。
これが標準的なスタイル。
では、物価が下落してそもそも年金額が2%マイナスになりそうだとしましょう。
この場合はマクロ経済スライドによる減額分は無しです。
マイナス1%分は発動できません。
更に、物価が小幅に0.8%上昇した場合。
こんな場合は減らしはしますが、前年度を維持します。
0.2%分は減額できないことになります。
以上の現行ルールを見ていくと、
このままでは、マクロ経済スライドは絵に描いた餅。
プラス改定時にしかマクロ経済スライドが使えないなら、今の経済情勢で考えれば使いものにならないからです。
すると、
いつまでたっても「期間限定」が終わらない。
どんどん期間の終わりが伸びてしまうから。
とすれば、
のちのちに年金をもらう若い世代にツケを回すことになります。
減額スライドできなかった分を積み上げて繰り越す仕組み
そこで、
これを改善して、年金額が減る時にも使えるようにしようというのが改正案です。
単純に毎年どんな状況下でもマクロ経済スライドを発動するという強引な仕組みではありません。
減額できなかった分を積み上げて、減額できる時まで繰越すという仕組みに変えようというもの。
上の事例では1.2%分が減額できていません。
その分を繰り越してまとめて減額する仕組みを狙っています。
例えば、
先ほどの図解では1%分の減額と0.2%分の減額がされませんでした。
その繰越分を抱えたまま、ある年度で3%の増額になりそうだとしましょう。
3%の物価変動があったのに、0.8%分しか年金額が増えないということになります。
今回のニュースまとめ
今回のニュースは
- 年金受け取り世代は年金額の改定方式が若干変わる
- 賃金が物価よりも伸びない場合でも徹底して賃金の指標を使っていく
- マクロ経済スライドが繰越し方式になる
という内容でした。
一言で言えば、
こりゃーこれから年金はホントに増えないぞー
ということ。
賃金が増えなければ、その分保険料を年金にまわせない。
ポイントは現役世代の給料がどれだけ増えていくかにかかっています。
しかし、
アベノミクスと言っても、株価は上がっても給料は増えていかない。
その株価も今や雲行きが怪しくなっています。
プラスの改定がされなければ、マクロ経済スライドも繰越分が増えるだけ。
まさか、「繰越分は2年で消滅」って何かのポイント制度のようにはならない。
改正案が成立すると
賃金の指標を徹底させるのは2021年(平成33(令和3)年)4月から。
マクロ経済スライドの改正は、2018年(平成30年)4月から実施となります。
今回の改正案で見えてきました!
年金の将来は我々の給料に命運がかかっているんです!
シモムー
みんなのねんきん主任講師