この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【前編】|みんなのねんきん

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【前編】|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

どんなニュース?簡単に言うと

2024年10月1日、短時間労働者の社会保険の適用範囲が拡大されました。

しかし、パートタイマーの加入ルールを正しく理解できている方は、必ずしも多くありません。

そこで今回は、短時間労働者の社会保険加入要件について、実務上のポイントを整理してみましょう。

前編の今回は、「企業規模の要件」「労働時間の要件」について掘り下げます。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

いよいよ51人以上100人以下の企業も対象に

現在、パートタイマーは「企業規模の要件(従業員数の要件)」を満たす組織で勤務している場合に、「労働時間の要件」「賃金の要件」「雇用期間の要件」「非学生の要件」のすべてを満たすと、厚生年金への加入が義務付けられる仕組みになっています。

「企業規模の要件(従業員数の要件)」については徐々に規模の小さな組織にまで対象が広げられてきており、本年(2024年)10月1日からは従業員数51人以上100人以下の企業が新たに短時間労働者の社会保険加入の対象となりました。

また、他の4要件の内容は次のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上である
  • 賃金の月額が8万円以上である。
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある。
  • 学生ではない。

 これらの要件には細かなルールが複数設けられているため、実務上は判断が難しいケースも少なくありません。

ここがポイント!2024年10月の適用拡大対象企業

2024年10月1日から、従業員数51人以上100人以下の企業が新たに短時間労働者の社会保険加入の対象とされた。

ポイント1.企業規模の要件(従業員数の要件)

(1)従業員数は “総数” で判断するとは限らない

それでは、各要件の実務上のポイントを見ていきましょう。

初めは企業規模の要件(従業員数の要件)です。

短時間労働者が社会保険加入を求められるかは、勤めている職場の従業員数に左右されます。

この点について日本年金機構が従業員用として発行している『社会保険適用ハンドブック』を見ると、「従業員数51人以上の勤め先」などが今回の適用拡大の対象と説明されています。

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しかしながら、職場の従業員数が51人以上の場合に、必ずパートタイマーが社会保険の加入対象になるわけではありません。

具体例で考えてみましょう。

たとえば、厚生年金に加入している正規従業員が40人、未加入のパートタイマーが20人の計60人が在籍する企業があるとします。

20人のパートタイマーは同社が社会保険適用拡大の対象になれば、厚生年金に加入しなければならない従業員です。

この場合、総従業員数が51人以上なので、本年(2024年)10月からの社会保険適用拡大の対象になるようにも思えます。

しかしながら、この企業は適用拡大の対象ではありません。

企業規模の要件(従業員数の要件)は、「現状で厚生年金の被保険者になっている従業員の人数」で判断するからです。

この企業の場合、現状で厚生年金に加入しているのは正規従業員40人です。

50人以下であるため今回の適用拡大の対象にはならず、同社で勤務するパートタイマーは今後も厚生年金に加入せずに勤務することになります。

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また、70歳以上の従業員が在籍する場合にも注意が必要です。

70歳以上の場合には健康保険にだけ入っており、厚生年金の被保険者にはなっていないのが通常です。

そのため、これらの従業員は人数に含めず、51人以上かを判断することになります。

ここがポイント! 「51人以上」の考え方

企業規模の要件(従業員数の要件)は、現状で厚生年金に未加入のパートタイマーや70歳以上の従業員は除いた人数で判断する。

(2)「本社」と「支店・営業所」の人数は合算する

次は、本社の他に支店や営業所がある企業について、企業規模の要件(従業員数の要件)を考えてみましょう。

たとえば、業務拠点が本社・支店・営業所の3カ所あり、次のような従業員構成の企業があるとします。

  • 本 社 … 正規従業員40人(厚生年金加入)
  • 支 店 … 正規従業員15人(厚生年金加入)
  • 営業所 … 正規従業員5人(厚生年金加入)、パートタイマー5人(厚生年金未加入)

この企業の従業員数は本社40人、支店15人、営業所10人であり、どの業務拠点も50人以下で構成されています。

そのため、それぞれの拠点で勤務する従業員から見れば、「従業員数51人以上の勤務先ではないので、社会保険適用拡大の対象にはならない」と考えてしまいがちです。

しかしながら、この判断は誤りです。

企業規模の要件(従業員数の要件)は “職場単位” で判断するのではなく、“企業単位” で判断するからです。

この企業の場合、確かに業務拠点ごとに見れば従業員数は50人以下になっています。

しかしながら、“企業単位” で見た場合には、厚生年金に加入中の従業員数は60人(=本社40人+支店15人+営業所5人)です。

したがって、51人以上の条件を満たすことになり、今回の社会保険適用拡大の対象企業とされることになります。

そのため、営業所で勤務する5人のパートタイマーがその他の要件も満たすのであれば、厚生年金に加入を義務付けられます。

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社会保険適用拡大に関する企業規模の要件(従業員数の要件)は、法人番号を同じくする業務拠点の被保険者数を合算して判断しなければなりません。

同一法人の本社と支店・営業所とで法人番号が異なることはないので、上記のような取り扱いになるわけです。

「私が勤務する職場は50人以下だから、適用拡大は関係がない」などと早合点しないように注意が必要です。

ここがポイント! 業務拠点が複数ある場合の取り扱い

企業規模の要件(従業員数の要件)では同じ法人番号の業務拠点の被保険者数を合算するので、本社と支店・営業所に所属する人数を合わせて判断する。

(3)“51人以上にならない月” があっても適用拡大の対象になることも

企業規模の要件(従業員数の要件)の最後は、従業員の人数が変動するケースです。

とある企業は人の出入りが多く、従業員の退職と採用が毎月発生しています。

そのため、厚生年金に加入する従業員の人数が “50人以下になる月” もあれば “51人以上になる月” もあり、一定していない状態です。

果たして、この企業は社会保険適用拡大の対象となるのでしょうか。

このようなケースでは、厚生年金に加入する従業員数が「12カ月のうち6カ月以上、51人以上になることが見込まれる」のであれば、適用拡大の対象とされます。

厚生年金に加入する従業員数が51人以上になると見込まれる月が「12カ月のうち6カ月未満」であれば、適用拡大の対象にはなりません。

したがってこの企業の場合には、まず今後1年間の従業員数の推移を予測する必要があります。

その結果、半分以上の月が51人以上になると考えられるのであれば、一定の短時間労働者は社会保険に加入をしなければなりません。

つまり、厚生年金に加入する従業員数が “51人以上にならない月” があったとしても、適用拡大の対象企業とされることがあるわけです。

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ここがポイント! 被保険者数が変動する場合の取り扱い

厚生年金の被保険者数が月によって異なる場合は、51人以上になる月が12カ月のうち6カ月以上見込まれれば適用拡大の対象とされる。

ポイント2.労働時間の要件

(1)労働時間は “総時間数” で判断するとは限らない

次に、労働時間の要件について見ていきましょう。

労働時間の要件は、前述のとおり「週の所定労働時間が20時間以上である」というものです。

この要件ではじめにポイントとなるのは、「20時間以上かどうか」の判断を単なる労働時間ではなく所定労働時間で行う点にあります。

所定労働時間とは、企業と従業員との間で契約をした「通常働く時間」のことを指しています。

したがって、残業時間を含まない「契約上の勤務時間」が週に20時間以上なのであれば、労働時間の要件を満たすとされます。

具体例で考えてみましょう。

たとえば、「1日4時間、週4日勤務契約」と「1日4時間、週5日勤務契約」の2人のパートタイマーがいるとします。

「1日4時間、週4日勤務契約」のパートタイマーの場合、週の所定労働時間は16時間(=4時間×4日)なので、20時間以上の要件は満たしません。

一方、「1日4時間、週5日勤務契約」のパートタイマーは週の所定労働時間が20時間(=4時間×5日)になるため、労働時間の要件を満たすことになります。

したがって、前者は社会保険加入の対象にはならず、後者は対象になると言えます。

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ここがポイント! 残業がある場合の労働時間の要件

労働時間の要件は、残業時間を含まない「契約上の勤務時間」が週に20時間以上かどうかで判断をする。

(2)契約上の労働時間が「週20時間未満」なら、社会保険加入は必ず回避できるのか

それでは、厚生年金への加入を回避するため、雇用契約上の労働時間を意図的に週20時間未満にしていたらどうなるでしょうか。

このような場合には、まず残業時間を含めた実際の労働時間が「2カ月連続で週20時間以上」になるかどうかがポイントとなります。

かりに「2カ月連続で週20時間以上」となった場合、3カ月目以降も同様の状態が継続すると見込まれるのであれば、3カ月目からは社会保険への加入が義務付けられます。

前述の「1日4時間、週4日勤務契約」のパートタイマーのケースで考えてみましょう。

このパートタイマーに2カ月間毎日1時間の残業が発生したため、実際の労働時間は1日5時間だったとします。

その結果、2カ月連続で週20時間の勤務になり、3カ月目以降も同様の残業の発生が見込まれています。

この場合、このパートタイマーは3カ月目からは厚生年金に加入しなければなりません。

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つまり、社会保険への加入回避を目的に、雇用契約上の労働時間を恣意的に週20時間未満に抑制したとしても、実労働時間が週20時間以上となる月が連続するのであれば、契約途中から社会保険への加入義務が発生することになります。

ここがポイント! 週20時間未満の雇用契約でも社保加入が必要になるケース

雇用契約上の労働時間が週20時間未満でも、実労働時間が週20時間以上となる月が連続する場合は、契約途中から社会保険への加入義務が発生する。

(3)所定労働時間が週によって異なる場合

次は1週間に勤務すべき時間が、週によって異なるケースを考えてみましょう。

たとえば、1週目と2週目は「1日4.5時間、週5日勤務」、3週目と4週目は「1日4時間、週4日勤務」で、この4週間の勤務サイクルが繰り返されるパートタイマーがいるとします。

このように、週の所定労働時間が短いサイクルで変動する雇用契約の場合には、この勤務サイクルにおける週の所定労働時間の平均が20時間以上になるかどうかで判断をすることになります。

このケースの場合、1・2週目の週の所定労働時間は22.5時間(=4.5時間×5日)、3・4週目の週の所定労働時間は16時間(=4時間×4日)です。

したがって、4週間の勤務サイクルにおける週の所定労働時間の平均は、19.25時間(=(22.5時間×2週+16時間×2週)÷4週)と計算できます。

週の所定労働時間の平均が20時間以上にはならないため、このケースでは労働時間の要件は満たさないことになります。

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ここがポイント! 所定労働時間が週によって異なる場合の取り扱い

所定労働時間が週によって変動する場合は、週の所定労働時間の平均を算出して20時間以上になるかで労働時間の要件を判断する。

(4)所定労働時間が “週単位” ではない場合

労働時間の要件の最後は、所定労働時間が週単位で定められていないケースです。

たとえば、月単位で所定労働時間が決められている雇用契約の場合には、「週の所定労働時間が20時間以上」という要件を満たしているかは、どのように判断すればよいのでしょうか。

このような場合には、「『月の所定労働時間』を『週の所定労働時間』に換算して20時間以上になるか」で、要件を満たしているかを判断します。

換算の仕方を説明しましょう。

はじめに、月の所定労働時間に12カ月を掛けて、年間の所定労働時間を算出します。

次に、1年間を52週と考え、算出された年間の所定労働時間を52週で割ります。

このような計算により、週の所定労働時間に相当する時間数を導き出していきます。

具体例で考えてみましょう。

月の所定労働時間が「85時間」のパートタイマーが、労働時間の要件を満たしているかを見てみます。

85時間に12カ月を乗ずると、年間の所定労働時間は1,020時間(=85時間×12カ月)と計算されます。

次に1,020時間を52週で除すると、週の所定労働時間に相当する時間数が約19.6時間(≒1,020時間÷52週)となります。

20時間以上ではないため、労働時間の要件は満たさないと判断できるわけです。

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ここがポイント! 所定労働時間が週単位ではない場合の取り扱い

所定労働時間が月単位で決まっている場合は、『月の所定労働時間』を『週の所定労働時間』に換算して20時間以上になるかどうかで労働時間の要件を判断する。

今回のニュースまとめ

【みんなのねんきん】上級認定講師大須賀先生

今回は2024(令和6)年10月1日の社会保険適用拡大を踏まえ、短時間労働者の社保加入の要件についてさまざまな事例を見てきました。

前編のポイントは次のとおりです。

  • 2024年10月1日から、従業員数51人以上100人以下の企業が新たに短時間労働者の社会保険加入の対象とされた。
  • 企業規模の要件は、現状で厚生年金に未加入のパートタイマーや70歳以上の従業員は除いた人数で判断する。
  • 企業規模の要件では、同じ法人番号の業務拠点の被保険者数を合算する。
  • 厚生年金の被保険者数が月によって異なる場合は、51人以上になる月が12カ月のうち6カ月以上見込まれれば適用拡大の対象とされる。
  • 労働時間の要件は、残業時間を含まない「契約上の勤務時間」が週に20時間以上かで判断をする。
  • 雇用契約上の労働時間が週20時間未満でも、実労働時間が週20時間以上となる月が連続する場合は、契約途中から社会保険への加入義務が発生する。
  • 所定労働時間が週によって変動する場合は、週の所定労働時間の平均を算出して20時間以上になるかで労働時間の要件を判断する。
  • 所定労働時間が月単位で決まっている場合は、『月の所定労働時間』を『週の所定労働時間』に換算して20時間以上になるかで労働時間の要件を判断する。

前編では、5つのポイントのうち、「企業規模の要件」「労働時間の要件」の2つを掘り下げました。

後編は、残りの3つのポイント「賃金の要件」「雇用期間の要件」「非学生の要件」を取り上げます。

次回の後編をお楽しみに。

出典・参考にした情報源

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厚生労働省ホームページ:社会保険適用拡大特設サイト

www.mhlw.go.jp

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内|日本年金機構
日本年金機構ホームページ:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内

www.nenkin.go.jp



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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。

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