どんなニュース?簡単に言うと
毎月勤労統計調査の不正調査が発覚。2019年の年明け早々厚生労働省の不祥事がニュースとなっています。この統計調査は労働保険に関係するものなので公的年金には無関係と思いきや、間接的に影響はあります。今回はこの不祥事が及ぼす高年齢雇用継続給付と年金に関してまとめてみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
またも発表された厚労省の不祥事・・
毎月勤労統計調査が正しい方法で処理されていなかったという問題。
2019年1月11日に厚労省からプレスリリースが出ました。
発表によれば、サラリーマンの平均給与額が実はもっと高かったことになりそう。
この統計調査は、労働保険(雇用保険と労災保険)からもらえる給付金に関係するので、直接的には社会保険である公的年金には関係ありません。
ところが、制度の仕組みをよく考えてみると、
「ん?待てよ・・。間接的には関係あるかも・・」
ということで、記事にまとめてみることにしました。
実は、雇用保険から60歳台前半でもらえる給付金(高年齢雇用継続給付)と年金が関係しているからです。
プレスリリースからは具体的な事例がさっぱりわからないので「たぶんこうであろう」という推測になりますが、失敗を恐れず図解を交えて解説してみます。
高年齢雇用継続給付をザックリと説明
何のためにあるお金?
高年齢雇用継続給付(長いので「継続給付」とします)は60歳台前半の給料の低下に応じて、雇用保険からおりる給付金です。
60歳で定年を迎え、年金が出るまで会社の継続雇用制度で働く。
すると、定年時に比べて給料が下がるのが一般的。
いえいえ、そうおっしゃらず、お金出しますからなんとか雇用を継続してください(そうすれば、失業者が増えなくて済むしね)。
というわけで、国は雇用保険から継続給付を出すわけです。
いくらもらえる?
最大で低くなった現在の給料の15%分がもらえます。
給料をベースにして計算するので人によってその金額は異なりますね。
例えば、月20万円もらうAさんなら、月額3万円ももらえるわけです。
ただ、最大の金額をもらうためには60歳の時に比べて6割以下に低下する必要があり、給付金自体にも上限額があります。
例えば、60歳時に月100万円の給料のBさんが、今は低くなって60万円。
だから、9万円寄越せーは無理な話です。
だって十分裕福じゃないですか。
継続給付の上限額に毎月勤労統計が登場
では、継続給付の上限額はどう決まるのか。
そこで、今話題の毎月勤労統計が登場します。
この統計データをもとにして、上限額が毎年8月に変わります。
世の中の給料相場を考えて、「これ以上は支給しない!」とするわけです。
この限度額は低下した給料に継続給付も合計した額で考えます。
仮に上限額を35万円としてみましょう。
上のAさんは
20万円(給料) + 3万円(継続給付) < 上限額(35万円)
ですので、問題なく3万円をもらえます。
一方、Bさんは
60万円(給料) > 上限額(35万円)
低下した給料自体が既にマックスを振り切っているので継続給付は無し。
では、こんなCさんはどうでしょう。
32万円(給料) + 4.8万円(継続給付)= 36.8万円 > 上限額(35万円)
Cさんの場合は、給料自体は上限額に達していませんが、継続給付との合計が上限額に達しています。
このような場合は、「給料+給付金=上限額」となるよう給付額が減らされます。
つまり、
上限額(35万円) ー 32万円(給料) = 3万円(継続給付)
となるんです。1.8万円が減らされました。
もしも上限額がもっと上だったら・・
もしも、統計調査が不正のままのデータを使った厚生労働省があったら(ドリフ風)・・。
そもそも上限額が36万円だったとしましょう。
すると、Cさんは本来ならもっと継続給付をもらえていたはずです。
上限額(36万円) ー 32万円(給料) = 4万円(継続給付)
プレスリリースによれば、適正なデータと公表データとの乖離率は0.6%とのことなので、金額はわずかかもしれませんが、理屈上はこうなるはずです。
高年齢雇用継続給付をもらうと年金が減らされる
さて、ここからは年金の話です。
雇用保険制度から継続給付をもらうと社会保険の年金が減らされます。
正確には、会社勤めをしていた時に掛けた厚生年金保険からもらう老齢厚生年金が減ります。
雇用保険と厚生年金って別制度なのになぜ?
納得いかないですよね。
理屈のうえでは継続給付も老齢厚生年金も生活保障として国からもらう性質のもの。
同じ性質のものは丸々あげない。というのが我が国の社会保障制度のスタンス(民間の保険ではあり得ませんが)。
というわけで、継続給付を最大の15%でもらうと、老齢厚生年金は最大6%減額するルールとなっています。
ということは、追加で継続給付をもらえるCさんのケースでは、年金を更に追加で減額しないと理屈に合いません。
が、しかし。
プレスリリースには、
本来の額よりも多くなっていた方には、返還は求めないこととします。
とありますので、この考え方からすれば、追加で年金を減額するということは無いと考えられます。
悪いのは厚生労働省の方なんですから、これで減額させたら到底国民の納得を得られないでしょう。
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年金が増えることは考えられるか?
今回の不祥事で老齢厚生年金が増えることは考えられるか?
考えられません。
年金が増えるということは、本来の停止額が過大だったということ。
今回の措置は、当時継続給付が少なった人に追加で払うのであって、仮に本来よりも多かった人に返金せよとは言わないとのこと。
継続給付が少なくなれば、年金の停止も小さくなるはずですが、返金により給付金が少なくなることは無いので、つまり、年金が増えることもありません。
メモ
船員が加入する船員保険においてはその障害年金と遺族年金に影響があるため追加給付がされます(老後の年金は既に厚生年金に統合されているので障害・遺族だけです)。説明は割愛しました。
2019年1月17日追記
毎年度の年金額を改定する仕組みの中で「賃金変動率」という指標があります。今回の不適正調査が関係するのでは?と疑問に思ったのですが、この指標は標準報酬額の平均から算出するものなので関係ありません。
フリーダイヤルに電話してみた
何を隠そう、私も平成16年4月以降に雇用保険の失業給付を受けたことがあるので、当事者の一人なんです。
で、それもあるんですが、ここで取り上げた継続給付の考え方が正しいのか電話してみました。
しかし・・・。
個別に該当するか否かは答えられない、具体的事例もわからない、とにかくわからない。わからないものはわからない・・。
以上
ということで、電話口の人もなんだか気の毒だなと。
ただ、これだけは電話して良かったことが!
私が失業給付を受けた時と現在の住所が異なっています。
で、今のうちに住所変更をしておくと、今後のシステム改修で通知がやってくるはずだとのこと。
- 氏名
- 生年月日
- 性別
- 新住所
- 雇用保険の被保険者番号
を近くのハローワークに伝えるべし。とのことでした。
心当たりがある人は、少し事態が落ち着いてから手続きを取っておいた方が良いでしょう。
今回のニュースまとめ
今回は毎月勤労統計の不正調査が年金にどう影響するかを考えてみました。
ポイントは次のとおり。
- 継続給付は60歳の時に比べて6割以下に低下した高齢期の労働者に支給するもので給付金には上限額がある
- 継続給付の上限額を決めるにあたって毎月勤労統計が使われており、この統計調査に不正があったため追加で給付することとなった
- 継続給付を受給すると年金が最大6%減額となるが、今回の追加措置で年金には影響が無いと思われる
今回取り上げた高年齢雇用継続給付は、育児休業や介護休業の時にもらえるお金とも共通の考え方になっています。
つまり、毎月勤労統計のデータを使い、給付金の上限額を決めて、それ以上は支給しないという部分です。
この上限に抵触していた人が、今回の不祥事の影響を受けると思われます。
現時点で、コンピューターのシステムを改修しているとのことですから全体像がハッキリするまではまだまだ時間がかかりそう。
とはいえ、現時点でもわからないことだらけ。
今回、参考にしたプレスリリースのページを見てみたのですが、具体的にどういう事例があるのか全くわからず、同じようなリーフレットが並んでいるだけで知りたいことがどこにも書いてありません。
一般の人から見て、「もらえるものがもらえていない」ということだけはわかるのですが、煙に巻かれている感じがします。
早くに解決するのは当然ですが、もっと一般の人にわかりやすい情報提供をしてもらわないと、厚生労働省への信頼回復は無理じゃないかと思います。
シモムー
みんなのねんきん主任講師