年金ニュース

え!そうだったの?!国民年金保険料「納付率 78%」のナゾに迫る

2022年7月14日

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

 どんなニュース?簡単に言うと

2022年6月、厚生労働省は国民年金保険料について「令和3年度の最終納付率は 78.0%」と発表しました。

しかしながら、実際には「保険料は 78%が納められ、納められていないのは残りの 22%」という状況とは大きく異なります。

そこで今回は、「納付率 78%」の意味を解き明かします。

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どんなニュース?もう少し詳しく!

『国民年金の加入・保険料納付状況』は第1号被保険者のデータ

国民年金の加入の仕組みには、①必ず入らなければいけない「強制加入」、②希望者が入る「任意加入」の2種類があります。

さらに、①の「強制加入」は第1号、第2号、第3号という3つの加入区分で構成されています。

従って、国民年金の加入者には第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者、任意加入被保険者の計4種類が存在することになります。

ただし、国民年金の保険料は、4種類の加入者全員が納めているわけではありません。

例えば、厚生年金に加入して働いている人は原則として国民年金の第2号被保険者に分類されますが、第2号被保険者は厚生年金の保険料とは別に国民年金の保険料を納めることはありません

また、第2号被保険者に扶養されている一定の配偶者は第3号被保険者に区分されますが、第3号被保険者には保険料を納める法律上の義務がありません

そのため、国民年金の保険料を単独で納めているのは、自営業者やフリーランサー、学生などの加入区分である第1号被保険者と任意加入被保険者のみになります。

2022(令和4)年6月 23 日、厚生労働省は『令和3年度の国民年金の加入・保険料納付状況について ~令和3年度の最終納付率は 78.0%~』という、次のような資料を報道機関に発表しました。

【みんなのねんきん】え!そうだったの?!国民年金保険料の「納付率 78%」のナゾに迫る

(出典:厚生労働省ウェブサイト(タップで拡大))

これは、国民年金の加入状況や保険料の納付・免除の状況に関する統計データで、毎年度、発表されているものです。

しかしながら、前述のとおり国民年金の全ての加入者が保険料を納めているわけではないので、この資料は第1号被保険者の情報を中心とする統計データであるといえます。

ここがポイント! 厚生労働省発表の『国民年金の加入・保険料納付状況について』  

厚生労働省が発表した『令和3年度の国民年金の加入・保険料納付状況について』は、第1号被保険者の情報を中心にまとめた統計データである。 

第1号被保険者の半分は保険料を免除されている

厚生労働省が発表した資料のタイトルにある「令和3年度の最終納付率は 78.0%」の真相を解明するに当たり、大きなポイントとなる事実があります。

それは、自営業者などの第1号被保険者は「半数近くの人が保険料を免除・猶予されている」ということです。

2022(令和4)年3月末現在、第1号被保険者の人数は 1,412 万人ですが、このうち国民年金保険料の免除または猶予に関する何らかの制度を利用している人は、45.9%に当たる648 万人にも上ります。

つまり、第1号被保険者のうち通常の保険料を納付しなければならないのは、残りのわずか 54.1%に過ぎないということです。

第1号被保険者の半数近くが保険料を免除または猶予されているという実態があるのですから、厚生労働省発表の「令和3年度の最終納付率は 78.0%」という文章が、「保険料は78%が納められ、納められていないのは残りの 22%だけである」という意味でないことは明白です。

【みんなのねんきん】え!そうだったの?!国民年金保険料の「納付率 78%」のナゾに迫る

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このような説明をすると、次のように考える方がいるかもしれません。

チャーミー
保険料を免除されている人が多いのは、コロナの影響かしら?

しかしながら、そうとは言えないようです。

今回発表された「令和3年度の最終納付率」は、2019(令和元)年度分の保険料(2019 年4月分から 2020 年3月分の保険料)の納付率だからです。

なお、第 1 号被保険者が保険料を免除または猶予されている割合は、都道府県によっても異なります。

保険料を免除・猶予されている人の割合が最も高いのは沖縄県

同県在住の第 1 号被保険者の 68%が、免除などに関する何らかの制度を利用しています。

一方、保険料を免除・猶予されている人の割合が最も低いのは東京都

都内在住の第 1 号被保険者のうち、免除などに関する何らかの制度を利用している人は38.2%です。

沖縄県と東京都では、保険料を免除・猶予されている割合が 30 ポイント近くも異なるという、大きな違いが生じています。

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ここがポイント! 保険料の免除・猶予が多い第1号被保険者

45.9%の第 1 号被保険者は、保険料が免除または猶予されている。そのため、通常の保険料を納付しなければならないのは、第1号被保険者全体の半数程度である。

保険料の全額免除者を計算から除外した「厚生労働省発表の保険料納付率」

第 1 号被保険者の半数近くは保険料を免除または猶予されているため、通常の保険料を納めていません。

それにもかかわらず、保険料の納付率が 78%と高い数字で発表されたのはなぜでしょうか。

理由は、厚生労働省が発表した資料では、保険料の全額を免除または猶予された人を除外して、納付率を算出しているからです。

具体的には、次の制度の利用者が、納付率の計算の対象外とされています。

  1. 保険料免除制度:法定免除、申請免除の全額免除
  2. 学生納付特例制度
  3. 納付猶予制度
  4. 産前産後期間保険料免除制度

上記の制度利用者を除外した結果、納付率の計算対象となっているのは第1号被保険者と任意加入被保険者の合計のわずか 57.2%でしかありません。

つまり、厚生労働省発表の納付率は、「第1号被保険者と任意加入被保険者の中の“一部の人”がどのくらい保険料を納めたか」を示しているに過ぎないわけです。

従って、発表された 78%という値が、国民年金保険料の納付実態を的確に示す数値と言えるのかには大いに疑問が残ります。

【みんなのねんきん】え!そうだったの?!国民年金保険料の「納付率 78%」のナゾに迫る

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「国民年金の保険料がどの程度納められたのか」という真の実態は、第 1 号被保険者と任意加入被保険者の全員を納付率の計算対象にすることで、初めて確認できます。

そのためには、保険料の全額を免除または猶予された人も含んで、納付率を計算しなければなりません。

全額を免除・猶予された人は保険料を全く納めていないのですから、実際の納付率は発表された 78%よりも大きく低下するはずです。

以上を踏まえ、第 1 号被保険者と任意加入被保険者の全員を対象とした場合の納付率を計算すると、約 45%(≒57.2%×78%)と算出されます。

つまり、納められた保険料は「第 1 号被保険者と任意加入被保険者の全員が保険料をもれなく納めた場合」の半分に満たない状況にあるわけです。

これが、国民年金保険料の納付の真の実態と言えるのではないでしょうか。

なお、保険料の納付率は、都道府県によっても異なります。

納付率が最も高いのは島根県で 88.51%

反対に、納付率が最も低いのは沖縄県で 69.56%となっています。

沖縄県の場合、前述のとおり「保険料を免除・猶予された人の割合」は日本で一番高く、「免除・猶予されていない人が保険料を納付した割合」は日本で一番低いという結果が示されています。

【みんなのねんきん】え!そうだったの?!国民年金保険料の「納付率 78%」のナゾに迫る

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ここがポイント! 厚生労働省の保険料納付率が示すもの  

厚生労働省発表の保険料納付率は、保険料の全額を免除・猶予された人を除外して算出される。そのため、「第1号被保険者と任意加入被保険者がどのくらい保険料を納めたか」を的確に示す数値と言えるのかは大いに疑問である。  

実際の保険料納付率が低くても、国民年金はつぶれない?

ここまでの説明を読んだ皆さんの中には、次のように考えている方がいるのではないでしょうか。

チャーミー
実際の保険料納付率が「全員がキチンと納付した場合」の半分にも満たないんじゃ、国民年金はつぶれちゃうんじゃないの?

ところが、そのような心配はなさそうです。

国民年金はもともと保険料を納められない人も加入する制度」として設計されているからです。

国民年金がスタートしたのは今から約 60 年前のことですが、国民年金ができる以前の日本では、国の年金制度を利用できるのは原則として会社員か公務員に限定されていました。

つまり、わが国には「会社員や公務員であれば国の年金制度の恩恵を受けられるが、その他の国民は受けられない」という時期があったわけです。

「同じ日本国民であるにもかかわらず、働き方や立場の違いにより、国から受けられる補償が大きく異なる」

このような大きな矛盾・不合理を解消するため、「今まで国の年金制度の対象外とされていた人」が加入する年金制度を新設することになりました。

これが国民年金の成り立ちです。

そのため、国民年金では「障害を持つために働くことが叶わない人」や「経済的に保険料を納めることが困難な人」なども当然に加入対象とし、保険料を納められなくても何らかの恩恵を受けられるように制度が設計されています。

例えば、国民年金では「加入者が納めた保険料」と「税金」の2つを原資に年金が支払われますが、保険料を免除された人に対しては、一部の制度を除き「税金」のみを原資に年金の支払いを行います。

そのため、多くの人が保険料を免除・猶予され、実際の保険料納付率が低下したとしても、それによって国民年金の財政を直接的に圧迫することはないようです。

ここがポイント! 保険料の免除・猶予が多くても、国民年金はつぶれない?

保険料を免除された人に対しては、原則として「税金」のみを原資に年金を支払う。そのため、多くの人が保険料を免除・猶予されても、それによって国民年金の財政を直接的に圧迫することはないようである。 

今回のニュースまとめ

【みんなのねんきん】上級認定講師大須賀先生

今回は 、厚生労働省が発表した「国民年金保険料の納付率」について見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  • 『令和3年度の国民年金の加入・保険料納付状況について』は、第1号被保険者の情報を中心とする統計データで、厚生労働省が発表している。
  • 第 1 号被保険者は約 46%が保険料を免除・猶予されているので、通常の保険料を納付するのは全体の半数程度に過ぎない。
  • 厚生労働省発表の保険料納付率は、保険料の全額を免除・猶予された人を除外して算出されている。
  • 保険料を免除された人に対しては、原則として「税金」のみを原資に年金を支払うため、国民年金の財政を直接的に圧迫することはないようである。

厚生労働省では、「保険料の納付率は『納付義務がどれだけ果たされているか』を示す数値なので、納付義務が免除された保険料免除者などは計算に含む必要がない」という考え方を採用しているのだと思います。

確かに、この考えには一理あります。

しかしながら、今回のように「令和3年度の最終納付率は 78.0%」という点のみを強調して報道発表をすると、多くの人は「自営業者やフリーランサーなどの保険料は 78%が納められ、納められていないのは残りの 22%だけである」と理解してしまいます。

第1号被保険者の実態を正しく伝え、制度への理解を促すことも必要ではないかと思います。

出典・参考にした情報源

厚生労働省プレスリリース:令和3年度の国民年金の加入・保険料納付状況について

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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。