どんなニュース?簡単に言うと
国から年金を受け取っていると、6月上旬に日本年金機構から『年金額改定通知書』や『年金振込通知書』と書かれたハガキが届くことをご存じですか。今回は、これらのハガキの内容について見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
6月に「2つの通知」が一体となって届く
年金を受け取っていると、毎年6月に「大切なお知らせ」と書かれた圧着式のハガキが届きます。
このハガキは“新年度の年金額”を案内するための通知で、開くと真ん中の面には『年金額改定通知書』、右側の面には『年金振込通知書』という、異なるタイトルが印刷されています。
これは、“新年度の年金額”に関する2つの通知が一体となり、送られてくるものです。
ところで、“新年度の年金額”を案内するための通知であるにもかかわらず、なぜ、2021(令和3)年度が始まってから2カ月以上経過した6月上旬に届くのでしょうか。
「新年度に入ったら、すぐに送るべきでは?」と思う方もいるかもしれませんね。
実は、このような取り扱いが行われるのには、理由があります。
国の年金は“後払い”で支払われるからです。
公的年金制度では、決定した年金額を6回に分割して支払うことになっており、毎偶数月の 15 日に“その前の2カ月分”の年金が支払われます。
例えば、2月には“前年 12 月分と当年1月分の年金”が年金受給者の指定口座に振り込まれます。
これは、次のような法律の定めに基づいて行われています。
国民年金法第 18 条第3項前段
年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。
厚生年金保険法第 36 条第3項前段
年金は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれその前月分までを支払う。
このように、年金は“後払い”で支払われるものです。
そのため、新年度の最初の年金支給月である4月に支払われるのは、前年度の2・3月分の年金となります。
新しい年度の4月に支払っているにもかかわらず、中身は“前年度分の年金”になるわけです。
“新年度分の年金”が最初に支払われるのは、4・5月分を支払う6月になります。
そこで、その時期に合わせ、“新年度の年金額”の案内通知が送られるものです。
ココがポイント!6月に“新年度の年金額”の通知が届く理由
“新年度分の年金”の最初の支払いは6月なので、そのタイミングに合わせて『年金額改定通知書』と『年金振込通知書』とが一体になったハガキが年金受給者に送られる。
法律の規定によって年金額が改定されると届く『年金額改定通知書』
それでは、『年金額改定通知書』と『年金振込通知書』のそれぞれについて、詳しく見ていきましょう。
初めに『年金額改定通知書』です。
実は、『年金額改定通知書』は、毎年度必ず発行されるわけではありません。
法律の規定により、物価や賃金の変動に応じて“新年度の年金額”が改定された場合に、発行されることになっています。
2021(令和3)年度については、前年度よりも年金額が 0.1%減額されましたので、『年金額改定通知書』の発行対象となったわけです。
ちなみに、2021(令和3)年度の年金額がなぜ 0.1%減額されたかについては、本サイトの以下のコラムで詳しく解説していますので、興味のある方は参照してください。
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知らないと恥をかく2021年度年金減額のワケ 前編|みんなのねんきん
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それでは、『年金額改定通知書』の記載事項を見ていきましょう。
初めに、『年金額改定通知書』の上部の「年金の種類」というところには、受け取っている年金の種類が印字されます。
さらに、その下にある小さな表の中には「基礎年金番号」「年金コード」という2つの欄が設けられており、それぞれ該当する数字が印字されることになります。
「基礎年金番号」とは、年金の情報管理用に個人に割り当てられた 10 桁の数字で、4桁の数字と6桁の数字の組み合わせで構成されています。
実は、年金に関する個人情報を「基礎年金番号」で管理するようになったのは、平成に入ってからのことになります。
具体的には、「基礎年金番号」の使用が始まったのは 1997(平成9)年1月からなので、比較的歴史の浅い番号制度といえるでしょう。
ちなみに、「基礎年金番号」は最初の4桁の数字を見れば、その番号がどの地域で発行されたかが分かる仕組みになっています。
「基礎年金番号」の右側には、「年金コード」という欄があります。
「年金コード」とは、受け取っている年金の種類を示す4桁の数字になります。
「年金コード」には種類が非常に多いという特徴があり、30 種類以上のコードが用意されています。
なお、市役所や区役所などで国民年金業務を担当している部署では、「年金コード」とは呼ばずに「給付コード」という呼び方をするところが多いようです。
それでは次に、その下にある大きな表を見てみましょう。
まず、表の上の「受給権者氏名」というところに、年金を受け取っている人の氏名が印字されます。
次に表の中を見ると、「国民年金(基礎年金)」「厚生年金保険」「合計年金額(年額)」という、3つの要素で構成されていることが分かります。
例えば、現役時代に会社勤めをしていた方の場合、公的年金制度は国民年金と厚生年金保険の2つに加入していたことになります。
そのため、老後の年金も国民年金と厚生年金保険の2つの制度から、それぞれ受け取ることになります。
そこで、『年金額改定通知書』では、「それぞれの制度からいくらずつもらえるか」が分かるよう、国民年金と厚生年金保険の欄を別にして記載する仕組みになっているものです。
さらに、「国民年金(基礎年金)」「厚生年金保険」の2つの欄は、「基本額」「支給停止額」「年金額」という3項目で構成されています。
3つの項目の意味を簡単に説明すると、次のとおりです。
- 基 本 額 … おおもとの金額
- 支給停止額 … 何らかの理由で、支払いが行われない額
- 年 金 額 … 実際に支払い対象になる額
つまり、この3つの項目は、「基本額」-「支給停止額」=「年金額」という関係にあります。
実は、『年金額改定通知書』は年金額の記載方法に大きなポイントあります。
それは、記載されている額がすべて“1年間の金額”であるという点です。
「年金なんだから、“1年間の金額”が書かれているのは当たり前じゃないか」と思われかもしれませんが、この点が後述する『年金振込通知書』との大きな相違点になります。
なお、「国民年金(基礎年金)」の年金額欄に“*(アスタリスク)”が印刷されるケースも存在します。
これは、とある救済措置を受けていることを示すマークです。
今から 10 年ほど前、「3号不整合記録問題」という社会問題が発生したことがあります。
これは、専業主婦の方など、多くの第3号被保険者の加入記録に誤りがあったという問題です。
実は、この問題を解決するにために加入記録を正しい状態に直すと、現在もらっている年金額が大きく減額されてしまう方たちが存在することが判明しました。
そこで、一定の要件を満たす場合には、加入記録を正しく直したとしても年金額は大きく減らさず、「受給中の年金額の9割分は必ずもらえるようにする」という特例措置を設け、救済が行われたものです。
“*”はその対象であることを示しています。
「3号不整合記録問題」は理解するのが難しい問題のため、本稿での説明はこの程度にしておきます。
最後に、『年金額改定通知書』の最下部に「厚生労働大臣」という記載と「大臣の印の印影」が印刷されています。
『年金額改定通知書』に記載されている金額は、「厚生労働大臣が決定した金額である」ということを示しているものです。
ココがポイント! 『年金額改定通知書』とは
『年金額改定通知書』とは、物価や賃金の変動に応じて新年度の年金額が改定された場合に発行される、“1年間の年金額”を記載した通知である。
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“1回の振込額”が記載された『年金振込通知書』
次に、『年金振込通知書』について見ていきましょう。
先ほど、『年金額改定通知書』は“1年間の金額”が記載されていると説明をしましたが、『年金振込通知書』は“1回の振込額”が記載されています。
この点が、両通知の大きな相違点の一つになります。
また、『年金額改定通知書』は、物価などの変動に応じて新年度の年金額が改定されなければ原則として発行されませんが、『年金振込通知書』は年金額に改定がなくても6月に発行されることになっています。
これも両通知の大きな相違点といえるでしょう。
ところで、元来『年金振込通知書』は年金の支払いのたびに毎回、発行することになっていました。
つまり、“振込のお知らせ”として、年に6回発行されていたものです。
しかしながら、平成 10 年代初頭、経費削減などを目的にこのルールが見直され、原則として“新年度分の年金”が最初に支払われる6月の発行だけに変更されたという経緯があります。
それでは、『年金振込通知書』の記載内容を見てみましょう。
上部には「振り込みは偶数月に行われること」などが記載されており、さらに、『年金額改定通知書』と同様に「年金の種類」「基礎年金番号」「年金コード」が印字されるスペースがあります。
その下には、年金をもらう人の氏名のほかに「振込先」という項目があります。
ここには、年金をもらっている人が指定した「年金受取用の金融機関の情報」が印字されます。
この「振込先」は、『年金額改定通知書』には印字されていない情報です。
さらに、「振込先」の下には、通知の大半を占める大きな表が印刷されています。
この表は、まず最上部の「年金支払額」欄に、振込の対象となる“おおもとの金額”が記載されます。
次に、年金の支払いに先立ち、「年金支払額」欄に記載されている額から天引きされる保険料や税金の明細が記載されます。
最後に、最下部の「控除後振込額」欄に、実際に口座に振り込まれる額が印字されることになります。
年金から天引きされるものとしては、「介護保険料額」「所得税額および復興所得税額」「個人住民税額」が印刷されています。
さらに、表の中に印刷はされていませんが、「後期高齢者医療保険料」または「国民健康保険料(税)」のいずれかが天引きされることもあり、その場合には該当の保険料の名称が表内に印字されることになります。
ちなみに、介護保険料などを年金から天引して支払う仕組みを特別徴収と呼びます。
ココがポイント! 『年金振込通知書』とは
『年金振込通知書』とは“1回の振込額”が記載された通知書で、年金から天引きされる「介護保険料額」「所得税額および復興所得税額」「個人住民税額」「後期高齢者医療保険料」「国民健康保険料(税)」なども記載されている。
『年金振込通知書』のよくある疑問4選
それでは、年金をもらっている人が『年金振込通知書』に関して疑問に思いやすい事項を、いくつか紹介しましょう。
《疑問1》『年金振込通知書』の記載金額は必ずもらえるのか。
『年金振込通知書』には、新年度の毎回の振込金額が記載されています。
そのため、「ココに記載されている金額は、必ずもらえるのだろうか」「支払いが確約された金額なのだろうか」などと疑問に思う方がいます。
しかしながら、『年金振込通知書』に記載されている金額は、あくまで通知書を発行する時点での予定額になります。
そのため、その後の事情の変化により、振込額が変更になることも少なくありません。
例えば、『年金振込通知書』が発行された時点では会社勤めをしていなかった人がいるとします。
この場合、その人が6月に受け取る『年金振込通知書』には、在職による年金のカットが行われていない額が印字されています。
しかしながら、その後に勤めを始めれば、在職による年金のカットが行われることもあるのですから、6月に受け取った『年金振込通知書』の記載額が確約されていることにはなりません。
《疑問2》保険料などの天引きを辞める方法はないか。
『年金振込通知書』を見て、年金からさまざまなお金が天引きされている事実を知ると、「この天引きを辞められないか」と考える方もいます。
実は、あまり知られていないのですが、年金から特別徴収されている保険料の中には、特別徴収を辞められるものが存在しています。
「後期高齢者医療保険料」と「国民健康保険料」です。
ただし、年金事務所に電話をして「年金から国民健康保険料を天引きするのを辞めてほしい」などと頼んでも、特別徴収を辞めることはできません。
年金事務所は、市役所や区役所からの依頼に応じて天引きしているだけであり、年金事務所自身に保険料の特別徴収を辞める権限がないからです。
そのため、「後期高齢者医療保険料」や「国民健康保険料」の特別徴収を辞めたい場合には、市役所や区役所のそれぞれの担当窓口で相談をする必要があります。
また、年金からの天引きを辞められたからといって、「後期高齢者医療保険料」や「国民健康保険料」を支払わなくてよくなるわけではありません。
特別徴収を辞めた場合には、かわりに市役所や区役所が発行した納付書を使って支払うなどが必要になります。
このような保険料の支払い方を普通徴収といいます。
ただし、同じように年金から特別徴収されている保険料でも、介護保険料については年金からの特別徴収を辞めることはできません。
《疑問3》なぜ、今までよりも税金の額が増えているのか。
『年金振込通知書』を見ると、年金額が昨年度と変わらないにもかかわらず、天引きされる所得税の金額が増えているというケースがあります。
通常、このような現象は、昨年届いた『扶養親族等申告書』という書類を返送していないことにより発生します。
『扶養親族等申告書』とは、正式には『令和3年分公的年金等の受給者の扶養親族等申告書』といい、老齢年金を受け取っている人が扶養家族の状況などを申告するための用紙です。
この用紙を指定された期限までに返送することにより、申告された扶養家族の状況に基づいて新しい所得税額が決定され、2021(令和3)年2月の年金支払い時から用いられることになります。
もしも、この用紙を提出していなかった場合には、家族に関する所得税の控除などが正しく適用できないため、年金から差し引かれる所得税が多くなってしまいます。
ただし、税額が多くなった『年金振込通知書』が届いたとしても、その後に必要事項を記載した『扶養親族等申告書』をキチンと提出すれば、税額が遡って計算し直され、過不足のない正しい税額に変更されることになっています。
《疑問4》6月なのに『年金振込通知書』が届かないのはなぜか。
『年金振込通知書』は“振込のお知らせ”です。
そのため、振り込む年金がないなどの場合には、6月であっても『年金振込通知書』は発行されません。
典型的なケースは、在職中のために老齢厚生年金が全く支払われない場合です。
また、年金を担保に融資を受けている場合も、『年金振込通知書』は発行されません。
実は、国から受け取っている年金を担保にすることにより、独立行政法人福祉医療機構という団体から融資を受けることが可能です。
この場合、借りたお金の返済が終了するまでは、年金は本人名義の口座に直接振込まれることはなく、独立行政法人福祉医療機構に振り込まれることになっています。
年金が本人に直接振り込まれないのですから、“振込のお知らせ”である『年金振込通知書』も発行されなくなるものです。
ココがポイント! 『年金振込通知書』のよくある疑問
『年金振込通知書』は、「記載金額は必ずもらえるのか」「特別徴収を辞める方法はないか」「なぜ、税額が増えたのか」「通知書が届かないのはなぜか」など、さまざまな疑問を生じやすい。
今回のニュースまとめ
今回は、年金受給者に対して6月に送られる『年金額改定通知書』『年金振込通知書』について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- “新年度分の年金”の最初の支払いは6月なので、そのタイミングに合わせて『年金額改定通知書』と『年金振込通知書』とが一体になったハガキが年金受給者に送られる。
- 『年金額改定通知書』とは、物価や賃金の変動に応じて新年度の年金額が改定された場合に発行される、“1年間の年金額”を記載した通知である。
- 『年金振込通知書』とは“1回の年金振込額”が記載された通知で、年金から天引きされる「介護保険料額」「所得税額」なども記載されている。
- 『年金振込通知書』は、「記載金額は必ずもらえるか」「特別徴収を辞める方法はないか」など、さまざまな疑問を生じやすい。
6月に『年金振込通知書』が届かないケースは、もう一つあります。
年金をゆうちょ銀行の窓口で直接、受け取っている場合です。
実は、年金は口座振込で受け取る方法の他に、「ゆうちょ銀行の窓口で直接、受け取る」というやり方も用意されています。
この場合には、年金が口座に振り込まれるわけではないので、“振込のお知らせ”である『年金振込通知書』も発行されず、窓口で直接受け取る人専用の別の通知書(『年金送金通知書』といます)が発行されます。
しかしながら、年金を受け取っている方の中には高齢の方も多いため、ゆうちょ銀行の窓口で直接、年金を受け取っているにもかかわらず、6月になると「『年金振込通知書』が届かない!」と慌ててしまう方が少なくありません。
それほど年金の手続きは、一般の方にとって分かりづらいということなのかもしれません。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ウェブサイト:
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令和3年4月からの年金額をお知らせする「年金額改定通知書」、「年金振込通知書」の発送を行います
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師