どんなニュース?簡単に言うと
2021 年 10 月 6 日、「日本年金機構が年金受給者に『別人の年金額を印刷した年金振込通知書』を大量に送付した」という、とんでもないニュースが飛び込んできました。間違って送られた通知書の数は、最終的に約98万人分。今回はこのトラブルの内容を見ていきましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
振込額が変わると届く『年金振込通知書』
今回、印刷ミスの対象となったのは、『年金振込通知書』という書類です。
『年金振込通知書』とは、国民年金や厚生年金を受け取っている皆さんに届く、年金の振込金額のお知らせハガキです。
ただし、振込金額のお知らせと言っても、年金の振込のたびに『年金振込通知書』が必ず届くわけではありません。
年金の振込は年に6回、毎偶数月に行われるのが原則ですが、通知書については届く月と届かない月とがあります。
必ず届くのは、年金が6月に振り込まれるとき。
年金は“後払い方式”で支払われるため、新年度分の年金が初めて支払われるのは6月の振込になります。
4月分と5月分の年金が6月に振り込まれるからです。
従って、新年度分の年金の振込開始に合わせ、6月に『年金振込通知書』が発行されることになっています。
また、『年金振込通知書』は、年金の振込金額・振込口座が変更になった場合にも発行が行われます。
実は、毎年 10 月は、多くの年金受給者の年金振込額が変更になる時期でもあります。
理由は後ほど説明しますが、このような事情から、毎年 10 月には大量の『年金振込通知書』が日本年金機構から発送されるという特徴があります。
そのような大事な時期に「『年金振込通知書』に他人の年金額を印刷して発送する」という、大きな不祥事が発生したわけです。
ここがポイント!『年金振込通知書』の発送時期
『年金振込通知書』は、年金の振込金額が変更になった場合にも発送される。毎年 10 月は、振込金額が変更になる年金受給者が多いため、通知書の発送量も多い。
一般競争入札で選ばれた9社が業務を実施
2021(令和3)年 10 月の『年金振込通知書』の作成業務と発送業務は、「一般競争入札」で選ばれた複数の民間企業に委託されています。
「一般競争入札」とは、国や地方自治体・公的団体などが業務を委託する企業を決定する手法のひとつで、一定の入札資格を持つ企業の中から“最も有利な条件”を提示したところと契約をする方法です。
この手法は、入札を行う団体が委託企業を恣意的に決定しづらく、透明性・公平性の高い方法だと言われています。
2021(令和3)年 10 月の通知書作成・発送業務に関する「一般競争入札」で、業務を落札した企業の数は9社。
合計で約 3,200 万件の『年金振込通知書』の作成・発送について、2021(令和3)年5月に日本年金機構と各社との間で契約が締結されています。
今回の印刷ミスは、日本年金機構と契約を取り交わした9社のうち、サンメッセ㈱という企業が作成・発送した『年金振込通知書』で発生しました。
サンメッセ㈱は今回の業務について、300 万件の通知書を 14,685,000 円で作成・発送する条件で業務を落札しています。
同社を含め、2021(令和3)年 10 月発送の『年金振込通知書』に関する業務を落札した企業・受注予定数などは、次のとおりです。
ここがポイント! 『年金振込通知書』の印刷ミスを発生させた受託企業
10 月の『年金振込通知書』に関する業務は9社が受託したが、今回の印刷ミスはサンメッセ㈱という企業が作成・発送した通知書で発生した。
年金受給者 98 万人の年金情報が漏えい
報道によるとサンメッセ㈱は、今回受託した 300 万件を超える『年金振込通知書』の印刷を全て誤り、そのうち約 97 万 5,065 人分については、記載を誤ったまま発送してしまったとのことです。
つまり、年金受給者約 98 万人分の“年金にかかわる個人情報”が漏えいしたわけです。
誤った『年金振込通知書』の発送先は、愛知、三重、福岡、和歌山、奈良の5県に住む年金受給者。
内訳は愛知 804,033 件、三重 1,964 件、福岡 166,026 件、和歌山 3,041 件、奈良1件とのことです。
誤った通知書が発送された地域は市区町村別に判明しており、次のとおりです。
今回の印刷ミスを受け、日本年金機構では正しい『年金振込通知書』を 10 月 11 日(月)に発送しており、別途、誤った通知書を返送してもらうための返信用封筒も送られます。
また、年金の振込には影響がないため、10 月 15 日(金)には正しい金額が指定口座に入金になるとのことです。
なお、日本年金機構では、今回の印刷ミスに関する専用の電話相談窓口「振込通知書お問い合わせダイヤル」を開設し、対応に当たっています。
日本年金機構の「振込通知書お問い合わせダイヤル」
- 番 号:0120-002-730
- 開設期間:2021 年 10 月 7 日(木)~同 29 日(金)
- 受付時間:月曜日 8:30~19:00
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- 火~金曜日 8:30~17:15
- 10 月 16 日(土)、17 日(日)9:30~16:00
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ここがポイント! 誤った『年金振込通知書』の発送件数・地域
誤った『年金振込通知書』は、愛知、三重、福岡、和歌山、奈良の5県に住む約 98 万人の年金受給者に発送された。ただし、10 月の年金の振込は正しく行われる予定である。
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届いた通知書の「中身」は別人のもの
それでは、印刷ミスの内容を見ていきましょう。
10 月に発送された『年金振込通知書』は、前述のとおりハガキ形式の通知です。
ハガキの宛名面には、年金受給者の住所・氏名が印字されていますが、『年金振込通知書』とは書かれていません。
単に「大切なお知らせ」との記載があるのみです。
圧着式のハガキになっているので剥がして中面を見ると、
- 振り込まれる年金の種類
- 基礎年金番号・年金コード
- 年金を振り込む金融機関名・支店名
- 年金の支払額
- 年金から天引きされる税金・保険料の明細
- 実際の振込額
- 前回の支払額・天引き額
など、年金にかかわる重要な個人情報が多数、印刷されています。
今回、発生したミスの内容は、何と『年金振込通知書』の「宛名面」と「中面」とで“別人の情報”を印刷し、発送してしまったというものです。
つまり、年金受給者の方が自分宛の『年金振込通知書』が届いたので中を見ると、全く別人の基礎年金番号や年金を振り込む金融機関名、年金支払額などが印刷されていたわけです。
ただし、通知書の中面には、「住所」「氏名」などの個人を特定する情報の印字はありません。
そのため、今回の誤った『年金振込通知書』を受け取ったとしても、中に印刷されている年金情報が誰のものかは、全く判別がつかない状態にあります。
しかしながら、自分の年金にかかわる多数の情報が、見ず知らずの誰かの手に渡ってしまった点を考えると、年金受給者としては決して看過できない不祥事と言えるでしょう。
ここがポイント!『年金振込通知書』の印刷ミスの内容
『年金振込通知書』の「宛名面」と「中面」とで“別人の情報”を印刷し、発送してしまった。ただし、「中面」の年金情報が誰のものかは、見ても分からない。
年金から引かれる「介護保険料額」が変わる 10 月の通知書
それでは、本稿の冒頭でお話をした「10 月に年金振込額が変更になる人が多い理由」を説明しましょう。
それは、10 月に振り込まれる年金は、天引きされる介護保険料の金額が変更になる人が多いためです。
介護保険には、第1号被保険者と第2号被保険者という2つの加入区分があり、第1号被保険者には「65 歳以上の人」が、第2号被保険者には「40 歳以上 65 歳未満の医療保険加入者」が該当します。
65 歳になって介護保険の第 1 号被保険者に該当し、受け取る年金額が年額で 18 万円以上の場合には、原則として介護保険料は年金から天引きをする方法で支払うことが義務付けられます。
このような保険料の支払方法を特別徴収と言います。
年金から特別徴収される介護保険料の額は、対象者の「前年の所得額」を基準に決定されることになっており、例えば、今年度(2021(令和3)年度)の介護保険料額であれば、前年である「2020(令和2)年の所得額」を基準に決められます。
このようにして決定された介護保険料額は、その後は1年を経過するごとに「前年の所得額」に応じて金額の見直しが行われることになります。
ただし、年度初めの4月の年金振込時から、介護保険料が“新年度の額”で天引きされるわけではありません。
通常、「前年の所得額」は2~3月の確定申告を経て6月またはそれ以降に確定され、その後に新年度の介護保険料額が各市区町村で決定されます。
決定された新しい介護保険料額は、市区町村から年金の支払者である日本年金機構に情報提供され、同機構の年金支払い作業に反映されることになります。
以上のような手続きに一定の期間を要するため、介護保険料が“新年度の額”で天引きされるのは、10 月の年金振込時からになるものです。
その結果、毎年 10 月は多くの年金受給者の年金振込額が変わることになり、『年金振込通知書』の送付対象となるわけです。
ここがポイント! 10 月発送の『年金振込通知書』の数量が多い理由
介護保険料が“新年度の額”で特別徴収されるのは 10 月からのため、10 月は多くの年金受給者の年金振込額が変わることになり『年金振込通知書』の送付対象となる。
「一般競争入札」だけでは適切な企業選択は難しい?
実は、日本年金機構が民間企業に委託した業務のトラブルは、今回が初めてではありません。
直近では、2018(平成 30)年3月に、大きなトラブルが発生しています。
内容は、日本年金機構からデータ入力業務を受託した㈱SAY企画という情報処理会社がデータ入力でミスを発生させ、“誤った年金額”で振込を行ってしまったというものでした。
加えて、同社は契約に反し、無断で中国企業へ業務を再委託していたため、個人情報の“海外漏えいリスク”まで取り沙汰されたものです。
この企業も今回と同様に、一般競争入札を経て日本年金機構から業務を受託しています。
一般競争入札は、原則として「より低価格」を提示した企業が有利になる仕組みです。
しかしながら、「低価格」で業務を請け負うということは、その分、業務に充てられる資金が少なくなることを意味します。
使用できる資金が減るのですから、「低価格」を提示する企業ほど、業務遂行に無理が生じる可能性を否定できません。
結果として、品質問題・労務問題・経営問題など、さまざまなトラブルを引き起こしかねないことも、残念ながら事実と言わざるを得ないでしょう。
もちろん、一般競争入札による企業選択を、否定しているわけではありません。
しかしながら、「低価格」には「低品質」というリスクが内在することを、忘れてはいけないように思います。
ここがポイント!「一般競争入札」の問題点
「より低価格」を提示した企業が有利になる一般競争入札という仕組みには、「低品質」の企業を選択してしまうリスクが存在する。
今回のニュースまとめ
今回は、2021(令和3)年 10 月に発生した『年金振込通知書』の印刷ミスについて見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 毎年 10 月は『年金振込通知書』が大量に発送される。
- 今回の印刷ミスは、サンメッセ㈱という企業が作成・発送した通知書で発生した。
- 同社は愛知、三重、福岡、和歌山、奈良の5県に住む約 98 万人の年金受給者に対し、誤った『年金振込通知書』を発送してしまった。
- その『年金振込通知書』には、「宛名面」と「中面」とで“別人の情報”が印刷されている。ただし、中に印刷されている年金情報が誰のものかは、見ても判別がつかない。
- 介護保険料が“新年度の額”で引かれるのは 10 月からなので、10 月は多くの年金受給者の振込額が変わり『年金振込通知書』の送付対象となる。
- 「より低価格」を提示した企業が有利になる一般競争入札には、「低品質」の企業を選択してしまうリスクが存在する。
2007(平成 19)年に発生した「年金記録問題」以来、わが国の年金行政ではトラブルが絶えません。
果たして、「国民に信頼される年金制度」に変革するには、どうすればよいのか。
関係者の皆さんの真摯な取り組みに期待したいものです。
出典・参考にした情報源
日本年金機構ホームページ:年金振込通知書の印刷誤りについて
-
年金振込通知書の印刷誤りについて|日本年金機構
続きを見る
日本年金機構プレスリリース:年金振込通知書(令和 3 年 10 月定期支払)の再送付
続きを見る
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/press/2021/202110/1012.files/1012.pdf
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師