どんなニュース?簡単に言うと
2020年6月。国会で可決された年金の改正法が公布されました。今回の改正は「より多くの人がより長く働く」ことに対応した内容。年金試験受験生向けに「施行順」に改正内容をご紹介します。今回は2022年4月に施行されるものを見ていきます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
前編では施行直後から2021年8月施行分までを見ていきました。
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年金試験受験生のための施行順!これからの年金改正はこれだ!前編|みんなのねんきん
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今回の中編は施行が集中する2022年4月に絞っています。
改正の趣旨をおさらい
前編でも取り上げましたが、今回の改正の趣旨は以下のとおり。
より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため
(出典:「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要」厚労省ウェブサイト)
これを受けて、
短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し
(出典:同上)
というような改正を行いました。
主要なキーワードのうち、今回はいよいよ改正の本丸に突入します。
- 短時間労働者
- 在職老齢年金(←今回取り上げる)
- 受給開始時期(←今回取り上げる)
2022年4月施行の1点集中で図解を交えてまとめます。
施行順これからの年金制度はこうなる!
2022(令和4)年4月1日
国民年金・厚生年金:受給開始時期の選択肢の拡大
繰下げの上限年齢が75歳へ
原則65歳からもらえる老齢年金ですが、年金の受け取りを先延ばす(繰下げ)ことで増額する上限年齢が拡大されました。
それにともない、
繰上げした時の減額率の数字が変わります。(繰下げによる増額率は同じ)
私は根っからの文系で数学は嫌いですが、いつの時点でもらい始めても年金財政上中立になるようにするためだそうで(年金数理ってのが関係しています)。
だから一見関係のなさそうな繰上げの減額率が変更するんです。
受験生としてその数字がどう変わるのかが重要。
そこで、改正前と改正後の表を作ってみましたよ(赤字が変わった部分)。
減額率(月) | 増額率(月) | 60歳から | 65歳から | 70歳から | 75歳から | |
改正前 | ▲0.5% | 0.7% | 30%減 | 増減なし | 42%増 | 42%増 |
改正後 | ▲0.4% | 0.7% | 24%減 | 増減なし | 42%増 | 84%増 |
改正後は繰上げによる減額不利益が若干緩和され、10年待てば倍近くまで増えます。
選択肢が広がったのは良いことです。
国民年金・厚生年金:年金権の担保提供の例外規定の廃止
独立行政法人福祉医療機構を通じた年金権の担保提供による融資の仕組みが終了
年金の権利を担保に融資を受けることは禁止されています。
年金受給権を保護するためです。
ところが、
例外的に独立行政法人福祉医療機構を通じた小口の融資に関する担保提供のみは認められていました。
ただ、
問題があって、徐々に仕組み自体が縮小されてきたんです。
ようやく、仕組み自体を条文上から削除=廃止することとなりました。
問題というのは例えば、
2ヶ月に1回振り込まれる年金全額を融資の返済に充て、挙げ句生活できなくて生活保護を申請する
というような、現役世代の我々からすれば、は?なにそれ?って感じの問題があったんです。
廃止されるのも当然でしょう。
国民年金:国民年金手帳の廃止
年金手帳の交付を廃止、基礎年金番号通知書の送付に切り替え
20歳になったときや、20歳前に就職して厚生年金に入った場合は新しく国民年金に加入します。
その証として国民年金手帳がもらえます。
この手帳を廃止して、基礎年金番号通知書を送付することとなりました。
現行の年金手帳は、基礎年金番号の掲載箇所が重要。
と前から思っていたのですが・・。
そこで、基礎年金番号だけを通知するだけで事足りるという改正趣旨だと思います。
ここで、令和コソコソうわさ話。
単なる通知では捨てられてしまうかもしれないので、「色付きの上質紙」で「大臣印の印影」を入れて、大事に保管してもらえるようなデザインになるとのことです。
厚生年金:60歳台前半の在職老齢年金が変わる
低在老の停止基準が高在老の停止基準と同じになる
60歳台前半の在職老齢年金の仕組みが通称、低在老。
年金と給料の合計が28万円(2020年度は28万円)を超えると年金が停まります。
65歳以降の在職老齢年金の仕組みが通称、高在老。
年金と給料の合計が48万円(2020年度は47万円)を超えると年金が停まります。
この低在老の28万円が高在老48万円と同じ仕組みになります。
つまり、低在老受給者は年金が増えます。
なぜ、28万円で48万円なのかは以前コラムでまとめたことがあるので意欲のある年金資格受験生はどうぞ。
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厚生年金:在職定時改定という仕組みを新設
在職中でも1年に1回、増額改定がされる
駆け出しのころ、素朴な疑問を持っていました(よくそんなんで年金相談員やっていましたが・・)。
毎月増えることはありません。
年金の権利が生じる月の前月までの加入期間で年金額を計算し、その後は退職するか節目年齢(65歳、70歳)になるまで増額されません。
と、よく説明していました。
現行の仕組みを図解するとこんな感じ。
例えば65歳で老齢厚生年金の権利が生じる。
その時点まで加入していた1の期間をベースに年金額を計算します。
このまま勤務していても2の期間は、退職による改定がされるまで年金額が変わりません。
(もちろん、物価による変動や在職老齢年金による変動はありますけどね)
そこで、1年に1回はこまめに増額改定しようというのがこの仕組み。
年金権が生じたあとの2の期間が在職中にもかかわらず、細かく分割されて上乗せされていますね。
1年に1回というのをもう少し具体的に図解してみると、
9月1日(基準日)に厚生年金に入っているなら、その日を基準日として前月(8月)までの加入期間を加えて再計算し、翌月10月分から増額させます。
就労を継続したことの効果を退職を待たずに早期に年金額に反映することで、年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤の充実を図られます。
(出典:厚労省ウェブサイト)
というのが改正の趣旨。
これなら泣きそうな声で説明する必要はありませんね。
ちなみに、月給20万円で1年就労した場合、年13,000円程度増額するとのことです。
今回のニュースまとめ
今回は、2020年の年金改正について2022(令和4)年4月施行の中身を見ていきました。
ポイントは次のとおりです。
- 繰下げの上限年齢が75歳へ
- 独立行政法人福祉医療機構を通じた年金権の担保提供による融資の仕組みが終了
- 年金手帳の交付を廃止、基礎年金番号通知書の送付に切り替え
- 低在老の停止基準が高在老の停止基準と同じになる
- 在職中でも1年に1回、増額改定がされる
2022(令和4)年4月からは大きな改正が控えていることがわかりました。
1や4,5は数字が出てくる部分ですから試験対策的には出題しやすいところでしょう。
5は現行制度の不都合を理解したうえで、図解でおぼえておくと良いでしょう。
次回は今回のシリーズの最終回。
社労士事務所が強制適用事業所になるというような話が出てきます。
お楽しみに。
出典・参考にした情報源
- 厚生労働省ウェブサイト:第201回国会(令和2年常会)提出法律案
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第201回国会(令和2年常会)提出法律案|厚生労働省
第201回国会(令和2年常会)提出法律案について紹介しています。
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- 厚生労働省ウェブサイト:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
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年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました|厚生労働省
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シモムー
みんなのねんきん主任講師