どんなニュース?簡単に言うと
障害年金の決定に地域差があるとの報道を受け、厚生労働省は1年以上かけて格差是正のためのガイドライン策定を進めてきました。2016年9月。ようやくこのガイドラインが動き出しました。具体的にどのような内容なのか、少し難しい内容ですが、噛み砕いて解説してみます。
スポンサーリンク
どんなニュース?もう少し詳しく!
障害年金の決定に地域差がある?
年金相談の現場で以前からなんとなく感じるものがあったんです。
案の定、厚労省の調査の結果は都道府県別に最大6倍の格差があるというものでした。
ブログの別の記事でご紹介したことがあります。
その結果を受け、厚労省は共通のモノサシとなる等級判定のためのガイドラインを作ることとなりました。
更に、
ガイドラインの概要が判明すると、不安の声があがりました。
新しい判断方法によると、現在障害年金を受け取っている方々の年金が止まるのではないかと。
これもブログの記事でご紹介したことがあります。
-
年金が止まるかも・・。障害年金の審査はどう変わる?|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 障害年金の審査結果が都道府県でバラつきがある。2015年の報道を受けて2016年、厚労省は審査の指針を新しくする予定です。この新しい指針で審査すると今受け取っている障害年 ...
そして、
様々な声を反映させて、2016年9月からガイドラインによる判定が動き出しました。
障害年金の精神・知的障害の認定がどう変わるのか。
私、シモムーが総力をあげてわかりやすくまとめてみます。
2016年8月まではマニュアルも無い状態だった
そもそも、どういう状態になると障害年金を受け取ることができるのでしょうか。
国民年金制度の障害基礎年金は重い方から1級と2級があります。
例えば1級の場合は政令(内閣が法律の中身をより具体的に踏み込んで決めたルール)でこんな認定基準になっています。
障害の程度 | 障害の状態 |
1号 | 両眼の視力の和が0・04以下のもの |
2号 | 両耳の聴力レベルが100デジベル以上のもの |
(略) | |
9号 | 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
10号 | 精神の障害であつて、前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
(出典:国民年金法施行令 別表より抜粋)
精神・知的障害については10号に記載があります。
「1号から9号と同レベルなら1級だ」とのこと。
これではよくわかりません。2級も同じように抽象的な内容です。
実際には、
9号で「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」とありますので、精神・知的障害も日常生活にどの程度影響を受ける障害なのかという視点で審査しています。
このようななかで、
1級なのか2級なのか等級外か、共通のモノサシが無いなかで地域差が生じてきました。
等級認定の基準はこう変わった!
新しい認定基準を図にしてみました。
大きく2つの要素で総合判断します。
1つ目の要素である「この状況なら等級はこうなるだろう=等級のあたりをつける」というものが今回新しくできた共通のモノサシです。
全国で等級の目安となる共通の表を使います。
ただし、
表の当てはめのみで機械的に判定するわけではありません。
共通の表を目安にしつつも、2つ目の要素、つまり診断書の内容や本人への照会(申告内容)に基づいて総合的に判断します。
”ある程度機械的に判定する要素を持ち込んで、個別具体的に判断する。”
これなら地域によって大きく違うことはないはずです。
1つ目の要素:等級の目安となる表
等級判定の目安となる表は以下のものです。
各列の(1)から(5)というのは診断書に書かれている「日常生活能力の程度」という項目の5段階評価です。
具体的に診断書を見てみます。
上の(1)から(5)の評価が表の横軸にくるわけです。
一方、
縦軸の「判定平均」は診断書の「日常生活能力の判定」という項目の平均値です。
具体的に診断書を見てみます。
「適切な食事」「身辺の清潔保持」とありますが、他にも5項目あります。
これらの評価を数値化して(軽い方から1から4)、数値の平均を取ったものを表に当てはめるわけです。
例えば「日常生活能力の程度」の評価が「(3)」で、「日常生活能力の判定」の平均値が3.1の場合、「2級」相当であるという目安になります。
そして、ここで終わりではありません。
次の要素で更に総合評価をします。
スポンサーリンク
2つ目の要素:診断書と本人の申告の評価
2つ目の要素として、診断書と本人の申告を”機械的ではなく”評価することにあります。
ベースとしては1つ目の要素を念頭にいれつつ、2つ目の要素によって、最終的には等級目安とは異なる判定結果になることもあるそうです。
等級を判定する認定医は以下の5つの項目について事例を考慮することになっています。
考慮すべき要素(共通事項) | |
現在の病状又は状態像 | ひきこもりについては、精神障害の病状の影響により、継続して日常生活に制限が生じている場合は、それを考慮する。 |
療養状況 | 通院の状況(頻度、治療内容など)を考慮する。薬物治療を行っている場合は、その目的や内容(種類・量(記載があれば血中濃度)・期間)を考慮する。また、服薬状況も考慮する。通院や薬物治療が困難又は不可能である場合は、その理由や他の治療の有無及びその内容を考慮する。 |
生活環境 | 家族等の日常生活上の援助や福祉サービスの有無を考慮する。 |
就労状況 | 労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。 |
その他 | 「日常生活能力の判定」の平均が低い場合であっても、各障害の特性に応じて特定の項目に著しく偏りがあり、日常生活に大きな支障が生じていると考えられる場合は、その状況を考慮する。 |
(出典:精神の障害に係る等級判定ガイドライン 6ページ以下 抜粋して編集)
この事例はあくまで一部です。他にも多岐にわたっています。
つまり、
1つ目の要素が数値化したモノサシでしたが、この2つ目の要素は事例をあげた上でのモノサシを用意しているわけです。
更に、
日常生活や就労に関して本人からの申告も考慮に入れます。
この申告書類は、本人のみならず、家族やケースワーカーの方が記載するのもOKとのことです。
具体的な書類の内容は末尾に出典へのリンクがありますので参考にしてください。
現在、受け取っている人はどうなる?
”新しい判断方法によると、現在障害年金を受け取っている方々の年金が止まるのではないか”
冒頭にあげた不安に対してはどのような対応をするのでしょうか。
このガイドラインの運用が始まって、次に診断書を提出する際には新しい判断基準が適用されます。
これは仕方ありません。
ただし、
障害の状態が従前と変わらない場合については、当分の間、”等級非該当”という変更は行わないとのこと。
既に受け取っている方の不安に対して一定の配慮を見せています。
今後はどうなるの?
2016年9月1日からガイドラインによる認定が始まりました。
施行後3年を目処に必要に応じて見直し等を検討するとのことです。
今回のニュースまとめ
今回のニュースをまとめると以下のとおり。
- 共通の基準がなかった障害年金の認定に新たにガイドラインを策定
- 等級の目安となる数値化したモノサシと事例によるモノサシで認定にバラつきがないようにする
- 現在受給中の方に一定の配慮をし、施行後3年で見直しを検討予定
問題がハッキリして、2年近くが経ち、ようやくガイドラインが動き出しました。
住んでいる地域で年金決定の格差があったなんてひどい話です。
実際どう判定しているのか、専門家でさえも今ひとつよくわからないブラックボックスだったわけです。
これを機に必要な人に必要な保障が受けられるよう障害年金が浸透していって欲しいものです。
ただ、
依然として受け取るためには専門知識が必要です。
この点は手軽に請求できるようなシステムにはなっていません。
今後も内容が内容だけに、何も知識がない人が自力で簡単に受け取るようにはならないでしょう。
専門家をうまく活用して受け取れるものは確実に受け取りたいですね。
出典・参考にした情報源
-
『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』の策定及び実施について |報道発表資料|厚生労働省
『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』の策定及び実施についてについて紹介しています。
続きを見る
シモムー
みんなのねんきん主任講師