写真の出典:left-hand
どんな事例?簡単に言うと・・
長年お勤めの方が退職されて年金を受け取る年齢になると、特例に該当して特別な年金を受け取れます。ただし、この方が再就職して厚生年金に入り直すと年金額が大幅に減ります。2016年10月から短時間労働者の社会保険加入の拡大で影響を受ける特例該当者の解説をしていきます。
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こんな事例を考えてみましょう
Tさんは高校を中退して就職した株式会社O社に45年勤めて退職しました。
現在は同じO社に再雇用され、社会保険に入らない範囲で短時間労働をしています。
Tさんは長年厚生年金に加入してきたため、62歳から特例に該当した年金を受け取っています。
そんななか、
2016年10月からTさんの働き方では社会保険に入らざるを得ない状況となりました。
というのも、
制度が改正されて、社会保険に入るハードルが下がったからです。
Tさんは心配です。
社会保険=厚生年金に入ることとなると、もらっている年金が減るのではないかと。
「勝手に制度が変わって、なんでワシがこんなに心配しなくちゃいけないんにゃー」
Tさんは年金制度に牙をむきました。
今回の事例の何が問題なんでしょうか
Tさんが受け取る特例の年金は長年厚生年金に加入した人が受け取れる特別なものです。
厚生年金への加入期間が44年以上となると特例に該当します。
ただし、
現在、厚生年金に加入していないことが条件です。
このような方が厚生年金に入ると何が起きるのか。
特例で受け取れる年金が大幅に減らされてしまいます。
それがわかっているからこそ、厚生年金に入らずに働いている特例該当のTさん。
このような方の制度変更による影響をどうするかが問題となります
解説してみましょう
今回は私、シモムーが解説します。
この問題に関して、厚生労働省が「経過措置を作る」との情報が入ったので上のような事例を作ってみました。
2016年9月下旬に正式発表する予定だそうです。
特例の厚生年金とはなにか
2つの代表的な特例の老齢厚生年金
Tさんが受け取る特例の年金をもう少し詳しく解説しましょう。
この年金は60歳台前半の老齢厚生年金だけのものです。
特例は3つの類型があるんですが、”厚生年金に加入していたら特例は無し!”という縛りがあるのは以下の2つ。
- 長期間加入した方に対する特例
- 障害をお持ちの方に対する特例
1は厚生年金の加入期間44年以上で該当します。
公務員も厚生年金に入りますが、民間企業の厚生年金と合計するのはNGです。
Tさんは民間企業だけで45年勤務したとのことですから1のケースですね。
2は年金法に定める障害等級に該当する方が該当します。
障害をお持ちの方は老後の年金の保障を厚くしようという趣旨。
ただし、
障害年金の権利もあるなら、この特例の老後の年金とどちらかを選ぶことになります。
特例に該当すると何がおきる?
この特例に該当すれば年金額が増えるということ。
一般の人が受け取る現役時代の給料に連動した年金額(報酬比例部分)に加えて、一定の単価で計算する年金額(定額部分)も受け取ることができます。
ただし、
この特例の年金を受け取りながら厚生年金に入ると定額部分が停止となります。
長期加入の方の場合、この定額部分は65歳からの老齢基礎年金に匹敵する金額になるのでその影響は大きい。
年間約80万円が停止となってしまうからです。
そこで、
敢えて厚生年金には加入しない働き方を選んで、定額部分が停止にならないようにする。
この特例に該当する人はおそらくTさんのようなケースが多いことと思います。
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秋からの社会保険加入範囲の拡大 このままでいけば・・
2016年10月から社会保険加入の条件が引き下げられ、一定の条件に該当する短時間労働者も厚生年金に入ることとなりました。
詳しくはこちらで解説したことがあります。
Tさんがこのまま10月を迎えると定額部分が吹き飛んでしまう大ピンチです。
Tさんがこの状態になることをわかっていて厚生年金に加入するならやむを得ません。
そうではなく、後出しジャンケンのように制度が変わってしまったことで不利益を受ける。
これは一定の配慮が必要です。
そこで、今回の厚労省の措置なんです。
10月をまたいだ短時間労働者には経過措置で対応する
厚生労働省はTさんのように方に対する経過措置を考えています。
具体的には
10月前から引き続き短時間労働で働く方が、10月の制度変更で厚生年金に入る。
その場合に限り、定額部分の停止はしないというもの。
これならTさんの怒りも収まる。
と、いいんですが、一つ考えないといけないことが・・。
在職老齢年金は回避不可能
老後の厚生年金を受け取りながら、厚生年金の被保険者になると受け取る給料によって年金が減る可能性がある。
これを在職老齢年金(通称「在老」)といいます。
これは、上で紹介した特例の年金の減額とは別次元の話です。
Tさんは厚生年金に加入することになるので、在職老齢年金は回避不可能。
定額部分は停止にならない配慮はされますが、報酬比例部分を対象にして減額の可能性があります。
年金の1カ月分とボーナス込の年収の1カ月分を合計して、28万円を超えると超えた部分の半分が停止になる
という仕組み。
Tさんの怒りが収まるか否か。
あとはTさんのお給料次第と言えます。
今回の事例まとめ
今回の事例をまとめると以下のとおり。
- 60歳台前半の老齢厚生年金には特例制度がある
- 特例該当者が厚生年金に加入すると定額部分が全額停止となる
- 2016年10月からの社会保険加入拡大で厚生年金に入らざるを得ない人には定額部分を停止しない措置をとる
- その場合でも報酬比例部分だけで在職老齢年金の計算をすることになる
最初、この報道を知った時、こう思いました。
「こんなことにまで目を配っているとは、厚労省の年金担当者は凄すぎる!」
既得した権利をどのように守るのか。
年金制度が複雑な原因は新しい仕組みを導入した際の「経過措置」にあります。
こんなことまで理解するのかよ・・。
年金を理解するまでの道のりは果てしなく遠いのです。
出典・参考にした情報源
公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置に関する政令案(仮称)の概要について
事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。
シモムー
みんなのねんきん主任講師