このコラムは2015年1月当時のもので、現在は地域差が出ないような審査になっています
どんなニュース?簡単に言うと
地域によって障害年金の決定に差があるのではないか・・。もともと噂があったのですが、日本年金機構が障害認定の地域差に関する調査結果を発表し、その事実が調査で裏付けられました。今回はこの発表資料の内容からどのような地域差があるのか解説してみます。
どんなニュース?もう少し詳しく!
こんな相談を受けることが結構ありました
今までの年金相談で聞いたことがある話です。
詳しく伺ってみると、
等級に変化があった人たちはおおよそこんなことを言っていました。
ぼんやりとそんな疑問を持っていたのですが、今回の発表で確信したんです。
日本年金機構が障害基礎年金について新規に申請を受けて決定を行った事例のうち、都道府県の事務センターにおいて不支給と決定された件数の割合が都道府県間で異なることから、各都道府県における障害基礎年金の認定事務の実態を調査しましたので、その結果を公表します。
(出典:日本年金機構 報道発表資料 冒頭部分)
今回の発表は”新規の申請による決定”ですが、審査の実態は新規だろうが継続だろうが同じはず。
今回はこの日本年金機構の発表をみながらどのような地域差があるのか分析してみます。
厚生年金制度では1箇所で、国民年金制度は都道府県ごとに審査する
公的年金の障害年金は国民年金制度によるものと、厚生年金制度によるものと2つがあります。
障害の原因となった最初の医者の診断日に、加入していた制度によってもらえる障害年金が異なります。
サラリーマンの場合は、厚生年金に入ると同時に国民年金に加入しているので両方もらえることになるんです。
国民年金の障害年金は「障害基礎年金」という名前。
厚生年金の障害年金は「障害厚生年金」という名前です。
この両制度の障害年金。
受け取るためには審査が必要ですが、同じ国の年金制度なのに制度によって審査制度が違います。
厚生年金の場合は本部の1箇所で審査。
国民年金は都道府県ごとに審査をしています。
ということは、「引っ越ししたら等級が下がった」という話はあり得る話なんですね。
最も受け取りづらい都道府県は大分県
障害年金を請求したものの、不支給の決定がされる。
その割合が最も高い都道府県は24.4%の大分県でした。
逆に最も不支給決定の割合が低いのは4.0%の栃木県。
県民性とかそういうものは関係ありません。
なぜ、このような違いが生じたのでしょうか?
それは精神障害・知的障害の認定に差があったから。
精神・知的障害の結果だけで全体に影響を与えている?
与えています。
なぜなら、
障害年金=精神障害・知的障害の年金と言えるような状況だからです。
障害年金の7割は精神・知的障害が理由!
以下の図をご覧ください。
表の一番下を見てみると、全体の年金決定数が5996件。
そのうち、一番左端の精神障害・知的障害を理由とした障害年金は4013件。
その割合は66.9%。
実に全体の7割が精神・知的障害を理由としているという結果でした。
そして、調査の分析によれば、
不支給割合が高い県は、精神障害・知的障害の等級非該当割合が高く、不支給割合が低い県は、精神障害・知的障害の等級非該当割合が低い場合が多く、不支給割合の地域差と精神障害・知的障害の等級非該当割合は、概ね同じ傾向を示していた。
とのこと。
つまり、
精神・知的障害の審査結果の地域差が障害年金全体の地域差を生じさせていたということです。
精神・知的障害の審査のカギは「日常生活能力の評価」にあり
そもそも、
障害基礎年金は重い症状から1級・2級と分かれています。
不支給ということは、最低の2級に該当しなかったということです。
では、
その2級とはどういう状態なのでしょうか。
統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの
(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準 第8節 精神の障害)
何やら難しいことが書かれていますが、要は「日常生活が著しい制限を受けるもの」ということが必要です。
制限を受けているか否かはどう判定するんでしょう。
それは、医師の診断書が目安になります。
診断書には以下の項目が並んでいて、医師はどの項目に該当するかを判断します。
下に行くほど状態が悪いということです。
調査の分析によれば、この項目の(2)と(3)がカギを握っていました。
調査の分析によると、
不支給割合が低い 10 県における精神障害・知的障害 の年金支給状況を見ると、診断書の記載項目である「日常生活能力の 程度」が(2)相当であることが障害基礎年金を支給する目安(障害 基礎年金2級相当)となっている一方、不支給割合が高い 10 県にお いては、「日常生活能力の程度」が概ね(3)相当が障害基礎年金を 支給する目安となっていた。
とのこと。
簡単に言うと、
ある都道府県では(2)で2級該当としている一方、ある都道府県では(3)でなければ2級該当にしない。
(2)と(3)の評価が都道府県によって違っていたんです。
今後はどうなる?
これはひどい事態です。
そもそも統一的な判定基準がなかったのでしょうか。
厚労省と日本年金機構は
「等級判定のガイドラインとなる客観的な指標について、専門家による会合を開催して検討します。(平成27年2月以降)」
とのこと。
早急な対策が必要です。
今回のニュースまとめ
今回のニュースをまとめましょう。
- 障害基礎年金の不支給決定の状況から都道府県で地域差がある
- 地域差が生じるのは精神・知的障害の判定が都道府県で異なるため
- 今後は等級判定のガイドラインを策定すべく専門家の話合いを進めていく
やっぱりそうだったんだ。
というのがこの報道があった時の最初の感想でした。
調査結果に詳しく目を通してみて、こんな杜撰だったのかと驚きです。
年金相談の現場の中で、散々お叱りを受けてきましたので私自身も憤りを感じています。
言いたいことはたくさんありますが、ここはグッとこらえ、とにかく統一的なルールを早急に作って欲しいです。
こんな不公平なことがあっていいわけありません。
出典・参考にした情報源
「障害基礎年金の障害認定の地域差に関する調査結果」を公表します |報道発表資料|厚生労働省
追記・訂正
2016年8月19日
2015年1月に執筆した内容を当時の状況のまま、全面的に記事を書き直しました。
シモムー
みんなのねんきん主任講師