どんな事例?簡単に言うと・・
年金額を計算する際の端数処理が2015年10月を境に1円単位で決定するように変わりました。ところが、100円単位で端数処理する年金額もあり混乱します。今回は細かい法律の条文を紹介しながら、年金に興味が無い人には伝わらない端数処理の話をしていきます。
スポンサーリンク
こんな事例を考えてみましょう
若い頃から年金に異様なまでに興味を持つSムー。
彼は年金に関するテキストを書いたり、ブログを執筆したりしています。
平成28年度のテキストが完成して数日後のこと。
ひょんなことから端数処理について大きな誤解をしていることが判明しました。
平成28年度の老齢基礎年金の満額は780,100円。
これは100円単位になるように端数処理がされています。
障害基礎年金の2級も780,100円。
これも100円単位になるように端数処理がされています。
では、障害基礎年金の1級はいくらか?
「どうせこれも100円単位で端数処理するんでしょー。国民年金はみんな一定額なんだからさー。」
しかしこの時、Sムーの背後に巨大な影が忍び寄っていることに彼はまだ気づいていませんでした・・。
今回の事例の何が問題なんでしょうか
2015年10月から年金額決定時の端数処理が変更になりました。
このことは以前のブログ記事でご紹介したことがあります。
-
去年と同じ年金額のはずなのに減った分はどこ行ったニャー!|みんなのねんきん
写真の出典:left-hand どんな事例?簡単に言うと・・ ”どこいったニャー”シリーズ第3弾。今回は2016年度から全ての人に関わる新しくなった年金額ルールをご紹介します。年金計算の端数処理が変わ ...
続きを見る
簡単に説明すれば、
年金額の計算をした結果、年金額を決定する際の端数処理は1円単位になるようにするというものです。
ところが、
全ての年金額計算が1円単位の処理で統一されているかというとそうではありません。
Sムーの誤解は「国民年金は一定額だから100円単位の端数処理する」という点。
実はそんな安直な話ではありません。
1円単位にするか100円単位にするか、どういう理由で区別するのかが問題となります。
解説してみましょう
今回はSムー氏の失敗を私、シモムーが解説していきましょう。
今回は法律の条文が出たりして非常に細かい話になります。
興味がある人だけ読んでください。
ちなみに、
「Sムー」と私が同一人物であることについては肯定も否定もしません。
原則は1円単位で年金額を決める
まずは、国民年金・厚生年金全体を通じての原則を示すと以下の条文があります。
これからご紹介する全ての条文は、わかりやすくなるよう適宜省略したり、改行していますのでご了承ください。
年金たる給付(以下「年金給付」という。)を受ける権利を裁定する場合又は年金給付の額を改定する場合において、年金給付の額に五十銭未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数が生じたときは、これを一円に切り上げるものとする。
(国民年金法17条 厚生年金にも同じような規定があります)
まずは大原則のルールは1円単位で処理するということが書いてありますね。
100円単位で端数処理する場合はどんな場合か
ポイントになるのは、個別の条文の中に100円単位での端数処理のことが”敢えて”書かれているかいないかということです。
個別の条文に100円単位の端数処理のことが書かれていれば、100円単位での処理をする。
そうでなければ上で紹介した原則に従って1円単位での処理をする。
というルールになります。
以下、個別にどっちで処理するのか見ていきましょう。
国民年金における100円単位の年金
老齢基礎年金の基本年金額
老齢基礎年金の額は、七十八万九百円に改定率を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とする。
ただし、保険料納付済期間の月数が四百八十に満たない者に支給する場合は、当該額に、次の各号に掲げる月数を合算した月数(四百八十を限度とする。)を四百八十で除して得た数を乗じて得た額とする。
(国民年金法27条)
本文で「老齢基礎年金の額」、つまり満額は改定率を掛けたあとは100円単位にするとなっています。
ですので、老齢基礎年金の満額は100円単位で処理。
「ただし」以下で保険料納付済期間が480に足りない場合について書かれていますが、そこには100円単位の端数処理は記載が無い(最後の「乗じて得た額」のあとに本文にある端数処理に関する括弧が無い)ので、原則に従い1円単位の処理になります。
つまり、満額の場合は100円単位、満額にならない人は1円単位の端数処理となります。
障害基礎年金の基本年金額
障害基礎年金の額は、七十八万九百円に改定率を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とする。
2 障害の程度が障害等級の一級に該当する者に支給する障害基礎年金の額は、前項の規定にかかわらず、同項に定める額の百分の百二十五に相当する額とする。(国民年金法33条)
第1項は2級の金額です。100円単位にするよう書かれています。
第2項は1級の金額ですが、最後の「相当する額」の後に端数処理が言及されていないので原則に従い1円単位で処理することとなります。
遺族基礎年金の基本年金額
遺族基礎年金の額は、七十八万九百円に改定率を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とする。
(国民年金法38条)
遺族基礎年金は本体である基本年金額を1.25倍にしたり、減額したりすることはないので100円単位で処理するものしかありません。
子の加算
障害基礎年金と遺族基礎年金は原則として高校卒業するまで(18歳の年度末まで)の子がいると子の加算があります。
障害基礎年金を例にしてみます。
障害基礎年金の額は、(略)その子一人につきそれぞれ七万四千九百円に改定率を乗じて得た額(そのうち二人までについては、それぞれ二十二万四千七百円に改定率を乗じて得た額とし、それらの額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)を加算した額とする。
(国民年金法33条の2)
子の加算では、2人目までと、3人目の額それぞれを100円単位で端数処理することが書かれています。
遺族基礎年金も同様の規定があります。
振替加算
振替加算とは老齢基礎年金に加算されるもので一部の生年月日の方が経過的に受け取れるものです。
経過措置ですから附則にその条文があります。
老齢基礎年金の額は、(略)これらの規定に定める額に、二十二万四千七百円に同法第二十七条に規定する改定率(以下「改定率」という。)を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)にその者の生年月日に応じて政令で定める率を乗じて得た額を加算した額とする。(以下略)
(昭和60年改正法附則14条1項)
パッと見、100円単位にするのかなと思いきや、そうではありません。
100円単位にするのは前段の22万4700円に改定率を掛けた部分、つまり子の加算と同額の部分です。
この額に生年月日に応じた率を掛けます。
掛けたあとは「加算した額」となっているだけで端数処理の記載が無いので、原則に従い1円単位の処理をします。
厚生年金における100円単位の年金
厚生年金の基本の年金額は報酬比例額ですから固定額である国民年金とは違います。
ですので、基本的に1円単位での処理になります。
しかし、厚生年金でも加給年金のような固定額のものは端数処理の問題が生じます。
加給年金額
加給年金額は一定の配偶者と子がいる場合に加算される額です。
厚生年金の期間が原則20年以上あると、原則65歳から老齢厚生年金に加算されます。
前項に規定する加給年金額は、同項に規定する配偶者については二十二万四千七百円に国民年金法第二十七条 に規定する改定率(略)を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とし、
同項に規定する子については一人につき七万四千九百円に改定率を乗じて得た額(そのうち二人までについては、それぞれ二十二万四千七百円に改定率を乗じて得た額とし、それらの額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とする。
(厚生年金保険法44条2項)
前段で配偶者、後段で子にかかる加給年金額のことが書かれています。
どちらも100円単位での処理であることがわかります。
中高齢寡婦加算
夫を亡くした妻が受け取る遺族厚生年金に加算されるものです。
条件を満たせば40歳以上65歳未満の期間で受け取れます。
(略)遺族厚生年金の額に(略)遺族基礎年金の額に四分の三を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)を加算する。
(厚生年金保険法62条)
中高齢寡婦加算は遺族基礎年金の4分の3の金額です。
その額を100円単位で処理すると書かれています
経過的寡婦加算
経過的寡婦加算は中高齢寡婦加算の条件を満たした一定の生年月日の妻が経過的に受け取るものです。
これも経過措置なので附則に書かれています。
当該遺族厚生年金の額は、(略)同項第一号に定める額を、当該額に第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除して得た額を加算した額として同項の規定を適用した額とする。
一 厚生年金保険法第六十二条第一項に規定する加算額(注:中高齢寡婦加算のこと)
二 国民年金法第二十七条本文に規定する老齢基礎年金の額にそれぞれ附則別表第九の下欄に掲げる数を乗じて得た額(昭和60年改正法附則73条)
経過的寡婦加算は条文で見ると複雑。
要は
”中高齢寡婦加算の額から老齢基礎年金の満額✕妻の生年月日に応じた率を引いた金額”
になります。
100円単位の記載がどこにもありませんから原則どおり1円単位での処理になります。
今回の事例まとめ
表でまとめておきましたのでこれを見てもらうのが早いでしょう。
100円単位 | 1円単位 |
---|---|
老齢基礎年金の満額 | 老齢基礎年金の満額でない場合 |
障害基礎年金2級 | 障害基礎年金1級 |
遺族基礎年金 | |
加給年金額・子の加算 | 振替加算 |
中高齢寡婦加算 | 経過的寡婦加算 |
厚生年金の報酬比例額 |
年金は法律なのできちんとした理屈の上でルールが決まっているんですね。
今回の失敗で大変勉強になりました。
みなさんも参考にしてください。
事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。
シモムー
みんなのねんきん主任講師