え?そうだったの!社会保障協定で誤解していた話|みんなのねんきん

シモムー

みんなのねんきん主任講師

どんな事例?簡単に言うと・・

自国の会社に在籍したまま海外で仕事をする時、互いの国の社会保障のルールを調整するのが社会保障協定。国と国とのルールなので「条約」を結びます。この条約に関する用語"署名””批准””発効”。曖昧だった知識を整理する機会がありましたのでシェアしたいと思います。

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こんな事例を考えてみましょう

年金アドバイザー試験に向けて勉強中のSIMOMUー(「以下、Sさん」)さん。

厚生労働省のプレスリリースを見ていたらこのような資料を目にしました。

(出典:厚労省ウェブサイト プレスリリース 2017年2月2日 (タップで拡大))

内容は日本とチェコとの社会保障協定をアップデートしたというもの。

Sさんが、ん?と思ったのは「(参考)」の部分。

我が国は,ドイツ,英国,韓国,米国,ベルギー,フランス,カナダ,オーストラリア,オランダ,チェコ,スペイン,イタリア,アイルランド,ブラジル,スイス,インド,ハンガリー,ルクセンブルク,フィリピン及びスロバキアとの間で社会保障協定を済み。

数えてみると、20あります。

「変だな。確か、社会保障協定を結んでいる国は16じゃなかったかな?」

Sさんは、どちらが本当なのか、詳しく調べてみることしました。

今回の事例の何が問題なんでしょうか

国同士が協定(条約)を結ぶことは、国の代表が署名したら、即効力が生じるというものではありません。

上の厚労省の資料では「署名・締結済み」となっていますが、このままではまだ効力が生じません。

一方、同じ厚労省のプレスリリースで似たようなこういうものもあります。

(出典:厚労省ウェブサイト プレスリリース 2016年7月20日 (タップで拡大))

これはインドとの間で社会保障協定が発効したという発表。

この発表の「4」にこんな記載があります。

この協定は,既に発効済みのドイツ,英国,韓国,米国,ベルギー,フランス,カナダ,豪州,オランダ,チェコ,スペイン,アイルランド,ブラジル,スイス及びハンガリーに続く,我が国にとって16番目の社会保障協定となります。

つまり、「署名・締結」と「発効」という言葉を使い分けています。

これらにどういう意味の違いがあるのかが問題となります。

解説してみましょう

今回は私、シモムーが解説します。

事例ではSさんが登場していますが、私とSさんは同一人物であるかどうかは肯定も否定もしません。

そもそも社会保障協定とはなんだ

日本の会社に勤める人が海外に赴任することとなった。

日本の会社に籍をおいて、日本の会社から給料を受け取っているので、社会保険料が天引きされている。

一方、赴任する海外においても現地の社会保険を納める必要がある。

このままでは二重に保険料を負担することになり、会社の負担は大変。

そこで、

国同士で「どっちかの国の社会保障に入ることにしよう」と約束するのが社会保障協定です。

以前、フィリピンとの間で社会保障協定の署名がされたという記事を書いたことがあるのでそちらも参考にしてください。

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署名・締結・批准・発効の違いとは

社会保障協定が何のためにあるのかは、これくらいでいいとして、問題は16カ国なのか20カ国なのかということ。

厚労省のプレスリリースにある「署名・締結」と「発効」の違いのようです。

ではこれらの違いはどうなのかというと、

ヤフー知恵袋にわかりやすい説明がありましたのでその説明を引用します。

採択:ある会議の全体意見をまとめて結論付けたものです。つまり,A会議の出席者は全体意見としてこのように考えている,という意思表示です。

締結:国の代表者が署名し,条約の内容に拘束される意思を表明する行為です。

批准:その代表者の行為を,その人の本国内で認める行為です。ほとんどの国ではこの作業によって,「そいつが勝手にやったこと」という事態を防いでいます。

発効:条約の内容が実際に行使されること。条約には,「効力が出るにはNカ国以上の参加者が必要」などの条件項目があります。締結国数と批准国数があまりに違うと,効果が別物になってしまうからです。

気候変動条約の京都議定書を例にとって見ましょう。会議参加国は,世界各国が気候変動に対して危機感を持って行動する宣言を「採択」し,日本政府代表は条約を「締結」し,5年後に国会が審議のうえ「批准」し,その後ロシアの批准をもって(この条約は最低55カ国の参加と,途上国を除くCO2の世界排出量の55%が含まれるのが条件)「発効」しました。アメリカは「締結」しましたが,「批准」はしなかったので,条約の対象外です。

(出典:ヤフー知恵袋 2009年6月7日

つまり、

最初のチェコのプレスリリースでは「署名・締結」した国々を示し、実際に「発効」されている国は、インドのプレスリリースにあるように、その中でも数が絞られるということになります。

だから、

国の数に違いがあるんですね。ヤフー知恵袋の回答者の方に感謝します。

世界地図でわかりやすい図がありました

その後、情報提供がありまして、厚労省のウェブサイトに図がありました。

これだとわかりやすいと思います。

(出典:厚労省ウェブサイト (タップで拡大))

(PDFファイルの方がきれいに見えます→こちら

つまり、

社会保障協定が「発効」しているのは16カ国、署名済みなのは4つプラスして20カ国

です。

ちなみに、

以前、このブログで日本とフィリピンの社会保障協定を取り上げました。

2017年2月現在、フィリピンは署名済みで、国会の承認も得られた(批准)けれど、まだ発効されていないという状況みたいですね。

今回の事例まとめ

今回の事例をまとめると以下のとおり。

  • 社会保障協定は国同士で「どっちかの社会保障に入ることにしよう」と約束するもの
  • 条約は署名・締結さえされれば効力が生じるわけではなく、言葉の意味に違いがある
  • 社会保障協定が発効されている国は16カ国、署名済みは20カ国

署名・批准・発効

なんだか、どの言葉をとっても、それだけで最終効力が生じそうな意味がありそうですよね。

私も曖昧だった理解を今回整理することができました。

ということは、

最近まで話題だったTPP。

政府が「署名・締結」にこぎづけ、この前の国会で承認されたので、「批准」まではいったものの、アメリカが永久離脱を宣言しているので「発効」は無理ってことになりますね。アメリカが参加しないと発効の条件を満たさない協定だからです。

勉強になりました。

出典・参考にした情報源

厚労省ウェブサイト プレスリリース 2017年2月2日 日・チェコ社会保障協定

厚労省ウェブサイト プレスリリース 2016年7月20日 日・インド社会保障協定


事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。



最後までコラムをお読みいただきありがとうございました

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シモムー

日本年金機構の年金相談コールセンターにて新人研修講師を担当しながら社労士試験予備校にて講師を経験。2014年より公的年金の情報を初心者目線で解説する「みんなのねんきん」サイトで情報提供開始。登録者数2000人超のYouTubeチャンネル「シモムーシェフの年金論点4分クッキング」では年金の論点を4分で解説中。具体例やイメージで理解できる情報提供を心がけている。2020年3月、障害年金手続き代行に特化した「みんなのねんきん社会保険労務士法人」設立。2021年6月から障害年金手続きのノウハウを提供する「障害年金カウンセラー養成講座」で講師としても活躍する。

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