どんなニュース?簡単に言うと
扶養する配偶者がいると、年金に上乗せされることがある加給年金額。今春からは、年金の加給の付き方にも一部、変更点があるようです。
そこで、『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』の4回目となる今回は、配偶者加給年金額の変更点を整理しましょう。
後編となる今回は制度がどう変わるのかを解説して完結です。
前編はこちらをご覧ください。
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すかっち先生の年金なるほどゼミナール 【第4回】2022 年「配偶者を扶養する夫や妻の年金」の改正 前編|みんなのねんきん
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どんなニュース?もう少し詳しく!
【改正後はこうなる!】妻の年金が全額停止中でも、夫は加給をもらえなくなる
それでは、「夫婦ともに厚生年金の加入実績が 20 年以上ある場合」の配偶者加給年金額の取り扱いについて、2022(令和4)年4月からはどのように変わるかを見ていきましょう。
現行制度の説明のところでは、厚生年金に加入して働いている妻の年金が「全額支払われている場合」「一部支払われていない場合」「全く支払われていない場合」の3種類に分けて説明をしました。
このうち、「全額支払われている場合」「一部支払われていない場合」については、2022(令和4)年4月以降も変更がありません。
つまり、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われないということです。
2022(令和4)年度から取り扱いが変更されるのは、妻の年金が「全く支払われていない場合」の取り扱いになります。
前述した具体例の中では、事例3が該当します。
それではもう一度、事例3の設定を確認しましょう。
《事例3》
夫:年齢・・・66歳 現在の仕事・・・無職 収入・・・老齢厚生年金(厚生年金に 20 年以上加入) 妻:年齢・・・63 歳 住まい・・・夫と同居 現在の仕事・・・民間企業に勤務(厚生年金に加入中) 収入・・・給料、特別支給の老齢厚生年金(厚生年金に 20 年以上加入) ※ ただし、在職中のため年金は全く支払われていない。 |
この場合、現行制度では「夫の老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支払う」という取り扱いを行っています。
しかしながら、2022(令和4)年4月からの制度では、
“妻”に対する「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」の支払いが行われていない場合(全額が支給停止の場合)でも、“夫”の老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支払わない。
と変更されます。
つまり、2022(令和4)年度からは、妻が「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」を受け取る権利を持っているのであれば、その年金が実際に支払われていようが、支払われていまいが、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われないことになります。
もちろん、妻が夫を扶養する場合も、取り扱いが同じであることに変わりはないので、
“夫”に対する「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」の支払いが行われていない場合(全額が支給停止の場合)でも、“妻”の老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支払わない。
と変更されることになります。
この法改正を年金を受け取る立場から見た場合には、今まで配偶者加給年金額が支払われていたケースでも支払われなくなるのですから、大きな不利益を被るように思えます。
ところが、一概にそうとは言えません。
具体例で考えてみましょう。
例えば、在職中の妻の年金が全額支払われていた前述事例 1 のケースで、1カ月の収入が次のようだとします。
《事例1の夫婦の収入内訳(月額)》
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事例1では妻の年金は全額支払われているので、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われませんでした。
そのため、事例 1 の夫婦は、夫の年金と妻の給料・年金を合算した「40 万円」(=20 万円+16 万円+4 万円)で1カ月をやりくりすることになります。
次に、在職中の妻の年金が全く支払われていなかった前述事例3のケースでは、1カ月の収入は次のようだとします。
《事例3の夫婦の収入内訳(月額)》
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事例3では妻の年金は全く支払われていないので、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われました。
従って、事例3の夫婦の場合には、夫の年金と妻の給料を合算した「52 万円+配偶者加給年金額」(=20 万円+32 万円+配偶者加給年金額)で1カ月をやりくりすることになります。
月に「40 万円」の収入がある事例 1 の家計は夫の年金の配偶者加給年金額が支払われず、配偶者加給年金額を除いて月に「52 万円」の収入がある事例3の家計は、さらに加給が上乗せされて「52 万円+配偶者加給年金額」が月の収入となります。
つまり、現在の制度は「総収入が少ない家計の年金に加給が付かず、総収入が多い家計の年金に加給が付いてしまうことがある」という矛盾を抱えているものです。
妻の年金が在職により全額支給停止されるのは、給与水準が高いが故に起こる現象です。
それにもかかわらず全額支給停止を理由に、夫の年金の配偶者加給年金額が支払われてしまうわけです。
図で見ると、次のとおりです。
この矛盾を解消するために、妻の年金が在職により全額支給停止されているケースでも配偶者加給年金額を支払わないことにしたのが、今回の法改正の趣旨になります。
以上をまとめると、次のとおりです。
ここがポイント! 配偶者加給年金額に関する“改正後の制度”
2022 年4月からは、妻の「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」が全額支給停止の場合でも、夫の老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支払われなくなる。妻が夫を扶養する場合も同じ。
【施行日をまたぐとどうなる?】すでに支払われている加給は、支払いが継続される
前述のとおり、2022(令和4)年4月からは、妻の「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」が全額支給停止の場合でも、夫の老齢厚生年金の配偶者加給年金額は支払われなくなります。
妻が夫を扶養する場合でも同様です。
ただし、現在、配偶者加給年金額をもらっている最中の人の場合には、自分の生活の状況が何も変わっていないのにもかかわらず、「現在もらっている加給年金額が、2022(令和4)年4月から突然、支払われなくなる」というのでは、生活に支障を来してしまうかもしれません。
そこで、改正された法律が施行される前の日(2022 年3月 31 日)の時点で、年金に配偶者加給年金額が上乗せされている人については、法改正の内容をすぐには適用しない一時的な措置が取られることになりました。
このような仕組みを「経過措置」と言います。
それでは、「経過措置」の2つの具体例を見てみましょう。
《経過措置の具体例1》
65 歳未満の在職老齢年金の減額基準額が 47 万円に改正されたが、妻の年金は「全額支給停止」のままで変わらないため、本来であれば夫の年金の加給年金額が支払われなくなるケース
2022(令和4)年4月からの「加給年金額の支払いに関する変更点」を考える上では、同時に施行される「在職老齢年金の改正」にも注意をする必要があります。
具体的には、「65 歳未満の年金支払いの減額基準額を 28 万円から 47 万円に引き上げる」という改正です。
詳細は、本サイトの 2021(令和3)年 12 月 17 日付コラムで解説していますので、参考にしてください。
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それでは、具体例を見てみましょう。
説明の便宜上、配偶者加給年金額を除いた1カ月当たりの金額のみを示します。
《具体例1》
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2022(令和4)年3月までは、総報酬月額相当額(給料の1カ月分に相当する額)が 47万円を超え、基本月額(年金の1カ月分に相当する額)が 28 万円以下の場合、1カ月の年金から引かれる金額は、「(47 万円+基本月額-28 万円)÷2+(総報酬月額相当額-47 万円)」と計算します。
計算式の詳細の説明は割愛しますが、具体例1の妻の収入をこの計算式に当てはめると、1カ月の年金から引かれる金額は 15 万 5,000 円(=(47 万円+4万円-28 万円)÷2+(51 万円-47 万円))と計算されます。
妻の本来の年金額は月に4万円なので、本来の年金額(4万円)よりも停止額(15 万5,000 円)のほうが多いことになります。
そのため、妻の年金は全く支払われることがありません。
その結果、2022(令和4)年3月までのルールでは、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われることになります。
それでは、在職老齢年金の減額基準額が引き上げられた 2022(令和)年4月からは、どうなるでしょうか。
改正された在職老齢年金のルールでは、1 カ月の年金から引かれる金額は「(総報酬月額相当額+基本月額-47 万円)÷2」と計算します。
計算結果は4万円(=(51 万円+4万円-47 万円)÷2)です。
妻の本来の年金額は月に4万円なので、本来の年金額(4万円)と停止額(4万円)とが同じ額になります。
つまり、妻の年金は、在職老齢年金の新しい減額基準が適用される同年4月以降も全く支払われないものです。
この場合、加給年金額に関する法改正に照らし合わせれば、本来は 2022(令和4)年4月から、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われなくなるはずです。
しかしながら、夫の加給年金額は 2022(令和4)年3月までは支払われていたため、「改正法が施行される前日(2022 年3月 31 日)の時点で、年金に配偶者加給年金額が上乗せされている人」に該当し、経過措置によって4月以降も夫の年金の配偶者加給年金額を支払うという対応が取られます。
《経過措置の具体例2》
65 歳未満の在職老齢年金の減額基準額が 47 万円に改正されたため、妻の年金は「全額支給停止」から「一部支給停止」に変わることになるので、本来であれば夫の年金の加給年金額が支払われなくなるケース
それでは、2番目の具体例を見てみましょう。
こちらも説明の便宜上、配偶者加給年金額を除いた1カ月当たりの金額のみを示します。
《具体例2》
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2022(令和4)年3月までは、総報酬月額相当額が 47 万円以下、基本月額が 28 万円以下の場合、1カ月の年金から引かれる金額は、「(総報酬月額相当額+基本月額-28 万円)÷2」と計算します。
具体例2の妻の収入をこの計算式に当てはめると、1カ月の年金から引かれる金額は 11万円(=(40 万円+10 万円-28 万円)÷2)と計算されます。
妻の本来の年金額は月に 10 万円なので、本来の年金額(10 万円)よりも停止額(11 万円)のほうが多いことになります。
その結果、妻の年金は全く支払われず、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われることになります。
これに対し、在職老齢年金の減額基準額が引き上げられた 2022(令和)年4月からについては、1 カ月の年金から引かれる金額は「(総報酬月額相当額+基本月額-47 万円)÷2」と計算するので、計算結果は1万 5,000 円(=(40 万円+10 万円-47 万円)÷2)となります。
従って、新年度の年金支払いは月8万 5,000 円(=10 万円-1万 5,000 円)となり、妻の年金は一部が支払われないことになります。
妻の年金が一部支給停止の場合には、夫の年金の配偶者加給年金額は支払われないのが本来のルールです。
しかしながら、夫の加給年金額は 2022(令和4)年3月までは支払われていたため、「改正法が施行される前日(2022 年3月 31 日)の時点で、年金に配偶者加給年金額が上乗せされている人」に該当し、経過措置によって4月以降も夫の年金の配偶者加給年金額を支払うという対応が取られます。
以上の2つの具体例のように、すでに加給年金額を受け取っている人については、経過措置の適用により、配偶者加給年金額に関する既得権が保護されるわけです。
なお、2022(令和4)年3月 31 日時点で年金に配偶者加給年金額が上乗せされていなかった場合には、このような一時的な措置の対象にはなりません。
ここがポイント! すでに加給が支払われている人に対する経過措置
2022 年3月 31 日時点で年金に配偶者加給年金額が上乗せされている場合には、「加給年金額の支給停止ルールの変更」または「65 歳未満の在職老齢年金の減額基準額変更」により4月以降に加給年金額が支給停止なるケースについても加給の停止は行わず、支払いを継続する。
配偶者加給年金額は「不公平な制度」なのか
それでは、最後に私の過去の体験談を紹介しましょう。
私が以前、旧社会保険庁の「電話による年金相談サービス」のお手伝いをしていたときのことです。
配偶者加給年金額について、年金を受け取っている方からたびたび次のような意見をいただきました。
皆さんは、この意見を聞いてどのように思いますか。
確かに、「同じように保険料を納めたのだから、同じように加給も支払うべき」というのは、重要な考え方です。
しかしながら、日本の年金制度は「納めた保険料が同じであれば、享受できるサービスも同じにする」という考え方だけに基づき、運営されているわけではありません。
このような説明をすると、驚かれる方が多いかもしれませんね。
日本の年金制度は、「保険料は負担能力に応じて納め、年金は必要性に応じて支払う」という考え方に基づいて運営されています。
このような考え方を「応能負担、必要給付」と呼びます。
「応能負担」とは負担能力に応じて保険料を納めることを、「必要給付」とは必要性に応じてサービスを提供することを意味する言葉です。
具体的に考えてみましょう。
現在、公的年金の保険料は納められる人はたくさん納め、納めるのが大変な人は少なく納めればよいとされています。
事情次第では、保険料を納めないことさえ許されます。
例えば、厚生年金の保険料額は一律ではなく、給与水準が高い人はたくさん納め、給与水準が低い人は少なく納めればよい仕組みになっています。
保険料負担が大変な育児休業中などは、保険料を納めないことが許されます。
これが、負担能力に応じて保険料を納める「応能負担」の考え方です。
また、年金の支払いは、支払いを受ける“必要性が高い人”には、より手厚い年金を支払い、支払いを受ける“必要性が高くない人”には、より少ない年金を支払うこととされています。
例えば、扶養する家族がいるため、より多くの生活資金を必要とする人には、加入実績に基づく年金額に加給年金額を上乗せし、より手厚い老齢厚生年金が支払われます。
扶養する家族がいない人には、加入実績に基づく老齢厚生年金だけが支払われることになります。
これが、必要性に応じて年金を支払う「必要給付」の考え方です。
従って、配偶者加給年金額についても、「同じように保険料を納めたのだから、同じように加給を支払う」のではなく、配偶者を扶養していることによる経済的負担に着目し、「“必要性が高い人”にのみ支払う」という対応が取られます。
このような考え方が採用される理由は、公的年金制度が担っている役割の特殊性にあります。
公的年金制度は民間企業の商品ではなく、国の社会保障制度の一つです。
そのため、単に加入記録に基づいて年金を支払えばよいのではなく、同時に国の制度ならではの役割を果たすことも求められています。
例えば、「保険料を十分に納められない人にも、一定の年金を支払う」「現役時代のような所得格差を生まない年金を支払う」など、民間企業の商品ではおよそ考えられないような役割も、公的年金制度は果たさなければなりません。
国の制度ならではこのような特殊な役割は、「納めた保険料が同じであれば、享受できるサービスも同じにする」という考え方だけでは、実現ができません。
このような事情から、「保険料は負担能力に応じて納め、年金は必要性に応じて支払う」という考え方を基礎に、制度が運営されているものです。
もちろん、一般の方が「同じように保険料を納めたのだから、同じように加給も支払うべき」との発想に至るのは、致し方のないことです。
しかしながら、年金制度に興味を持ち、勉強や情報収集をしている皆さんであれば、公的年金制度の根幹にはこのような考え方が存在することも、理解をしていただくとよいと思います。
ここがポイント! 配偶者加給年金額と「必要給付」の原則
配偶者加給年金額は「必要給付」の考え方に基づき、配偶者を扶養することによる経済的負担の観点から“必要性が高い人”にのみ支払われる。
今回のニュースまとめ
今回は、『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』の4回目として、「配偶者加給年金額の支払いルールの変更点」について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 2022 年3月までは、妻が「厚生年金に 20 年以上加入した実績に基づく老齢年金」の権利を持つケースでは、妻の年金が全額支給停止の場合にのみ、夫に配偶者加給年金額が支払われる。妻が夫を扶養する場合も同じ。
- 2022年4月からは上記のケースでも配偶者加給年金額は支払われない。
- 2022 年3月 31 日時点で配偶者加給年金額が支払われていれば、「加給年金額の支給停止ルールの変更」「65 歳未満の在職老齢年金の減額基準額変更」により4月以降に加給が停止なるケースでも、支払いが継続される。
- 配偶者加給年金額は配偶者の扶養に伴う経済的負担を鑑み、“必要性が高い人”にのみ支払われる。
今回は前編の現行制度の仕組みを踏まえて、4月からの改正内容を解説しました。
加給年金は年金相談の現場でも非常に多い相談です。
年金を勉強中の方は、これを機に改めてその仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。
さて、2021(令和3)年 12 月からスタートした『新年度の年金改正を深掘りするシリーズ』も、いよいよ次回の第5回で終了となります。
最終回は「2022 年度からのその他の改正事項」を整理します。
どうぞお楽しみに。
出典・参考にした情報源
厚生労働省:
「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」の公布について(通知)
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師