
どんなニュース?簡単に言うと
2026年4月、健康保険の被扶養者認定の基準に新しいルールが追加されました。
追加された認定基準が使用されると、配偶者の扶養の範囲で働く人にはどのような影響があるのでしょうか。
今回は春から追加された新しい被扶養者認定ルールについて、仕組みを見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「今後1年間の収入の見込額」で決まる被扶養者
配偶者の扶養の範囲で働く人にとって、「健康保険の被扶養者に認定されるかどうか」はとても重要です。
万一、認定を受けられなければ、健康保険料などを自分で支払わなければいけないからです。
2026(令和8)年4月以降の認定ルールは、基本的な仕組み自体は今までどおりで変わりません。
ただし、一部、新しい考え方が追加されています。
それでは、新しい考え方が追加される前の認定ルールをおさらいしておきましょう。
夫に扶養される妻のケースで考えてみます。
次の2つの要件の両方を満たした妻は、被扶養者としての認定を受けることが可能です。
妻の年間収入が …
・130万円未満であること
・夫の年間収入の半分未満であること
なお、妻が60歳以上であったり障害厚生年金を受け取れるくらいの障害を持っていたりする場合には、年間収入の基準は少し緩くなり、180万円未満であれば扶養扱いの対象となります。
ただし、被扶養者の認定で使用する年間収入の考え方は間違えやすいので、とても注意が必要です。
残念ながらそうではありません。
ここでいう年間収入とは「過去の収入」ではなく、「今後1年間の収入の見込額」になります。
「今後1年間の収入の見込額」は過去の収入、現時点の収入、将来の収入などから算出をします。
たとえば、給料の額が変わらないような職場・契約形態で働いているのであれば、過去1年間の収入がそのまま「今後1年間の収入の見込額」になるでしょう。
しかしながら、「最近、給料が増えた」などのことがあれば、過去1年間の収入は必ずしも「今後1年間の収入の見込額」にはなりません。
そのため、現在の収入をもとに「今後1年間の収入の見込額」を計算することになります。
さらに、「最近、給料が増えたのはたまたま忙しかったからで、一時的なことである」などの事情があれば、「今後1年間の収入の見込額」を計算するには将来の収入も見据える必要があるかもしれません。
このようにして算出された金額が130万円未満(60歳以上などでは180万円未満)かで、被扶養者になるかどうかが決まるわけです。
ここがポイント!「過去の収入」だけでは決まらない健康保険の扶養
健康保険の被扶養者の認定は過去の収入、現時点の収入、将来の収入などから「今後1年間の収入の見込額」を算出し、基準額未満となるかどうかで判断される。
「臨時収入」を対象外とする追加ルール
今回、追加されたルールの基本的な考え方は、次のようなものです。
「当初、想定されなかった臨時収入」が原因で結果的に年間収入が130万円以上になっても、被扶養者のままとする。
臨時収入によって年間収入が130万円以上になった場合、従前の認定ルールでは被扶養者の認定から外れるケースも存在しました。
過去・現在・将来の収入などから見た「今後1年間の収入の見込額」が、基準額以上となるためです。
今回、追加されたルールでは、その臨時収入が当初は想定されなかったものなのであれば、被扶養者の認定から外れないことになりました。
そのとおりです。
具体例で考えてみましょう。
月10万円の給料でパート勤務を始めたA子さんがいるとします。
現在の給料額を年収換算すると120万円(=10万円×12カ月)なので、健康保険の被扶養者の認定を受けています。
ところが、A子さんの職場で突然退職者が発生しました。
そのため、従業員一人ひとりの業務負担が増加し、残業がない契約のA子さんにも残業が発生してしまいました。
その結果、A子さんの給料には残業代が付き、月11万円になりました。
月11万円の給料を年収に換算すると、132万円(=11万円×12カ月)です。
このようなケースでも、給料の増加が「当初、想定されなかった臨時収入」によるものなのであれば、被扶養者のままにしようというわけです。

先ほどのケースで、もしもトラがA子さんの立場だったらどうしますか?
それがルールが追加された理由です。
130万円未満のはずの年間収入が残業や出勤日数の増加で130万円以上になると想定された場合、パート勤務者の中にはトラのように「予定外の残業や出勤の依頼には応じない」という就業調整を行う人も少なくありません。
就業調整をしなければ収入の増加によって健康保険の扶養扱いから外れ、保険料負担が発生してしまうからです。
しかしながら、職場に就業調整を行うパート勤務者がいると、その他の従業員の業務負荷が過重になってしまいます。
業務運営が頓挫しかねないケースもあるかもしれません。
このように、従来の認定ルールはパート勤務者はもちろん、その他の従業員や企業にとっても負担が小さくない側面があったといえます。
従来の認定ルールが抱えるこのような問題点を解消する目的で策定されたのが、今回の追加ルールです。
パート勤務者の就業状況について調査した『令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査』(厚生労働省)によると、配偶者がいるパート勤務の女性が過去1年間に就業調整をしたことがある割合は21.8%です。
ただし、この調査結果には「そもそも就業調整をする必要がない人」や「明確に回答していない人」が多数含まれています。
これらの人を除いて考えると、半数近くの女性が就業調整をしていることになります。
また、配偶者がいるパート勤務の女性が就業調整を行った理由では、最も多かった回答が「一定額(130万円)を超えると健康保険、厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから」で57.3%です。
配偶者の扶養の範囲で働く女性にとっては、健康保険の扶養から外れて自分で健康保険料を払うようになるのは、最も避けたい事態であることが分かります。
今回、追加されたルールでは「当初、想定されなかった臨時収入」は、被扶養者認定の判断材料にしないこととされました。
そのため、A子さんのようなケースでも「年間収入は基準額以上になっていない」とされ、扶養扱いを維持することが可能になりました。
その結果、パート勤務者は就業調整の必要がなくなり、被扶養者の認定を受けたまま収入が増えることになります。
企業も人出不足状態を回避できるわけです。
ここがポイント!就業調整を不要とする2026年度からの追加ルール
2026年4月からは「当初、想定されなかった臨時収入」が原因で結果的に年間収入が130万円以上になっても、扶養から外れることがない。そのため、パート勤務者は今までのような就業調整が不要になる。
『年収の壁・支援強化パッケージ』の考え方を踏襲
実は、今回のルール追加には、『年収の壁・支援強化パッケージ』が大きく関係しています。
『年収の壁・支援強化パッケージ』とは年収の壁対策として講じられた政策で、今から3年前の2023(令和5)年10月にスタートしています。
同年3月、当時の岸田文雄首相はこども・子育て政策に関する記者会見で、次のように述べました。
「いわゆる106万円、130万円の壁によって、働く時間を希望どおり延ばすことをためらう方がおられると、結果として世帯の所得が増えません。~(中略)~ 106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせない取組の支援などをまず導入し、さらに、制度の見直しに取り組みます」
《出所》自由民主党ウェブサイト
このような趣旨を踏まえ、いわゆる「106万円、130万円の壁」対策として『年収の壁・支援強化パッケージ』が策定されました。
この施策は次の4つの取り組みで構成されています。
- 社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
- キャリアアップ助成金のコースの新設
- 事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
- 企業の配偶者手当の見直し促進
上記4つの取り組みのうち3番目の『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』は、年収130万円を就業調整の基準としている人を想定した対策です。
具体的には、年収が一時的に130万円以上になる場合、一時的な収入変動であることを示す会社の証明書を提出すれば扶養扱いの継続処理が迅速に行われるという仕組みです。
『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』は当面の施策であり、上記の会見要旨にあるとおり「さらに、制度の見直しに取り組む」とされていました。
そこで、この仕組みの基本的な考え方を踏襲した上で、今回の追加ルールが新設されたわけです。
ここがポイント!引き継がれる『年収の壁・支援強化パッケージ』の考え方
2026年度から追加された被扶養者認定ルールは、『年収の壁・支援強化パッケージ』の中の『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』の基本的な考え方を踏襲した上で新設されたものである。
「雇用契約の内容」がポイントに
そうではありません。
それでは、その点も含めて今回追加されたルールについて、運用上のポイントを見ていきましょう。
(1)「当初、想定されなかった臨時収入」に該当するかは、「雇用契約の内容」で判断する。
追加されたルールの最大のポイントは、被扶養者の認定に「雇用契約の段階で見込まれる収入額」のみを使用することにあります。
具体的には、契約の内容が確認できる書類(労働条件通知書など)に記載されている時給の額・勤務日数や時間数などを使って計算した年間収入の見込額が基準額未満かどうかで判断することになります。
そのため、雇用契約に明確な規定がなく、契約段階では見込むことが難しかった残業などに対する給料の支払いは、被扶養者の認定時に年間収入には含まないこととされました。
たとえば、契約の際に渡された労働条件通知書の「所定時間外労働の有無」欄は「無」にマルが付いているのに、先ほどのA子さんのように退職者が発生したために残業を行ったなどの場合は、その残業は考慮せず、所定時間外労働がないと明記されている労働条件通知書の内容に基づいて判断することになります。
もちろん、労働条件通知書などに残業がある旨の記載が最初からあるのであれば、その残業分も加味して年間収入の見込額を割り出します。
割り出した見込額が130万円以上になるのなら、被扶養者に該当することはありません。
したがって、今回のルール追加によって「130万円の壁」が完全になくなったわけではありません。
なお、複数の職場を掛け持ちでパート勤務をしている場合には、すべてのパート先の労働条件通知書などを使い、雇用契約の段階で見込まれる年間収入が基準額未満かどうかを判断します。
(2)あらゆるケースで今回の追加ルールを適用するわけではない。
今回、追加されたルールは、例外なくすべての被扶養者認定時に使用されるわけではありません。
次の場合などでは今回の追加ルールは適用せず、従前どおりのルールで判断されることになります。
① 給与収入以外に他の収入(年金収入や事業収入など)がある場合
② 雇用契約の内容では年間の収入が判定できない場合(契約期間が1年未満のケースなど)
③ 契約内容を確認できる書類がない場合
④ 臨時収入が「社会通念上妥当な範囲」ではない場合
⑤ 複数の職場を掛け持ちでパート勤務をしており、それらの勤務先の中に上記に該当する事例がある場合
「社会通念上妥当な範囲」とは何とも曖昧な表現ですね。
残念ながら、この点について厚生労働省の見解は必ずしも具体性のあるものではなく、「社会一般に通用している常識や見解に照らして妥当という意味」「一概に示すことはできない」などと説明しています。
ここがポイント!「雇用契約の段階で見込まれる収入額」がポイントに
追加されたルールでは、被扶養者の認定に「雇用契約の段階で見込まれる収入額」のみを使用するのが原則となる。ただし、給与収入以外の収入がある場合などでは、従前どおりの仕組みで判断が行われる。
今回のニュースまとめ

今回は、健康保険の被扶養者認定について「2026年度から追加されたルールの内容」を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 健康保険の被扶養者の認定は過去の収入、現時点の収入、将来の収入などから「今後1年間の収入の見込額」を算出して判断するのが原則である。
- 2026年4月からは「当初、想定されなかった臨時収入」によって年間収入が基準額以上になっても、扶養から外れることがない。
- 追加されたルールは、『年収の壁・支援強化パッケージ』の中の『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』の基本的な考え方が引き継がれている。
- 2026年4月からは「雇用契約の段階で見込まれる収入額」のみを被扶養者認定の判断に使用することが原則になった。ただし、従前どおりの仕組みで判断されるケースも残っている。
2026年度から追加された被扶養者認定ルールにより、パート勤務者にとっては「この残業依頼を受けると130万円以上になってしまう」などの心配が一定程度、解消されることになるようです。
果たして、このルール追加が就業調整の削減にどの程度、効果を示すのか。
徐々に明らかになるのが楽しみです。
出典・参考にした情報源
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労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取り扱いについて|日本年金機構
www.nenkin.go.jp
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令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況|厚生労働省
令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概況について紹介しています。
www.mhlw.go.jp
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年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省
www.mhlw.go.jp
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こども・子育て政策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)|自由民主党
本日は、こども・子育て政策について、基本的考え方をお知らせしたいと思います。総理就任以来、私は、我が国は歴史的転換点にあり、これを乗り越える最良の道は「人への投資」だと申し上げてきました。
www.jimin.jp



大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師