どんなニュース?簡単に言うと
2021(令和3)年 3 月から、母子家庭の母、父子家庭の父が障害基礎年金を受給しながら子育てをしている場合に、今まではもらえなかった児童扶養手当がもらえるようになることをご存じですか。今回は、障害基礎年金と児童扶養手当との関係を見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「児童扶養手当」とは
子供を持つ夫婦が離婚をして母子家庭・父子家庭になった場合などでは、その家庭は経済的に厳しくなる傾向にあります。
しかしながら、そのような家庭でも生活が極力安定し、子供が健やかに成長できるようにとの考えから支払われる公的な金銭があります。
これが児童扶養手当です。
児童扶養手当は児童扶養手当法という法律に基づいて支払われるもので、原則として養っている子供が「18 歳に達する日以降の最初の3月 31 日までの間にある場合」や「20 歳未満で一定の障害状態にある場合」に支払い対象となるものです。
子供が「18 歳に達する日以降の最初の3月 31 日までの間にある場合」とは、随分、分かりづらい表現ですが、一般的には高校を卒業するまでの年齢の子供が該当することになります。
つまり、「子供が高校を卒業するまでは経済的な援助をしますよ」「障害を持つ子供の場合には、成人するまでは経済的な援助をしますよ」というのが、児童扶養手当の基本的な考え方といえます。
支払われる金額は 2020(令和2)年度の場合、該当する子供が1人のケースでは月額で最大 43,160 円。
1年間にすれば、最大で 517,920 円の手当がもらえることになります。
該当する子供が2人の場合には1カ月当たり 10,190 円増え、最大で月額合計 53,350 円、3人の場合にはさらに 6,110 円増え、最大で月額合計 59,460 円となり、子供が1人の場合よりも少しずつ増額されます。
ただし、児童扶養手当は家庭の所得状況に応じて減額されるため、必ずしも最大額を受け取れるとは限らないようです。
ココがポイント!「児童扶養手当」とは
「児童扶養手当」とは子育て中の母子家庭、父子家庭などに対し、子供の人数に応じて月々行われる経済援助のことである。
ひとり親が障害基礎年金の受給者の場合には「児童扶養手当」をもらえない
実は、2021(令和3)年2月までは、母子家庭の母や父子家庭の父が障害基礎年金を受け取っている場合には、養っている子供が児童扶養手当の対象となる年齢であったとしても、その母や父は手当を受け取れないことになっています。
正確に言うと、障害基礎年金を受給するひとり親の場合には、「障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を上回る場合には、児童扶養手当を受給できない」という仕組みになっているものです。
2020(令和2)年度の場合、子ども1人分の加算が付いた障害基礎年金は、金額の低い2級のケースでも基本年金額が月額 65,141 円(≒781,700 円÷12 カ月)、子の加算額が月額 18,741 円(≒224,900 円÷12 カ月)で、合計 83,882 円(=65,141 円+18,741 円)となります。
前述のとおり児童扶養手当は、対象となる子供が1人の場合には最大で月額 43,160 円なので、通常は障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を必ず上回ることになります。
従って、障害基礎年金を受給するひとり親は、児童扶養手当をもらえないということになるものです。
図で見ると、次のとおりです。
ココがポイント!障害基礎年金受給者への 2021 年2月までの対応
2021(令和3)年2月までは、障害基礎年金を受給するひとり親は、障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を上回ると児童扶養手当をもらえない。
就労が困難な障害を持つひとり親
しかしながら、障害年金を受給しているひとり親の母や父は、働いて十分な収入を得ることが極めて困難です。
厚生労働省がまとめた「平成 26 年年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)」の特別集計結果によると、障害年金を受給しているひとり親の場合、働きたくても働けない割合は 54.3%とのこと。
障害年金を受給するひとり親の2人に1人は、働いて収入を得ることができない状態です。
また、仮に働けたとしても、働いたことによる収入が年間で 100 万円以下の割合は 59.0%とのことです(同調査)。
子供を育てながら生活をするには、極めて心もとない収入です。
実は、このような状況であるにもかかわらず、障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を上回るという理由で、「障害基礎年金を受給するひとり親が児童扶養手当を受給できない状態」が問題視されてきたという事情があります。
そのため、障害年金を受給するひとり親でも同時に児童扶養手当をもらえるよう、今回の制度改正に至ったものです。
ココがポイント!障害年金を受給するひとり親の就労状況
障害年金を受給しているひとり親は、2人に1人が働きたくても働けない状態である。また、働けたとしても就労による収入は6割が年間 100 万円以下である。
子の加算額と児童扶養手当額の“差額”が受け取り可能に
それでは、障害基礎年金をもらいながら子育てをするひとり親に対する、2021(令和3)年3月からの児童扶養手当支払いの具体的な仕組みを見てみましょう。
2021(令和3)年3月からは、障害基礎年金をもらいながら子育てをする母子家庭の母、父子家庭の父の場合には、「児童扶養手当の額が障害基礎年金の子の加算額を上回る場合、その差額を児童扶養手当としてもらえる」という仕組みに変更されます。
具体例で考えてみましょう。
現在、障害基礎年金の子の加算額は、子供が1人の場合には月額 18,741 円(≒224,900 円÷12 カ月)です。
児童扶養手当は、前述のとおり対象となる子供が1人の場合には、最大で月額 43,160 円となります。
この場合、児童扶養手当の額 43,160 円は、障害基礎年金の子の加算額 18,741 円を 24,419円(=43,160 円-18,741 円)ほど上回っています。
従って、差額の 24,419 円の 10 円未満を四捨五入した 24,420 円が 1 カ月当たりの児童扶養手当として受け取れることになるものです。
図で見ると、次のとおりです。
障害基礎年金をもらっている母子家庭の母、父子家庭の父は、対象となる子供が1人のケースでは、年額にすれば最大で約 30 万円の児童扶養手当を新たに受け取れることになります。
同様に、対象となる子供が2人または3人のケースでも、それぞれ年額で最大約 19 万円の児童扶養手当をもらえるようになるものです。
ココがポイント!障害基礎年金受給者への児童扶養手当支給の新しい仕組み
2021(令和3)年3月からは、障害基礎年金をもらっているひとり親は、最大で年間約 30万円の児童扶養手当をもらえるようになる。
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申請書類は市役所から自動的には届かない
今回の制度改正に伴う手続きは、すでに児童扶養手当の受給資格者としての認定を受けている場合には、原則として不要とされています。
しかしながら、認定を受けていない場合には、市役所や区役所の児童扶養手当の担当窓口で申請手続きをして、初めて手当を受け取ることが可能になります。
また、今回の制度改正は 2021(令和3)年 3 月からなので、支払い対象となる児童扶養手当も 2021(令和3)年3月分の手当からとなります。
そのため、これまで障害基礎年金を受給していたことにより児童扶養手当を受け取れなかった人が、2021(令和3)年3月1日時点で手当の支給要件に該当している場合には、
2021(令和3)年6月 30 日までに申請をすれば、2021(令和3)年3月分の手当から遡って受け取れることとされています。
しかしながら、申請が 2021(令和3)年7月以降になった場合には、3月1日の時点で支給要件を満たしていたとしても、申請をした翌月分の児童扶養手当からしか受け取ることができません。
例えば、2021(令和3)年8月に申請をした場合には、仮に3月1日の時点で支給要件を満たしていたとしても、申請をした翌月である 2021 年9月分の児童扶養手当からしか受け取ることができなくなります。
この場合、2021(令和3)年3月分から同8月分までの6カ月分の手当は、受け取ることができなくなってしまいますので、注意が必要です。
児童扶養手当の支払いは後払いであり、毎奇数月に前2カ月分が支払われます。
従って、今回の制度改正に伴って初めて児童扶養手当が支払われるのは 2021(令和3)年5月で、この時に3・4月分の手当が支払われることになります。
ただし、市役所や区役所では、今回の制度改正によって新たに児童扶養手当がもらえるようになる住民の方に対して、案内文書や申請書類を自動的に送付することはないようです。
そのため、自分で市役所などに問い合わせをし、申請手続きを進めることが必要になります。
ココがポイント!制度改正に伴う手続き上の注意点
今回の制度改正に伴う児童扶養手当の受給対象者に対し、市区町村から自動的に申請書類が届くことはない。そのため、自分で忘れずに手続きを進めることが大切になる。
今回のニュースまとめ
今回は、障害基礎年金を受給するひとり親への児童扶養手当の支払いについて、2021(令和3)年3月から始まる新しい仕組みを見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 「児童扶養手当」とは子育て中の母子家庭、父子家庭などに対し、子供の人数に応じて月々行われる経済援助のことである。
- 2021(令和3)年2月までは、障害基礎年金を受給するひとり親は、障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を上回ると児童扶養手当をもらえない。
- 障害年金を受給しているひとり親は、2人に1人が働きたくても働けない状態である。
また、働けたとしても就労による収入は6割が年間 100 万円以下である。 - 2021(令和3)年3月からは、障害基礎年金をもらっているひとり親は、最大で年間約30 万円の児童扶養手当をもらえるようになる。
- 市区町村から自動的に申請書類が届くことはないので、自分で忘れずに手続きを進めることが大切である。
児童扶養手当制度には、対象者の前年の所得額に応じて支払い額を制限する「所得制限」と呼ばれる仕組みがあります。
この「所得制限」では、通常は「非課税の所得」は考慮しないことになっています。
つまり、「非課税の所得」がいくらたくさんあったとしても、児童扶養手当を受け取るうえでは支障にならないということです。
しかしながら、2021(令和3)年3月以降、障害基礎年金を受給しているひとり親に児童扶養手当を支給する場合については、「非課税の公的年金」などの受取額も考慮して「所得制限」を行うように制度が変更されています。
そのため、障害基礎年金をもらっているひとり親であったとしても、その他の障害年金や労災保険の年金などを受給している場合には、その額によっては児童扶養手当の受取額が少なくなるなどの可能性もあります。
従って、まずは市役所や区役所の児童扶養手当の担当窓口で、「児童扶養手当が受け取れるようになるのか」「非課税の年金を受け取っていることにより、受取額が変わるのか」などをよく確認するとよいでしょう。
出典・参考にした情報源
厚生労働省ウェブサイト:
-
障害基礎年金等を受給しているひとり親のご家庭の皆さま 「児童扶養手当」が変わります
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師