この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【後編】|みんなのねんきん

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【前編】|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

どんなニュース?簡単に言うと

2024年10月1日、短時間労働者の社会保険の適用範囲が拡大されました。

しかし、パートタイマーの加入ルールを正しく理解できている方は、必ずしも多くありません。

そこで今回は、短時間労働者の社会保険加入要件について、実務上のポイントを整理してみましょう。

後編の今回は、「賃金の要件」「雇用期間の要件」「非学生の要件」について掘り下げます。

前編の「企業規模の要件」「労働時間の要件」は以下のコラムを確認してください。

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【前編】|みんなのねんきん
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どんなニュース?もう少し詳しく!

短時間労働者の社会保険加入要件を再度確認

前編で触れたとおり、本年(2024年)10月1日からは、「企業規模の要件(従業員数の要件)」について従業員数51人以上100人以下の企業が新たに短時間労働者の社会保険加入の対象となりました。

また、他の4要件の内容は次のとおりです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上である
  • 賃金の月額が8万円以上である。   ←今回
  • 2カ月を超える雇用の見込みがある。 ←今回
  • 学生ではない。           ←今回

今回は下3つの要件を見ていきます。

まずは賃金の要件からいきましょう。

ポイント3.賃金の要件

(1)賃金は1カ月の “総支払額” で判断するとは限らない

この要件は「賃金の月額が8.8万円以上である」というものでした。

ところが、パートタイマーに支払われる1カ月の賃金が88,000円以上でも、社会保険加入の対象にならないケースがあるので注意が必要です。

たとえば、1カ月の賃金が「89,000円」のパートタイマーがいるとしましょう。

この金額には3,000円分の通勤手当が含まれているとします。

この場合、1カ月の賃金は88,000円以上なので、他の要件も満たすのであれば社会保険加入の対象になるようにも思えます。

しかしながら、このケースでは社会保険加入の対象にはなりません。

理由は、賃金の要件は通勤手当を除いて判断するからです。

このパートタイマーの1カ月の賃金は、通勤手当を除外すると「86,000円」(=1カ月の賃金89,000円-通勤手当3,000円)です。

88,000円以上には該当しないので、賃金の要件は満たさないと考えるのが正しいと言えます。

他にも、時間外手当や精勤手当、家族手当などは除外して「月額賃金が88,000円以上か」を判断することになっています。

しかしながら、賃金の要件は総支払額で判断してしまいがちです。

その結果、加入対象ではないにもかかわらず、誤って加入手続きを進められてしまうこともあるため注意が必要です。

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【後編】|みんなのねんきん

ここがポイント!賃金の要件における手当の取り扱い

賃金の要件は通勤手当や時間外手当、家族手当などを除いた金額が88,000円以上かで判断する。

(2)所定労働時間が “週単位” のときは、賃金額を月額に換算して判断する

次は、所定労働時間が週単位で定められている場合の賃金の要件について、考えてみましょう。

企業とパートタイマーが週単位で労働時間を契約しており、それに基づいて賃金額が定められている場合、「賃金の月額が8.8万円以上であるかどうか」はどのように判断すればよいのでしょうか。

このようなケースでは、「『週の所定労働時間に応じた賃金額』を月額に換算して88,000円以上になるか」で判断をすることになります。

具体的には、1年間を52週と考え、まずは『週の所定労働時間に応じた賃金額』に52週を掛けて『年間の賃金額』を算出します。

次に、算出された『年間の賃金額』を12カ月で割ることにより、『1カ月の賃金額』に相当する金額を導き出します。

具体例で考えてみましょう。

たとえば、「週4日・1日5時間勤務、時給1,080円」の契約で働くパートタイマーがいるとします。

このケースでは、1週間の所定労働時間は20時間(=4日×5時間)であり、1週間の所定労働時間に応じた賃金額は21,600円(=1,080円×20時間)です。

この場合、21,600円に52週を乗じた『年間の賃金額』は1,123,200円であり、1,123,200円を12カ月で除した『1カ月の賃金額』に相当する金額は93,600円と計算できます。

88,000円以上なのですから、賃金の要件を満たすと判断できます。

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【後編】|みんなのねんきん

ここがポイント! 所定労働時間が “週単位” の場合の賃金の考え方

所定労働時間が週単位で決まっている場合は、『週の所定労働時間に応じた賃金額』を月額に換算して88,000円以上になるかで、賃金の要件を判断する。

(3)社会保険加入後に月額賃金が88,000円を下回っても資格は喪失しない

賃金の要件の最後は、「パートタイマーが社会保険に加入した後、月額賃金が88,000円を下回ったケース」を考えてみます。

たとえば、雇用契約に基づけば月額賃金は88,000円以上なのですが、遅刻や欠勤があったため、実際の支払額が88,000円を下回ったという場合です。

このようなケースで、「給料額が88,000円を下回ったのだから、厚生年金から抜けることになる」と考えるのは誤りです。

社会保険加入後は、雇用契約が見直された結果として月額賃金が88,000円を下回ることが明らかにならなければ、原則として社会保険から抜けることはないからです。

かりに、遅刻や欠勤などで実際の支払額が88,000円を下回ったとしても、雇用契約どおりに勤務が行われれば月額賃金は88,000円以上になるのであれば、加入は継続しなければなりません。

この場合ってどうなの?社会保険加入拡大で押さえたい5つの実務ポイント【後編】|みんなのねんきん

もしも、パートタイマーが契約どおりの勤務をまったく行わず、月額賃金が常態として88,000円を下回るのであれば、雇用契約を見直した上で厚生年金から抜けるのが正しい対応と言えます。

ここがポイント! 社保加入後に賃金が88,000円を下回った場合の取り扱い

遅刻・欠勤などで賃金が88,000円を下回っても、雇用契約どおりに勤務すれば月額賃金が88,000円以上になるのなら、社会保険加入は継続しなければならない。

ポイント4.雇用期間の要件

雇用期間の要件は「2カ月を超える雇用の見込みがある」というものです。

この要件は短時間労働者に限ったルールではなく、一般の従業員に対する要件と同じです。

詳しくは、2022年10月13日付コラム『2ヶ月以内で働くなら要チェック!難易度別「途中で条件変更」で社会保険に入る?入らない?』で8つの事例を挙げて解説していますので、ぜひ参照してください。

2ヶ月以内で働くなら要チェック!難易度別「途中で条件変更」で社会保険に入る?入らない?|みんなのねんきん

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ポイント5.非学生の要件

最後の要件は非学生の要件です。

非学生の要件とは「学生ではないこと」を求める要件になります。

つまり、社会保険は「パート・アルバイトが労働時間の要件などを満たしても、学生なのであれば加入対象にしない」という取り扱いが行われるわけです。

ただし、「学生」という立場を持っていれば、例外なく社会保険への加入が不要になるわけではありません。

たとえば、休学中の場合はこの要件における「学生」とは取り扱われません。

そのため、休学中の学生は他の要件も満たせば、社会保険への加入が必要になります。

また、以下の課程に在学する学生も、ここで言う「学生」には当たりません。

  • 定時制課程
  • 通信制課程
  • 社会人大学院
  • 修業年限1年未満の各種学校

たとえば、定時制課程に在学している学生は、非学生の要件を見る上では「学生ではない」と取り扱われます。

したがって、他の要件も充足するのであれば、社会保険加入を義務付けられることになります。

ここがポイント! 非学生の要件の考え方

休学中や定時制・通信制課程などの学生は、非学生の要件を満たすと判断される。そのため、他の要件も満たせば社会保険に加入しなければならない。

今回のニュースまとめ

【みんなのねんきん】上級認定講師大須賀先生

今回は2024(令和6)年10月1日の社会保険適用拡大を踏まえ、短時間労働者の社保加入の要件についてさまざまな事例を見てきました。

後編のポイントは次のとおりです。

  • 賃金の要件は通勤手当や時間外手当、家族手当などを除いた金額が88,000円以上かで判断する。
  • 所定労働時間が週単位で決まっている場合は、『週の所定労働時間に応じた賃金額』を月額に換算して88,000円以上になるかで賃金の要件を判断する。
  • 遅刻・欠勤などで賃金が88,000円を下回っても、雇用契約どおりに勤務すれば88,000円以上になるのなら社会保険加入は継続しなければならない。
  • 休学中や定時制・通信制課程などの学生は、非学生の要件を満たすと判断される。

社会保険加入は「給料の手取り額が減る」というデメリットが強調される傾向にあります。

しかしながら、「公的な保障制度を利用できる」というメリットがあることも事実です。

とりわけ、年金については「老後の年金額が増える」という、死亡するまで享受し続けられる極めて多きなメリットが存在しています。

社会保険の適用拡大を契機に自身の働き方を見直す場合には、短期的な視点ばかりにとらわれず「自身や家族にとり、長期的にはどのような影響があるのか」という視点も忘れずに考慮する必要があるでしょう。

出典・参考にした情報源

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厚生労働省ホームページ:社会保険適用拡大特設サイト

www.mhlw.go.jp

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内|日本年金機構
日本年金機構ホームページ:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内

www.nenkin.go.jp



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みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。

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