どんなニュース?簡単に言うと
振替加算が約600億円、10万人に対する支給漏れが生じているとのこと。日本年金機構の自主的な調査で発覚しました。新聞・テレビの報道や日本年金機構発表の資料から、振替加算の支給漏れについて加算制度や背景事情を解説します。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「振替加算」で598億円の支給漏れ
2017年9月13日の夜。
とんでもない見出しが飛び込んできました。
一体なにが起きたんだ?
本来もらえるはずの年金の加算部分に支給漏れがあった様子。
早速、日本年金機構のウェブサイトにアクセスしてみると・・。
ありました。
報道発表の資料が!(記事の最後にリンクを載せています)
支給漏れの理由を見た率直な印象は「やっぱりそうか・・」
心当たりがある経験を結構してきましたので・・。
今回は振替加算の支給漏れを日本年金機構の資料と私の経験から検証してみます。
振替加算とは何か?
まずは、振替加算ってなに?というところから。
厚生年金や共済年金に加入していた夫には妻の扶養手当ともいうべき「加給年金」という年金がつく場合がある。加給年金は妻が65歳になると支給停止になるが、世帯の年金が激減しないように今度は妻に「振替加算」がつく仕組みになっている。
(出典:日本経済新聞 2017年9月13日)
確かに、このとおりなのですが、もう少し具体的に解説します。
そもそも年金制度は全て、基本となる年金額とその基本部分に加算される加算額という構造になっています。
国民年金制度から受け取ることができる老齢基礎年金も同じ。
その加算部分は「振替加算」というもの。
この加算は誰でも受け取れるわけではありません。
ある年代で専業主婦を経験したことがある人に対する補填
という意味合いのものなんです。
ところで、
専業主婦が国民年金制度に強制加入するようになったのは昭和61年4月から。
それより前は入りたい人はどうぞという任意加入の仕組みでした。
もちろん、
当時任意で加入した人もたくさんいたわけですが、入らなかった人もいる。
専業主婦の老後の年金を保障するために強制加入という仕組みを採ったのに、任意でどうぞの期間が長い人ほど年金額が少なくなる可能性がある。
当時任意で加入する道を選んだ人はよいのですが、選ばなかった人をどうするか。
自業自得で片付けるわけにはいかない。
そんなわけで、
ある年代で専業主婦を経験したであろう人たちに対して加算する仕組みなんです。
当時任意で加入していたか否かは問われません。
”加入していたなら加算なし”なら正直者がバカをみるからです。
”ある年代”とは昭和41年4月1日以前生まれの方
上で説明したとおり、昭和61年4月から20歳以上の人は強制加入となりました。
とすれば、
当時20歳未満の人は年金補填の対象外。
なぜなら、
20歳になるときには強制加入の時代になっているから。
加算しなくても本体の年金額でしっかりとした保障を受けられるからです。
で、その境目が昭和41年4月1日以前生まれの方です。
(正確には「振替加算」は現行制度の加算制度なので、その対象となる大正15年4月2日以降の生まれであることも必要です。)
専業主婦を経験したであろう人たちとは
”専業主婦だった場合は丸をつけてください”
そんな自己申告制のわけがありませんよね。
本人に訊いてもわからないので、こうしました。
夫の年金に妻を対象とした加給年金(家族手当)が加算されている
この状態であれば、その妻は「専業主婦を経験したであろう」とみなします。
そして、
加給年金が終了したら、妻に振り替えて、妻の方に加算してあげよう
としたわけです。
これが、振替加算。
ただし、
妻自身が厚生年金に20年以上加入していると、この加算はありません。
これは共働き状態ですから、専業主婦の期間が長かったとは言えないからでしょう。
最後に、
仕組み上は夫と妻が逆の立場でも問題ありません。
夫に振替加算がつくケースもあります。
年金機構の総点検で10万人以上の支給漏れが発覚
支給漏れの96%は共済年金が絡んでいる
日本年金機構発表の資料によれば、
今回の総点検で判明したのは、105,963 人です。そのうち、ご夫婦のいずれかが共済年金を受給している方が 101,324 人(全体の 96%)です。
(出典:「振替加算の総点検とその対応について」日本年金機構)
とのこと。
10万人以上の人に支給漏れがあり、そのほとんどが夫婦のどちらかが共済年金受給者。
共済年金は主に公務員経験者が受け取る年金です。
この「共済年金」に原因がありそうです。
原因はハッキリ報道されていないが・・
日本年金機構の資料には原因が全く記載されていません。
新聞等の報道を見てみると、
共済年金と厚生年金が一元化されていく過程で、「振替加算」の対象者の情報共有が不十分だったことなどが原因だということです。
(出典:NHK NEWSWEB)
私の経験を思い出すと、
この人は振替加算があってしかるべきなのに、なぜ加算がされていないのだろう・・。
というケースをたまに見ることがありました。
もちろん、こちらが気づいた場合は、気を利かせてその都度手続きを案内していました。
そのたびに、コンピューターで処理しているのになぜこんなことになるんだろうと疑問に思ったものです。
また、
振替加算がつくと言われているのに加算がされていない!
という相談もよくあります。
その場合、相談者の配偶者が公務員経験者で共済年金を受給しているというケースはよくありました。
共済年金と一口に言っても、その支給元である共済組合はたくさんあります。
国家公務員であれば省庁ごとに共済組合があり、地方公務員も市町村やら警察やら消防やら多岐に渡っています。
これらの組合と日本年金機構との情報共有が不十分だったことが原因と言われれば、やっぱりねという感じがします。
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未払い分は11月に支給する
日本年金機構の資料によれば、対象者を3種類にわけて対応するとのこと
- 本人に確認が必要ないケースなら11月上旬に通知を送って11月15日に未払い分を支給
- 本人に確認が必要なケースは別途連絡
- 本人が亡くなっていれば遺族に連絡
1は日本年金機構のコンピューター上に既に加給年金対象者であることの情報があり、振替加算を停止させる状況でもないという人たちだと思います。
ちなみに、
振替加算は障害年金の権利があると、その権利がある間は全額加算停止という縛りがあります。
2はその点で本人になんらかの確認をするようです。
3は、年金受給者が亡くなった場合は、遺族が最後の未払い分を請求しているはず。その未払い分請求者に連絡するということです。
なお、
「振替加算専用ダイヤル」なる専用のコールセンターも立ち上がっています。
9月14日から受付が始まっています。
今回のニュースまとめ
今回のニュースをまとめると以下のとおり。
- 10万人以上に振替加算の支給漏れが発覚
- 振替加算は「ある年代で専業主婦を経験したことがある人に対する補填」
- 年金機構は3種類のケースに分けて対応
- 未払い分は11月に支給予定
振替加算・・・。
難しいんですよねぇ。
専業主婦の任意加入時代の不都合を補うためのものですが、その存在理由も含めて理解が難しい。
制度的には支払うことを約束していても、実務上、対象者に支払いがされていなければ意味がありません。
これまでの経験上、私たち自身が年金制度のことをしっかり知ることも必要だと思います。
知っていれば、「なんでこうなの?」と相談できますから。
さて、
今回の支給漏れは、日本年金機構が自主的に調査をしてわかったことです。
9月13日に開催された社会保障審議会のなかで厚労省と年金機構が調査結果を報告をしたとのこと。
今後、議事録が発表されるので、何か新しいことがわかったら記事にしたいと思っています。
2018年2月6日 追記
その後、詳しく原因を分析したコラムを掲載しています。参考にしてください。
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振替加算の支給漏れ原因をシモムーが詳しく分析してみた 第1回/全4回|みんなのねんきん
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出典・参考にした情報源
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日本年金機構 振替加算の総点検とその対応について 2017年9月13日
続きを見る
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シモムー
みんなのねんきん主任講師