どんなニュース?簡単に言うと
企業年金の代表格である「厚生年金基金」。実は、2014年(平成26年)4月に「厚生年金基金」の存続を困難にする大きな法律改正が行われました。あれから5年。今回は「厚生年金基金」が現在、どのようになっているのかについてご紹介をします。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
そもそも厚生年金基金とは
企業などが社員のために実施する年金制度のことを企業年金と呼びます。
企業年金にはいくつかの種類がありますが、そのうちの一つが厚生年金基金です。
厚生年金基金は「国の年金の一部」と「基金独自の年金」の2つを合わせて支払うという、企業年金の中でも特殊な役割を持つ制度として、1966年(昭和41年)10月にスタートしました。
その後、多くの企業が「福利厚生の充実」「優秀な人材の確保」などを目的にこの制度を取り入れ、基金数は大幅に増加することになります。
基金制度スタートから3年程度経った1969年度(昭和44年度)末には、基金数はすでに500を超え、1981年度(昭和56年度)末には1,000を超えることになります。
基金数がピークを迎える平成8年度末には、全国で1,883の厚生年金基金が運営をされており、加入していた人の人数は約1,209万人に上ります。
平成8年当時、企業などで勤務する雇用者数は約5,332万人であったため、組織で働く人の実に5人に1人以上が厚生年金基金に加入していた計算になります。
これが、「厚生年金基金は日本を代表する企業年金」といわれる所以(ゆえん)です。
しかしながら、バブル経済が崩壊した後は運営が困難になり、少しずつ「国の年金の一部」を代わりに支払うという業務を辞める基金が出始めることになります。
ココがポイント!厚生年金基金とは
ピーク時には全国に1,883基金も存在した、日本を代表する企業年金制度である。
法改正で実現困難な“厳しい財務基準”が定められた
その後、2013年(平成25年)6月に財務的に極めて大きな余力を持つ厚生年金基金以外は、将来的に存続が困難になる法律の改正が行われました。
法律の名称は『公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律』といい、2014年(平成26年)4月1日施行となりました。
この改正法では、法律の施行から5年経過した時点で一定の財務基準を満たしている場合にのみ、基金存続が可能とされました。
法律の成立時点で厚生年金基金の数は560にまで減っていたため、この560基金が改正法の対象になります。
ところが、5年後に求められる財務基準を560基金の現状に当てはめてみたところ、法律の成立時点で基準を満たしているのは、わずか“1割程度”の基金しかないことが分かりました。
つまり、法律の成立時点で大多数の厚生年金基金がクリアできていない財務基準を課すという、極めて実現困難な厳しいルールが作られたことになります(具体的な基準は難しいので、説明を割愛します)。
さらに、法律の施行から5年経過以降は、その財務基準を満たしていない厚生年金基金に対して、厚生労働大臣が「解散命令」を発動できることも決められました。
つまり、改正法の施行により、財務状況の思わしくない基金は、大臣が“強制的に”業務を辞めさせることが可能になったものです。
以上のような事情から、法律が成立する時点で運営されていた560の厚生年金基金は、突如“今後の身の振り方”を意思決定せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
こうして、560の厚生年金基金はその後、改正法の対応に翻弄されることになります。
法律がスタートしたのが2014年(平成26年)4月1日のため、5年後は2019年(平成31年)4月1日です。
つまり、改正法が指定した“5年間”が、まさに今、経過しようとしているわけです。
私自身も22の厚生年金基金について改正法対応のお手伝いをしたのですが、基金関係者の皆さんのご苦労は言葉では言い尽くせないものがあります。
ココがポイント!2014年(平成26年)4月にスタートした法改正
法律の施行から5年経過した時点で一定の財務基準を満たしている場合に限り、厚生年金基金として存続ができる。その財務基準を満たしていない厚生年金基金に対しては、厚生労働大臣が「解散命令」を発動できる。
9割以上が厚生年金基金としての存続を断念
法改正時点で既存基金の9割が満たせていないという“厳しい財務基準”が5年後に課されることを踏まえ、各厚生年金基金が取ることのできる選択肢は、次のいずれかとなりました。
- 足りない財産を補てんして基準を満たし、厚生年金基金として業務を続ける。
- 「国の年金の一部」の支払いを辞め、他の企業年金に変わる(これを「代行返上」といいます)。
- 全ての業務を辞める(これを「解散」といいます)。
このような3つの選択肢がありましたが、そもそも5年後に課される“財務基準”を現時点で満たせていない基金が大半なのですから、1の「厚生年金基金として業務を続ける」という選択肢を取ることは極めて困難です。
そのため、結果として「国の年金の一部」 を代わりに支払う業務を辞めて、他の企業年金に変わる2の「代行返上」や、全ての業務を辞める3の「解散」の道を選ぶ基金が多数発生することになります。
具体的には、改正法成立時に運営されていた560基金のうちの約20%に当たる117基金が2の「代行返上」を、約77%に当たる433基金が3の「解散」の道を選ぶ結果となりました。
そのため、2019年(平成31年)2月末日現在、厚生年金基金として存続しているのは、わずかに12基金のみとなってしまいました。
(注:一部の基金が特殊な手法を用いて組織変更を行ったため、「代行返上した基金数」「解散した基金数」「存続している基金数」の3つの数値を合計しても、560にはなりません)
改正法が成立してからは、怒涛のごとく基金数は減少の一途を辿ることになります。改正法成立前後からこれまでの厚生年金基金の数の変遷をまとめると、次のとおりです。
今後の存続予定はわずか8基金に
現在の基金数である12基金は、実にピーク時の0.6%の数に当たります。
ちなみに、現在、存続している厚生年金基金は次のとおりです。
- 全国信用金庫厚生年金基金
- 全国信用組合厚生年金基金
- フジ厚生年金基金
- 西日本段ボール厚生年金基金
- 国会議員秘書厚生年金基金
- 岡山県機械金属工業厚生年金基金
- 全国信用保証協会厚生年金基金
- 道路施設協会厚生年金基金
- 三井不動産リアルティ厚生年金基金
- 福岡県食品産業厚生年金基金
- 全国シルバー人材センター厚生年金基金
- スギノマシン厚生年金基金
実は、上記12基金のうちの4基金は、「国の年金の一部」の支払いをやめて他の企業年金に変わる「代行返上」の準備にすでに入っています。
そのため、今後も厚生年金基金として業務を続けていく予定なのは、わずかに8基金のみとなってしまいました。
残念ながら、厚生年金基金は役割を終えた制度といわざるを得ない状態です。
今回のニュースまとめ
今回は、厚生年金基金の法改正対応と現状について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
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厚生年金基金はピーク時には全国に1,883基金が運営され、組織で働く人の5人に1人以上が加入していた日本を代表する企業年金である。
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2014年(平成26年)4月に財務的に極めて大きな余力を持つ厚生年金基金以外は、将来的に存続が困難になる法律が施行され、法律の施行から5年経過した時点で一定の財務基準を満たしている場合にのみ、基金存続が可能とされた。
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その結果、約20%の基金が「代行返上」を、約77%の基金が「解散」の道を選んだ。
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今後も厚生年金基金として業務を続けていく予定なのは、わずかに8基金のみの状態である。
実は、厚生年金基金の運営が困難になってきた状況などを鑑みて、国は従来の企業年金制度に変更を加えることにしましまた。
その結果、2001年(平成13年)に確定拠出年金制度が、2002年(平成14年)に確定給付企業年金制度がスタートしたものです。
今後は役割を終えた厚生年金基金に代わり、平成に入ってから新設された企業年金制度の役割が一層重要になるのだと思います。
出典・参考にした情報源
- 厚生労働省ウェブサイト:
厚生年金基金の解散・代行返上の状況(2019年10月 リンクが切れました)
- 企業年金連合会ウェブサイト:
- 独立行政法人労働政策研究・研修機構ウェブサイト:
大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師