注:実際の報告書は黒塗りではありません
どんなニュース?簡単に言うと
今後の社会保障を検討する「全世代型社会保障検討会議」で中間報告が発表されました。この報告の中で年金制度はどのような改正を目指しているのかがわかります。今回は公的年金制度に特化して報告内容をまとめてみました。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
2019年12月19日。
「全世代型社会保障検討会議」(以下、「会議」)で中間報告がされました。
もちろん、年金に関する報告が載っているのは知っていたのですが・・・。
そもそもこの会議って何?
先日私が傍聴した社会保障審議会とはどう違う?
この会議の存在自体よくわかっていなかったのでそこから調べることから始めました。
全世代型社会保障検討会議とは
趣旨は以下のとおり。
少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討
するための会議で、令和元年9月に開催が決定されました。
メンバーの構成は内閣総理大臣を議長として、関係省庁(財務省、厚労省など)の各大臣、有識者9名。
総理大臣直轄の会議なんですね。
社会保障審議会とは異なり、省庁横断の一時的なプロジェクトという感じ。
また、自民党・公明党の与党からの提言を踏まえて検討していることも社会保障審議会とは異なります。
国会の意見を聴くのは、審議会を経て、法案を提出したあとの話だからです。
ちなみに、社会保障審議会は厚生労働行政の中だけの機関であり恒久的なもの。
以下のコラムでまとめたことがあります。
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潜入取材!社会保障審議会年金部会の舞台裏|みんなのねんきん
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つまり、この検討会議は、
総理大臣が中心になった省庁横断的かつ臨時的な会議であり、今後の社会保障全体の改革方針を与党の意見も踏まえて検討する機関
と言えます。
今回の中間報告を経て、令和2年夏に最終報告という流れだそうです。
年金改正を考えるうえで大事な3つの視点
さて、ここからは中間報告の公的年金に関係するものをご紹介していきます。
まずは、今後の改革の視点として年金に関係するものを列挙。
- 生涯現役で活躍できる社会
- 個人の自由で多様な選択を支える社会保障
- 現役世代の負担上昇の抑制
この3つの視点を意識して、具体的な改正の内容を見ていきます。
視点1「生涯現役で活躍できる社会」
在職老齢年金の改正
生涯現役で働けるためには、就労意欲を削ぐ年金制度ではダメ。
というわけで、年金を受け取りながら社会保険に入る働き方をすると、その年金が減額される在職老齢年金の仕組みが変わります。
在職老齢年金(低在老)については、就労に与える影響が一定程度確認されているという観点、2030年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援するという観点、また、制度を分かりやすくする観点から、現行の28万円から65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同じ47万円の基準に合わせることとする。
60歳台前半の減額基準が緩和されるので、結果的に年金減額を気にせずに就労できるでしょう。
詳しくは以前のコラムでまとめたことがあります。
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「在職定時改定」という新制度ができる
「在職定時改定」という新しい制度を作るそうです。
65歳以上の者の老齢厚生年金について、在職中から年金額の改定を毎年行い早期に年金額を増額させる在職定時改定を導入することとする。
厚生年金に入りながら年金をもらう場合、毎月保険料を納めるわけですから、年金も毎月増えそうな感じ。
ところが、現行制度ではそうはなりません。
退職するか、70歳に達するかまでは、年金額の再計算ってされないんです。
そこで、在職中でも1年に1回は改定しようという新しい仕組みです。
これなら、
ということになる(?)。
生涯現役で活躍するための意欲が高まる(はず)というわけです。
企業年金に入れる年齢や期間が変わる
企業が自分たちの意思で設立した企業年金。
これも公的年金と同じく改正の方向です。
働く期間が延びるので企業年金加入の期間も延ばそうということです。
公的年金制度の改革に併せて、私的年金の加入可能要件を見直し、加入可能年齢を引き上げるとともに、受給開始時期を柔軟化するなどの取組を行う。
視点2 「個人の自由で多様な選択を支える社会保障」
75歳まで我慢すれば年金がもっと増える
いつまで働き続けるかは個人で自由に決めること。
そこで、年金受け取り開始時期の自由度を上げることにしました。
国民一人一人が老後の生活設計を考えながら年金受給のタイミングを自分で選択できる範囲を拡大するため、60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始時期について、その上限を75歳に引き上げる。
というわけで、75歳まで我慢すればより年金が増える仕組みに改まります。
現行は70歳までの我慢しか年金が増えません。
ただ、注意したいのはこの点。
これに併せて、繰上げ・繰下げの増減率を、年金財政への中立を基本に最新の生命表等に応じたものに見直す。
現行制度では繰り上げると月0.5%の減額、繰り下げると月0.7%の増額。
この数字が変わることになります。
また、誤解されないよう、こんな言及もされています。
他方、70歳までの就業機会の確保に伴い、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行わない。
つまり、
65歳からもらえる年金の基本的な仕組みは変わらないということ。
75歳からでないともらえないということではありません。
ねんきん定期便の見直し
自由に選択できるといっても、情報がなければ選択のしようがありません。
そこで、
ねんきん定期便等の記載を見直し、公的年金制度のポイントを丁寧に伝えることで、国民の老後の選択を支援する。
記載内容をわかりやすくしようということで、適切な選択ができるよう情報提供を丁寧にするとのこと。
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視点3 現役世代の負担上昇の抑制
年金に限らず、現行制度を維持していくためには、将来の現役世代の負担上昇が避けられません。
そこで、
2022年には団塊の世代が75歳以上の高齢者となり、現行の社会保障制度を前提とすると、現役世代の負担が大きく上昇することが想定される。人生100年時代の到来をチャンスとして前向きに捉えながら、働き方の変化を中心に据えて
社会保障制度全体を見直すべきと言っています。
というわけで、働き方の形態に関わらず、社会保険に入れるようにする。
つまり、
どんな会社のパートタイマーであっても社会保険に入ってもらおうというわけです。
年金をもらう人が増えても、年金を支える人が増えるなら、1人の負担が大きくなることを抑制できます。
現行制度では501人以上の企業で働くパートタイマーが社会保険加入の対象。
これを51人以上の企業に引き上げる。
急には無理なので、
- 2022年10月に101人以上
- 2024年10月に51人以上
と、2段階で引き上げるそうです。
また、同時に中小企業への影響が大きいので助成金等の支援策を実施します。
みんなのねんきん上級認定講師の大須賀先生のコラムも参考にしてください。
-
入る?入らない?歴史でひもとく短時間労働者と厚生年金の今|みんなのねんきん
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注目すべきは、以下の一文。
また、5人以上の個人事業所のうち、弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業について、適用業種に追加する。
現行制度では、例えば、社労士の個人事業所で1000人のスタッフを雇っていても、各スタッフは社会保険には入らなかったのですが、5人いるなら全員社会保険に入るということに。
仮にも法律に携わる業種ですから文句は言えません。
今回のニュースまとめ
今回は、全世代型社会保障検討会議の中間報告の年金改正の方向性をまとめてみました。
ポイントは次のとおりです。
- 全世代型社会保障検討会議は総理大臣が中心になった省庁横断的かつ臨時的な会議であり、今後の社会保障全体の改革方針を与党の意見も踏まえて検討する機関
- 3つの視点を意識「生涯現役で活躍できる社会」「個人の自由で多様な選択を支える社会保障」「現役世代の負担上昇の抑制」
- 3つの視点に合わせた年金改正が行われる予定
これからの年金改正の方向性が見えてきました。
大きく言えば、働きたい人がいつまでも働けるのに合わせた社会保障制度に変えるということ。
年金だけで生活できる昭和の時代は終わりました。
元気な限りは働いて稼ぎ、不足する老後資金2,000万円は自分でなんとかして欲しい
ということでしょうか。
2020年の通常国会で改正案が提出予定です。
次回以降のコラムで個別の制度をもう少し掘り下げて解説する予定です。
お楽しみに。
出典・参考にした情報源
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全世代型社会保障検討会議 中間報告 令和元年12月19日
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シモムー
みんなのねんきん主任講師