どんなニュース?簡単に言うと
2019年(平成31年)4月1日から、外国籍者の在留資格に「特定技能」という資格が新設されました。実は、企業がこの在留資格を利用するには、「年金保険料をキチンと払っていること」が必要になります。今回はこの仕組みを見てみましょう。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
単純労働分野を外国籍者へ解放
外国籍の人が日本に一定期間以上、滞在して就労するためには、在留資格というものを認められている必要があります。
しかしながら、これまでわが国では、外国籍者の国内就労は「高度人材に限定する」という立場を原則としてきたため、単純労働分野を対象とした在留資格は設けられていませんでした。
ところが、少子高齢化の影響による深刻な人手不足に対応するため、2018年(平成30年)12月8日に出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)が改正され、2019年(平成31年)4月1日から外国人労働者に対して、わが国での単純労働分野における就労の道が開かれることになりました。
そのために新設されたのが、「特定技能」という在留資格になります。
ココがポイント!「特定技能」とは・・・
外国籍者に対して単純労働分野での就労を認める在留資格で、2019年(平成31年)4月1日から始まった。
「特定技能」の在留資格は人手不足が顕著な次の14業種について認められ、制度開始から5年間で約34万人の受け入れを見込んでいるといわれます。
【「特定技能」の対象となる14業種】
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 介護職
- ビルクリーニング業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
「社会保険関係の保険料の納付状況」を確認できる書類の提出が義務化
わが国のこれまでの在留資格には、資格を認定する基準に「社会保険法令の遵守」を求める規定はありませんでした。
しかしながら、今回、新設された「特定技能」については、申請時の提出書類の一つとして「社会保険法令の遵守」の状況を確認できる書類が盛り込まれています。
つまり、「社会保険法令を守らない企業や外国籍者には利用を認めない!」というのが、今回、新設された「特定技能」という在留資格の大きな特徴といえます。
具体的には、「特定技能」の資格を持つ外国籍者を受け入れる企業が厚生年金等に加入している企業なのであれば、地方出入国在留管理官署に対して「当該企業に関する過去2年分の厚生年金等保険料の納付状況」を確認できる書類の提出が義務付けられることになりました。
同様に、厚生年金等に加入していない企業の場合には、同署に対して「事業主個人の年金加入記録」と「事業主個人の過去2年分の国民年金保険料の納付状況」を確認できる書類の提出が義務付けられています。
また、外国籍者本人についても、厚生年金等に加入していない企業で働く場合には、同署に対して「外国籍者本人の年金加入記録」と「外国籍者本人の過去2年分の国民年金保険料の納付状況」を確認できる書類を提出しなければなりません。
法務省側のこのような取り扱いに対応するため、日本年金機構では「特定技能」の申請に必要となる「年金加入記録」や「過去2年分の年金保険料の納付状況」を確認できる書類の交付を受け付けることになりました。
日本年金機構のホームページ上では2019年(平成31年)3月29日(金)から手続きに関する具体的な情報公開が始まり、年金関係書類を入手するために必要な申請書のダウンロードも可能になっています。
申請書は『社会保険適用事業所用』『社会保険適用“外”事業所用』『外国籍者本人用』の3種類が用意されており、それぞれ必要事項を記入して、日本年金機構中央年金センターに郵送で申し込むことになります。
同センターでは、申請書の受付から4営業日程度で年金関係書類を申請者宛に発送するとのことです。
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「社会保険適用逃れの企業」をどのように扱うのか
実は、上記一連の手続きに関しては、一つ疑問点が残ります。
「厚生年金等の強制適用事業所であるにもかかわらず未加入の企業」に対する年金関係書類の交付をどのように行うのかという点です。
たとえば、株式会社などの法人の場合には、厚生年金保険法という法律で「必ず厚生年金に加入しなければならない企業」と定められています。
このような企業のことを「強制適用事業所」といいます。
大変残念なことですが、世の中には厚生年金等の「強制適用事業所」であるにもかかわらず、企業としての厚生年金等への加入手続きを行っていない企業が多数、存在しています。
そのような企業は、本来負担すべき厚生年金保険料等を免れているのですから、社会保険法令を遵守していない典型的なケースといえます。
今回、年金関係の書類を入手するための手続きでは、厚生年金等に加入していない企業の場合には、『社会保険適用“外”事業所用』の申請書を用いて“事業主の個人名”で日本年金機構に申し込むことになっています。
そのため、「強制適用事業所」であるにもかかわらず厚生年金等への加入手続きを行っていない企業の場合にも、『社会保険適用“外”事業所用』の申請書を用いて“事業主の個人名”で日本年金機構に申し込むことになります。
その結果、「事業主個人の年金加入記録」と「事業主個人の過去2年分の国民年金保険料の納付状況」を確認できる書類が日本年金機構から交付され、その他の要件を満たすのであれば、「特定技能」の在留資格を持つ外国籍者を雇用できることになります。
つまり、「強制適用事業所」であるにもかかわらず社会保険法令に反して厚生年金等への加入手続きを行っておらず、自分の国民年金保険料を納めているだけの社長が「特定技能」の在留資格を持つ外国籍者を雇えることになってしまうわけです。
これでは、在留資格の取得条件の一つに「社会保険法令の遵守」を定めた意味がありません。
ココがポイント!企業に「特定技能」の利用を認める上での懸念事項
社会保険法令に反して厚生年金等への加入手続きを行っていない事業主(企業)が、「特定技能」の在留資格を持つ外国籍者を雇用できてしまうのではないか?
「強制適用事業所」かの確認が課題に
厚生年金の加入を逃れている疑いのある企業は、2018年(平成30年)9月時点で約40万社あり、また、厚生年金の加入要件を満たしているにもかかわらず未加入の労働者は、約156万人に上ると推計されています(2019年(平成31年)4月厚生労働省発表)。
従って、「社会保険法令の遵守」という新制度の趣旨を鑑みるのであれば、本来は『社会保険適用“外”事業所用』の申請書を使って年金関係書類の交付申請を行ってきた事業主に対しては、まずは「強制適用事業所」かどうかの確認を行うべきではないかと思います。
その際、「強制適用事業所」であることが判明した場合には、当該事業主に企業としての厚生年金等への加入手続きを適正に行わせた上で、今まで「強制適用事業所」であるにもかかわらず未加入であったことを踏まえて作成した年金関係書類の交付を行うべきではないでしょうか。
しかしながら、本稿執筆時点の公開情報では、この点に関する対応が一切、示されていません。
法務省とすれば、「日本年金機構が交付した書類が“形式的に”揃っていればよし」としてしまうのか、それとも真に社会保険法令の遵守状況が確認できる書類の交付を厚生労働省や日本年金機構サイドに求めるのか、今後の動きに注目したいところです。
ココがポイント!年金関係書類を交付する上での課題と思われる事項
『社会保険適用”外”事業所用』の申請書を使って年金関係書類の交付を求めてきた事業主(企業)について、「強制適用事業所」かどうかの確認を行わなくてもよいのか?
今回のニュースまとめ
今回は、2019年(平成31年)4月1日からスタートした「特定技能」という在留資格と年金保険料の関係について見てきました。
ポイントは次のとおりです。
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2019年(平成31年)4月1日から、外国籍者が単純労働分野で就労できる「特定技能」という在留資格が新設された。
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「特定技能」の資格を利用する企業や外国籍者には、「社会保険法令の遵守」が求められることになった。
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そのため、「特定技能」の資格を申請する際には、「社会保険関係の保険料の納付状況」を確認できる書類の提出が義務化された。
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年金関係書類の交付手続きについては、「強制適用事業所」であるにもかかわらず社会保険未加入の企業への対応が課題になるのではないか。
実は、外国籍者が「特定技能」の在留資格を認められるためには、一定の日本語能力を身に付けていることも必要とされています。
そのため、「特定技能」の資格を取って日本で働くことを目指す多くの外国籍の方が、現在、母国で慣れない日本語のトレーニングにも励んでいるのだそうです。
そのような頑張る外国籍の皆さんにとり、真に役に立つ「特定技能」の資格であってほしいと心から願います。
出典・参考にした情報源
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日本年金機構ウェブサイト 新たな在留資格「特定技能」制度の申請に際して必要となる社会保険関係の書類交付について
続きを見る
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法務省ウェブサイト 新たな外国人材受入れ(在留資格「特定技能」の創設等)
平成31年4月1日から、入国管理局は「出入国在留管理庁」となりました。当庁に関する業務については、引き続き、「出入国在留管理庁ホームページ」において情報提供いたします。
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大須賀信敬
みんなのねんきん上級認定講師