相談事例

同月内で入社して辞めると?出入りが激しい会社の年金の面倒な事態とは

投稿日:2019年6月22日 更新日:

シモムー

みんなのねんきん主任講師

どんな事例?簡単に言うと・・

同月内で社会保険に入って脱退したらどうなるのか。1か月未満の在籍期間であっても社会保険料の1か月分の負担が必要です。2015年10月からはその1か月分を返金する仕組みができたのですが出入りの激しい会社は大変なことに・・。今回は同月内で社会保険に入って脱退したらどうなるかの仕組みを解説します。

こんな事例を考えてみましょう

ここはある大手派遣会社。

社会保険手続き担当のSさんは頭を抱えています。

何に悩んでいるのか?

派遣会社なので人の出入りが激しい。

同じ月の中で社会保険に入ってやめた場合、1か月未満の在籍でも1か月分の保険料を給料から天引きしないといけません。

しかし、この保険料は結局のところすぐに返金されます。

返金後、本人負担分は退職者に返さないといけない。

モモ
じゃ、最初から天引きしなければいいじゃない。全くどうなってんのよこの仕組みは!

Sさんの会社では、社会保険に入ったと思ったらその月のうちに脱退する人が毎月20人も!

だから、Sさんは毎月繰り返される無駄な仕事に頭を抱えているのです。

今回の事例の何が問題なんでしょうか

社会保険(厚生年金)の保険料は月単位で納めないといけません。

日割計算はありません。

となると、1日しか在籍しなかった人の保険料はどうなる?

同じ月内で年金の加入と脱退をする(これを、「同月得喪」といいます)と、仮に1か月未満の在籍でも1か月の加入期間としてカウントされるというルールになっています。

加入期間とカウントされれば、当然保険料を納めないといけません。

つまり、同月得喪では1か月分の保険料の天引きが必要です。

会社としては従業員の給料からの天引き後、年金事務所に納めればそれで終了。

それが以前の仕組みでした。

ところが、2015年(平成27年)から仕組みが変わり、それだけでは終わらないことに・・・。

仕組みが変わったことで実務の現場でどのような混乱が起こっているのか。

それが問題となります。

注:社会保険は一般的に「厚生年金保険」と「健康保険」の総称ですが、ここでは厚生年金の保険料に絞って解説をしていきます

解説してみましょう

今回は私シモムーがみんなのねんきん公開セミナー終了後の懇親会の席でSさんから伺ったお話を事例化してみました。

実は同月得喪は昔から問題があって、その問題点を解消したのが2015年の改正だったのです。

しかし、その裏で実務の現場では面倒なことに・・・。

同月得喪の以前の仕組みと現行の仕組みを比較しながら何が面倒なことになったのかを事例をもとに解説してみます。

  • A県B市在住の猫野ホームズ氏
  • 6月1日に入社(厚生年金加入)して、6月20日に退職
  • その後無職の状態で月末に至った

同月内で会社に入ってすぐにやめた ー2015年9月以前の場合ー

実は以前から同月得喪の仕組みはありました。

つまり、同月内で厚生年金に入り脱退しても、その月は1か月としてカウントするのは同じだったのです。

したがって、ホームズさんは6月分に関しては厚生年金の保険料を納める必要があり、事業主は本人負担分を給料から天引きします。

その後ホームズさんは6月21日で国民年金の第1号被保険者に切り替わります。

国民年金も加入期間のカウント方法は同じで、日割り計算はありません。

したがって、国民年金の第1号被保険者としても6月は1か月としてカウントします。

すると、最終的に何が起きてくるかというと、6月は

  • 厚生年金:1か月分
  • 第1号被保険者としての国民年金:1か月分

それぞれ1か月分の加入期間となります。

ホームズさんは二重の年金保険料を納めなければなりません。

年金の同月得喪2015年9月まで

(クリックで拡大)

ここで仮にホームズさんが6月末日に退職したとすると、国民年金1か月分は納めずに済みます。

なぜなら、月末の時点で国民年金の第1号被保険者ではなかったから。

月末の時点で最終的な年金の立場が決まります。

ホームズ
じゃあさ、国民年金の保険料は納めるから厚生年金の分は返してよ!

ところが、お返しできません。

法律上、この6月1か月は厚生年金の1か月加入としてカウントされてしまうからです。

返金する理由がありません。

ホームズ
じゃ、わかった。国民年金の方は払わん!

こうなると、国民年金側からすると、6月は1か月分の未納ということになります。

月末の時点で国民年金の第1号被保険者として保険料を払う立場が確定しているからです。

未納ということになれば将来の老齢基礎年金が減額されます。

ホームズ
なにこれ?おかしくないか?

そこで、ルールを新しくすることとしました。

同月内で会社に入ってすぐにやめた ー2015年10月以降の場合ー

このような不都合を解消するため、厚生年金側のルールを改めることとしました。

簡単にいうと、ホームズさんのケースでは厚生年金の加入1か月は取り消して、返金することとなったのです。

なぜなら、最初の厚生年金加入がなかったことになるためです。

この仕組みであれば、1か月で二重の保険料を負担する事態は回避できます。

年金の同月得喪2015年10月から

(クリックで拡大)

退職後に同月内で別の会社に就職したら・・

もしも、ホームズさんが6月25日に別の会社に就職して社会保険に入ったらどうなるでしょう(月末まで辞めずにいたとする)。

最初の会社が同月得喪で1か月の加入期間のカウント。

で、次の新しい会社で1か月の加入期間のカウント(例え数日の在籍でも日割計算は無いので1か月のカウントとなります)。

厚生年金2か月分になる?

んなこたぁーない(タモリ風)。

法律では、次に勤めた新しい会社の1か月分だけが厚生年金の加入期間となり、最初の会社の1か月分はなかったことになります。

つまり、最初の会社の1か月加入カウントはキャンセルになるんです。

ホームズさんの事例と同じで、この場合、結局最初の会社の保険料は返金対象となります。

同月得喪が多い会社は事務手続きが大変なことに

話をもとに戻してホームズさんの事例です。

ここで、会社側の事務手続きはどうなるのでしょうか?

まず、1か月未満で退職したとしても、給与から保険料の天引きは必要です。

2015年10月からは同月得喪のルール変更で返金されることとなりました。

会社としてはどうせ返金されるのであれば、天引きせずにしておきたいところ。

ただ、返金される条件としては、退職後にその月が国民年金加入で確定したことが必要。

退職した人が退職後にどのような立場になるか。

それが退職前の会社にとってはわからない以上、保険料の天引きは依然として必要なんです。

そして、後日、年金事務所から返金する旨の通知がやってきます。

(Sさんの会社に届いた実際の通知 クリックで拡大)

メモ

保険料の徴収は各年金事務所の仕事なので通知の文面は事務所ごとに異なる可能性があります。

会社にとって選択肢は2つあります。

実際に返金してもらうか、来月分の納めるべき保険料から減額してもらうか。

Sさんの会社は毎月同月得喪が起こっていますから後者の減額を選択しています。

通知をみても「調整(減額)をお勧めいたします」となっていますね。

同時に、同月得喪対象者の名簿も添付されています。

Sさんからはこんなぼやきを伺っています。

文書をみてお気づきになるかと思いますが、対象者の情報は漢字氏名しかありません。整理番号も生年月日もないのです。年金事務所によって違うのかは不明です・・。対象者の特定ができないからといって年金事務所に問い合わせても教えてもらえませんし・・。

どうやら年金事務所からの通知は、会社にとっては不親切なものらしいんです。

通知の記載はどうあれ、会社としては最終的に同月得喪者を特定し、対象者には実際に天引きした分を返金します。

同月得喪の認識がある退職者から「いつ返金されるんですか?」という問い合わせが会社にあったりもします。どんなにすぐ切り替えても、実際の振込までは3~4か月かかる感じですね。これが毎月発生するので、かなりの事務工数です。

う〜ん。

なんという無駄な事務作業でしょうか。

出入りの激しい会社にとってはこのように事務作業が大変なことになります。

以前の仕組みであれば返金作業は必要なかったので、「前のほうが良かったよ!」となる気持はよくわかります。

なぜなら、

前の仕組みであれば、返金する必要がなかったわけですから。

同月得喪の従業員が多い会社では、こんな不毛な作業が毎月繰り返されているわけです。

今回の事例まとめ

今回は同月得喪の事例を従業員の出入りが多い事業所の例でまとめてみました。

ポイントは以下のとおり。

  • 同月内で会社に就職して退職した場合、1か月分の社会保険料を負担する必要がある
  • 2015年10月以降の同月得喪では前職の社会保険料は返金の対象となった
  • 会社は退職者に返金が必要となり事務手続きが煩雑に。特に出入りの激しい事業所では仕事量が増大することに

同月得喪における年金保険料の二重負担の問題は、私が在籍していた年金相談コールセンター時代からたまにお叱りを受けるテーマでした。

それが、2015年に解消し、めでたしめでたしと思っていたら、実務の現場では大変な事態に。

派遣会社のような労働者の出入りが激しい業界だけの話かもしれません。

ただ、そういった極端な事例だからこそ、私たちも学べることがあると思います。

今回は懇親会の席上、Sさんからの告白でそういう事象があることがわかりました。

Sさんには感謝の言葉しかありません。

あっちを立てればこっちが立たないというのはよくある話ですが、保険料の二重負担が解消されたのは良かったことだと思います。

Sさんには申し訳ありませんが、そういう職場だと思ってもらうしかないかと・・。

ただ、情報提供してくださったことには、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

出典・参考にした情報源

Sさんからの情報


事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。

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  • この記事を書いた人
シモムー

シモムー

日本年金機構の年金相談コールセンターにて新人研修講師を担当しながら社労士試験予備校にて講師を経験。2014年より公的年金の情報を初心者目線で解説する「みんなのねんきん」サイトで情報提供を続ける。年金を事例で学ぶ「年金ケーススタディ」で全問題の作問と解説を担当。「シモムーシェフの年金論点4分クッキング」では年金の論点を4分で解説。具体例やイメージで理解できる情報提供を心がけている。

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