どんな事例?簡単に言うと・・
「厚生年金の保険料支払いを猶予する方法がある」発端はこんなことを聞いたから。「は?そんなわけないでしょ」と思っていたのですが、ありました。その方法が。今回は国民年金・厚生年金の保険料を納めなくてよい仕組みについてまとめてみます。
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こんな事例を考えてみましょう
今回の事例の何が問題なんでしょうか
年金の保険料が払えない。
国民年金の場合、保険料支払いの「免除」という方法と「猶予」という方法があります。
法律のなかでしっかりと規定がされています。
一方、
厚生年金の場合、「免除」のみ限られた方法があるだけで、「猶予」というのは規定上見当たりません。
ところが、
この厚生年金の保険料納付を猶予してもらえるという厚労省のアナウンスを目にしました。
そんなのあったけ?
厚生年金制度における猶予がどんな仕組みなのかが問題となります。
解説してみましょう
今回の解説者:シモムー
今回は私、シモムーが解説します。
ー厚生年金の保険料の支払いを猶予してもらえるー
厚労省のウェブサイトで目にしたのが今回の記事執筆の発端です。
この厚労省の告知は2017年7月におきた九州北部豪雨の災害によるものです。
なるほど、厚生年金の場合は災害時に保険料の猶予がされる仕組みがあるのか・・。
この機会に保険料の納めなくていい仕組みを整理してみようか。
そんなわけで、ブログでまとめてみることにしました。
国民年金と厚生年金の仕組みにわけて、いってみましょう。
国民年金における保険料を納めなくてよい仕組み
国民年金における保険料を納める人はサラリーマン・その専業主婦以外の第1号被保険者だけです。
第1号被保険者は自営業者が典型例ですが、無職の人も含まれ、各人の収入はバラバラ。
ー納められる人とそうでない人がいるー
国民年金の制度上、こういう事態を当然のことと捉えています。
そこで、
法律の規定のなかで、保険料を納められない時のルールがハッキリ決まっているわけです。
昔からある保険料の免除制度
制度ができたときから存在していたのがこの「免除」です。
前年の所得に応じて全額免除から4分の3免除までバリエーションがあります。
免除が他の仕組みと異なる最も大きな特徴は、最低でも半月分の年金としてもらえるというもの。
つまり、全額を免除されたとしても年金がもらえる。
保険料を1円も納めていないのに、なんだかすごい有り難い仕組みですよね。
ただし、簡単には免除は認められません。
本人・配偶者・世帯主それぞれの所得が基準以下でないといけない。
世帯主が払えるなら、払ってもらいなさいというのが制度のスタンスです。
免除を簡単に認めたら保険として機能しないわけですから当たり前ですね。
学生専用の特例制度
日本に住み、20歳になれば第1号被保険者になります。
すると、大学生や専門学校生は在学中に第1号被保険者になります。
彼らも通常は所得が全く無いか、大して無いはず。
そこで、
学生だけの納めない仕組みが用意されています。
これが「学生納付特例」というもの。
この学生納付特例の最大の特徴は学生本人の所得だけで利用できるかどうか判定されるという点です。
ですから、上の「免除」のように、親と同居しているんだから納めなさい!とはならない。
特例が認められるハードルが低いので未納・滞納を防ぐことができます。
未納すると年金制度上は何のメリットもありません。
特に学生時に障害を負った場合、障害年金がもらえないという不都合があります。
ですからこの学生納付特例は障害保障を受けるためにあると言えます。
老後の保障にはならないか?
ならないです。
学生納付特例が認められた期間は、老後の年金を計算する上ではゼロ円という評価だからです。
年金額に反映されるためには10年以内に納める(追納)しかありません。
ただし、納めるのは義務ではありません。
追納のための督促が来るなんてことは無いので自分で意識して追納するしかない。
誰にも言われないからこそ、学生を終えた後が怖い仕組みと言えます。
学生じゃない若者向けの猶予制度
平成10年台の終わり。
不況が長期に渡るなかで、学生ではない若者が保険料を納められない問題がクローズアップしました。
学生を終えたにもかかわらず、正規の仕事に就けずに保険料も納められない。
未納になれば障害保障は受けられない。
というわけで、30歳未満の若年者専用の保険料猶予制度ができました。
平成17年4月のことです。
当時は10年限定(平成27年6月まで)の仕組みだったのですが、まだ必要な仕組みということで期間は延長されています。
この仕組の最大の特徴は本人と配偶者だけの所得で判定されること。
親元で暮らしている独身フリーターであっても、親と同居しているんだから納めなさい!とはならない。
学生と同じく、猶予が認められるハードルが低いわけです。
中身も学生特例と一緒で、障害保障は受けられるが、老後の保障にはなりません。
だから追納が必要。
「猶予」の名のごとく、後から納めることを前提とした仕組みです。
30歳以上の中年向けの猶予制度
平成28年7月からは30歳以上でも猶予してもらえる仕組みが登場しました。
最高で49歳までの人が使える猶予制度です。
中身は30歳未満の若年者向け猶予制度と一緒です。
この仕組みが始まってすぐにこんな質問を受けたことがあります。
上で取り上げた保険料免除や学生納付特例・30歳未満の若年者猶予制度は後からであっても、2年まで遡って認めてもらうことができます。
だからと言って、制度が始まるより前に遡るなんてことはできません。
2年まで遡ることは他と同様ですが、遡れても平成28年7月までということです。
厚生年金における保険料を納めなくてよい仕組み
厚生年金の保険料は誰が納めるか。
それは事業主です。
従業員も保険料の半額を負担しているのですが、納める義務がある人はあくまで事業主。
だから、社長が払えないからといって代わりに従業員に払えとはなりません。
国民年金ではお金がある人も無い人も第1号被保険者になるので免除等の仕組みが必須でした。
ところが、
厚生年金では事業主しか登場しません。
事業主なんですから社会保険料の負担は想定の範囲内で事業を進めているはず。
だから、
2つの特殊な例を除いて保険料が免除されたり、猶予されたりということは無いわけです。
特殊な例1 子育てをすると保険料が免除される
1つめは従業員が子育ての関係で休業した場合。
休業しているわけですから、その従業員は会社には籍がある。
籍があるということは、退職しない限り被保険者になりつづけますから休み中であっても保険料を負担する義務があります。
しかし、こんな原則どおりだったら、出産を機にみんな辞めますね。
ですので、産休・育休中の保険料は免除されます。
事業主の所得がどうこうとかは全く関係ありません。
政策的な理由で認められた免除ということですね。
特殊な例2 災害時には保険料の納付が猶予される
2017年7月の九州の大雨。
厚労省の災害対策として専用のページが作られていました。
このページを見ると、厚生年金・健康保険の社会保険料のみならず、労働保険料も猶予してもらえるとのこと。
年金だけのことではなく、被災した事業主に配慮した措置なんですね。
そういえば、以前熊本の地震があった時に、みんなのねんきんの大須賀講師に熊本地震に対する厚労省の対応についてまとめてもらったことがありました。
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熊本地震で被災者専用コールセンター設置!年金機構の支援策とは?|みんなのねんきん
出典記事が発表された日:2016年4月26日 写真は熊本城 どんなニュース?簡単に言うと 大きな被害を出した熊本地震。日本年金機構は災害支援策を打ち出して被災者専用フリーダイヤルを設置しました。そこで ...
こうしてみると、基本的に厚生年金の保険料はきっちり納めるしか方法は無いですね。
業績が悪くなったから免除して欲しいとかもありません。
どんなにパン屋がどしゃ降りでも納めるしかないんです。
(猫野家の長男ホームズはパン屋を経営していますが個人事業でやっています。自営業で第1号被保険者ですから、ホームズ自身の所得によって免除や猶予は受けられますね)
今回の事例まとめ
今回の事例をまとめると以下のとおり。
- 国民年金は自営業者から無職の人までいるので制度として当然に免除や猶予の規定を用意している
- 所得が無い場合の「免除」、学生に対する「特例」、50歳未満までの方に対する「猶予」が国民年金制度上ある
- 厚生年金は事業主が納付の主体。そのため特殊な場合でなければ保険料の免除や猶予は無い
改めて保険料を納めずに済ますための制度をまとめてみて、国民年金と厚生年金のスタンスはエラく違うなぁと実感。
また、免除や猶予を活用すべき時は活用した方がいいですが、セットにして「追納」のことを考えないといけません。
特に学生と50歳未満の猶予は追納しないと老後の年金はゼロ評価。
しかも、”追納せよ”とも強制されないわけですから気づいた時には手遅れにならないとも限りません。
今さえ良ければでは、やっぱりマズイですね。
出典・参考にした情報源
事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。
シモムー
みんなのねんきん主任講師