どんなニュース?簡単に言うと
2016年7月から新しく保険料納付を猶予する仕組みが始まります。新しいといっても実は従来の仕組みの延長の話。これまで30歳未満の人が対象だったものを50歳未満に拡大するとのこと。法律改正のいきさつを交えて解説してみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
今から遡ること2年前。
2014年6月4日の参院本会議。
国民年金の保険料納付猶予制度の改正法が成立しました。
あれから2年の歳月を経た2016年7月。
いよいよ新しい仕組みが始動です!
と、まぁ、大げさですが簡単に言うと、既にあった納付猶予制度の対象者を広げたということ。
法律改正のいきさつを交えて、何がどう変わるか解説してみましょう!
そもそも猶予制度ってなんだ?
この猶予制度というのは国民年金制度だけの話。
「保険料を今納めるのは苦しい。後で納めるから猶予して欲しい」というものです。
国民年金の保険料は、そもそも20歳以上60歳未満の自営業者や学生等の第1号被保険者だけが納めます。
納める方法は3種類。
- 今納める
- 先に納める
- 後で納める
この猶予の仕組みは「3」の「後で納める」ことを前提とした、問題先送りの制度と言えます。
この後払いを前提にした仕組みは既に2つあります。
- 学生なので就職してから後で納めたい
- 学生じゃないけど、20歳代のフリーターなので後で納めたい
これに第3の対象者として次の人が加わるというのが今回の話。
- 学生でもなく、20歳代でもない、30歳代・40歳代だけど後で納めたい
図解するとこんな感じですね。
学生については年齢制限はありませんが、通常考えられる20歳代前半までの人ということで記しています。
また、従来の納付猶予制度は30歳未満ということで「若年者」という名称がついています。
この若年者納付猶予制度は2025年6月までの期間限定措置になっています。
新しく50歳未満の人まで拡大した猶予制度も同じく2025年6月までの限定になっています。
この制度は平成16年改正時の不況真っ最中に出発したという背景事情があるため、あくまでも臨時的な措置ということみたいです。
ちなみに、厚生年金制度にはこのような仕組みはありません。
しっかりと給料から保険料が天引きされて、会社はそれを毎月納めないといけません。
免除と猶予はどう違う?
国民年金の保険料には今納めずに済む「免除」という仕組みがあります。
それと「猶予」はどう違うのでしょうか?
一言で言うと、「老後の年金にプラスになるかならないか」ということ。
「免除」になると、老後の年金が増える。「猶予」は増えない。
免除といっても、「全額納めなくて済む」ものから、例えば「4分の3だけ免除」という一部だけの免除があります。
仮に「全額納めなくて済」んだ場合でも老後の年金には2分の1カ月分としてカウントしてくれます。
いやぁ~、ありがたい。
でも保険料を納めていないのに年金が貰えるわけで、そのお金はどこから来た?
もちろん税金からということです。
一方、
「猶予」はこの税金による支援がありません。
だから、猶予ばっかりされていても、老後の得にはなりません。
じゃ、メリットないじゃない!
いえいえ、もちろんありますよ。
2つのメリットがあります。
- 猶予を受けた人のメリット
- 国のメリット
1については猶予期間中に障害年金や遺族年金がもらえる事態になったとしてもその保障が受けられます。
実は我々のメリットはそれしかありません。
では、2の「国のメリット」とは何なのか・・。
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猶予を拡大すると国にメリットがある
この改正案を提出した理由について、当時の田村厚生労働大臣がこう言っています。
喫緊の課題である国民年金保険料の納付率の向上に向けてさらなる対策が必要である。
「猶予を認めると納付率が向上する」わけです。
この納付率というのは以下の式で求められます。
実際に保険料が納められた月数
保険料が納められないといけない月数
仮にAからEの5人の第1号被保険者がいて、次の状況で、ある年の納付率を計算しようとします。
- Aさんは全額の免除を受けていた
- Bさんは猶予してもらっていた
- Cさんは1年間滞納した
- Dさん・Eさんは毎月きちんと納めた
(Dさん)12カ月 + (Eさん)12カ月 = 24カ月
(全員分)60カ月ー(Aさん)12カ月ー(Bさん)12カ月 = 36カ月
すると、約66.67%という納付率になります。
仮にAさんやBさんは「本来ならば納めるはずの人であった」と評価して分母に加えると・・、
(Dさん)12カ月 + (Eさん)12カ月 = 24カ月
(全員分)60カ月
すると、納付率は一気に40%となってしまいます。
ですので納付率を向上するためには分母から引けるものを引きまくれば数字上改善するということなんです。
これで納付率向上と言っていいの?
この点、国会の審議の中で
「見かけ上の納付率が向上するだけではないか」
と指摘を受けています。
確かに。
実際は納めている期間(分子の分)は全く増えていないし・・。
これに対しては当時の佐藤厚労副大臣が答弁しています。
年金制度の理解を深め自主納付を促すために制度の周知や広報、口座振替などの環境整備、強制徴収などにいっそう取り組む考えも示した。
出典:社会保険研究所 「年金時代」 2014年7月号
そりゃ、前から当然のことだろう、と思うんですが・・・。
猶予されたらしっかり追納すべし
猶予されても老後の年金は増えない。
増やす方法がたった一つだけあります。
それは、「後から納める」ということ。
後から納めることを前提としているから「猶予」なわけです。
後から納めることを「追納」と言います。
追納は納めようと思った時に、10年まで遡って納められます。
でも、当時の金額に加えて加算した額を納めないといけません。
この追納の仕組みは、学生納付特例や免除期間であっても同じです。
後から納められるようになったら納めるべきです。
今回のニュースまとめ
今回のニュースのポイントは以下のとおり。
- 2016年7月から猶予制度の対象者が30歳代・40歳代にも拡大
- 猶予対象者が増えると納付率が改善する
- 猶予だけでは老後の年金は増えない。追納すべし。
そもそも「1」の拡大した趣旨は、近年では中高齢者にも非正規労働者が増えている実態に対応したものです。
にしても・・。
猶予制度の拡充は我々のためというよりかは国の納付対策のためと言っても過言ではありません。
ちなみに追納は義務ではありません。
ですので意識して「後から納める」ことをしないと老後の年金が増えないんです。
年金が増えないってことは国としても年金財政が痛まないので不利益はない。
「猶予だからラッキー」「学生だからラッキー」ではマズイです。
この点、
やっぱり国会でも指摘されているんですが、それに対して厚労省は
「追納の勧奨にもしっかり取り組んでいきたい」
とのこと。
それ以前に、我々が制度の仕組みを理解して損しないようにしたいですよね。
出典・参考にした情報源
社会保険研究所 「年金時代」 2014年3月号・7月号
シモムー
みんなのねんきん主任講師