どんなニュース?簡単に言うと
年金受取の条件で男女に差がある遺族年金について最高裁判所の判決がニュースとなりました。結論は男女差を認めるもの。今回は裁判所の判断を時系列に紹介しながら、遺族年金の男女差を考えてみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
家族を亡くした時に遺族が受け取る遺族年金。
受け取れるかどうかは一定の年齢条件に当てはまらないといけません。
ここで、
夫婦の一方が亡くなり、残された妻・夫が受け取る場合の年齢条件には違いがあります。
その違いが男女平等を定める憲法の規定に反するとして裁判で争われました。
2017年3月21日。
最高裁判所の判断は男女の違いを定める規定は合憲であると判断しました。
今回はこのニュースを流れを追って、年金制度の男女差を考えてみます。
夫が受け取るなら55歳以上であること
今回の裁判で問題となった遺族年金。
正確には地方公務員が仕事中に亡くなった場合の遺族年金です。
仕事中にケガをしたり、障害を負ったり、亡くなった場合はその雇い主が金銭的補償をしなければいけません。
それは公務員だろうと、民間企業で働いていようと同じです。
国家公務員・地方公務員・民間企業向けそれぞれに補償を定める法律があります。
そして、どの法律も遺族年金に関して、
夫が受け取る場合は亡くなった当時に55歳以上であること
妻が受け取る場合は年齢条件なし
となっているんです。
ちなみに、
仕事中でなくても、厚生年金に入っているなら遺族厚生年金の可能性があります。
これは雇い主に課された”補償”ではないので、今回の裁判で問題となった法律とは違いますが妻と夫の年齢条件は同様のルールとなっています。
事故が起きたのは今から約20年前
新聞記事によると、発端はこうです。
1998年、市立中学の教員だった妻(当時51)が自殺。男性は遺族補償年金の支給を申請したが、妻の死亡時点で男性が51歳だったため、受給要件の55歳に達していないとして支給されなかった。
(出典:日本経済新聞 2017年3月21日)
妻が亡くなった時に夫が55歳未満だったので、申請は認められなかった。
仮に夫婦の立場が逆であれば、妻は遺族年金を受け取れたはず。
ですので、
こんな男女差は認める規定は違憲だ!
となったわけです。
男女差を認める規定に合理性があるかどうかが問題
ご存知のとおり、憲法には性別による差別を禁じています。
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(14条1項)
禁止されているはずなのに、なぜ男女による違いを法律で認めているのか。
憲法に反しないというためには、その規定に差別を認める「合理性」が必要です。
平たく言うと、その差別ルールに対してみんなが
”差別があるのもやむなし”
と思えるかどうかということ。
裁判ではこの合理性の有無が一貫して問題になりました。
2013年1月の大阪地裁の判決では
現在の一般的な家庭のモデルは共働き世帯で、配偶者の性別による差別的な扱いには合理性がない
と判断。
つまり、憲法に違反していると認めました。
次の2015年6月の大阪高裁では、
夫を亡くした妻の方が、独力で生計を維持できなくなる可能性が高い
と判断。合理性を認め、逆に憲法には違反していないと認定しました。
一審と二審で判断が別れ、最後の決着が最高裁に委ねられたということです。
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最高裁は”合理性あり”と判断
せっかくなので、最高裁の判決文を引用しましょう。
つまり、下級審の判断はそのまま正しいということ。
憲法違反ではないという結論でした。
理由についてはこう言っています。
つまり、
男女間の労働人口の違い、平均賃金の格差、雇用形態の違い
があるので、
妻だけ年齢条件を無しにしているのは合理性あり
ということでした。
もしこれが不合理であるとして、違憲になっていたら、法律を改正しないといけません。
災害補償の法律のみならず、厚生年金保険法にも影響が出たはずです。
差別の規定に合理性はあるということですから、法律は現状維持となりました。
今回のニュースまとめ
今回のニュースは
遺族年金における男女差別について、裁判所の判断を追いかけながら詳しくご紹介しました。
ポイントをまとめてみると、
- 夫婦の一方が亡くなり、残された妻・夫が受け取る遺族年金には年齢条件に違いがある
- 妻には年齢条件が無いが、夫は妻死亡当時に55歳以上であること
- 労働災害による年金も社会保険の年金も同じルールになっている
- 性別による差別が許されるか否かはその規定に合理性があることが必要
- 男女の働く環境を考慮すると遺族年金の規定には合理性ありと最高裁は判断した
といったところです。
年金制度を眺めてみると、男女による仕組みの違いが至るところに結構あります。
労災にしても国民年金・厚生年金にしても、生活保障の意味合いでお金を受け取れるものについて、男女の区別をすることが多いと感じます。
今回問題になった災害補償の法律も、国民年金・厚生年金も
夫はサラリーマンで妻は専業主婦
であるのが一般的な時代にできた法律です。
とすれば、必然的に女性に対する保障を厚くすることにつながります。
ですが、時代は変わりました。
一審の判決が言うように
現在の一般的な家庭のモデルは共働き世帯で、配偶者の性別による差別的な扱いには合理性がない
やっぱり、合理性は無いんじゃないかと私は思います。
ここまでブログ書いてて思い出しました。
平成26年には国民年金制度からもらえる遺族年金が改正されたんです。
それまで
”子供がいる妻”
しか受け取れなかったものを
”子供がいる配偶者”
に改めたんです。
つまり、夫もOKとなりました。
かつて、年金相談で
「夫だって子供を育てるのは大変なんですよ。なんでこんな制度なんですか!」
と言われたことを思い出しました。
男、女という一括りで区別することに合理性は無いと思います。
シモムー
みんなのねんきん主任講師