どんなニュース?簡単に言うと
2019(令和元)年7月1日より障害年金の手続き書類に関して改正がありました。「20歳前の傷病による障害年金」に関するものが大きなもの。いよいよ年金行政がマイナンバーによる効率化を本格化させたのですが・・。今回は障害年金に関わる大きな手続き変更について、障害年金の請求実務を専門に扱う者の立場でその内容をご紹介します。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
公的年金制度の障害年金とは?
まずは障害年金について簡単に説明します。
国民年金法や厚生年金保険法の公的な年金制度は、老齢・死亡だけでなく、病気や怪我で障害状態になった場合にも年金が支給されることがあります。
最近の報道等では、年金制度が保障するのは老後だけのように思えるものばかりですが、病気や怪我で障害状態になってしまうことは、いつ起こるかわかりません。
障害年金を請求するためには、障害状態になっただけではなく、病気や怪我で初めて診断を受けた日の前日までに保険料をきちんと納めている・免除などの申出をしていることが要件となります。
障害年金の相談を主に行っている身としては、年金不安を煽って「保険料を納めなくていい!」という意見には不安しか感じません。
真に受けて保険料を納めていない方が病気や事故障害状態になったら・・・要件を満たせず請求できないということもあるかもしれません。
年金加入前の障害に対応する「20歳前傷病による障害年金」
どんな年金?
国民年金の強制加入となる20歳の前までに病気や怪我で障害状態になった方や生まれつき障害を持っている方は障害年金を受け取れるのでしょうか。
民間の保険であれば、加入前の障害では保障を受けられません。
ところが、公的年金は年金加入前の障害に対応する特殊な年金が用意されています。
これを「20歳前傷病による障害年金」と呼んでいます。
(なお、20歳前から仕事に就いて厚生年金保険に加入している場合は、この特殊な障害年金ではなく、通常の障害年金が請求できます)
20歳になる前の学生時代に障害の原因となる病気や怪我を病院で診てもらったことがある方や先天性の股関節脱臼や知的障害などの方が該当します。
このような方は国民年金に加入していないので保険料を納めたくても納められません。
ですので、先天性の傷病が原因であることや20歳前に病院で診察を受けていたことを証明さえできれば、保険料を納めた否かは問われずにこの障害年金を受け取れます。
年金は保険ですから保険料を納めていないのに受け取れるのは不思議です。
こういった点で20歳前傷病による障害年金は特殊です。
障害年金相談では、保険料の未納の期間があるために、障害年金をあきらめようとしていた方が、過去の通院歴を思い出して「20歳前傷病による障害年金」を請求できる事があります。
かなり昔の事になりますので、当時の診療録が残ってない可能性があり、証明が難しいかもしれません。
保険料の未納期間があって障害年金を諦めようとしていた方や通院歴が長く医師の証明が難しそうな方は、是非、障害年金の専門家へご相談ください。
20歳前傷病による障害年金と他の障害年金との違い
「20歳前傷病による障害年金」は保険料を納めずに受け取れる以外にも他の障害年金と違いがあります。
例えば、海外に居住したり、労災保険など他の制度から保障を受けられるとき、刑事施設や少年院に収容されると年金が止まります。
さらに、ご本人の所得が多いと制限を受けることも他の障害年金との違いです。
具体的には所得が398.4万円を超えると半額が、500.1万円を超えると全額の年金が止められます(2019(令和元)年の額)。
20歳前傷病による障害年金の手続きが2019年から変わりました!
これまでの毎年7月の手続きとは
では、年金受給者の所得を日本年金機構は、どのように確認していたのでしょうか?
2018(平成30)年までは、年金受給者は『年金受給権者現況届(通称:現況届)』という名称のハガキに必要事項を記入して返送することが必要でした。
このハガキは毎年7月末までに返送しないといけません。
なぜこのタイミングかというと市町村が確定申告を経て、所得を確認できるようになるのが6月頃になるからといわれています。
そして、返送されたハガキにより年金受給者が健在かの確認と住所地が確認され、住所地の市区町村から所得の情報が日本年金機構に提供されていました。
このハガキですが、必要事項を書くまではいいのですが、そのままポストに投函できず、切手を貼らなくてはいけません。
障害をお持ちの方には、外出が一人ではできない方もおり、62円切手一枚のために、大変な苦労をしなければならない方もいらっしゃいます。
また、手続き文書が届いたことに気付かず、ほったらかしにしてしまう場合もあるそうです。
ハガキを提出しなかったり、提出が遅れたりしてしまうと、確認ができるまで障害年金が止められてしまいます。
あわせて、障害によっては医師が記入した診断書の提出も同様に7月末までに提出しなければなりませんでした。
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どのように手続きが変わったか
このハガキ、2019(令和元)年7月より、不要になりました。
つまり、日本年金機構からも手続き文書が届かなくなりますので、「何もしなくてもよい」ということです。
なぜ何もしなくて良いのでしょう。
実は“マイナンバー”を使って、年金受給者が健在か、住所地はどこかの確認を取ることが可能になりました。
住所地の市区町村が日本年金機構に直接、年金受給者の所得の情報を提供する仕組みになったからです。
あわせて、障害状態の確認のために提出していた診断書も7月中の提出〆切が、他の障害年金受給者と同じように誕生月の末日までになりました。
リーフレットには「7月」が「誕生月」となっているのがわかります。
また、20歳前傷病による障害年金だけでなく他の障害年金受給者にも求められていた障害状態を確認する診断書の作成期間も1ヵ月から3ヵ月へと長くなりました。
8月生まれの方は5月末に用紙が本人に届き、8月末日が提出期限となる例が出ています。
医師によっては、7月は多くの方に診断書を書かなくてはならず、期間も1ヵ月しかとれなかったとなると業務に支障をきたしていたかもしれません。
障害年金の請求手続についても、医師に書類を書いていただくのですが、医師は通常の診察だけでなく、学会などもあり、忙しいはず。
これまでの経験上、患者としっかり時間を取って診断書を作成したくても忙しすぎてできないと、おっしゃる医師もいました。
今回の事務取扱の変更により、20歳前の傷病による障害年金受給者の手続きが簡単になっただけでなく、医師の負担も軽減され、また、日本年金機構もハガキやお知らせを郵送しなくなりましたので業務や経費の削減になったはずです。
今回のニュースまとめ
今回は、「20歳前傷病による障害年金」について、その手続きについてみてきました。
ポイントは次のとおりです。
- 「20歳前傷病による障害年金」受給者が提出していたハガキが不要となった
- 「20歳前傷病による障害年金」受給者の所得の確認は日本年金機構が直接市区町村より情報提供を受けるようになった。マイナンバー恐るべし
- 毎年7月末日までに提出の必要があった更新時の診断書の提出期限が他の障害年金と同じ誕生月の末日までになり、作成期間も1ヵ月から3ヵ月になった
2019(令和元)年7月よりマイナンバーを利用した日本年金機構から市区町村への情報照会の本格運用が開始となりました。(参考 日本年金機構ウェブサイト)
住民票の情報だけでなく、地方税の情報(所得の情報)が日本年金機構から直接、市区町村から得ることで、受給者に確認をとる必要がなくなりました。
国民年金の障害基礎年金の請求時にも市区町村から所得の情報を日本年金機構が提供を受けることができるようになり、これまで添付していた書類が減りました。
マイナンバーのおかげで受給者の負担が減り、ハガキを出し忘れて年金の支給が停止されるような事はなくなりましたが、医師への負担が少なくなることも大きいです。
障害年金用の診断書は、記入することが多く、作成の期間が1ヵ月だと、慣れた医師でも間に合わないことがありました。
作成期間3ヵ月に長くなったことにより、医師にも余裕が生まれ、しっかりと状況を反映した診断書が作成できるのでないかと期待しています。
障害年金手続きに関して、医師が協力的になれるように制度を変えていく事で、救われる障害者の方も増えていくはずです。
障害年金の手続きは、複雑で障害者が独力で行うには難しいものが多く、大変な労力で書類を揃えたとしても書類に不備があると障害年金が認定されないことがあります。
これからも専門家の立場で障害をお持ちの方の力になりたいと考えています。
出典・参考にした情報源
平成31年3月28日厚生労働省年金局「国民年金法施行規則等の一部を改正する省令等の施行に伴う事務取扱」
日本年金機構ホームページ
厚生労働省・日本年金機構リーフレット
岡田真樹
みんなのねんきん社労士法人代表