どんなニュース?簡単に言うと
2019年8月。5年に一度の年金の財政検証結果が発表されます。ただその前に前回の検証は一体どんな内容だったのか。2014年(平成26年)の財政検証結果を詳しいことは省略し、要点だけ抜き出して忙しいあなたのためにまとめてみました。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
「財政検証」は公的年金の定期検診
2004年(平成16年)。
少子高齢化でも年金制度を維持するための大改正がされました。
保険料の上昇を一定のところで止め、代わりにもらえる年金額を増えないようにするもの。
歯止めをかけた財源の範囲で年金を支給しようという考え方です。
現在、保険料の上昇は予定通りに止まりました。
そして、「マクロ経済スライド」と呼ばれる増額抑制の仕組みが動いています。
ただ、年金を取り巻く人口や経済などの社会情勢は少しずつ変わります。
そこで、2004年の改正がうまく動いているのか、5年に一度、人の一生程度のスパン(100年)で年金財政の見通しを検証することになっています。
これが「財政検証」。
財政検証は公的年金の5年ごとの定期検診なわけです。
これまで財政検証は2009年(平成21年)、2014年(平成26年)と予定通り5年ごとに2回ありました。
2019年は前回から5年目の定期検診の年なんです。
財政検証で何を検証する?
検証することは2つ。
- おおむね向こう100年間、年金財政の収入と支出のバランスが保てるのか
- もらえる年金が減りすぎることはないか
1は人口や平均寿命の実績や予想をもとに、保険料や税金による年金収入と年金支給のバランスが保てるのかを見通します。
バランスが保てるようになったら、年金増額を抑えるための「マクロ経済スライド」は終了します。
その終了時期の見通しも発表されます。
2は財政のバランスが保てたとして、最低でも現役世代の手取り収入額の50%を超えているかを見通します。
財政のバランスが取れていても、少なくなりすぎた年金では意味がないからです。
2014年の検証結果はこうだった
では、前回、2014年(平成26年)の検証結果を見てみましょう。
まずはその前提を軽くご紹介。
複数パターンで検証する
1つのパターンのみで「見通し悪し」としても何の説得力もありません。
そこで、前提条件を様々に変えたパターンで検証が行われています。
前提条件の要素は以下のとおり。
- 少子化が改善するか
- 働く人の数は増えるか
- 賃金や物価は上がって経済成長するか
少子化が改善すれば、人そのものが増えるので年金財政にとってプラス。
働く人が増えれば、厚生年金に入る人が増えるので保険料収入が増えて年金財政にとってプラス。
経済成長して賃金が上がれば、1人からの保険料額が増えるので年金財政にとってプラス。
というわけで、
これらを組み合わせて検証を行います。
例えば、
「少子化は改善したけど、経済成長はしていない」
とか
「少子化は良くも悪くもないが、経済成長ハンパない」
とかのパターンで検証をするわけです。
経済成長するなら見通しは悪くない
少子化の要素は高・中・低で予想をしていますが、ここでは「中」の検証をご紹介します。
注目したいのが、働き手が増えて経済成長を前提とした画像上段のケース。
このケースだとマクロ経済スライドが終了するのは2043年頃を予定しています。
つまり、年金抑制のためのスライドを終わらせても財政のバランスが取れるのがこの時期ということです。
「比例」というのは厚生年金制度のことを指していますが、こちらの方がスライドが早く終わる予定。
「基礎」というのは国民年金制度ですが、こちらは厚生年金よりも20年くらい時間がかかる見通し。
そして、財政のバランスが取れた最終段階で、現役世代の手取り収入額の50%は確保できる見通しという結果となっています。
逆に、低成長の画像下段のケースでは手取り収入の5割を下回るという結果に。
年金制度の安定はどれだけ経済成長できるかが大きな要素であると言えそうです。
もしも○○だったら・・・の試算も実施
2014年の財政検証では、「もしも年金制度をこう変えたら、将来こう変わるんでは?」という試算もされています。
「もしも威勢の良い銭湯があったら」というドリフのもしもシリーズのような話だと思ってください。
この試算(「オプション試算」と呼ばれています)、以下の3つのシリーズで検証されています。
- もしもどんな時にも実行されるマクロ経済スライドがあったら
- もしも今よりももっと加入ハードルが低い厚生年金制度があったら
- もしも65歳まで納めないといけない国民年金制度があったら
1は、現行のマクロ経済スライドは年金額を増額改定する時にしか使えません。これを減額改定する時にも使ってみるとどうなるかという試算。
2は、厚生年金に加入する基準を引き下げて、パートタイマーの多くが加入できるルールに変えたらどうなるかという試算。
3は、60歳で終わる国民年金の保険料納付を65歳まで延長して、なおかつ繰下げ制度を利用しながら65歳以降も働いたらどうなるかという試算。
結論はどの試算も、年金財政に良い影響を与えるというものでした。
1はマクロ経済スライドを実施しなければいけない期間が短縮されます。
2は保険料を納める人が増えるわけですから当然。現役世代の手取り収入額の割合が1%程度上昇しています。
3は現役世代の手取り収入額の割合が5%から6%も上昇して大きな改善が見込まれる試算となりました。
これらのオプション試算が具体的な制度改正を方向づけたと言えます。
実際に、2016年10月からはパートタイマーの社会保険加入条件が引き下げられました。
今回のニュースまとめ
今回は、2019年の財政検証発表直前ということで、前回2014年の財政検証結果を見てきました。
ポイントは次のとおりです。
- 財政検証は2004年の制度改正がうまくいっているのか、5年に一度、年金財政の見通しを検証すること
- 「少子化の改善」「働く人の数」「経済成長」を組み合わせた複数のパターンで検証される
- 2014年の財政検証では経済成長することを前提に現役世代の手取り収入額の50%は確保できる見通しとなった
- 3つのオプション試算も示され、それぞれの試算結果は年金財政に良い影響を与えることが判明。今後の改正の方向が示された
今回のコラムを執筆するにあたり、厚労省ウェブサイトの「いっしょに検証!公的年金」を参考にしました。
このサイトはマンガを使った一見若者向けとなっていますが、非常にわかりやすく参考になりました(特に「年金子」と書いて「としかねこ」という変なキャラがおもろい)。
厚労省もやるなぁ、と感じた次第。
ただ、どんなにマンガにしても検証内容は難しい。
今回のコラムはできるだけ専門用語を使わずに執筆してみましたが、うまく伝われば幸いです。
興味が湧いたら、厚労省の当該ウェブサイトでじっくり検証結果を見てください。
そうすれば、2019年の検証結果もよく理解できると思いますよ。
出典・参考にした情報源
厚労省ウェブサイト:いっしょに検証!公的年金
財政検証結果PDF資料:厚生労働省「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しー 平成26年財政検証結果 ー 平成26年6月3日」
シモムー
みんなのねんきん主任講師