どんなニュース?簡単に言うと
年金機構による遺族年金の払い過ぎが18億円という報道がされています。中には50年払い過ぎがあった事例もあるとか。今回は遺族年金の過払いの事件について、報道の中身とシモムーの相談経験からその真相に迫ってみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
遺族年金の払い過ぎが18億円!
つい先日、振替加算の未払いが発覚したと思ったら、
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振替加算で600億円の支給漏れが発覚!急いで調べてみた|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 振替加算が約600億円、10万人に対する支給漏れが生じているとのこと。日本年金機構の自主的な調査で発覚しました。新聞・テレビの報道や日本年金機構発表の資料から、振替加算の ...
今度は年金を払い過ぎていたという報道がされています。
発端は会計検査院が遺族年金の支給状況についてサンプル調査をしたことから。
この記事を執筆している2017年10月12日現在、会計検査院の正式な発表はされていませんが、今後厚生労働省に対して改善を求めるとのことです。
情報ソースが新聞報道の発表しかありませんが、取りあえずは報道された情報だけで事件に迫ってみます。
何が起きたのか、どこに原因がありそうか、私自身の経験から分析してみます。
そもそも会計検査院って何してる?
まず、会計検査院がなんで年金行政に首を突っ込んでくるのか。
恥ずかしながら、会計検査院って何しているところなんだというところから調べてみました。
会計検査院は、国の収入支出の決算、政府関係機関・独立行政法人等の会計、国が補助金等の財政援助を与えているものの会計などの検査を行う憲法上の独立した機関です。
(出典:会計検査院ウェブサイト トップページ)
会計検査院は行政を行う内閣から独立してその会計の検査を行う組織。
そして、日本年金機構は必ず会計検査を行う対象となっています。
厚労省から年金実務を任されている組織ですから、厳しい検査の目にさらされるのは当然。
会計といってもその範囲は広く、具体的には年金の支給も対象になってます。
年金の支給については、昭和60年頃から検査に取り組んでいます。そして、年金支給額がますます増大している状況を踏まえて、平成3年に年金担当の検査課を分離独立し、検査の充実を図ったところであり、新たな着眼や方法により、毎年多くの成果を上げています。
(出典:会計検査院ウェブサイト)
なるほどー。すごいな会計検査院。
ウェブサイト内を見てみると、年金に関する「処置要求」なんかも結構出ていて勉強になります。
※参考 会計検査院ウェブサイト
そして、会計検査院の”新たな着眼”で遺族年金の支給に関する調査がされたというわけです
検査の結果わかったこと
報道によれば、
- 今年の春までに約18億円の遺族年金の払い過ぎがあること判明
- うち8億円は時効で回収不能
どんな調査をしたかというと、
- 遺族年金受給者が比較的多い地域の年金事務所200カ所を選択
- 2016年度まで3年間の受給者1万人を抽出
- 住基ネットや戸籍情報と照らし合わせて支給状況確認
その結果、検査院は厚労省に対し、
- 過払いの防止策をとる
- 年金機構に対し回収可能な過払い分の返還手続きを進めるよう指導させる
ということを求める方針だそうです。
遺族年金が払い過ぎになる場合とは?
遺族年金と一口に言っても、
国民年金制度からの遺族基礎年金、厚生年金制度からの遺族厚生年金と2つに分かれます。
ただ、どちらの場合もその年金の権利が終わる場合はほぼ共通です。
例えば、もらえる対象者が多い遺族厚生年金を例にとってみると、こんな感じ。
- 亡くなった
- 結婚した
- 直系血族または直系姻族以外の人と養子縁組した
- 離縁した
- 18歳になって最初の3月31日が過ぎた
- 障害を負っている場合で20歳になった
この中で5と6は年金機構の方で把握できるので、特に届出をすることなく終了します。
ところが、
1から4までは年金機構の方ではわかりません。
そこで、
遺族年金受給者が自ら届出をすることになっています。
とすれば、わかりますね。
本人がこの仕組みを知ってか、知らずか、わかりません。
届出されない事態が必ず起きるわけです。
すると、年金が支払われ続けてしまう。
特に、2の「結婚した」場合は事象が多そうな匂いがプンプンします。
性善説的な扱いでは無理
遺族年金が終了する相談として、こんな経験を思い出します。
「今度結婚しますが今もらっている遺族年金はどうなりますか?」
→ 遺族年金は終わるので届出が必要です。このたびはおめでとうございます!
こういうストレートな相談ならわかりやすい。
「内縁状態ですがどうなりますか?」
内縁状態(事実婚)であっても、遺族年金は終了します。
日本年金機構のウェブサイトにある失権届の書き方見本を見るとそのことの記載があります。
※参考 遺族年金失権届
「氏名が変わるのでどうなりますか?」
氏名が変わるということは、結婚の可能性高し。必ず理由を尋ねます。
とにかく、
どれをとってもわざわざ問い合わせをして下さった方だけが遺族年金が終了するというなんともおかしな状態。
こんな性善説的な扱いでは年金の払い過ぎが起きるのは当然なんです。
年金を受け取り過ぎたらどう返済する?
年金を受け取り過ぎたら・・。
当然、返してもらいます。
ただ、返してという権利に関しても時効があり、会計法30条により、5年ということになっています。
今回の報道では、50年も受け取り過ぎの事例があったとか。
45年分タダで受け取れたって、アンタ・・・。
ここで、
通常は受け取り過ぎの人にこれから先に支払う年金があれば、そこから天引きで返してもらいます。
有無を言わせず1回の支払い額の半額を返済に回してもらいます。
これから先に支払う年金が無いのであれば、天引きでの返済は無理。
払いすぎた分を返せという債権回収の専門部署が個別に請求するということになります。
会計検査院は回収がまだ間に合う分をしっかり回収せよと要求するのもうなずけます。
今回のニュースまとめ
今回のニュースをまとめると以下のとおり。
- 会計検査院は年金の支払いにも目を光らせている
- これまでの過払い分の半分近くが時効で回収不能
- 過払い防止策と過払い分の回収徹底を会計検査院は求める予定
遺族年金をもらっていて、再婚したら自ら失権届を提出する。
年金相談を受けながら、
「きちんと失権届を出してくれる人はどれくらいいるんだろう」
「これ、黙っていれば気付かれないんじゃなかろうか」
と思ったものです。
おそらく、会計検査院の担当者もそういう疑問があったからこそ、今回の調査に着手したと思います。
年金受給者が必要な届出を提出するのは罰則付きの義務であることは確かなんですが、それをどれほどの人が認識しているのか・・。
問題の原因は、受給者の自発的な届出だけに依存しているシステムにあります。
何か言われるまで取り敢えずは放置
結婚したら遺族年金は終わるとわかっている人でもそういう気持ちになるはず。
性善説的なシステムでは無理なんです。
今回注目すべきは、会計検査院が住基ネットや戸籍情報と照らし合わせて払い過ぎの状況を確認できたという点。
外部の組織ができるのに、内部でそのような確認ができなかったのか。
これでは、ずさんな運営だと批判されても仕方ないと思います。
シモムー
みんなのねんきん主任講師