どんなニュース?簡単に言うと
年金機構が委託した業者が契約に違反し、扶養親族等申告書に絡んで適正な税額計算がされずに大きな問題になりました。2018年6月4日業務委託に関する調査委員会が報告書をとりまとめ公表されました。報告書の内容を見ながらこの問題の原因に迫ってみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
日本年金機構の不祥事が続いています。
最近ではこんなことが・・。
- 不正アクセスによる情報漏洩
- 振替加算の未払い
- 扶養親族等申告書が適正にデータ入力されずに生じた過少な年金支給
最後の不祥事は少し前に当ブログでもまとめました。
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年金が少ない?人のための年金からの税金計算講座!|みんなのねんきん
どんな事例?簡単に言うと・・ 2018年3月。日本年金機構から委託を受けた業者が扶養親族等申告書の入力業務を怠っていたことが事件となりました。この申告書が提出されないと確実に年金が少なくなります。申告 ...
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この問題を受けて、日本年金機構がデータ入力業務をどのように委託をしたのか調査委員会が発足。
2018年6月。
「日本年金機構における業務委託のあり方等に関する調査委員会報告書」(以下「報告書」)が公表されました。
この報告書を引用しながらどこに問題があるのか、みんなのねんきん主任講師のシモムーが見解をまとめました。
事件の概要を簡単にまとめると・・
年金からの所得税を適正に徴収するために、毎年、年金受給者から扶養親族等申告書を提出してもらいます。
老後の年金を受け取る多くの人が対象になるので、申告書の内容をデータ化する作業は大変。
そこで、この作業を民間業者に委託をしたところ、当該業者がでたらめな仕事をしたために問題が生じたというものです。
2018年に入ってからの流れはこんな感じで報告書にまとまっています。
今後はどういう対策をとる?
報告書はこう結論づけています。
- 外部委託の活用は合理性があるからこの方向性は適切
そのうえで
- 落札方式の改善、機構が用意した場所で委託作業を行う「インハウス型」の推進
- システム化の推進や職員の意識改革
と、いったような改善策を提案しています。
問題はどこにある?
言うまでもなく、直接の原因はこの委託業者にあります。
でも、根本的な問題はもっと別のところにあると思います。
以下はこの記事が大変参考になりました。
※参考 1枚15円で入力できるのか、年金データ入力ミスに透ける根深い問題 日経XTECH
これじゃ誰がやってもミスが起きる
そもそも、扶養親族等申告書の申告用紙自体に問題があります。
人間の目で見て入力する箇所ばかりで、データ化することが前提となっていません。
これでは手間がかかり過ぎて、時間がかかるのはもちろん、誰がやっても一定のミスが生じるでしょう。
なぜ機械で文字を読み取る形式(OCR)やマークシートを採用していないのか。
同じ厚生労働省の雇用保険の届出用紙はOCRです。
扶養親族等申告書
雇用保険資格取得届
そもそも安く委託できる仕事内容じゃない
参考記事によると、こうあります。
リクルートジョブズの調べによれば、2017年8月時点の3大都市圏における「データ入力」担当者の募集時平均時給は1394円だ。入力1人分当たり14.9円の落札なので、単純計算するとSAY企画はデータ入力担当者に1時間当たり94枚、およそ38秒に1枚を入力させ続けなければペイできない。
そもそもの落札価格ではきちんとした仕事ができない金額だったということ。
データ入力って単純作業ですけど平均時給って意外に高いんですね。
このような環境を無視して安いというだけで委託をしたという機構の姿勢に問題があります。
ちなみに私も若い頃にアルバイトでデータ入力ってやったことがありますけど、単純作業が延々と続くので苦痛だった覚えがあります。
今思うと正確に入力できていたのかどうか・・(途中でところどころ意識が飛んでいたような気がします)。
ところで、報告書では「機構が用意した場所で委託作業を行う「インハウス型」の推進」をしていますが、もちろん人が集まりやすい大都市圏で場所を用意しますよね。
とすれば、コスト上昇は必定。
コスト削減目的で委託を活用するっていうのはこれからの時代難しいのではないかと思います。
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年金機構の業務は外部委託にそぐわない
報告書によれば、外部委託を進めるのは合理的だと言っていますが、私はそうは思えません。
理由は2つあります。
- 個人情報の量が他の行政機関に比べて格段に多い
- そもそも業務内容が専門的過ぎて外部の素人ができるものではない
まず、厚労省・日本年金機構が行政機関のなかでも膨大な個人情報を扱っているという点。
ここはコストを掛けてでも絶対に漏洩させてはいけないという姿勢で望むべきです。
とすれば、情報漏洩するリスクが高まる外部委託は例え単純作業でもするべきではないです。
情報漏えいのリスクよりもコスト削減の方が大事だと考えているのでしょうか。
次に、内容が専門的すぎて外部の素人が簡単にできるものではないという点。
年金機構では高度な知識を要する年金相談業務も外部委託をしています。
そもそも年金制度が複雑ってことがありますが、それは勉強すればなんとかなります。
問題はそこではありません。
個人情報を管理しているコンピュータ操作が複雑極まりなく、職人でないと読み解けないというものなんです。
「どうして今月は年金が減っているのか」
「なぜ年金が止まっているのか」
すぐわかりそうなものですが、パッと画面をみて判断できるようになるためには熟練の経験が必要。
そもそも外部の人間に触らせるような仕様にはなっていませんし。
ですので、こういった相談業務も外部委託には適さないと思うんです。
今回のニュースまとめ
今回のニュースは
扶養親族等申告書に絡んだ事件から調査委員会の報告をもとに解説してみました。
まとめると・・
- 報告書では年金機構の外部委託の方針は正しいと評価 その上で具体的対策を提案
- そもそも扶養親族等申告書自体がデータ化することを考慮していない
- コスト削減だけを考えた外部委託の結果、業者の無理な仕事につながった
私の結論は年金業務の外部委託はすべきでない です。
委託のメリットよりもデメリットの方が大きいからです。
この点、報告書で外部委託を合理的としているのは以下の理由とのこと。
年金機構の都合ばかりが並べられていて、情報漏えいが起きた時の重大性が考慮されていません。
しかも、情報漏えいに関しては前科があるにもかかわらずです。
例え、委託方法を見直したとしても、依然として漏洩のリスクは残ったままです。
このままではまた数年後同じことが起きるのではないか、そんな不安がよぎります。
シモムー
みんなのねんきん主任講師