どんなニュース?簡単に言うと
2019年8月。5年に一度の年金の財政検証結果が発表されました。年金制度の今後の見通しはどうだったのでしょう。実際に社会保障審議会に足を運び、いただいた資料をもとにコンパクトに結果を分析してみます。今回は後編の「オプション試算編」です。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
2019年8月27日。
私シモムーは厚労省の社会保障審議会を初めて傍聴し、5年に一度の財政検証結果をこの目で確認してきました。
当日の様子は以前のコラムでまとめています。
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潜入取材!社会保障審議会年金部会の舞台裏|みんなのねんきん
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そして、
忙しい方にも理解できるよう、7分で理解できるようにコンパクトにまとめたのが、前回の「検証結果編」でした。
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7分でわかる!2019年公的年金財政検証 検証結果編|みんなのねんきん
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今回は財政検証の中で一緒に示された「オプション試算」を解説します。
オプション試算とは、「もしも制度をこう変えてみたらこんな結果になる」という試算結果。
実は、この試算が今後の制度改正の方向性を示す大事なものなんです。
財政検証結果のおさらい
まずは、2019年の検証結果をごく簡単におさらい。
財政検証は年金制度が当初予定したとおりに機能しているかその健全性を検証すること。
もし、健全でないとわかったらすぐにでも制度改正しないといけません。
結果、今すぐに根本的に年金制度を手直しする必要はないという結論でした。
今から5年後の次の財政検証時の見通しでは経済前提がどのパターンでも所得代替率50%を確保していることが判明したからです。
メモ
所得代替率は年金の水準を示す「現役世代の収入に対する年金額の比率」です。
とはいえ、このまま指を加えて見ているわけにはいきません。
所得代替率は高ければ高いほどいいですし、年金抑制のためのマクロ経済スライドの発動期間は短ければ短いほどいい。
メモ
マクロ経済スライドは年金が増額改定するときに、その増額の伸びを抑えるためのもの。将来世代の過重な負担を防ぎ、将来の年金水準確保のためのものです。
ですので、
制度をより安心できるものにするために、こういう制度改正を試しにやってみたらというオプション試算も一緒に示しているわけです。
ためしに制度を変えてみると所得代替率がどう変わるか
オプション試算の内容は4つ。
- 社会保険に入る人をためしに増やしてみると?
- 保険料を納める期間をためしに延ばしてみると?
- 在職老齢年金をためしに廃止すると?
- ためしに75歳で繰下げ受給できるようにすると?
メモ
実際には4つに加えて、5つ目として1から4をミックスさせた試算もされていますが、わかりやすくするために割愛します
これらの仮定から所得代替率がアップするなら好影響。下がるなら悪影響と判断できます。
それぞれの試算を見ていきましょう。
社会保険に入る人が増えれば好影響
まずは、社会保険(厚生年金)への加入者が増えるとどうなるか。
結論は好影響です。
保険料を納める人が増えるからです。
将来的には国が支給する年金額が増えることになりますが、それでも「年金の給付水準を確保する上でプラス」という試算結果になりました。
問題は、
どこまでの人を対象にするか?という点。
正社員は社会保険に入るのが普通ですから、短時間労働者が入る境目をどうするか?が問題なわけです。
現在の短時間労働者の加入条件は以下のとおり。
- 企業規模が501人以上
- 週20時間以上働く契約
- 月給8.8万円以上
- 1年以上雇われる見込み
- 学生でない
財政検証で配布された資料をご覧ください。
水色は現行制度の対象者。
既に4,440万人が入っています。
1 501人以上という企業規模の条件をなくす(①)
上の図のベージュ背景かつ赤枠部分で125万人が新たに社会保険に入ります。
すると、所得代替率が0.5%ほど改善します。
2 501人以上の企業規模+月8.8万円をなくす(②)
上の図のベージュ背景部分。新たに325万人が対象者に。
すると、所得代替率が1%前後改善します。
3 月5.8万円未満の人だけを対象外にする(③)
上の図の緑背景部分(ベージュ背景+赤枠も含む)。新たに1,050万人が対象者に。
すると、所得代替率が4%前後改善します。
まとめ
どれも所得代替率に好影響を与えることが判明。
問題は・・・。
加入者が増えれば、事業主の保険料負担が増える。
使用者側がどの程度容認するかが今後の議論を左右するはずです。
保険料を納める期間が増えれば好影響
現在の国民年金(基礎年金)制度は、20歳から60歳まで40年間、保険料を納めることを前提にしています。
これを20歳から65歳までの45年間の保険料納付期間を前提にした試算をします。
結果、所得代替率は7%前後改善。
ただ、こんな問題が・・。
- 60歳以降も保険料を納めることに合意を得られるか
- 追加で納めた5年分の年金額は増えるが、その分の税金負担(国庫負担)も増える
また、
厚生年金への加入は現在69歳までですが、これを74歳まで5年延長した場合も試算結果が出ています。
結果、所得代替率は0.3%程度改善。
どちらも保険料を納める期間が延びるので好影響ですが、副作用も大きそうです。
在職老齢年金を廃止すると悪影響
年金を受け取りながら、社会保険に入る働き方をすると、年金が一部又は全部停まる仕組み。
通称、在老(ざいろう)。
給与月額と年金月額の合計が47万円を超えると年金が一部カットされます。
65歳以降の在老の仕組みを緩和・廃止した場合にどうなるかという試算がされています。
停止基準の47万円を62万円に引き上げた場合と、完全に廃止した場合の試算です。
メモ
62万円は給与月額(「標準報酬月額」といいます)の上限。これ以上の給料をもらっても62万円で計算されます
結果、所得代替率が0.2%から0.4%マイナス。
在老による停止額が小さくなるので、年金支給額が増える。
したがって、
所得代替率が下がり悪影響が出るというわけです。
ただ逆に、
年金に対する在老の影響が小さくなるため、高齢者の就労意欲が高まる可能性はあります。
繰下げ受給すれば好影響
65歳からもらう年金を我慢して70歳からもらう、または、75歳からもらう。
このような場合に所得代替率がどうなるか試算もされています。
資料を見てください。
左端が通常通りに65歳で受け取り始めた場合。
真ん中が69歳まで社会保険に入りながら働いて、70歳で年金を繰下げ受給した場合。
右端が75歳で年金を繰下げ受給した場合(仮に75歳から繰下げ受給できる仕組みがあったとして)。
これらを見るとわかるとおり、年金を我慢して後から繰下げ受給すれば、その増額効果でかなり所得代替率がアップするということ(画面上の赤数字です)。
5年我慢するごとに20%ずつ所得代替率がアップする好影響。
ただし、
繰下げ受給は強制ではなく、個人の選択による受取り方法。
現行制度での繰下げ利用者が数%しかいない状況では、各個人では好影響なものの、年金財政全体に対して影響があるとは言えません。
繰下げの仕組みをどれだけ魅力的にして利用してもらえるかどうかが問題です。
以上が4つのオプション試算の結果でした。
最後のまとめで振り返ります。
今回のニュースまとめ
今回は、2019年の財政検証で発表されたオプション試算の結果をまとめてみました。
ポイントは次のとおりです。
- 社会保険に入る人をためしに増やしてみると? → 増やせば増やすほど年金財政に好影響
- 保険料を納める期間をためしに延ばしてみると? → 45年納付モデル・75歳になるまで厚生年金加入は年金財政に好影響
- 在職老齢年金をためしに廃止すると? → 国が支払う年金が増えるので悪影響
- ためしに75歳で繰下げ受給できるようにすると? → 繰下げ受給すれば個人別に好影響だがどれだけ繰下げ制度を利用するかが未知数
オプション試算の結果から、政府がどういう方向で制度を改正しようとしているか見えてきます。
まず、
1では年金制度の参加者をより増やそうという方向。
増えれば増えるほど年金財政に好影響ですから、今後の短時間労働者加入の要件は引き下がるでしょう。
あとは、保険料負担が増える使用者側とどう折り合いをつけるか。
2に関しては、各自の保険料負担の期間が延びるので、当事者にどう納得してもらえるかが課題かと。
したがって、なかなか手を付けれられない気がします(審議会でもあまり実現可能性は高そうにない雰囲気でした)。
3は年金財政には悪影響でも逆に高齢者の就労が促進される可能性があります。
ただ、現在でも65歳以上の在老該当者が少ないため、たとえ在老がなくなっても、就労が促進されるとも言い切れない。
お茶を濁す程度の改正になるんじゃないかと予想します。
4の繰下げは、そもそも繰下げ制度が活用されていない現状を考えると、影響がどうのこうのの前に、みんなが使いたくなる繰下げ制度にすることが先かと思います。
そもそも、誰だっていつ死ぬかわからない以上、繰下げよりかは繰上げて早くもらいたいと思うのが普通。
繰下げ自体、利用のアドバンテージが低い中で、利用を広めるにはかなり思い切った仕組みにする必要があると思います。
75歳まで待機の期間を増やしたところで、それほど意味は無いんじゃないかと・・。
結局、1の年金制度の参加者をどれだけ増やせるかがもっとも手をつけやすい。
まずは、ここから制度改正の議論が進んでいくと思われます。
・・・・
さて、これらの試算結果を踏まえて、今後の年金制度改正の議論を追っていくと面白いと思います。
「みんなのねんきん」でも引き続きウオッチしていきます!
シモムー
みんなのねんきん主任講師