どんなニュース?簡単に言うと
2015年11月。日本とフィリピンの間で年金のルールについて取り決めた社会保障協定が署名されました。署名されただけでは条約として効力を生じません。国会の承認が必要だからです。この社会保障協定の中身と国会承認の進捗状況を解説してみます。
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どんなニュース?もう少し詳しく!
経済発展が目覚ましいフィリピン。
上の写真はいかにもフィリピンっぽい写真を使ったのですが、首都マニラは高層ビルが立ち並ぶ都会だそうです。
そのフィリピンにも年金制度があります。
退職・障害・死亡に関する年金。
年金をもらうためには保険料を納める必要がありますが現地在住の日本人も同じでしょうか。
同じです。
例えば、日本の企業がフィリピンに駐在員を派遣した場合、フィリピンの年金の保険料と日本の厚生年金の保険料を両方納めないといけません。
それはなんとかならないか。
そこで、外務省が立ち上がりました。
フィリピンとの間で話し合いをしてきたんです。
そして2015年11月。
両国は社会保障に関する協定に署名をしました。
ところが、署名だけでは条約として効力が発生しません。
国会の承認が憲法上必要だからです。
今回は日本とフィリピンが結んだ社会保障に関する協定の中身と2016年4月21日現在の国会承認の進捗状況を解説してみます。
二重に保険料を納めることを回避する
外務省のHPによれば、フィリピンは19番目に協定できた国なんだそうです。
各国で協定の内容は多少異なります。
年金だけのルールを約束した国もあれば、医療保険制度も対象になっている国もあります。
フィリピンは資料を見る限りでは年金だけのルールのようです。
ここでは、各国におおよそ共通のルールを、年金に「入る・納める」「もらう」という観点から紹介します。
外務省のウェブサイトの資料も参考になりますよ。
年金に「入る・納める」
この協定を結ぶそもそもの趣旨は二重に保険料を納めることを回避することにあります。
ですので、
まずは原則ルールとして、相手国に行ったら相手国の制度にだけ入ることになっています。
ただし、
相手国にいる期間が短くて一時的だという場合は例外的に自分の国の制度だけに入ることになっています。
資料を見ると「5年を超えるものと見込まれない」場合が一時的という判断です。
こうすることで片方の制度だけに入るので、保険料を二重に納めることが回避されるわけです。
相手国制度に加入すれば自国の制度に入っていたと評価する
社会保障協定の趣旨はもう1つあります。
それは、相手国の制度に入った期間をあたかも自国の制度に入っていた期間として評価することにあります。
こうすることで外国の制度に入っていた期間が日本の年金制度で無駄になりません。
具体的にどういうことか、「もらう」という観点から見ていきましょう。
年金をもらうための条件はどう評価される?
例えば老後の年金をもらうためには年金制度に25年以上加入する必要があります。
この25年は相手国の期間を含めて考えます。
(ただ、日本の年金制度では外国居住の期間は「カラ期間」といって、もともと25年の期間に含めてくれますが)
また、障害年金や遺族年金は当時保険料をきちんと納めていたかどうかが要求されます。
相手国の期間中でもあたかも日本の年金制度で保険料を納めていたとして評価されるわけです。
年金の金額はどう評価される?
では、一体いくらもらえるのかを考えてみましょう。
例えば、フィリピンに20年、日本の厚生年金に5年加入の実績があったとします。
今までの話の流れからすれば・・
フィリピンの20年は日本の20年と評価されて、25年分の厚生年金がもらえる
かと思いきや、そうはなりません。
あくまで、日本の制度には5年分の保険料しか納められていませんから5年分の年金しかもらえません。
とほほ・・。うまくできています。
加入期間に関係ない一定額の年金はどうなる?
ところで、
加入期間にかかわらず、金額が一定額になっている年金はどうなると思います?
これは、日本の加入期間の割合に応じて決まることになっています。
例えば、家族手当として配偶者がいた場合の加給年金額について考えてみます。
加給年金は厚生年金の期間が原則20年以上ある場合で一定の配偶者がいる場合に老後の厚生年金に加算されるもの。
2016年度は390,100円(年額)です。
フィリピンでの加入期間が20年(240カ月)、日本の厚生年金に5年(60カ月)加入していた場合、20年以上という条件はクリアー。
では、金額はというと、
390,100円 × 60カ月 / 240カ月 = 97,525円
という具合になるんです。
20年に対する加入期間の比率で金額が決まります。
面白いですね。
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国会のOKが無いと条約として認められない
条約が成立するまでの流れ
外務省が交渉をまとめて署名をしてもすぐさま条約が成立するわけではありません。
国会の承認がなければ条約として効力が発生しないのです。
条約交渉は内閣の仕事ですが、最後に国会の承認を経て民意を反映させようという趣旨です。
外務省の資料を引用して、条約が効力を生じるまでの流れを見てみましょう。
通常国会での承認の進捗はどうなっている?
2016年4月21日現在、衆議院のウェブサイトを見ると、第190回通常国会では「参議院で審議中」となっています。
衆議院では3月31日に全会一致で承認され、4月18日に参議院に付託されています。
時間の問題ですね。
2018年8月1日付けで発効済みです。末尾に情報を追記しました。
今回のニュースまとめ
今回のニュースは
- 社会保障協定は「二重に保険料を納める事態を回避する」「相手国の加入期間を自国の年金制度で評価できるようにする」ためのもの
- 条約が効力を発生させるには国会の承認が必要
という内容でした。
TPPの国会承認が先送り濃厚という報道を聞いた時に、「そういえばフィリピンはどうなった?」と思ったのがきっかけでした。
奇しくも衆議院のウェブサイトではフィリピンのすぐ下にTPPが出てますね(「衆議院で審議中」)。
国と国同士が交渉をして、それを条約化するっていうのは本当に大変なんだと驚きです。
TPPの話ですが、以前から交渉の過程で相当な苦労をしていたのが伝えられてきました。
今回の社会保障協定も多国間の利害が交じるTPPの比ではないですが、それでも大変な仕事だと思います。
関係者の努力が無駄にならないよう、国会で速やかに承認してもらいたいものです。
出典・参考にした情報源
-
外務省報道発表 日・フィリピン社会保障協定の署名
続きを見る
-
衆議院ウェブサイト 議案の一覧
続きを見る
2018年9月20日追記
2018年8月1日付で無事に協定が発行しました。
厚労省ウェブサイトにその旨の広報がされています。
-
日・フィリピン社会保障協定の発効について
続きを見る
シモムー
みんなのねんきん主任講師