どんな事例?簡単に言うと・・
年金の受け取り時には端数を切り捨てるというルールがあります。切り捨てた端数は合計して2月に加算されることになっています。ただ、端数が延々と続く場合に1円の違いが出ることが・・。今回はシモムーが長年悩んだ1円の謎に迫ります。
スポンサーリンク
こんな事例を考えてみましょう
年金の勉強をしている大学生の猫野モモと兄の猫野ホームズ。
今日は年金が振り込まれる金額の端数処理について悩んでいます。
彼らは以下の事例で計算しています。
- 年金額:780,100円
- 年金から税金や社会保険料は天引きされていない
- 2月以外の偶数月に受け取る年金額:130,016円
- 2月に受け取る年金額:130,019円
理論上の端数処理のルールと現実に1円の違いが出ていることで悩む2人。
2人はシモムーに相談に訪れました。
今回の事例の何が問題なんでしょうか
年金は偶数月に年6回に分けて受け取れます。
年額を6で割ると端数が出ますが、この点、法律はこんなルールとなっています。(厚生年金も同じです)
1(略)支払額に一円未満の端数が生じたときは、これを切り捨てるものとする。
2 毎年三月から翌年二月までの間において前項の規定により切り捨てた金額の合計額(一円未満の端数が生じたときは、これを切り捨てた額)については、これを当該二月の支払期月の年金額に加算するものとする。(国民年金法第18条の2)
わかりやすく解説すると、
- 6で割った際の支払額に円未満の端数が生じたらそれを切り捨てる
- 切り捨てた金額の年間の合計額を2月に加算する
- ただし、2の合計額に円未満の端数があれば、それは切り捨てる
ということです。
実は以前、この端数処理について解説したことがあります。
-
知ってます?6月に届く年金の通知書 中身の何に注意する?編|みんなのねんきん
どんなニュース?簡単に言うと 毎年6月は新年度の年金が初めて振り込まれる月。合わせて関連の書類が届くことになっています。今回はこの時期に送られる通知の特徴や注意点を解説します。今回は通知の中身で注意す ...
続きを見る
ただ、ルール通りに計算しても今回の事例にように1円違ってしまうケースが出てきます。
実務上はどのような端数処理をしているのかが問題となります。
解説してみましょう
今回は私シモムーが長いこと疑問に感じていた謎を事例化してみました。
このようなコラムを書いているくらいですから、ようやく謎が解けたということです。
順を追って、1円の違いを解説していきましょう。
モモとホームズの計算の内訳
モモとホームズが取り組んだ事例はこうでした。
- 年金額:780,100円
- 年金から税金や社会保険料は天引きされていない
- 2月以外の偶数月に受け取る年金額:130,016円
- 2月に受け取る年金額:130,019円
この事例に、以下のルールを当てはめます。
- 6で割った際の支払額に円未満の端数が生じたらそれを切り捨てる
- 切り捨てた金額の年間の合計額を2月に加算する
- ただし、2の合計額に円未満の端数があれば、それは切り捨てる
2月以外の受け取り額
1のルールに従うとこうなります。
780,100円 ÷ 6 = 130,016.6666・・ ≒ 130,016円
この数字に間違いはありません。
2月限定で加算される切り捨てた端数の合計額
2のルールに従い、切り捨てた端数を合計します。
年間6回の受け取りですから、6倍します。
0.6666・・× 6 = 3.9999・・円
そして、
3のルールに従い、円未満を切り捨てます。
すると、加算額は3円となります。
2月の受け取り額
2月に限ってはこの加算額がいつもの金額に加算されます。
130,016円 + 加算額3円 = 130,019円
もとの金額は780,100円ですので、加算額を含めた受け取り額は780,100円になるはずですが・・
130,016円 × 5 + 130,019円 = 780,099円
実際の年金受給者のデータを見ると、この場合2月の受け取り額は130,020円となります。
なぜ更に1円が追加で払われているのか・・・。
そこが謎だったわけです。
実際の計算はこうだった
ここで問題になるのは、切り捨てた端数を合算するにあたり、小数点以下の桁数をどこまで保持しているのかということ。
上の計算では、
0.6666・・× 6 = 3.9999・・円
と勝手に小数点以下4桁で6倍していますが、この「・・」の部分を年金機構のコンピューターはどう処理しているのかということなんです。
コンピューターなので、無限に桁数を保持できるわけがなく、どこかで桁数の線引きしているはず。
で、こうやっていることがわかりました。
- 各期で生じた端数は少数第9位までを保持し少数第9位を切り上げる
- そして、少数第8位までとなった端数を合計する
- 合計した額の円未満を切り捨てる
この年金機構の運用に従うと、
0.666666666・・
0.66666667
で、これを6倍すると、
0.66666667 × 6 = 4.00000002
ということで4円を加算するということになります。
つまり、
年金機構のコンピューター上では6で割って割り切れない場合の以下のケースでは、
0.333333333333・・ は 0.33333334
0.666666666666・・ は 0.66666667
として、処理しているということなんです。
これで1円の違いがわかりました。
めでたし、めでたし。
今回の事例まとめ
今回は年金受け取り時の端数処理に関して、私の長年の謎を解いてみました。
ポイントは以下のとおり。
- 2月以外の偶数月は単純に円未満を切り捨てた金額
- 2月に限っては切り捨てた端数の合計が加算される
- 端数の合計をする際には小数点以下9桁目を切り上げて8桁にした上で合計する
- この合計額の円未満の端数を切り捨てて加算額を決める
780,100円というのは2019年(令和元年)度の基礎年金の満額。
昨年度の779,300円でも同じような事態が生じます。
なんて勝手に自分を納得させようと思っていたのですが、こういう1円の違いというのはモヤモヤします。
そうなんです。
私もかつて行政側で年金相談を受けて感じたことですが、外からではわからない・中に入ってようやくわかる情報やら知識っていうのがいっぱいありました。
こういう内部のルールなんて普通はわからないですよね。
実はまだまだ他の分野で「これはなぜ?」というものも結構ありまして・・。
新しく情報が入ったらどんどんコラムで紹介しようと思っています!
私も日々勉強です!
出典・参考にした情報源
日本年金機構の運用ルール
事例は実際の相談をヒントにしたフィクションです。記事中のアルファベットは実在の人物・企業名と関係ありません。記事は細心の注意を払って執筆していますが、執筆後の制度変更等により実際と異なる場合もあります。記載を信頼したことによって生じた損害等については一切責任は負えません。
シモムー
みんなのねんきん主任講師