すかっち先生の年金なるほどゼミナール【第3回】 2022 年度の年金額と保険料額が減った真相とは 後編|みんなのねんきん

大須賀信敬

みんなのねんきん上級認定講師

 どんなニュース?簡単に言うと

2022(令和4)年1月 21 日付で、厚生労働省から「令和4年度の年金額改定」に関する資料が公表されました。

そこで、年金改正を深掘りするシリーズの3回目となる今回は、この資料を読み解きながら 2022(令和4)年4月からの年金額と保険料額を見てみましょう。

今回は前編から続いた後編となります。前編はこちらです。

すかっち先生の年金なるほどゼミナール【第3回】 2022 年度の年金額と保険料額が減った真相とは 前編|みんなのねんきん

 どんなニュース?簡単に言うと 2022(令和4)年1月 21 日付で、厚生労働省から「令和4年度の年金額改定」に関する資料が公表されました。 そこで、年金改正を深掘りするシリーズの3回目となる今回は ...

続きを見る

スポンサーリンク

どんなニュース?もう少し詳しく!

前編では国民年金制度から支給される老齢基礎年金が減額となった仕組みをご紹介しましたが、後編では厚生年金制度から支給される老齢厚生年金が減額となる仕組みと私たちが納める国民年金の保険料額の変化について解説していきます。

夫婦2人の標準的な年金は約 22 万円

厚生労働省の資料の1ページ目にある 2022(令和4)年度の年金額の例を見ると、厚生年金のところに「219,593 円(▲903 円)」という記載が見て取れます。

【みんなのねんきん】 2022 年度「年金額と保険料額」の改定まとめ

(タップで拡大)

これは、厚生年金に加入していた場合の標準的な年金額が、2022(令和4)年度は月額219,593 円であることを示しています。

2021(令和3)年度の額は 220,496 円なので、月額 903 円少なくなる計算になります。

なお、ここで言う標準的な年金額とは、「平均的な収入で 40 年間働いたときの老齢厚生年金」と「夫婦2人分の満額の老齢基礎年金」の合算額とのことです。

平均的な収入とは、「標準報酬の平均額が、賞与を含めた場合に 43 万 9,000 円になるケース」とされています。

老齢厚生年金は「勤めていたときの標準報酬の額」に応じて、年金額が決まります。

ただし、お金の価値は時代とともに変わるので、「勤めていたときの標準報酬の額」を現時点の額に換算してから年金額の計算に使います。

現在の額に換算するために使用する数値を「再評価率」と呼び、年金を受け取る人の「生まれ年」と「厚生年金に加入していた年」により、さまざまな数値が設定されています。

それでは、2021(令和3)年度の再評価率の一覧表を見てみましょう。

目が痛くなるような表が用意されています。

【みんなのねんきん】 2022 年度「年金額と保険料額」の改定まとめ

(タップで拡大)

老齢厚生年金の金額を決定する際には、厚生年金に加入していた全ての月について「当時の標準報酬×再評価率」という計算を行うのですが、老齢厚生年金の年金額の改定は、この「再評価率」の数値を変更することで行われます

つまり、老齢基礎年金のように年金額を直接変えるのではなく、年金額の算出に使う数値を変えることにより、結果的に年金額が改定されるものです。

今回であれば、2021(令和3)年度の再評価率を 0.4%減らすことで改定が行われます。

その結果、算出される年金額も少なくなるわけです。

具体例で考えてみましょう。

例えば、1950(昭和 25)年に生まれた人が、1980(昭和 55)年4月に厚生年金に加入して働いていた場合、その月の 2021(令和3)年度の再評価率は「1.716」と決められています。

当時の標準報酬月額が「20 万円」とすると、2021(令和3)年度の老齢厚生年金の金額を決める上では、再評価率「1.716」を乗じた34 万 3,200 円(=20 万円×1.716)」が計算に使用されます。

つまり、1980(昭和 55)年4月当時の「20 万円」は、2021(令和3)年度であれば「34万 3,200 円」に相当すると考えて、年金額を決めるわけです。

しかしながら、2022(令和4)年度は再評価率がマイナス 0.4%の改定なので、「1.716」という再評価率は「1.709(≒1.716×0.996)」に変更されることになります。

そのため、2022(令和4)年度の老齢厚生年金の金額を決める上では、当時の標準報酬月額「20 万円」に 0.4%少なくなった再評価率「1.709」を乗じた34 万 1,800 円(=20 万円×1.709)」が計算に使われます。

1980(昭和 55)年4月当時の「20 万円」は、2022(令和4)年度であれば「34 万 1,800円」に相当すると考えて、年金額を決めるものです。

その結果、年金計算に使用する報酬額が 34 万 3,200 円から 34 万 1,800 円に小さくなるため、2021(令和3)年度よりも 2022(令和4)年度のほうが、算出される年金額も少なくなるわけです。

これが、再評価率を改定する考え方になります。

【みんなのねんきん】 2022 年度「年金額と保険料額」の改定まとめ

(タップで拡大)

ただし、厳密には、比較的「最近の標準報酬月額」に使用する再評価率は、賃金スライドによって 0.4%減らすのではなく、別の方法で改定を行います。

「最近の標準報酬月額」に対しては、「最近の給料の変わり具合」を反映させる処理は不要だからです。

具体的には、2018(平成 30)年度以前の厚生年金加入期間については、2021(令和3)年度の再評価率を 0.4%減らすことにより改定が行われますが、2019(平成 31・令和元)年度以降の厚生年金加入期間については、次のような計算で再評価率が改定されます。

・2019、2020 年度の厚生年金加入期間の再評価率

... 2021 年度の再評価率 × 物価変動率(2021 年の値)× 可処分所得割合変化率(2019 年度の値)

・2021、2022 年度の厚生年金加入期間の再評価率

... 2021 年度の再評価率 × 可処分所得割合変化率(2019 年度の値)

ところで、厚生労働省発表の資料から導かれる老齢厚生年金の金額を検証するには、金額算出の前提条件を全て確認する必要があります。

しかしながら、それらの詳細な情報は公開されていないため、年金額を正確に検証することは困難といえます。

なお、老齢厚生年金を計算する際には「従前額を保障する」という考え方があり、その計算に使用する改定率など、他にも変更される数値が存在します。

ですが、本稿での説明はここまでとし、また別の機会にでも解説することにします。

ここがポイント!   老齢厚生年金の「再評価率」の改定

  老齢厚生年金は年金額を直接変えず、年金額の算出に使用する「再評価率」を変えることにより、結果的に年金額が改定される。

スポンサーリンク

国民年金の保険料額は 0.12%下がる

年度がかわると金額が見直されるのは、年金額だけではありません。

国民年金の保険料額も、年度がわりに「物価」や「給料」の変わり具合に応じて金額が改定されます。

このような説明をすると、「国民年金の保険料額も 0.4%下がるのかな?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

確かに、年金額と同様に保険料額の改定にも、総務省発表の全国消費者物価指数と厚生年金の標準報酬の平均額が用いられます。

ただし、保険料額の改定は、同年度の年金額の改定よりも1年古いデータに基づいて行われます。

そのため、年金額と保険料額の改定の割合は、同じになるとは限らないわけです。

2022(令和4)年度の国民年金の保険料額は、「平成 16 年度の改正で決められた保険料額」に「2022(令和4)年度の保険料改定率」を乗じることで算出されます。

「2022(令和4)年度の保険料改定率」は、次のように計算します。

2022 年度の保険料改定率

= 2021 年度の保険料改定率 × 物価変動率(2020 年の値)× 実質賃金変動率(2017年度から 2019 年度の平均値)

= 0.977 × 0.0% × マイナス 0.1%

= 0.977 × 1.000 × 0.999

= 0.976023

≒ 0.976

計算の結果、「2022(令和4)年度の保険料改定率」は 0.976 と決まりました。

「平成 16 年度の改正で決められた保険料額」は 17,000 円なので、17,000 円と 0.976 とを掛け合わせると、2022(令和4)年度の国民年金の保険料額が決まります。

2022 年度の国民年金保険料額

= 平成 16 年度の改正で決められた保険料額 × 2022 年度の保険料改定率

= 17,000 円 × 0.976

= 16,592 円

≒ 16,590 円

計算の結果、2022(令和4)年度の国民年金の保険料額は、1 カ月当たり 16,590 円となります。

2021(令和3)年度の保険料額が 16,610 円ですので、2022(令和4)年度は月額 20 円ほど安くなり、保険料の減額率は 0.12%(≒20 円÷16,610 円×100)となります。

厚生労働省が公表した資料の3ページ目には、次のように記載されています。

【みんなのねんきん】 2022 年度「年金額と保険料額」の改定まとめ

(タップで拡大)

もちろん、保険料額が下がったことにより、将来受け取る年金額が下がるようなことはありません。

なお、2023(令和5)年度の国民年金保険料額も月額 16,520 円と決定され、2022(令和4)年度の額からさらに1カ月当たり 70 円ほど安くなることが決まっています。

ここがポイント!   国民年金の保険料額の新旧比較 

  国民年金の保険料額は、2021 年度が月額 16,610 円なのに対して 2022 年度は月額 16,590円になり、1カ月当たり 20 円安くなる。

自営業者にうれしい久しぶりの保険料引き下げ

それでは、国民年金の保険料額について、最近の動向を振り返ってみましょう。

実は、国民年金の保険料額は 2019(平成 31・令和元)年度から 2021(令和3)年度まで、以下のように3年度連続で引き上げられてきました。

  • 2019(平成 31・令和元)年度 ... 16,410 円(前年度より 70 円増)
  • 2020(令和2)年度 ... 16,540 円(前年度より 130 円増)
  • 2021(令和3)年度 ... 16,610 円(前年度より 70 円増)

そのため、2022(令和4)年度は久しぶりの保険料減額となります。

1 カ月当たりわずか 20 円の減額ではありますが、コロナ禍で苦しむ自営業・フリーランスの皆さんにとっては、うれしい知らせかもしれません。

【みんなのねんきん】 2022 年度「年金額と保険料額」の改定まとめ

(タップで拡大)

なお、厚生年金の保険料率は 18.3%で固定されているため、年度がかわっても保険料率が変更されることはありません。

ここがポイント!   国民年金の保険料額の推移

  国民年金の保険料額は、2021 年度まで3年度連続で引き上げられてきたため、2022 年度は久しぶりの引き下げになる。  

今回のニュースまとめ

今回は、年金改正を深掘りするシリーズの3回目として、「2022(令和4)年度の年金額と国民年金保険料額」の後編について見てきました。

ポイントは次のとおりです。

  • 老齢厚生年金は年金額を直接変えず、年金額の算出に使う「再評価率」を変えることで年金額を改定する。
  • 2022 年度の国民年金保険料額は久しぶりに引き下げられ、1 カ月当たり 16,590 円で前年度よりも 20 円安い。。

皆さんに制度をしっかりと理解していただくため、本稿では厚生労働省の資料とは異なる表現方法で説明している部分が少なくありません。

また、厚生労働省の資料には記載のない細かな解説も一部、加えていますので、参考にしてください。

なお、本シリーズの第4回目となる次回は、「加給年金額の支払いルールの変更」について整理します。

どうぞお楽しみに。

出典・参考にした情報源

厚生労働省:令和4年度の年金額改定についてお知らせします ~年金額は昨年度から0.4%の引き下げです~

厚労省プレスリリース



最後までコラムをお読みいただきありがとうございました

今後もみんなのねんきん公式ブログでは公的年金の役立つ情報を発信し続けます。

コラムを更新しましたら、メルマガでお届けしたいのですが、送信の許可をいただけないでしょうか?

みんなのねんきん創業者のシモムー本人が、更新したコラムについて、軽快かつ熱く年金を語ります。

読者に役立つ新サービスの開始やイベントの告知もメルマガでいち早くお知らせ。

メールを受け取っても良いよという方は以下のリンクをクリックお願いいたします。

メールの送信登録はこちら

もちろん費用はかかりません。要らなくなったらメールの上部にあるURLをクリックするだけ。

気軽に登録してみてください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事
アバター画像

みんなのねんきん上級認定講師 大須賀信敬

特定社会保険労務士(千葉県社会保険労務士会所属)。長年にわたり、公的年金・企業年金のコールセンターなどで、年金実務担当者の教育指導に当たっている。日本年金機構の2大コールセンター(ねんきんダイヤル、ねんきん加入者ダイヤル)の両方で教育指導実績を持つ唯一の社会保険労務士でもある。また、年金実務担当者に対する年金アドバイザー検定の受験指導では、満点合格者を含む多数の合格者を輩出している。

更新したらメールでお知らせ!メルマガの送信許可をください。解除はいつでもできます
送信許可はこちら